第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166613670

作品紹介・あらすじ

 ロシアによるウクライナ侵攻を受けての緊急出版。
 戦争を仕掛けたのは、プーチンでなく、米国とNATOだ。
 「プーチンは、かつてのソ連やロシア帝国の復活を目論んでいて、東欧全体を支配しようとしている。ウクライナで終わりではない。その後は、ポーランドやバルト三国に侵攻する。ゆえにウクライナ問題でプーチンと交渉し、妥協することは、融和的態度で結局ヒトラーの暴走を許した1938年のミュンヘン会議の二の舞になる」――西側メディアでは、日々こう語られているが、「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確な警告を発してきたのにもかかわらず、西側がこれを無視したことが、今回の戦争の要因だ。
 ウクライナは正式にはNATOに加盟していないが、ロシアの侵攻が始まる前の段階で、ウクライナは「NATOの〝事実上〟の加盟国」になっていた。米英が、高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団も派遣して、ウクライナを「武装化」していたからだ。現在、ロシア軍の攻勢を止めるほどの力を見せているのは、米英によって効果的に増強されていたからだ。
 ロシアが看過できなかったのは、この「武装化」がクリミアとドンバス地方の奪還を目指すものだったからだ。「我々はスターリンの誤りを繰り返してはいけない。手遅れになる前に行動しなければならない」とプーチンは発言していた。つまり、軍事上、今回のロシアの侵攻の目的は、何よりも日増しに強くなるウクライナ軍を手遅れになる前に破壊することにあった。
 ウクライナ問題は、元来は、国境の修正という「ローカルな問題」だったが、米国はウクライナを「武装化」して「NATOの事実上の加盟国」としていたわけで、この米国の政策によって、ウクライナ問題は「グローバル化=世界戦争化」した。
 いま人々は「世界は第三次世界大戦に向かっている」と話しているが、むしろ「すでに第三次世界大戦は始まった」。ウクライナ軍は米英によってつくられ、米国の軍事衛星に支えられた軍隊で、その意味で、ロシアと米国はすでに軍事的に衝突しているからだ。ただ、米国は、自国民の死者を出したくないだけだ。
 ウクライナ人は、「米国や英国が自分たちを守ってくれる」と思っていたのに、そこまでではなかったことに驚いているはずだ。ロシアの侵攻が始まると、米英の軍事顧問団は、大量の武器だけ置いてポーランドに逃げてしまった。米国はウクライナ人を〝人間の盾〟にしてロシアと戦っているのだ。

感想・レビュー・書評

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  • 本書はロシア寄り、というか、必ずしも反ロシアではない。
    だから、読む人を選ぶかも。
    僕はこっちの視点も大事と考えるけど。

    タイトルは結構、ショッキング。
    でも、実質そうなんじゃないか?、ウクライナで起こっていることは実質、アメリカ対ロシアの戦争なんじゃないか?って感じている人、実は多いのでは?

    あれだけ戦力的に不利と言われながらウクライナが戦えているのも、米英の武器供与があるからだし、元々ロシアの侵攻はウクライナのNATO化を防ぐためのものだし。

    プーチンだけが狂っている、と決めつけるのは少し危険な気がしている。理性的な手段として長期戦も見据えてウクライナに侵攻したのではないか、と思える。(もちろん戦争は許されるものではない)

    いかなる手段を取ってもロシアは勝利を目指す。そして、アメリカも引くに引けない状況…
    膠着状態に陥ってしまったけど、なんとか世界は知恵を絞らなきゃね。

  • ロシアでは、ウクライナ戦争をどのように伝えているのか?
    本書はロシア側がウクライナ戦争を正当化する論法を知るのにいいだろう。
    ---

    で、レビュー終わりにしようかと思ったが、もう少し書いておく。
    (まとまりのない内容になってしまったが、書き直すのも時間の無駄なのでこのまま登録)

    エマニュエル・トッドという名前はよく聞く。
    内容は覚えていないが「世界の未来」という本を4年前に読んでいた。(読むのをやめた記憶もある)
    レビューも書かず★2つにしているので価値なしと判断したのだろう。

    本書も★2つで、「なんだこいつは、いかがわしい奴だ」と感じながらも一応最後まで読んでみた。

    今回のウクライナ戦争は、欧米陣営のウクライナ支援側の日本では、ロシアが一方的に悪いようにしか報道されていない。

    トッド氏は、欧米の民主主義は壊れかけているという主張を売りにしているようなので、ロシア擁護の視点で戦争を語る絶好のチャンスだ。

    今のウクライナ戦争の原因は、アメリカとイギリスがウクライナ軍の武装強化を図り、ウクライナにいるロシア人を虐待し始めたからである。
    ウクライナは2014年にロシアによって略奪された(クリミア半島などの)土地を奪還しようとしているので、ロシアとしては仕方なく戦う羽目になっている。
    ロシアの実効支配化にあるクリミア半島の現状は良しとする理由も、それを取り戻そうというウクライナの行為を悪とする理由も述べていない。

    反ロシアなのは欧米と日韓など一部の国だけであり、多くの国はどちらの側に付くこともなく静観している。
    だから、ロシア(の国民やプーチン)が悪いと決めつけるのは誤りらしい。

    本書は中国のようにうまく立ち回りたい国から見た欧米・ロシアの状況理解を深めるのにもいいかもしれない。

    とはいえ、あくまでもエマニュエル・トッド氏が持論の中から都合のいい部分を取り出して、実際に起きた出来事と親和性が良くなるように説明しているだけだ。

    トッドは、「日本も核兵器の保有が必須だ」と主張している。
    ウクライナがロシアに攻撃されたのは、核兵器を持っていないからだ。
    仮に中国から日本が核攻撃を受けても、アメリカ軍が核兵器を中国に打ち込むことはない。
    それはアメリカと中国の戦争になることを意味するからだ。
    このような論法で、日本の「核保有」を煽る。

    ヨーロッパ経済はロシアのエネルギー資源に依存している。
    だからEUはロシアに対しては経済断交の決断はできず、本格的に介入できないと考えていたと言う。
    しかし、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」は停止することになった。
    トッド氏の主張に「アメリカはロシアとドイツが手を結ぶことを恐れている」というのがある。
    アメリカはEUにロシア経済制裁の働きかけを行った。
    アメリカは、この戦争を利用して「ノルド・ストリーム2」を停止させるのに成功したのだそうだ。

    トッドの思考の前提は「人間は基本的にずる賢い」なので性善説に基づいた観点はなく、なぜかロシア擁護の立場で性善説ぶった欧米を非難しまくる論調に終始している。

    物理学には「そうなる理由」はわからなくても「正解」がある。
    人間が行う政治や経済には「正解」がないが「そうなる理由」はいくらでも述べられる。
    トッド氏は、一方的に語る分には「そうかもね」と思わせるのがうまい。
    (対談で反論されると、論点をずらしにかかる)

    以下、「そうかもね」の例

    アメリカがロシアの勝利を阻止できなかったら、アメリカにとって「死活問題」になる。
    中国は経済的にロシアを支える。
    ロシアの経済制裁に失敗すれば、世界の経済的支配力をアメリカが失うことになる。

    空母は簡単に撃沈され、時代遅れの兵器となった。
    中国が台湾に武力侵攻した場合、アメリカは台湾を守れないということだ。
    これは日本が攻撃された時も同じ。

    軍事的な意味での真の"NATO"は、アメリカ、イギリス、ポーランド、ウクライナ、スウェーデンで成り立っている。
    ここに、(武力も闘争心もないから)ドイツとフランスは入っていない。

    中国はロシアを利用して、アメリカの武器備蓄を枯渇させ、アメリカの弱体化を目論んでいる。
    もしもロシアが倒されれば次に狙われるのは中国なので、中国がロシアを支援しないわけはない。
    ロシアは軍事兵器支援と経済支援を中国に頼ることができる。

    苦しいのはロシアではなくヨーロッパだ。
    この戦争は、西洋社会がうまくいっていないから起きた。
    西欧の各国政府は自分たちの無力さと卑劣さを隠すため「ロシアを悪とみなす」ことで団結しているように装っているだけだ。

    そもそも、ウクライナは国家としての体をなしていない。
    だから皆ウクライナを捨てて他国に逃げ出している。
    西側の1/3をポーランドに、南東の1/3をロシアに併合されてもおかしくない。

    ---

    どこか本質を突いていそうな意見もあるが、その考えに至った根拠となるデータは示さないので妄想癖が強そうだと思ってしまう。
    アメリカのトランプ大統領やイギリスのEU離脱を見通していたというが、どちらも確率は50%程あって、そう予想した人は多かった。
    「30年以内に東京で震度7の地震が起こってもおかしくない。」みたいなことを言っておけば、起きた時に予想通りだと騒げますから。

    • まことさん
      Kazuさん。こんばんは♪

      Kazuさんは、この本の著者のことをいかがわしい奴だと、書かれていらっしゃいますが、どのあたりで、一番強くそう...
      Kazuさん。こんばんは♪

      Kazuさんは、この本の著者のことをいかがわしい奴だと、書かれていらっしゃいますが、どのあたりで、一番強くそう感じられましたか?
      私は政治や外交のことは、全く無知で、エマニュエル・トッドという名前も初めて目にしましたが。
      「日本も核を保有すべき」というあたりでしょうか?
      2022/07/06
    • Kazuさん
      まことさん。
      気にかかるレビューを書いてしまったようで、すみません。
      ウクライナ戦争、早く終わって欲しいと願う中「お前らが悪い!」と言われち...
      まことさん。
      気にかかるレビューを書いてしまったようで、すみません。
      ウクライナ戦争、早く終わって欲しいと願う中「お前らが悪い!」と言われちゃうとね。

      トッド氏の考え方の基本姿勢は西洋文化の常識の全否定で、さらに反感を買うように非難を浴びせる文章にしています。
      中国やロシアは否定しても共感されてしまうのであまり触れないようにしているようです。
      全般がこんな論調で書かれているので、どこの部分がではなく、どこもかしこも不愉快だらけでした。

      トッド氏は、「批判される」=「本質を突いている」と信じており、あえて批判されることを目論んで本を書いているように感じます。

      だから、トッド氏にとっては私のように「なんだこいつは、いかがわしい奴だ」という感想は賛辞に等しいのでしょう。
      「いい子ちゃんぶったバカが、また一人食いついてきた」と喜んでいるにちがいないです。

      建設的な意見はなく、いかに嫌な気持ちにさせるかを楽しむ確信犯のような人なのだろうと思います。
      政治や外交に限らず、何に対してもそういう思考回路なのでしょう。
      日本では結構評価されているようですし、単に私が嫌いなタイプなだけですので、あまり気になさらないように♪
      2022/07/07
    • まことさん
      Kazuさん。
      丁寧なお返事ありがとうございました。
      Kazuさんのおっしゃりたいことはよくわかりました。
      トッド氏が、確信犯だから、批判す...
      Kazuさん。
      丁寧なお返事ありがとうございました。
      Kazuさんのおっしゃりたいことはよくわかりました。
      トッド氏が、確信犯だから、批判すると、逆に喜ばれてしまうのですね。
      私は日本が核を持つなんて、考えられなかったので、このような質問をしてしまいました。
      丁寧にお答えいただきありがとうございました。
      2022/07/07
  • 【感想】
    アメリカがウクライナへの派兵を拒む代わりに武器供与を決定したとき、「ここまで露骨に捨て駒にするかね」とあきれてしまった。アメリカは「ロシアと戦うことは第三次世界大戦の引金を引くことになってしまう」という理由から戦争への直接関与を避けているが、ウクライナという代理の土地を通じてロシアに戦争を仕掛けていることはもはや公然の事実である。本書のタイトルである「第三次世界大戦はもう始まっている」という言葉は、疑いようのない真実だといえよう。

    本書はフランスの歴史学者であるエマニュエル・トッドによって書かれたウクライナ戦争観である。4部構成になっており、それぞれウクライナ戦争勃発前と勃発後のトッドのインタビューやエッセイをまとめたものである。書かれたタイミングはそれぞれ違えど、内容は一貫して「ウクライナ問題はNATOが引き起こした」として、西欧諸国の政治的態度を批判するものだ。
    トッドいわく、「欧州ではもはやロシアは絶対悪として認知され、まともな議論ができない」そうだ。本書が文藝春秋から出版されたのも、日本は政治的ノイズが比較的薄く、かつ文藝春秋とその読者を信頼しているからだとのこと。

    「本拠地の欧州では出版できない」という事情のとおり、「ウクライナ戦争の引金を引いたのは、ロシアではなくアメリカとEUである」という主張が本書を貫く一本線だ。2014年以降、ウクライナ軍はアメリカとイギリスによって軍備を強化されており、事実上のNATO加盟国だった。プーチンはさんざん「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」と発言してきたのに対し、西欧諸国はこれを無視し続け、NATOとの合同軍事演習すら実施していた。その結果ロシアの軍事行動を引き起こしたのだ。

    トッドの主張はなかなか過激で、ロシアがウクライナを侵攻したというよりも、アメリカやイギリスがNATOの拡大によってロシアの生存圏を侵略しており、それに対抗したロシアが自衛のため戦争を起こした、というニュアンスが強い。ロシア自体は許す/許さないのスタンスを明確にしている。それを破らない限りは手出ししなかったものの、目先で好き勝手やりすぎたNATO側に戦争の責任はある、とロシアへの追求をやや甘くしている。

    筆者の主張の多くに賛同できるが、ただ私としては、ロシアもある程度は侵略を意図していたのでは、と思っている。ロシアの言い分としては「ウクライナ東部で、ロシア系住民をウクライナ軍の攻撃から守り、ロシアに対する欧米の脅威に対抗するための正当防衛だ」というものだが、黒海に面するウクライナ南東部を奪取して、東欧への影響力を高めたいという思惑も少なからずあるだろう。この辺は「この戦いはアジア解放のための戦いだ」と言って満州を制圧・統治した日本軍と状況が似ており、自衛や正義を標榜しても、犠牲を払うからには見返りが欲しい。ロシア系住民解放以上の政治的思惑があることには間違いないだろう。

    このように完全な黒とも完全な白とも言い難いのが今のロシアであると思っているが、しかしながら、国際社会ですっかり悪者になってしまっているのは相当に不利である。また、その評判の悪さから他国が冷静にロシアを分析できなくなっているのも外交上非常に問題だ。
    そもそも、ウクライナ自身も相当にきな臭い国家だ。ドンバス地方に住むロシア系住民をウクライナ政府が締め上げていたり、ネオナチであるアゾフ大隊が国家公認の国防部隊と化していたりと、黒いウワサが多い。このあたりは公平な目で報道されるべきだろう。また、本書で述べられているような西欧のダブスタ具合をメディアが取り上げないことからも、やはりきちんとこの戦争の意義を語り尽くせていないと感じる。トッドは「我々が目にしている報道が、”現実”をどれだけ伝えているかは分からない」と言っているが、まさにその通りだと思った。

    本書で繰り返し述べられているジョン・ミアシャイマーの動画は、↓のyoutubeページに日本語翻訳がある。気になった人はチェックしてみるといいだろう。(公式チャンネルではないので注意)
    https://www.youtube.com/watch?v=cZaG81NUWCs
    ―――――――――――――――――――――――――――――――

    【まとめ】
    1 ウクライナ戦争はアメリカとNATOが引き起こした
    シカゴ大学教授の国際政治学者ジョン・ミアシャイマーは、「いま起きている戦争の責任は、プーチンやロシアではなく、アメリカとNATOにある」と結論付けた。「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確に警告を発してきたのにもかかわらず、アメリカとNATOがこれを無視したことが、今回の戦争の原因だとしている。

    アメリカを始めとする西側諸国は、ロシアに対する経済制裁やウクライナに対する軍事的、財政的支援など、直接的な軍事介入以外のあらゆる手段を用いて、ロシアの侵攻を食い止め、ロシアを敗北させようとしている。これでもし、ロシアの勝利を阻止できなかったとしたら、アメリカの威信が傷つき、アメリカ主導の国際秩序自体が揺るがされることになるだろう。アメリカは、軍事と金融の面で世界的な覇権を握るなかで、実物経済の面では、世界各地からの供給に全面的に依存しているが、このシステム全体が崩壊する恐れが出てくる。

    アメリカの目的は、ウクライナをNATOの事実上の加盟国とし、ロシアをアメリカには対抗できない従属的な地位に追いやることだった。それに対してロシアの目的は、アメリカのもくろみを阻止し、アメリカに対抗しうる大国としての地位を維持することだった。だからこそ、アメリカによるウクライナの「武装化」がこれ以進むことを恐れ、ロシアは侵攻を決断したのだ。


    2 ウクライナの歴史から見る「破綻国家としてのウクライナ」
    ウクライナの西部(ガリツィア)、中部(小ロシア)、東部・南部(ドンバス・黒海沿岸)という三つの地域はあまりに異なっていたため、ソ連が成立するまで、「ウクライナ」は「国家」として存在していなかった。
    ウクライナでは「アゾフ大隊」というネオナチの武装勢力が内務省傘下の部隊として表立って活動している。2014年の「ユーロマイダン革命」では、民主主義的手続きによらずに、ロシア寄りだったヤヌコビッチ政権が倒された。この革命を引き起こしたのはそうした親EUのネオナチである、西部ウクライナ極右勢力だ。一方で、中部ウクライナの人々はロシアとも西部ウクライナとも距離を保っている。またクリミアやドンバス地方のロシア系住民にとってはこの出来事は完全なクーデター扱いであり、ヤヌコビッチ政権が倒されたことを認めなかった。だからこそ、ロシアは住民投票を経てクリミアを編入したのだ。

    ロシアは、1990年代に危機の時代を迎えたが、国家の再建に成功した。「国家によって完全に制御された軍隊」の再建にも成功した。それに対してウクライナは、独立から30年以上経過しても、十分に機能する国家を建設できないでいる。西部、中部、東部・南部の間の文化や家族構造の違いを埋められず、「国家」という伝統が根付かなかったからだ。
    ウクライナは独立以来、人口の15%を失い、5,200万人から4,500万人に激減した。しかも高等教育を受けた労働人口が大量に西欧諸国に流出した。本来は国家建設を担うべき優秀な若者が、よりよい人生を求めて国外(ヨーロッパ・カナダ・アメリカ)に出ることを選んだのだ。現在、大量の戦争難民が発生しているが、実はロシアの侵攻が始まる前から人口流出は起こっており、まさに「破綻国家」と呼べる状態だったのだ。
    プーチンはそんなウクライナを母なるロシアに回帰させることで、破綻国家であるウクライナの秩序を立て直そうとしたのだろうが、むしろロシアが強硬に出るほど、反ロシアのアイデンティティが作られてしまった。これがプーチン最大の誤算だ。


    3 西欧諸国のダブスタ
    暴力的な軍事攻撃に対して、ロシアを糾弾するヨーロッパの「道徳的態度」は、自然なリアクションである。しかし、ヨーロッパが実際に起こした行動は、無責任で欺瞞に満ちている。たとえば、「最後の一人がロシア軍によって殺されるまでウクライナに武器を供給し続ける」ことは、道徳的なのか。ロシアからの天然ガスの供給路だけは確保しながら、ロシアに対して経済制裁を科すことも道徳的ではないだろう。

    ロシアの侵攻が始まると、アメリカとイギリスの軍事顧問団はポーランドに逃げてしまった。ウクライナの人々は、大量の武器を手にしつつも、単独でロシアに立ち向かわなければならなくなったのだ。要するに、アメリカとイギリスは、ウクライナ人を「人間の盾」にしてロシアと戦っている。現在、アメリカとウクライナは、固い絆で結ばれているように見えるが、長期的に見て、この裏切りに対して、ウクライナ人の反米感情が高まる可能性は否定できない。

    もはや戦争がアメリカ文化の一部になりつつある。第二次世界大戦後も常に戦争をしてきたアメリカは、他国に強力な軍事力を押し付けることで世界の安定を目指してきたからだ。そのように築いたアメリカ主導の国際秩序に真正面から歯向かってきたロシアに対して、アメリカ国内では混乱が起こっている。
    ロシアもロシアで、ヨーロッパがこれほど強硬に出るとは思っても見なかっただろう。ロシアのエネルギー資源に依存するヨーロッパ経済の脆弱性を確信していたからだ。
    ヨーロッパに目を向けると、こちらでは「ロシア恐怖症」が高まっている。これはヨーロッパにとっては損失以外の何物でもないが、アメリカにとっては、ヨーロッパとロシアが分断されることは国益に叶う。アメリカは世界各地からの供給に全面的に依存しているが、ロシアとの間で経済的な結びつきがほぼなく、またユーラシアにおける影響力もロシアより小さい。ロシアからドイツへの天然ガスパイプラインが凍結されれば、資源輸出におけるアメリカのプレゼンスが高まるのだ。「世界の安定にアメリカが必要」というレトリックが真に言わんとするところは、「世界の不安定がアメリカには必要」ということなのだ。

    西側のメディアでは、「これだけ強力な経済制裁にロシア経済はとても耐えられないだろう」と論じられていて、事実、ロシアは高インフレに見舞われている。しかしルーブルはいったん急落した後すぐに回復し、それどころか、西側の主要通貨に対してむしろルーブル高となっている。ロシア産の石炭・石油・天然ガスの禁輸措置にしても、窮地に追い込まれるのはロシアよりもヨーロッパの方だろう。戦争とは直接関係ないインフレが大衆を襲っていたタイミングで戦争が勃発したが、さらなるインフレにヨーロッパの社会システムはどれだけ持ちこたえられるのだろうか。


    4 ウクライナ戦争から得られる教訓
    この戦争から得られる教訓がいくつかある。
    1つ目は、中国とロシアがますます接近することだ。中国は、ロシアが倒れたら、次はみずからが単独でアメリカに対峙しなければならないことを承知しているからだ。この「中露陣営」に対して、「西洋陣営」を固めることにアメリカは必死になっている。もしもロシアがこの戦争に耐えて生き延びるとすれば、それ自体が、世界の経済的支配力をアメリカが失うことを意味するからだ。アメリカの戦争の「真の目的」は、アメリカの通貨と財政を世界の中心に置き続けることにある。だからこそ、早期の停戦をめざすのではなく、この戦争にどんどん突き進んでいるのだ。
    2つ目は、戦車と空母の脆弱性が明らかになったことだ。
    3つ目は、ウクライナが事実上のNATO加盟国になっていたことが明るみに出たことだ。
    この戦争で誰もが最初に驚いたのは、2014年以降、ウクライナ軍が、アメリカとイギリスによって見事に増強されていたことだ。アメリカの情報活動や衛星システムに支えられながら戦う姿を見ていると、「ウクライナ軍はすでにアメリカ軍の一部」とすら思えてくる。ウクライナ軍は、アメリカの優れた軍事技術を手にしつつ、逆にアメリカ軍兵士には欠けている「勇敢さ」も兼ね備えている。


    5 日本の立ち位置
    アメリカの行動の危うさや不確かさは、同盟国日本にとっては最大のリスクで、不必要な戦争に巻き込まれる恐れがある。実際、ウクライナ危機では、日本の国益に反する対ロシア制裁に巻き込まれている。当面、日本の安全保障に日米同盟は不可欠だとしても、アメリカに頼りきってよいのか。アメリカの行動はどこまで信頼できるのか。こうした疑いを拭えない以上、日本は核を持つべきだと私は考える。
    核の保有は、パワーゲームの埒外にみずからを置くことを可能にするもので、「同盟」から抜け出し、真の「自律」を得るための手段だ。アメリカに対して自律することがリスク回避になる。

    現在、日本も対ロシア制裁に加わっているが、この危機が去った後も、中国とロシアは同じ場所に存在し続ける。台頭する中国と均衡をとるためには、日本はロシアを必要とする、という地政学的条件に変わりはない。西側に追い込まれたロシアが中国と接近し、中国に軍事技術を提供することこそ、日本にとっての悪夢である。アメリカを喜ばせるために多少の制裁は加えるにしても、ロシアと良好な関係を維持することは、あらゆる面で、日本の国益に適うと言えるだろう。

  • エマニュエル・トッド氏インタビュー「第3次世界大戦が始まった」:日経ビジネス電子版
    https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01460/

    文春新書『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド 大野舞 | 新書 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166613670

  • 【はじめに】
    エマニュエル・トッドがウクライナの状況について語った著作。欧州でこんなことを言うと炎上するので、まずは日本のメディア向け(『文藝春秋』など)に発表したという。
    トッドは、イスラム移民問題、ブレグジット、アメリカ大統領選などについて、物議を醸し出す発言をしてきた。それら表明された見解の多くは、世の中の意見とは合わないものであった。しかし、そこにはトッドとして独自独特の視点があり、本質を突いた思考と論理によって結果として世の中が予想できなかった事態を予測してきた。

    今回、西側メディアと世論が反ロシアにつき、それが当然のものと認知される中で、この戦争の責任はアメリカとNATOにあると明言したトッド。本書は、戦争開始前も後も変わらないその主張について、インタビューを中心にまとめられたものになっている。書下ろしではないが、そうであるがゆえにトッドの主張が比較的ストレートにシンプルに打ち出されている。

    【概要】
    本書は戦争開始前から開始後にまたがってそれぞれ別の時期に収録された4つのインタビューもしくはエッセイからなっている。
    1. 第三次世界大戦はもう始まっている (2022年3月23日収録)
    2.「ウクライナ問題」をつくったのはロシアではなくEUだ (2017年3月15日収録)
    3. 「ロシア恐怖症」は米国の衰退の現れだ (2021年11月23日初出)
    4. 「ウクライナ戦争」の人類学 (2022年4月20日収録)

    4つに共通するテーマはウクライナ問題であるが、1.と4.はウクライナ侵攻後、それらに挟まれた2.と3.は侵攻前のものである。ウクライナ侵攻という多くの人にとっては想定外のイベントがあったにも関わらず著者の主張はその前後で驚くほどほとんどぶれていない。トッドにとって、そこにある構造は戦争の開始前と開始後でほとんど変わっていないからだ。特にウクライナ問題はアメリカとEU側が作ったという批判は、2.にあるようにウクライナ侵攻がある前からであり、そのことはウクライナ侵攻があった後も変わらない。

    このどちらにより多くの責任があるのかという点に関連して、本書の中で安全保障を専門とするシカゴ大学の国際政治学者ミアシャイマーが何度か出てくる。トッドはミアシャイマーの意見にほぼ全面的に同意している。具体的には、ミアシャイマーもトッドも、ウクライナで起きている戦争の責任はプーチンではなくアメリカとNATOにある、としている。ウクライナのNATO加盟は絶対に許されないというメッセージをロシア側が発していたにも関わらず、それを無視したことが原因であるとするのだ。

    以下、この4つのインタビュー/エッセイからいくつかトッドの分析と主張をまとめてみた。

    ■ ウクライナに関する認識
    トッドの中には、ウクライナはこれまで国作りに失敗してきた国家だという認識がある。まず前提として、これまでウクライナという国家はソ連邦成立の1922年まで存在しなかったという認識がある。この辺りの歴史的経緯は、現在ベストセラー中の『物語 ウクライナの歴史』にも詳しいが、この国に関する歴史的観点での認識が日本での一般的議論では欠落しているように思う。また、ウクライナの西部、東部、キーウを中心とした中心部ではその歴史的経緯から民族もロシアへの態度も大きく異なっている。そしてそのことも一因となってか、1990年以降ロシアが国家の再建に成功したのに対して、ウクライナは十分に機能する国家を建設できないでいた、とトッドは総括している。このウクライナの現状を端的に示しているのが、今回の戦争の前から優れた教育を受けた優秀な若者を中心に国外流出が続いていたという事実だ。ウクライナは独立以降総人口の15%を失っている。おそらくこの戦争でさらに多くの人材が国外流出することになり、将来この問題はさらに深刻化するだろうと予測する。

    トッドは、2014年のユーロマイダン革命は親ロシア派であったヤヌコビッチから親EU派に民主的手続きを経ずにクーデターだと認識している。この革命を西側諸国は支持したが、そこにはダブルスタンダードが見え隠れする。ロシアは、これを受けてクリミアを併合したのだが、これに対抗する形でNATO加盟を強く志向する勢力がウクライナの中でも増えたと想定される。

    また、プーチンが侵攻の理由のひとつとしたネオナチ勢力からの解放は、アゾフ連隊がもともとはネオナチの極右勢力と言われていたことも、日本ではあまり報道されないことのひとつだ。ナチズムとの戦いにおいて、国土は第二次世界大戦で多大な犠牲を払って勝ち得たものであるというロシアの自己認識があり、いったんはナチス勢力の手に落ちたウクライナをロシアが解放したという過去の歴史になぞらえたものでもある。プーチンはアゾフ大隊のネオナチ勢力との親和性を利用して国内外の宣伝に利用しているわけだが、欧米の極右勢力を否定的に報道するメディアがこのことについてほとんど触れないのもダブルスタンダードのように感じる。もちろん、主な主張であるロシア批判の報道の流れに沿わないというのもあるのだろうが、事実はテレビの報道よりも複雑な事情を抱えているように思う。

    一方でこの戦争を経て、「反ロシア」がウクライナのアイデンティティになりつつある。ウクライナの人々が、「自分の国のために死ねる」と感じ、「国として生きる意味」をこの戦争が見い出しているのだ。
    それは、実に悲しいことだとトッドは言う。このことは、戦争終了後も何十年もかけて深く分析されるべきだという。

    ■ ロシア国家の再建と現状
    トッドは、ロシアは共産圏の崩壊からこの数十年の間にうまく国を再建させてきたと評価する。トッドを有名にしたのは旧共産圏の崩壊を予測したことだが、その予測の根拠となったロシアの乳幼児死亡率は、1990年当時1,000人当たり18.4人という高い水準であったが、現在は4.9人にまで改善し、これはアメリカの5.6人を下回っている。ロシアは再び魅力的な国になったのである。

    また今回の経済制裁はロシアに想定されたほど影響を与えないとも主張する。これは、2014年の前回の経済制裁時にロシアで勤務していたという自分の知り合いの方も当時も経済制裁の影響はほとんど感じなかったと言い、おそらく今回も同様だろうと言っていたことと合致する。いったんは暴落したルーブルも、すでに対ドルレートで戦争開始前のレート以上に戻している。そしておそらくプーチンの支持率も実際に下がっていないのだろう。

    そして、世界中の全ての国が必ずしもロシアを非難しているわけではないということも指摘する。積極的に批判しているのは、欧米各国と日本、韓国に限定される。イスラム諸国やアフリカ諸国、ラテンアメリカ諸国の大部分は批判も制裁もしていない。

    中国に関しては、この戦争をきっかけとしてこれまで互いに反発してきたロシアと急速に近づいた。中国にとってもこの戦争は国益に適うのである。中国は武器を含む工業製品をロシアに輸出し、欧州向けであったエネルギー資源をロシアから輸入する。中国も対アメリカという点で孤立するよりも、ロシアという極が存在している方が都合がよい。そして、中国がロシアについていることも、戦争の長期化を暗示するものである。

    トッドは、日本の読者に向けて、日本はロシアとは長期的に良好な関係を築くべきだという。地政学的にも当然だし、日米安保の枠組みを尊重しながら、冷静な外交的努力を続けるべきだという。

    ■ アメリカへの批判
    トッドのアメリカに対する批判は厳しい。本来この戦争は「ウクライナの中立」というロシアからの要求を受け入れていれば、容易に避けられたものを、アメリカをはじめとする西側諸国の対応によってヨーロッパを戦場としてしまったと怒りを隠さない。

    アメリカにとって、ウクライナ戦争は世界戦略上有利であることを指摘する。まず、欧州とロシアの分断はアメリカのグローバルでの支配的立場を強化することにつながる。また、経済制裁に関してはエネルギー資源をロシアに多く依存していたヨーロッパ、特に欧州の盟主であるドイツに大きな影響を与える。皮肉なことに経済制裁はロシアよりもヨーロッパに大きな経済的影響を与えるであろうことを指摘している。すでに欧州各国のインフレ率はエネルギー資源の高騰を受けて、非常に高いレベルになっている。こういったヨーロッパの経済問題は、アメリカの世界支配にとってはよいことだという。

    トッドは、「「戦争」はもはやアメリカの文化やビジネスの一部になっていると言っても過言ではありません」と言い、アメリカは世界のどこでも関わった場所を戦場に変えてきたと分析・批判する。そして、この後ウクライナは、その国土と国民をアメリカが世界戦略の盾としたことに対して批判するだろうと予言する。対ロシアを煽り立てた上、武器だけ供与して自らは戦場に立つことなく、ウクライナの多くの人命と国土・産業を犠牲にした、と。

    この戦争の責任をロシアではなく、完全にアメリカの側に帰するという論述は、ひとつの極論であって、西側の世論には簡単に受け入れられるものではないだろう。しかしその分析とともに、トッドのアメリカ、そしてイギリスに対する怒りと失望は本物であるように思う。

    ■ この戦争の行方
    トッドは、「我々はすでに「世界大戦」に突入してしまった」という。

    ミアシャイマーは、いかなる犠牲を払ってでもロシアは戦争に勝とうとするがゆえに最終的にはロシアが勝利するという。東部の占領の状況を見ても、ロシアが敗北したということは難しい。一方で、アメリカももはやこの戦争で負けを受け入れることはありえないとトッドは分析する。この点がミアシャイマーとの異なる点だ。つまり、この戦争は長期化するだろうというのが見立てとなっている。

    この戦争は、第一次世界大戦の状況に似ているという。誰もそれを望んでいたわけではなかったが、サラエボでの皇太子暗殺というひとつの事件をきっかけにヨーロッパ中が戦争に巻き込まれてしまった。その状況に似ているというのだ。

    別の見方として、旧ソ連圏の内戦に、アメリカとイギリスが一方の勢力に支援していることで継続しているとも。またトッドは、この戦争の背後には、アメリカとイギリスを中心とするリベラル寡頭制陣営とロシアと中国を中心おする権威主義的民主主義陣営の戦いだと指摘する。冷戦終了後三十年を経たが、リベラル寡頭制陣営も決してうまくいっているわけではないのである。

    【まとめ】
    トッドの主張がすべて正しいというわけではない。トッドも、あえて極論を言うことで伝えるべき主張を強く打ち出そうとしているところもあるだろう。しかし、報道やSNSで流れる表面的で煽情的な情報だけで判断するのではなく、この戦争が起きた背景を構造的かつ歴史的に把握することが大事だということは同意できるところだと思う。トッドの描き出す世界観は、どんな物事でも世間一般の考えとは違った見方が可能であり、ある観点からはその方がより論理的で整合的であるということの証左でもある。「世界の構造レベルで何が起きているのか」を見極めることが重要となるとトッドは指摘している。その通りだと思う。

    最後にいくつかトッドのこの世界状況に対する姿勢を示した文章を並べておきたい。

    「この状況に対して具体的な行動は何もできないなかで、私にとっての道徳的な行動とは、誰が正しいのか、誰が間違っているのかを考えるのではなく、ひたすらに真実に忠実であろうとすることです」

    「しかし、ここで行われているのは、まさに「戦時の情報戦」であることも忘れてはなりません。我々が目にしている報道が、”現実”をどれだけ伝えているかは分からないのです」

    この戦争が世界史においてどのように組み込まれていくことになるのか、十分に注視しておくことが必要だと改めて考えた。その内容を受け付けない人ももしかしたらいるかもしれないが、刺激を受けることができる本だった。

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    『物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国』(黒川祐次)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4121016556
    『縮訳版 戦争論』(カール・フォン・クラウゼビッツ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/453217693X

  • 今回のウクライナ侵攻や、世界史の考え方について、新しい考え方を知った。著者のトッド氏はフランス生まれの家族社会学者。

    題名の示すところは、2014のクリミア併合以降、アメリカとイギリスの軍事援助で指導と訓練がなされ、脆弱だったウクライナ軍は強くなった。侵攻が始まってからはアメリカの軍事衛星による支援がウクライナ軍の抵抗に決定的に寄与している。こうなると、「我々はすでに第三次世界大戦に突入した」とトッド氏は考えている。

    また、本来、この戦争は簡単に避けられたと言う。
    アメリカの政治学者ミアシャイマーは「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない、というロシアの警告を無視したことだ」「ウクライナはすでにNATOの事実上の加盟国だった」と述べ、「NATO拡大がロシア国境にまで拡大することはロシアにとっては、生存にかかわる死活問題だ、という主張をロシアは繰り返し強調してきていた」・・というミアシャイマーの考えと同じ考えだとする。ロシアの国境保全に関してロシアを安心されていれば、何も起こらなかった、という。・・う~ん、そうは問屋が卸さないのが人間関係、その総体の国家関係なのでは?とも思うが・・ 難しい。

    そして、「ウクライナに兵器を送るべきだ」「ウクライナ兵は最後の一人になるまで戦うべきだ」などと西側諸国が声高に叫ぶことがいかに冷酷か、これに気づいていない。この戦争にブレーキをかける要素は、人口減少、である。これはロシアでもウクライナでも西側でも同じで、「兵士の命の価値の高さ」へ意識が向けば、人々に理性をとりもどせるだろう、としている。・・では今ウクライナに兵器が送られなくなったら、それはそれで壊滅してしまうのだろうし、これも難しい問題だ。停戦交渉で互いに接点をみつけられれば・・

    ・「文芸春秋」2022.5月号に「日本核武装のすすめ」2022.3.23収録
    ・2022.4.20収録
    ・「Aspen Revier」2017.3.15
    ・「Elucid」2021.11.22

    メモ
    ・トッド氏は40年前に家族構造と政治経済体制(イデオロギー)は一致するという研究をした。
    「外婚制共同体家族」(父権が強く妻帯兄弟が父の元に同居。兄弟は平等)こういう家族形態のところで工業化していなかったところが共産主義をとった。ロシア、中国、ベトナム

    「広義のロシア」の中心部はロシア(大ロシア)、ベラルーシ(白ロシア)、ウクライナ(小ロシア)。ベラルーシとロシアは外婚制共同体家族だが、ウクライナは核家族社会。ソ連時代、農業集団化はロシアではさほど苦労せず進められたが、ウクライナでは難渋しホロドモールの悲劇を生んだ。ピラミッド型社会のロシア人からすると、ウクライナ人は「自分勝手で、アナーキーで、ポーランド人みたいだ」と見える。

    ベラルーシのルカシェンコ大統領も独裁的だが、ロシアもベラルーシも(その家父長的家族形態が源泉にあるので)社会自身が強権的な指導者を求めている。

    ・ロシアは孤立していない
    この戦争は「西洋の民主主義対ロシア中国が代表する専制主義」の構図で捉えられているが、「父権制の強度」で見ることもできる。侵攻に対し、「非難して制裁を科す国」は米、欧、日、韓という広義の「西洋」で、それ以外は静観である。それらの国は父権制が強い。「人類学」と「地政学」は驚くほど一致する。

    ・日本とドイツは「直系家族社会(父権強度1)」である。~「核家族社会(父権制強度0)」と「共同体主義的父権制社会(父権強度2~3)」の中間に位置する。トッド氏はドイツと日本、特にドイツは「西洋の国(核家族社会)」のふりをしてきた、と見る。ドイツと日本が「西洋世界」に所属している(=西洋の国であるふりをしている)というのは、人類学的な基盤ではなく、第二次世界大戦で敗北してアメリカに”征服”されたため。


    ・ウクライナで戦っている外国人兵士の多くはポーランド人とラトビア人
    ・なぜ中国よりもロシアが憎悪の対象になったのか
     ヨーロッパ人にとって、ロシア人は人種的な外見は自分たちと同じなのに、自分たちと同じ考え方をしない。一方、中国人はアジア人で、そもそも我々(ヨーロッパ)と同じではない、という前提がある。

    2022.6.20第1刷 2022.7.30第4刷 図書館

  • ロシアのウクライナ侵攻に関するニュースは毎日入ってくるが、フラットな目で見ると、単純に「プーチンの狂気」だけが原因とは言えないことが分かる。勿論、国連決議ではロシアを非難する国の数は多いものの、実はロシアをシンプルに非難する国は、西欧の一部だけにすぎないことに注意を払う必要がある。
    特に「アメリカがウクライナ人を盾にロシアと戦争をしている。自国領土から離れた場所で戦争を行うのが常套手段」「戦争ビジネス」という表現には納得できる。
    そして、実は「西欧社会が常に理想像であり先進的」という考え方が誤りであることを、面白い指標を用いながら指摘している。過去に共産主義を受け容れた国々の家族構成、宗教、肌の色など、新たな切り口が提示されている。
    日本にいると、どうしても「西欧」の立場から見たニュースばかりを目にするもので、そのコメント欄まで読んでしまい、賛同しがちである。実は、世界を広く見渡せば、この戦争を冷ややかに見る国、あえて距離を置いている国など、各国の思惑や立場が微妙に異なっており、第一次世界大戦のときに類似した状況であると筆者は指摘している。

  • この手の本はあまり読まないのですが
    トッドさんのことは私の信頼する人たちの本で知っていたので読んでみました。

    トッドさんはフランス人ですが、
    ケンブリッジ大学でもお勉強されていたそうです。
    家族システムや親族構造を研究する人類学が専門、
    彼にとって地政学は副次的な領域ではありますが、
    人類学と地政学が驚くほど一致していることも示しています。
    とても面白かったです
    大野舞さんの訳が上手だったこともあるでしょう。

    トッドさんは日本が好きみたいです。
    そして日本に核保有を薦めています。
    (と私は解釈しました)

  • なるほどな〜 こういう見方をする人もいるのか〜と、新鮮な発見があった

    筆者は言わずとしれたエマニュエル・トッドさん
    フランス人の政治学者

    本書では、ウクライナとロシアの戦争について。すでに第三次世界大戦は始まっている!と筆者は説く。

    たしかに、ウクライナのバックにはアメリカとイギリスがいる。
    兵士訓練と武器供与を行っているのだから、これはちょっとした世界大戦と言っても良いのかもしれない

    そもそも、私たち日本人は西側の人間だ
    ウクライナに関するニュースというのは、基本的には西側からの観点で伝えられる

    ロシアにはロシアの言い分がある
    戦後から世界秩序のためにコストを払い続けてきた 本来はロシアなりのプランがあった それが果たせずに、侵攻を開始した…というのが筆者の持論なんだけど、ちょっと世界をフェアに見すぎている気はする
    つまり、戦争犯罪を軽んじている
    さすが、本国フランスでは出版できない内容…

    アメリカは世界で戦争をしていてほしい 軍事大国として君臨し続けるため
    その視点は確かに… と思わざるをえない
    さらに筆者が言う、日本が核保有すべきとの主張は、納得感がある
    核保有は戦争をするためではなく、戦争ゲームから逃れるため

    さすがのエマニュエル・トッドさん
    サラッとカジュアルに、地政学的な現況を解説する
    ロシア寄りと感じる読者もいるかも知れないけれど、国際政治の書籍としてオススメと言えばオススメ

  • 私はトッドさんが好きである。
    だからこそ盲信したくないし、崇め奉りたくない。

    読んでて違和感あるな、ってところは違和感のまま残したいし、素人ながらも自分で調べて考えたい、と思っている。

    以下、書きかけ

    ロシアを擁護する気は無いけれど、ロシアにも言い分があるし、反ロシアの国って意外に少ないんだね…という現実を直視できた。

    そしてウクライナにもネオナチな側面がたしかにあったんだな、とも思った。

    ホロドモールの悲劇についてちろっと記述があったので、ネット検索してみた。
    スターリンが外貨を得るために、ウクライナ(ソ連時代)から農作物を過剰に収めさせて輸出したことで、また天候不良も相まって、国民は大飢饉に陥った。子殺し、食人も起こった、というショッキングな事が書いてあった。
    この話題に関しては、ウクライナが核家族型だから〜というのを織り交ぜて書くのは、違うかなと思った。

    ウクライナについてはやはりよくわからなってない部分が多いなと思う。

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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