新装版 霧の果て―神谷玄次郎捕物控 (文春文庫) (文春文庫 ふ 1-47)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167192471

作品紹介・あらすじ

北の定町廻り同心・神谷玄次郎は14年前に母と妹を無残に殺されて以来、心に闇を抱えている。仕事を怠けては馴染みの小料理屋に入り浸る自堕落ぶりで、評判も芳しくない。だが事件の解決には鋭い勘と抜群の推理力を発揮するのだった。そんなある日、川に女の死体が浮かぶ-。人間味あふれる傑作連作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 「風の果」と混同して読んだつもりだった作品。解説にもあったが、藤沢作品では珍しい捕物帖。神谷玄次郎がいい。母と妹を殺され、同心であった父も悲嘆のうちに亡くなった。父の後を継いだ玄次郎は、そんな過去から役目に対してもちょっと斜に構えているが、事件がおこれば、深い洞察力とともに一心にのめり込んでいく、江戸版ハードボイルド。
    家族を巻き込んだ過去の事件の真相を追い求めつつ、江戸の町に起こる事件を捌いていく8編からなる小編シリーズ。恋仲の小料理屋の女将お津世の心情とそんな彼女へ寄せる優しさが何とも言われぬ味わいを醸し出している。本作だけで終わってしまったのがなんとも残念。

  • この時代(1980年代前半)に藤沢周平がエンタメ系に傾いていたことが良く判る作品。
    一言でいえば時代ハードボイルド小説です。
    主人公・神谷玄次郎は八丁堀同心で直心影流道場の高弟です。ハードボイルドなので勿論辛い過去を持っています。玄次郎の場合、同じく同心だった父親が担当した事件に絡み、14年前に母と妹が無残に殺され、未解決になっています。そして女。玄次郎は亭主を殺した犯人を挙げて以来、女将のお津世と良い仲になり小料理屋に入り浸る自堕落な生活をしています。
    そのため上司の覚えは悪いが、事件となると十手持ちの銀蔵と共に走り回り、次々に解決するので同僚からも一目置かれています。

    8つの短編。それぞれ物語はちゃんと作られていて面白いのですが、やはり彫りの浅さの様なものを感じます。
    人物像も粗削りな感じ。ヒロインであるお津世の心情などが表に出る場面もありません。
    これまで3回のドラマ化。確かに1時間程度のTVドラマにはシンプルで扱いやすい気がしますが藤沢作品らしい余韻はあまり感じられません。

  • 会社の人に貸して頂いた一冊。

    前回の用心棒シリーズもそんな感じで貸して頂いたものだったが、
    用心棒シリーズの方が良かったかな。

    一本大きなストーリーの上に短編が構成されているのは
    用心棒シリーズと同じような感じで、それなりに楽しめる。

    でもやっぱり時代物は苦手(^^;

  • NHK BS時代劇がよかったので、(久しぶりにいい時代劇作品に仕上がっていた)さっそく手に取った。
    原作のファンはドラマをどう評価したのかな。
    道具立てとキャラクタはそのままに、オリジナルストーリーだったが、あれはあれでよかった。
     
    さて原作。藤沢作品は読んでいて、すぅーっと静かな空気が広がって気持ちがよく、味わい深い。
    流し読みするのはもったいない文章なので読み終えるのにずいぶん時間がかかってしまった。
    1話完結型の短編集で1冊読むと大きなミステリが完結するのだが、とにかく主人公玄次郎の造形がよくて、夢にまで出てきそうな男っぷり。
    ドラマは華のある仕上がりだったので、あのイメージで原作を読むとがっかりする読者もいるかもしれない。ストーリーもエッセンスはそのままだがオリジナル満載だったし。でも、原作がどっしり骨太なのでそういう遊びもできるんだろうと思う。読んで損はない。

  •  主人公のはぐれ同心・神谷玄次郎、なかなか魅力のある男である。はぐれ同心というのは、けっして仕事が出来ないという意味ではない。いや、むしろ切れ者すぎるほどなのだ。興味を持った難事件には、それこそ骨身を惜しまず探索に没頭する。しかも剣の腕も立つ。しかし、普段は町廻りをさぼり、上司に対する恭順など持ち合わせていない。私生活では夫を殺された小料理屋の女将・お津世と犯人を捕らえた縁で懇ろになり店に入り浸っている。要するに他人から観て自堕落なのだ。

     このはぐれ同心が類い希な洞察力で人の心にある闇を巧みに見抜き、犯人をつきとめる。そうしたミステリーとしての楽しみもさることながら、読者は次第にこのはぐれ者の魅力に捕らえられてゆく。このはぐれ加減、自堕落加減がカッコイイのだ。端正な顔より、端正な顔の中に何か一つバランスを欠いたところのある顔の方が魅力があるように、なんともこの男、魅力がある。その格好良さをもう一つたとえるならば、ローリング・ストーンズの格好良さに繋がるところがあると思う。何かで読んだのだがストーンズは演奏を始める前にバチバチに完璧なチューニングをした上で、わざと少し音を外すらしいのだ。このバッド・チューニングが彼らの格好良さであり魅力なのだと……

  • 藤沢周平の連作時代小説『新装版 霧の果て―神谷玄次郎捕物控』を読みました。
    『三屋清左衛門残日録』、『時雨みち』に続き、藤沢周平の作品です。

    -----story-------------
    黒い霧の果てに見えるものは――
    剣の屈指の使い手であるにもかかわらず、役所きっての自堕落者と知られる玄次郎の心の闇とは?
    虚しさと憐れみが去来する8篇

    北の定町廻り同心・神谷玄次郎は14年前に母と妹を無残に殺されて以来、心に闇を抱えている。
    仕事を怠けては馴染みの小料理屋に入り浸る自堕落ぶりで、評判も芳しくない。
    だが事件の解決には鋭い勘と抜群の推理力を発揮するのだった。
    そんなある日、川に女の死体が浮かぶ――。
    人間味あふれる傑作連作短篇集。
    解説・児玉清
    -----------------------

    双葉社が発行する日本の月刊小説誌『小説推理』に1975年(昭和55年)から1980年(昭和60年)にかけて『神谷玄次郎捕物控』として断片的に連載され、1980年(昭和60年)に『出合茶屋 神谷玄次郎捕物控』と改題され双葉社より単行本化… 同年に『霧の果て 神谷玄次郎捕物控』と再改題され文春文庫より文庫化された作品の新装版です。

     ■針の光
     ■虚ろな家
     ■春の闇
     ■酔いどれ死体
     ■青い卵
     ■日照雨
     ■出合茶屋
     ■霧の果て
     ■解説 児玉清

    北の定町回り同心・神谷玄次郎… 直心影流の冴えた技、探索の腕も抜群だが、役所では自堕落者と見られている、、、

    玄次郎は、小料理屋の寡婦のおかみ・お津世(おつせ)とねんごろ… さて、そこへ事件だ。

    自他ともに認める北町奉行所きっての怠け者同心であるものの、剣の腕は確かな神谷玄次郎が、母と妹を惨殺された過去を胸に潜めながら様々な事件の謎を暴いていく… という主人公の設定が絶妙、とても魅力的なキャラだったので、物語に惹き込まれて、感情移入しつつ、夢中で読み進めました、、、

    そんな玄次郎の原動力となっているのは、母と妹が何者かに惨殺された事件、その原因である父・勝左衛門が手掛けていた大掛かりな犯罪追及… 一話一話が物語として完結しながら、次の物語へ繋がり、全体が大きな物語となっているという構成も好みでしたね。

    シリーズ化されておらず、本作品のみで完結しているのが残念… もっともっと玄次郎が活躍する物語を読みたかったな。

    以下、主な登場人物です。

    神谷 玄次郎(かみや げんじろう)
     本作の主人公で、北町奉行所定廻り同心。
     小石川竜慶橋で直心影流の道場を開く酒井良佐(さかい よしすけ)の高弟。
     見回りをさぼったり、茶屋に入り浸ったり、と現在は奉行所きっての怠け同心と思われているが、
     ひとたび事件が起これば、綿密で鋭い調べでたちどころに解決する。

    お津世(おつせ)
     玄次郎の恋人。
     蔵前三好町の小料理屋「よし野」の女将。

    銀蔵(ぎんぞう)
     玄次郎配下の岡っ引き。38歳。
     深川六間堀町の髪結い床「花床」の主人。丸顔でひげ面。

    おみち
     銀蔵の女房。32歳。
     銀蔵が事件の調査中は、しっかり店を切り盛りする良妻。

    直吉(なおきち)
     銀蔵の下っ引き。20歳。
     板木ずりの職人。身寄りがなく、一人暮らし。結婚を言い交わしている相手がいる。

    金子 猪太夫(かねこ いだゆう)
     与力。56歳。
     怠け者の玄次郎を苦々しく思っており、ことあるごとに小言を言う。

    鳥飼 道之丞(とりかい みちのじょう)
     定廻り同心。玄次郎の同僚。27歳。
     廻る範囲が玄次郎と隣り合っている。剣術は下手だが、捕縛術の腕前はかなりのもの。

    弥之助(やのすけ)
     道之丞配下の岡っ引き。

    勝蔵(かつぞう)・おろく
     よし野の料理人と女中。夫婦。
     勝蔵は無口だが、おろくはお津世が愚痴をこぼしてしまうほどのおしゃべり。

    おさく
     神谷家の老女中。玄次郎からは「ばあさん」と呼ばれる。

  •  藤沢周平「霧の果て」、2010.9発行。小料理屋「よし野」(若後家お津世が女主人)の二階で暮らす自堕落な同心神谷玄次郎28歳の物語。連作短編8話。はぐれ同心、一匹狼ということで爽快な事件解決とお津世との色っぽい話を期待しましたが、内容は私の好みではなかったです。陰湿で不気味な話が多かったです。読了に9日かかりました。(何とか途中で失速しないで読み終えましたw)

  • 2021/9/2 読了
     直心影流の使い手にしてズボラな同心、神谷玄次郎の捕物控。藤沢作品には貴重な捕物帳、岡っ引きの銀蔵親分、情婦のお津世と脇役も魅力たっぷり。上役も勤務態度をいつも叱っているが源次郎の鋭い探索能力に一目置いている、という点も面白い設定だ。

  • これもまたまた児玉清さんのオススメ面白時代小説で、江戸捕物の短編集。普段は仕事をサボりながらも、いざ殺しが発生すると、優れた力を発揮する同心の玄次郎。一つひとつの短編は、たこ焼きの醤油味のように非常にあっさりしていて、何も考えず、ボーッとしながら、つまんで読めます。短編は独立した話で構成されていますが、後半の話にいくに従って、徐々に玄次郎の父親に関わる無念の事件に迫っていき、最後の話で、その核心にたどりつくというもの。最後の真の仇を見た時の場面では、玄次郎の気持ちに共感もでき、まずまずの捕物短編集でした。

  • 藤沢周平作品のなかではもうひとつかな
    連作で最後になると面白い

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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