日本国憲法の二〇〇日 (文春文庫 は 8-17)

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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167483173

感想・レビュー・書評

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  • 「半藤一利」のノンフィクション作品『日本国憲法の二〇〇日』を読みました。

    「半藤一利」作品は、昨年の2月に読んだ『ソ連が満洲に侵攻した夏』以来ですね。

    -----story-------------
    「日本のいま」を決めた、激動の200日を詳述する!
    敗戦から、不戦条項を含む「憲法改正草案要綱」が閣議決定されるまでの日々を、当時15歳であった「歴史探偵」が少年と二つの目で描く。

    3月10日の東京大空襲で九死に一生を得た著者は疎開先、茨城県下妻を経て新潟県長岡で日本の敗戦を迎える。
    いま「歴史探偵」として知られる著者は、そのとき15歳の少年であった。
    そして日本は、戦後を生きる原理となる新憲法の策定作業に入る。
    占領政策を決めるGHQ指令が次々と発せられる中、昭和21年3月6日、遂に「憲法改正草案要綱」が閣議決定される。
    あの敗戦より204日。
    この苛酷ではあるが希望に満ちた日々を、著者は史家の目に少年の目を織り交ぜつつ、哀切に描ききっている。
    -----------------------

    雑誌『プレジデント』の平成14年(2002年)5月13日号から平成15年(2003年)1月13日号まで17回にわたって連載された内容を、単行本化にあたり「余談」として各章に補遺をしつつ、「プロローグ 「三月十日」の章」と「エピローグ 「大理想」の章」を新たに追加して出版された歴史読物です。

    昭和20年(1945年)3月10日の東京大空襲のエピソードから始まり… 昭和20年(1945年)8月15日の敗戦から、昭和21年(1946年)3月6日の「憲法改正草案要綱」が閣議決定されまでの204日間を中心に日本国憲法成立までの物語を描いた作品、、、

    著者が「歴史探偵」と当時15歳であった「半藤少年」の二つの目線で描かれており、国や政府としての大局的な情勢と、一人の庶民としての市井の人々の感じ方の両面で史実を追ってあり、当時の状況がとてもわかりやすく伝わってきましたね。

     ■プロローグ 「三月十日」の章
     ■一 昭和二十年八月・1―「涙滂沱」の章
     ■二 昭和二十年八月・2―「国体護持」の章
     ■三 昭和二十年八月・3―「総懺悔」の章
     ■四 昭和二十年九月・1―「青い眼の大君」の章
     ■五 昭和二十年九月・2―「記念写真」の章
     ■六 昭和二十年九月・3―「憲法改正示唆」の章
     ■七 昭和二十年十月・1―「天皇制打破」の章
     ■八 昭和二十年十月・2―「天皇退位論」の章
     ■九 昭和二十年十一月・1―「近衛失格」の章
     ■十 昭和二十年十一月・2―「陸海軍消滅」の章
     ■十一 昭和二十年十二月・1―「真相はかうだ」の章
     ■十二 昭和二十年十二月・2―「神道指令」の章
     ■十三 昭和二十一年一月・1―「詔書とパージ」の章
     ■十四 昭和二十一年一月・2―「浮浪児とパンパン」の章
     ■十五 昭和二十一年一月・3―「戦争放棄」の章
     ■十六 昭和二十一年二月・1―「三原則」の章
     ■十七 昭和二十一年二月・2―「聖断ふたたび」の章
     ■エピローグ 「大理想」の章
     ■あとがき
     ■解説…梯久美子
     ■主要参考文献

    当然、当時のことは文献や映像作品でしか知ることができないのですが、敗戦前後って、良くも悪くも、過去を全否定して、新しい時代に突入した時代だったようですね、、、

    「日本人の美質良質なものをすべて喪失した時代であり、混乱に混乱の果てに、野卑と軽佻浮薄が横行し、新しい暴力が大鉈を振るいだしたとき」

    という表現に象徴されるように、これまで想像していたよりも、もっと極端な状況だったことに驚きました。


    戦勝国の代表として終始強気のGHQ(=「マッカーサー」)に比べ、敗戦国としての認識が甘く、常に後手にまわり、先見性がなく、優柔不断な態度の日本政府のなんと頼りないことか、、、

    現在の日本って、日本政府や国民の意思で生まれたのではなく、戦勝国の駆け引きから結果的に生じた偶然の産物だったんじゃないか… とさえ感じましたね。


    本作品の魅力は、電車内の会話や、新聞の投書欄、看板の文句から描かれている「半藤少年」の目線で感じた当時の状況かな。

    悲壮な声だけでなく、当時の庶民の呑気な姿や前向きな声を含め、あらゆる世代や階層の人々のリアルな声… 名言や迷言が収められており、とても興味深かったですね、、、

    特に「半藤少年」が新憲法の戦争放棄の内容に感動した際、父親から、

    「馬鹿か、おまえは。
     人類が在するかぎり、戦争がなくなるはずはない。
     そのためには人間がみんな神様にならなきゃならん。」

    と嘲笑された場面は印象的でしたね… テロが横行し、予防的先制行動という大義名分の下で実質的な戦争行為が行われている現状を鑑みると、その発言を否定することはできないですね。

  • 今現在における、日本国の有り様を考えるためには必読の名著。

  • 本書の解説に梯(かけはし)久美子さんが最後に述べているところが読後の気持ちにぴったりなので、掲げます。『いまと未来ばかり見ていても、進むべき道が見えてこないことがある。それぞれの時代を生きた人たちの、過去からの声に耳を傾けるところからはじめるのもいいのではないだろうか。』

  • 半藤さんには長生きしてほしいなあ。未読の人は是非「幕末史」「昭和史」を。映画にもなった「日本のいちばん長い日」もいいです。そして本書は日本国憲法について。

    誤解を恐れず言います。僕らが選んだ国の代表たちが変えたいなら、正式なプロセス踏んで変えたらいい、と思います。何回でも変えたらいい。公約と真逆なことやるなら問題かもしれないけど、多数決ってそういうものでしょ。

    進駐軍が来る前に真っ先に慰安施設を整えた敗戦国日本が、その翌年に「自ら」①天皇は国の元首の地位にある、②国権の発動たる戦争は、廃止する、③日本の封建制度は廃止される、の三原則に基づいた憲法を、「衆議院賛成421票、反対8票で」選びとったのが現在の憲法。誰がドラフトしたかはあまり問題ない。

    ・かつて軍部に沈黙したものは、GHQにも反骨を示し得ないのは、あまりにも明瞭ということになる。
    ・戦後ベストセラー第一号は「日米会話手帖」であった。(中略)「鬼畜米英」からわずか1ヶ月で発売、売れた部数がなんと400万部。

    なるほど。

  • 戦後の状況がよくわかった。生き証人の言葉は強い。
    日本国憲法の崇高な理念が多少なりとも理解でき、昭和天皇とマッカーサー元帥の関係も初めて知ることができた(今までに類書を読んでいなかっただけ)。

  • イラクへの米国駐在が問題視されている現在の状況と比較し、米国の日本統治がいかに成功したのかを感じるのですが、やはりマッカーサーの高い理想があったと思います。9月2日のミズーリ号での降伏調印式の際、僅か3分の演説の格調の高さに日本の間外交官加瀬俊一氏(今年5月末に101歳で死去)は感動したといいます。「地球上の大多数の国民を代表して集まったわれらは不信と悪意と憎悪の精神を懐いて会合したのではない。過去の出血と殺戮の中から、信仰と理解に基礎づけられた世界がまた人類の威厳とその抱懐する希望のために捧げられるよりよき世界が、自由と寛容と正義のもとに生まれ出んことを。それは私が熱望するところであり、また全人類の願いである。」現在のブッシュ大統領との理想の高さの違いに気がつきます。そして現在の憲法の理想の高さにマッカーサー自身は非常に感激していたそうです。戦争が終わったときに14歳の中学生であった著者が感じたことを随所に挟みながら、8月から翌年2月までの200日間を単なる歴史だけではなく、当時の日本の少年がどのような敗戦とその後の日本社会を醒めた目で見ていたのかがくっきり分かる好著です。マッカーサー・天皇会談が実現した背景なども興味深い記述でした。日本国憲法が米国の押付けだという議論はかねてから声高に叫ばれるのですが、天皇自身が戦争終結に続く2度目の聖断により「主権在民・象徴天皇・平和主義」を柱とする基本方針を受容れ、松本国務大臣などが執筆したという、そして天皇の勅令により公布したとのことがその議論の根拠のなさを指摘しています。押付け論は何が押付けということなのか、その本質が見えるように思われます。醒めた目で見ていた著者が一方で憲法の理想主義への熱い思いを持ってきたことが迫ってきます。

  • そう。日本政府とGHQのやりとりよりも、当時の日本の空気が知りたかったんだ。
    この200日は、近衛文麿や松本烝治が「国体護持」をめぐってマッカーサーの意向をうかがいながら的外れの憲法草案を練るけどばっさり切り捨てられただけじゃなくて、
    トップが代わった瞬間、日本社会がこれまでの伝統、文化、歴史をかなぐりすてて、GHQと「民主主義」に迎合、阿諛、追従した期間でもあった。
    その変貌ぶりを引用すると
    ・大人の精神武装解除
    ・自国の歴史をしっかり見ない国民となり、無邪気に無知にさせられた
    ・「根なし草」になれということをあっさり受け入れた
    ・ほんとうに戦後日本の道義は地に堕ちていた
    ・あきらかに「革命」的な流れが滔々として世情を洗い出している。国体護持という言葉はけし飛んでいた。
    ・自由と平和は自分で掴むものであって、決して与えられて享楽できるものではない
    などなど。

    「今の憲法は米国のおしつけだ」という批判は一面真実だけど、あくまで結果論であって、当時の日本はそれを喜んでとは言わないまでも、当然のこととして受け止めたのだなあ。

  • 憲法制定までの政府とGHQとのやり取りがもっと詳しく述べられるのかと思いきや、ほとんど時間の経過に沿って、事実のみを簡単に表しているだけなので物足りなさを感じた。 ところで、15歳の少年には敗戦の意味はなかなか理解できなかったのではないだろうか。厭世的にもなれず、人生をリセットするほど生きてもいないし、どっちつかずの心持ちであったのだろう。それよりまして、一番の食べ盛り、本当にひもじい思いをして毎日過ごしたのに違いない。

  • 東京大空襲から、敗戦、そして日本国憲法が制定されるまでの203日間。
    市井の人々が何を思い、復興へ向かったか。天皇を当時の人々がどう捉えてきたのか。生きるために、生き抜くために、雑草を食み、想像も及ばない飢餓を乗り越えた祖父母世代。真実の姿が、スッとなじむ言葉で綴られ、なんとも悲しい現実なのに、ときにふっと笑えてくるエピソード。それがまた悲しくて、多くの事実を知らずにいたこれまでのわたしを叱咤した。
     

    それにしても、現代に通ずる教訓が、いくつ存在し、そしていくつ無碍にされてきたことか。予言のように、良識ある人々の忠言が随所に記録されているというのに、わたしたちはいまも愚行を繰り返している。
    それを性だといって、やり過ごしてはいけない。そう強く思った。

  • 內容是寫戰後世相,而不侷限於制定憲草的來龍去脈,佈局還算不錯,但對昭和天皇太過美化難以接受

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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