新装版 虹の翼 (文春文庫) (文春文庫 よ 1-50)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (527ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167169503

作品紹介・あらすじ

人が空を飛ぶなど夢でしかなかった明治時代-ライト兄弟が世界最初の飛行機を飛ばす十数年も前に、独自の構想で航空機を考案した男が日本にいた。奇才・二宮忠八の、世界に先駆けた「飛行器」は夢を実現させるのか?ひたすら空に憧れた忠八の波瀾の生涯を、当時の社会情勢をたどりながら緻密に描いた傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 飛行機がまだ登場していない頃、ライト兄弟よりも先に飛行原理を自ら考案したが、資金や軍の協力が得られないために、道半ばで終わってしまった日本人、二宮忠八の話。

    彼は、変化に富んだ激動な人生を送っており、非常に興味深い。
    しかし、自ら考案した飛行機開発を軍に提案したものの、何度も却下されてしまう。後年に彼の飛行原理の考案は世間から認められるが時すでに遅し。欧州で既に開発され、それが日本に入ってきている状況であった。

    解説にもあるとおり、日本人は優秀なのにイノベーションが生まれなかったのは、
    貧しかったから
    新しい発想を歓迎せず、時には変人として扱うといったような風土があったから
    ということがよく分かる。

  • 二宮忠八の生涯を描いた歴史小説。彼は、明治時代、ライト兄弟よりも早く飛行機の原理を発見した人物として知られている。
    昭和初期の軍国主義時代に二宮忠八は国定教科書でも取り上げられ、村田銃やゼロ戦と同様に日本独自の技術力の高さを以って賞賛されていたのだろうが、昨今ではあまり知られていない。(私自身も、この小説を知るまで彼のことを知らなかった)

    歴史の表舞台には必ずしも出てこない人物を、このような形で知り、学ぶことができることが歴史小説の醍醐味であり、一期一会的な人物との出会いが嬉しい。

    忠八が子供の頃に新型の凧を造る際に手助けをする竹籠職人など、日本人が、永らく手先が器用で技術力に才能を有していた民族であることを改めて感じるところ。

    また、忠八は壮年期より製薬会社で実業者としても成功し、それについても多く紙面が割かれており、明治の企業勃興期の状況を理解する一助になる。それも興味深い。

    好奇心の大切さ、また、それを志に換えて、執念の以って成し遂げようとする心の強さの大切さ。改めて心に刻んだような気がする。

  • 「お前が乗って空を飛ぶことができたら話を聞く」。それを実現するための相談であるのに...。時は明治。製薬業界で立身出世を果たした二宮忠八。陸軍時代は薬剤官を勤めながら”飛行器”を研究。類まれな才能で原理を発見。独力での開発は限界。上申が却下され、日本は航空機発祥の地にはならなかった。その言葉は今ならパワハラに当たるか。いや、今にも通じる何かがある。再び沈み始めたこの国自身が”虐め”を受けているようにも感じる。再浮上の答えは出ている。聞く耳持たない、理解しようとしない。その遺伝子がどこか受け継がれている。

  • 「吉村昭」の伝記的歴史小説『虹の翼』を読みました。

    「吉村昭」作品は昨年8月に読んだ『海軍乙事件』以来ですね。

    -----story-------------
    「吉村」ファン必読の書が待望の新装版!

    人が空を飛ぶなど夢でしかなかった明治時代―「ライト兄弟」が世界最初の飛行機を飛ばす十数年も前に、独自の構想で航空機を考案した男が日本にいた。
    奇才「二宮忠八」の、世界に先駆けた「飛行器」は夢を実現させるのか?
    ひたすら空に憧れた「忠八」の波瀾の生涯を、当時の社会情勢をたどりながら緻密に描いた傑作長編。
    -----------------------

    1978年(昭和53年)、『京都新聞』に『茜色の雲』というタイトルで連載された作品、、、

    明治時代、「ライト兄弟」が世界最初の飛行機を飛ばす十数年も前に、凧が風を受けて空に浮かぶ原理や、烏が空を滑空する姿、虫が飛翔する姿等を研究することから飛行理論を確立、その後、全く独自に「飛行器」を考案し、実際にゴム動力のプロペラを用いた模型を飛ばすことに成功した天才「二宮忠八」の生涯を描いた伝記的歴史小説です。


    「忠八」は四国・八幡浜の裕福な商家「大二屋」に生まれたが、大阪に取引に行った長兄「繁蔵」と次兄「千代松」が相次いで都会での誘惑に溺れてお金を使い込んだことが原因で家が没落したため、薬問屋で丁稚奉公することに… その後、志願して香川県丸亀歩兵隊に入隊、薬問屋で働いていた経歴から、軍病院に配属となり、軍隊勤めの傍ら、彼は鳥や昆虫の飛行状態を研究して飛行原理を見出し、それに沿って模型飛行器を完成させた、、、

    ゴム紐を動力とするプロペラ飛行器は、「忠八」の期待どおり数十メートルも空を飛んだのである… そして、衛生兵として日清戦争に従軍した「忠八」は、飛行器が軍にとって有益な武器となると考え、考案を上官に上申したが一笑に付され却下される。

    戦後、「忠八」は、広島陸軍予備病院等に配属されるが、飛行器の研究を続けたいという気持ちを抑えることができず、莫大な研究資金をつくるために民間の製薬会社へ就職… 製薬会社で実業家として成功するが、実業家として多忙な生活の中で、なかなか研究に時間を割くことができず、「ライト兄弟」の成功やその後の飛行機の発展を傍観することに、、、

    その頃、世界的に飛行機が注目され始め、日本軍でも開発を急ぐこととなり、その責についたのは、「忠八」の上申を二度に亘って却下した人物だったというのは皮肉なものですね… 悔しかったろうなぁ。

    でも、こんな素晴らしい発想力を持つ天才が明治時代の日本にいたことを誇らしく感じましたね… 「忠八」の研究成果の上申書が軍の上層部に採用されていたら、ひょっとすると航空史が変わっていたかもしれないですね… 限られた環境の中で、夢を実現するために、揺るぎない信念を持って、全力を尽くして生きた「忠八」の姿に共感しながら読めました。

    歴史に、たら・れば は禁物ですが… 軍に却下されたことは残念でならないですねぇ、、、

    先見の明がある人物が身近に居たら… きっと歴史は変わっていたと思います。

    500ページを超える大作ですが… 「忠八」の人物像に惚れながら、長さを感じず愉しく読める一冊でした。

  • ライト兄弟よりも先に飛行機を考え飛ばそうとしていた日本人がいたとはこれを読むまで知りませんでした。先見の明があったにもかかわらず、理解者を得られず資金もなく、ライト兄弟に先をこされてしまう。こういう人物についてしっかりと光を当てて書いてくれるのが、吉村昭という作家です。

  • 20211018

  • 文明開化の波が到来した明治期の日本で、時代の先端を行く飛行器の原理を独力で探求し、実現まで残すは動力の問題というところまで辿り着いた二宮忠八の話。

    飛行器の研究開発を提案した上申書が陸軍に却下されなければ、ライト兄弟に先駆けて空を飛ぶことができたのか、想像は尽きない。ただ、もし研究開発を続けていれば、資金難や実験失敗による人命の損失などの不幸に見舞われることも十分あり得ただろうから、忠八がその後実業の世界で成功し、子供にも恵まれ、飛行器研究の先駆者として存命中に再評価もされたというのは、運命の綾というか、人生において何を幸せとするかについて考えさせられる。

    忠八は、現代に生まれていたとしても、IPS細胞やAI、あるいは自分には思いも寄らない未知の分野で画期的な技術革新をしたかもしれない。今の自分の仕事柄、そういう独創性を持つ現代の忠八のような技術者ともし会うことができたら楽しいだろうなと思った。

  • ライト兄弟が、世界で初めて飛行機を飛ばした十数年前の明治期の日本。
    そこに、"飛行器"研究に生命を賭けた男がいた。
    男の名は、二宮忠八。
    ひたすらに、空を飛ぶことに憧れ、懸命に駆け抜けた人生。
    自分が夢見た、空飛ぶ器械。
    忠八が今の時代に生きていたら、どんなことを思うのだろうか。

  • 飛行機とは関係ないけど、田辺製薬、塩野義製薬など関西発祥と知りました。

  • 明治時代から日清・日露戦争の中、飛行〝器″を発明した天才 二宮忠八の苦難に満ちた人生の記録。そして、航空史も学べる。絶対に傑作です。

    名作「漂流」の心理描写、代表作「戦艦武蔵」の歴史記録小説の間をとったバランスが絶妙。

    貧乏ながら、企業家・ビジネスマンとしても一流で、画期的な発明家である、このような鬼才を登用できなかったこの国とは。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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