愛する源氏物語 (文春文庫 た 31-7)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167548070

感想・レビュー・書評

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  • 『源氏物語』に登場する「和歌」に焦点をあて、歌人である俵万智さんが読み解きを行った本。これすごく良い本でした。ひとつひとつの和歌に込められた意味を丁寧に解説しつつ、お話の流れも一緒に追いかけてくれるので、『源氏物語』と併読、あるいは全て読んだ後に読むと、物語の解像度が一気に上がります。本書を読んでいると和歌こそが『源氏物語』の要なのだと、そんな気持ちになってくる。いや、というか実際その通りなのだろう。『源氏物語』は登場人物の心情を推し量るしかない場面があるけれど、和歌には雄弁に光君や姫君たちの心情が表れていた。そしてそのことを知ると、登場人物たちの印象そのものが大きく変わり、より人物像に厚みを感じるようになる。六条御息所とか夕顔とか末摘花とか、この本を読んだおかげでより好きになれたくらい。それくらい俵万智さんは登場する人物に、寄り添いながら和歌を解説してくれる。

    冒頭に示された桐壺の和歌に対する帝の返歌が「ない」ことによって、帝の心がどれだけ乱れているかがわかる、という解説はそういう見方ができるのかと驚いたし、末摘花の和歌解説は笑えるやらいじらしいやらで、そんな様々な読み解き方が出るだなんてと舌をまく。「からころも」や「かくぞ」だけでそんな色んな解釈が出来るとは思わなかったなあ。俵万智さんすごい。てか紫式部がすごいのか。六条御息所についても作中では「生霊の人」というくらいにしか捉えてなかったのだけど、それが恥ずかしくなるくらい彼女の想いを掘り下げている。【朝顔】における、光君と朝顔の和歌のやり取りについては、他者の意見を参考にしつつ、独自の、そして納得感のある結論に至っていて、ふむふむ言いながら興味深く読んだ。

    また、どんな「紙」を使って和歌を詠んだかも重要であったらしく、例えば白い事務用の紙に書いた場合は生真面目な印象を与えたり、あるいは厚ぼったい実用的な紙を用いることで野暮ったさを演出したりと、用途によって紙の種類を変えることで趣を出す効果があったとのこと。平安時代の文化や、貴族社会におけるマナーとか気遣いがわかるとさらに別確度から人物の心情が見えてくるわけで、なるほどこりゃあ沼だなあと思うことしきり。えっ、つうか柏木は女三の宮に近づくために、側近の女房と先に関係を築いてたの!? ぜんぜんわかんなかった。しかも女三の宮はそのことを承知してるようだし。いまの感覚からする女三の宮も女房もそれでいいの?という気がするけど……。
    あと、『源氏物語』って男女が契りを交わす直接的なシーンを描かず、事前と事後を示すにとどめるパターンが多いから、「えっ、いつの間に!?」となることが割とよくあるなあと思っていたのだけど、「添い寝の効果」の章で、そのことをちゃんと言及してくれてて嬉しかった。よかったあ、私だけじゃなかったのね。

    「和歌は心」。そのことを決して堅苦しくなく、楽し気に教えてくれる、とても頼りになる本でした。『源氏物語』の副読本としておすすめです。

  • 源氏物語は子供の頃から大好きで、いろんな方の訳を読みましたが、短歌は難しいので、わりと飛ばし読みしていました。源氏物語は795首の和歌が登場しますが、あらためてじっくり和歌にふれることで、紫式部から続く、言葉そのものの意味、言葉のに含まれた想い、教養、いえなかったことをほのめかす、その言葉に重なる別の意味の想いを感じることができます。すごくおもしろい。日本の心は本当におもしろい!
    先日、源氏物語の1つを鎌倉時代の歌人、藤原定家が書き写した写本が新たに見つかりました。しかも有名な「若紫」の帖!当時、定家のように位の高い人物しか使うことが許されなかった青墨も使われ、定家本といわれる青表紙。戦後初めての画期的発見で、教科書も書き換えられるかもしれないそうです。こちらも内容がたのしみです。

  • 源氏物語の解説書の中でも、とても好きで何回も読んでいる本です 
    (この度再読したのですが、再読記録の方に記入してもブクログのタイムラインには載らないんですね 感想を記入したかったので、再読ですがこちらに書きます)

    源氏物語の作中に登場する和歌は実に795首におよび、それをひとりの作者が登場人物に成り代わり、詠んだことは実に驚異的であり、和歌をひとつひとつ読み解くことで、複雑な内面や物語の展開に与えた影響をより深く、面白く、感じることができるんだよ! という源氏物語の解説本として、とってもオススメの作品です
    数多ある現代語訳の中での和歌の取り扱いの比較と、それぞれの訳者さんの個性の面白さについての解説や、俵万智さんご本人の源氏物語に対する思い入れも書かれ、何より作中和歌を俵万智さんが現代語訳した作品が読めるのがいいです
    読み応えばっちりなのに、すごく分かりやすく、また源氏物語を読み返したくなる魅力にあふれています
    個人的に好きなのは、源氏物語における推し姫君である女三ノ宮の歌(歌を作るのにも時間がかかっていた拙い頃と、成長して詠み上げた渾身の作品の対比)の解説です
    この項目で女三ノ宮の良さがより掴めました
    瀬戸内寂聴さんとの対談で「どの女君が好き?」というお話をして楽しかった~! というエピソードもいいです
    著名な作家と歌人であるお二人がキャッキャしてお話してる様子が目に浮かぶし、お二人の推し姫君がいっしょだったのも、読んでいて嬉しくなります
    源氏物語作中で、登場してすぐに儚くなった桐壺の更衣や夕顔は、和歌を読み解くと意外な積極性や情熱を感じるという解説や、女君が詠みかけた歌を“詠み解けない”鈍感な男や、わざと”詠み違える”ずるく卑怯な男の心の解説もしてくれるところも、辛辣で小気味いいですね
    和歌を詠み解くことに含まれる心の綾にも、物語はひそんでいるのだと伝えてくれる、この本ならではの面白さです

  • 昔読んだ漫画「あさきゆめみし」で、なんとなく登場人物を知ってるかな、と思って手に取る。

    源氏物語の和歌が、俵万智の解説付きで載ってる。
    和歌って難しいとばかり思ってたけど、俵万智風の和歌が添えてあり、分かりやすい解説もあって、面白い。

    それにしても光源氏ってスゴイ。会ったこともない人に恋したり、何マタしてんだか数え切れないけど、ちゃんと連絡したり通ったり面倒みたり、マメだなぁーって感心する。紫式部がスゴイのかな。

    いつかまた、読み直したい。

  •  万智さんの文体がとてもチャーミングで、全く飽きることなく楽しめた。何より源氏物語やその登場人物達を万智さん自身がいかに愛おしんでいるのか鮮明に伝わってきた。
     和歌の観点から源氏を読んだことはなかったがハードルを感じさせない分かりやすさが、今後古典に向き合う参考にもなったし、他の様々な作家の源氏の和歌に対する意識も比較できた。

  •  和歌の名手・六条の御息所から「ボキャ貧」・末摘花まで、また、拙いながらも相手を思いやり寄り添う阿闍梨から口先だけで相手を不安にさせる匂宮まで、和歌という「心の結晶」が当時の人々にどのように息づいていたか、和歌が『源氏物語』の登場人物たちを生きた人間として浮かび上がらせ、どれだけ壮大な物語を彩ってきたか、私にとっては、歌人としての著者の分析が『源氏物語』をより魅力的な物語へと押し上げてくれたように感じる。
     なかでも女三の宮の「煙くらべ」の和歌に対する分析は、すばらしいと思った。幼さを強調されていた女三の宮がここぞというところで秀逸な和歌を詠んだことについて、「それほど、女三の宮は、良く悩んだのだろうな、と思う。」という言葉が、俵万智さんほどの歌人から出るということは、やはり、そうなんだろうな、と思う。場面によくあっていて技巧を凝らした和歌は当然に美しいものではあるけれども、それは、詠んだ人物の心が伴っているからであって、テクニックがあるからというだけで美しいものにはなり得ない。女三の宮が生み出した「心の結晶」たる和歌に、彼女の苦悶などあらゆる表情が読み取れてきて、『源氏物語』という作品がより立体的に見えた。

  • 高校時代に使っていた国語総覧を参照しながら読んだ。源氏物語をざっくり読んだ気になれて助かりました。

  • 歌人である俵万智さんならではの解釈や考察もあり、現代誤訳の源氏物語としても読みやすく、登場人物の心象を分かりやすく表現されていていた。
    紫式部時点での考察も随所に書かれているので、源氏物語の考察を深める点でも読んで良かったと感じた。
    瀬戸内寂聴さんとの対談のエピソードもあり、登場人物で誰が1番好きかの話題が面白かった。

  • 「源氏物語には795首の和歌が登場する。ここぞ、というときの和歌は、恋のゆくえを大きく左右する。心の結晶である和歌を、小石のように飛び越えてしまうのではなく、氷砂糖をなめるように味わったならば、源氏物語の世界はさらに豊かな表情を見せてくれるだろう。千年の時を越え、「万智訳」でよみがえる愛の物語。」

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著者プロフィール

1987年の第1歌集《サラダ記念日》はベストセラー。歌集に《かぜのてのひら》《チョコレート革命》《プーさんの鼻》《オレがマリオ》《未来のサイズ》《アボカドの種》、評伝《牧水の恋》、エッセイ《青の国、うたの国》など。2022年、短歌の裾野を広げた功績から朝日賞を受賞。読売歌壇選者のほか、宮崎で毎年開催される高校生の「牧水・短歌甲子園」審査員もつとめる。

「2023年 『旅の人、島の人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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