芥川賞の謎を解く 全選評完全読破 (文春新書 1028)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166610280

作品紹介・あらすじ

日本一有名な文学賞「芥川賞」。今年、創設80年を迎える芥川賞ですが、1935(昭和10)年に行われた第1回芥川賞にノミネートされたものの、落選した小説家は次のうち、誰でしょう?a.川端康成 b.芥川龍之介 c.菊池寛 d.太宰治 答えは最後に記しますが、この小説家は自分を落とした選考委員を逆恨み。「刺す!」とまで言い放って大事件に発展した前科を持ってしまいました。 あるいは最近では「都知事閣下のために(芥川賞を)もらっといてやる」発言で話題になった田中慎弥、史上最年少受賞で日本中を熱狂させた綿矢りさ、金原ひとみの受賞劇も記憶に新しいでしょうか。 普段は小説を読まないけれど「芥川賞受賞作が掲載される月刊『文藝春秋』だけは読む」という人も多いのですが、どうして芥川賞は文学の世界にとどまらず、社会的な事件にもなるのか。その秘密は、謎のベールに包まれたままの「選考会」に隠れています。 石原慎太郎『太陽の季節』、大江健三郎『飼育』など日本文学の名作から、文壇の大御所たちの大ヒンシュクを買った問題作まで、歴代の受賞作を生んだ現場ではどんな議論がなされたのか。ヒントは選考委員が書き残した1400以上の「選評」にありました。「該当作なし!」連発の開高健、三島由紀夫の美しい選評――、半藤一利が語った「司会者の苦しみ」。 全選評を完全読破した記者が、ついに謎を明かします。 注目の芥川賞選考会。本書を片手に、選考会という「密室」で起きる事件に要注目です。(答えはd。事件の詳細は本書で)

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞の舞台裏を選評から明かした内容。
    本が売れないニッパチ(2月と8月)に純文学の無名もしくは新人の作家に賞を与えて世に出し、話題を作って本を売ろうという意図のもとに作られた芥川賞。
    ひとつの出版社が作った新人賞(芥川賞は新人賞だと理解している人が少ない)が現在までその権威と話題性に事欠かないのは、文藝春秋創設者・菊池寛のプロモーターとしての才能と商魂と、そして選ぶ作家と選ばれる者たちとが織り成すドラマゆえである。

    賞を得ても書けなくなり世から忘れられる人と、獲れずとも後に大家として有名になった作家もいる。(村上春樹、吉本ばなな、然り)。
    現在の芥川賞選考委員の山田詠美や島田雅彦は芥川賞を獲ってない。賞をもらったからダメになった、いや賞が励みになったと、様々な文脈で語られる芥川賞は、今後も話題を社会に提供するだろう。

    芥川賞をめぐるドラマは数多い。
    本書で書かれているが、芥川賞が欲しくて選考委員の川端康成に脅迫めいた手紙を書き送った太宰治などは作家のもうひとつの顔を覗かせて笑える。

    特に芥川賞選考会は、選ぶ作家たちの文学観を覗かせて興味深い。トリビア的な話も多くおもしろい。

    選考委員だった川端康成は、「なんですか、これは。なんでこれが候補作ですか。」と気に入る作品がないと選考会では終始不機嫌で、口を噤んだままだったという。
    「該当作なし!」を連発した厳しい選考委員だった開高健。マスコミは芥川賞に騒ぎ過ぎで新人作家が可哀想だ、と賞の取り扱われ方に危惧を抱いた遠藤周作。
    村上春樹の芥川賞候補作「風の歌を聞け」を唯一人評価した丸谷才一。
    芥川賞受賞時、宮本輝に選評で酷評されて号泣した川上弘美。そんな川上は宮本輝と共にいまでは選考委員。しかし2人は候補作をめぐって選考会でよく対立するという。
    現選考委員の小川洋子は、自分が推した作品が賞に通らなかった選考会の夜は、近くの公園を何週も歩き、足裏に血豆ができるほど歩き回り、高ぶった気持ちを鎮めてから帰るという。

    芥川賞の選考会は、選考委員の作家たちの文学観が剥き出しになり、ぶつかり合う。そのなかからドラマや悲哀が生まれる。選ぶ者、選ばれる者含めて、菊池寛によって作られた芥川賞のその歴史と権威はこうしたドラマによって育まれ支えられているように思う。

  • 芥川賞受賞作品の選評を読めば、その時代の空気感を掴むことができる。長年、芥川賞の選考会を取材し続けた著者がレポートする、芥川賞の舞台裏。

  • 910-U
    閲覧新書

  • 2019/5/20購入
    2019/9/7読了

  • 本の本
    文学

  • 文学賞界隈の論考は、それだけである程度、自分的には楽しめることが約束されている分野。これも例外ではなかった。川端とか三島とか、自殺直前に参加した選考委員会の様子なんて、かなり興味深かったし。トヨザキ社長の調子に慣れた身にとって、本作者の芥川賞に対する絶対的信頼は新鮮に感じられて、石原に対する好意的解釈とかも、かなり面白かった。同賞に対する見方が、自分の中でも少し好意的になりました。

  • 20180812

  • 後藤明生「千円札小説論:あらゆる作家は小説を読み、小説を書く、どちらを欠いても文学は成り立たない」
    文芸春秋創刊者、菊池寛の発案。昭和10年芥川賞、石川達三の蒼ぼう。直木賞、川口松太郎。太宰と川端康成の確執。芥川賞事件。第一回から運の良し悪しで受賞が決まった。「ナンセンスの情熱みたいなものに取りつかれて書いた。小説のねらいなんて自分でもわからないんだよ。でもそれが小説を書く楽しみなんだよ。安倍公房、芥川賞受賞の談」第三の新人安岡章太郎、吉行淳之介」、小島信夫ら。小さな世界に居場所を探す作風(文壇的小説)そのあと五味、清張現る。坂口安吾は松本清張の作品から推理小説も書ける作家と看破した。
    芥川賞とは「顰蹙(ひんしゅく)文学」と看破。顰蹙をかうことを恐れぬ選ばれる側の作家と、選ぶ既存作家の自由闊達な表現の結果生み出される新しい表現の選出だと。

  • 日本文学の主流についておおよその印象を持つことが出来る。芥川賞がどのような歩みを経てきたかについて物心ついて以降の印象しかない。昔といえば、村上、石原の作品のセンセーショナルさくらいで、なんにんかの文豪が獲り損ねてるとか。そういう程度で。そういったことも踏まえつつ、評価軸の変化や文学観の変化、選考の感じをざっとなぞらえている。遠い昔にも面白そうな小説を書いている人がいて知られてないだけなのかと思うと新人に一体どれだけの余白があるのかと思うけれど川端康成や石原慎太郎が期待したものが現れるといいなと読んでいて思った。

  • 「文学賞めった斬り!」シリーズへの文藝春秋からの回答?!

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著者プロフィール

1959年、名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。83年、読売新聞社に入社。91年から文化部記者として文芸を主に担当する。書評面デスクを経て、2013年から文化部編集委員。主な著書に、『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』(文春新書、2015年)、『三つの空白 太宰治の誕生』(白水社、2018年)がある。

「2021年 『芥川賞候補傑作選 平成編② 1995-2002』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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