1918年最強ドイツ軍はなぜ敗れたのか ドイツ・システムの強さと脆さ (文春新書 1149)
- 文藝春秋 (2017年12月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166611492
作品紹介・あらすじ
「我々はすぐに弱気になるのと同様にすぐに調子に乗ってしまう」(ビスマルク)21世紀の現在、ドイツは産業、政治・外交、経済、サッカーと多方面で大きな存在感を示している。その強さの源泉は「ドイツ的システム」にある。そして、このシステムにはむ弱さが潜んでいる。第一次世界大戦におけるドイツ軍を通して問う、ドイツとは何か。1918年、世界最強と目されていたドイツ軍は大攻勢をしかけて敵の塹壕線を突破、大成功を収める。しかし半年後には敵に休戦を乞わざるを得ない状況に陥っていた。ドイツ指導者層、ドイツ軍の内部で、いったい何が起こっていたのか。◆目次◆◎まえがき◎容赦のないドイツ/新たな静かなドイツ脅威論/第一次世界大戦との類似 など◎序章 十九世紀ドイツ統一に見る指導者のトライアングル◎リーダーシップによるトライアングル/ヴィルヘルム二世時代の到来 など◎第一章 一九一四年から一九一六年夏まで――戦況とドイツの戦略◎開戦後の参謀総長と最高司令部/モルトケの失敗/リーダーシップの危機 など◎第二章 一九一六年夏から――ルーデンドルフ時代の始まり◎カイザーとルーデンドルフ/西部戦線の再構築/ジークフリート線とニヴェル攻勢 など◎第三章 ドイツ軍「春季大攻勢」の準備◎崩れ去った伝統的な指導者トライアングル/Uボート戦の失敗とアメリカ軍/成功の三条件と訓練 など◎第四章 一九一八年春季大攻勢――「大成功」が準備した敗北◎カイザー側近の追い落とし/失敗の原因――指揮の統一性の欠如/悪化する兵士のムード など◎第五章 限界に達していたドイツ軍――夏の連合国の攻勢から休戦まで◎ドイツ軍の変質/兵士の燃え尽きとシャーキング など◎終章 ドイツの敗因◎敵を増やす愚策/「成功」が生んだ内部崩壊 など
感想・レビュー・書評
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第一次大戦のドイツは結局敗北したが、実際には緒戦ではドイツ軍の被害よりも英仏軍の死傷者のほうが多かった。なぜドイツ軍はそれにもかかわらず敗北したのか? ドイツ(軍)の強みはどこかについてまとめている一冊。
読んだ感想としては、戦術的勝利こそ多いものの、戦略的視野に欠ける勝利が多く、また戦略立案では希望的観測に基づいていることがわかる。
特にルーデンドルフが無能すぎた。ルーデンドルフは政治的視野に欠ける人物だが、政敵を追い落とすことにだけは熱心だった。ルーデンドルフの立案で戦術的勝利が得られているのは間違いないが、彼が外交に過剰に口を出して和平交渉を邪魔した。いかんせん彼の立案で勝っている(勝つ意味がある戦いではないというのは置いておいて)ため、彼を更迭することは難しかったのだろう。
そして、敗北の際にルーデンドルフは銃後の裏切りで敗北したと責任を転嫁する。これが後のヒトラーへと繋がったと考えると彼の罪は大きい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新書でページ数も少なく、文章も平易で内容も興味深いのになぜか「独ソ戦」に比べて読むのに時間がかかってしまった。
兵士一人一人の戦闘能力、装備、戦術、士気どれをとっても圧倒的だったドイツ軍はなぜ敗れたのか。三者鼎立が機能した時代とそうでなかった時代として論じてあるが、単純にビスマルクには現実が見えており、ルーデンドルフはそうでなかっただけだろう。
もともとドイツ対英仏露の構造になった時点で敗北なのだがロシア革命で奇蹟的な引き分けの目が出たにもかかわらず講和のチャンスを逃したのには呆れてしまう。もっともそこで講和を選択できる現状認識能力があれば、そもそも二正面作戦に陥るような外交をしていないだろうが。 -
第一次世界大戦本 ドイツの敗北に関する考察
開戦直後の攻勢失敗や、無制限潜水艦作戦、アメリカの参戦についてなどの話 -
王・首相・参謀長の三者がうまく鼎立しているときのドイツシステムは無類の強さを発揮するが、第一次大戦ではバランスを欠き、うまく制御できなかっこことが敗因だとする仮説が立てられ、本書で検証されているが、筆者の目論見通りになったかは疑わしい。わざわざ「ルーデンドルフという敗因」という見出しの節が用意されるなど、均衡不全がパーソナリティの問題によるものなのか、システムの問題なのか必ずしも判然としないまま終わる。成功時と失敗時の比較をするなら、個々の能力や資質に大きな違いがないことを立証しないと前提が崩れてしまう。
ドイツという国は、どういうわけか自然とリーダーたちの間で三者が鼎立する構造ができ、それがうまく行ったケースはこの時代、まったく機能しなかったのはあの時代という風に論を進めるならわかるが、そもそも第一次世界大戦では三者がトライアングルになってもいないし、それ以前の鼎立した時代も、それがドイツという国だから必然的に生まれたものなのか、単純にたまたま顔ぶれに恵まれただけなのかわからない。むしろ、歴代のリーダーたちが要職に就くと途端に精神不安に襲われていることの方こそ興味深く、深掘りすべきだったのではと感じた。
もう一つ面白いと思ったのは、家父長的で、権威への服従の習性から軍の指示徹底という意味では利点となりうる特徴をもつ組織が、ともすれば硬直的に陥り、指導者の無謀な作戦に盲信して失敗を重ねそうなところがそうはならず、むしろ現場の自主性を尊重したり、自由な気風のイギリスやフランスよりも軍規違反に寛容だったりというアンビバレントな側面がどういう背景から形作られたのかのほうが知りたいと思った。 -
ドイツ統一を成就させた、プロイセン国における皇帝、宰相、軍のトライアングルが、どのような経緯を辿り、変化し、結果としてドイツ帝国の崩壊を招いたのか等、改めて知る、帝国の盛衰であります。ビスマルク、モルトケは、偉かった、然しながら、その次は、ヒンデンブルグ、ルーデンドルフ、更に、ヒトラーへと。ドイツ的システムの強さと脆弱性を教えてくれる、良いほんであります。
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第一次世界大戦は欧州舞台の戦争なので日本人にはどうしても関心が薄く、私もほとんど教科書的知識しかありませんでした。
しかし「ロシア革命」を研究していると、第一次世界大戦をしっかり押さえておかねば、とんでもない誤認識をしてしまうことに再三でくわしました。
そこで本線をいったん置いて、第一次世界大戦をざっと発端(それ以前もある程度含めて)から終結(それ以後も同様に)までを押さえてみようと想い、何冊かの新書を購入しました。ロシア革命も100周年がありましたので新しい切り込み・解釈の著作が増えましたし、それほどではありませんが第一次世界大戦もけっこう新しい著作が出ています。
購入した新書版の中には大戦の発端を「ボスニアへの宣戦布告で始まった」なんてトンデモナイことを書いているものもありましが、これは著者の凡ミスでしょう。
他は役に立ちました。中でもこの『1918年最強ドイツ軍・・・・』はドイツ・軍事面・人物の三要素に力点を置いて書かれています。そのため流れがすっきりし、論理的な破綻もほとんどありません。
最初のリファレンスには最適かと思います。おかげで長らく好戦的戦争マニアでこの大戦の元凶だと思いこんでいたヴィルヘルム2世が、そうではないことがよくわかりました。これは合わせて新書板『ヴィルヘルム2世』も読んでいたこともあります。
ただ、肝心なロシア革命との関わりは、当然ながら筆が及んでいないので、もの足りませんが、それを求めるのは求める方が悪いので他を当たります。
とにかく文章が簡潔でスラスラと読めるのは、こういう人物や地名が満載の歴史書には不可欠なものだと考えます。 -
日本とよく比較されるドイツの知られていない第一次世界大戦の敗戦までのノンフィクション。
第一次世界大戦のドイツにおける敗戦原因が、軍人、皇帝、政治家の三権分立による双方のバランスが崩れにより、敗北に歩んでいく過程が理解出来た。
軍人ルーデンドルフが、専門外の政治に踏み込み過ぎたために、悪い意味で歴史に名を刻んだ。
日本では、独裁者は幸運にも生まれなかったが、本来の機能や立場を忘れたために、敗戦に至ったという点は、日本にとって他人事ではないはずである。
初見であるのが、ドイツが善戦していたのには意外であり、日露戦争を勝利した日本にも当てはまるのか。
中途半端に、善戦していたが故に、第二次世界大戦に続いたのか。
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第1次世界大戦を敗戦国ドイツ視点でながめ、その敗因を分析する。
戦前の19世紀、ドイツは皇帝ヴィルヘルム1世、首相ビスマルク、軍参謀モルトケによる緊張感のあるトライアングルが機能し、ヨーロッパ最強の軍事力を持っていた。が、ドイツ軍は強すぎた。その強さを過信し、戦線を拡大しすぎてしまった。東でロシア、西でフランスと戦い、さらにはイギリス、アメリカと次々と敵を増やす。適当なところで戦争を手仕舞いすることができなかった。
本来なら政治力、交渉力を発揮すべき、ヴィルヘルム2世や軍参謀ルーデンドルフらは徹底的に勝利することだけにこだわりすぎ、ドイツは自滅する。
日本が積極的に関わっておらず、戦場も遠くヨーロッパだったことで、日本人には馴染みの薄い第1次世界大戦だが、本書はドイツ国内の政治情勢だけに焦点を当てることで、非常にわかりやすい戦争記になっている。 -
大学の総論の教科書を読んでいるよう。