山県有朋 愚直な権力者の生涯 (文春新書 684)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (485ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166606849

作品紹介・あらすじ

陸軍と官僚を支配下において山県閥をつくり、デモクラシーに反対し、みんなに憎まれて世を去った元老・山県有朋は、日本の近代史にとって本当に害悪だったのか?不人気なのに権力を保ち続けた、その秘訣とは?首相、元帥、元老にして「一介の武弁」。

感想・レビュー・書評

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  • 大学教授の伊藤之雄さんによる明治以降の元老の山県有朋についての本。

    山県有朋の政策や人物の是非はともかく、そしてこの本の主旨とは異なるかもしれないが、歴史認識というものの曖昧さと怖さを感じた。

    山県有朋は、小説やドラマなどでは、ことごとくダメなイヤな人物として描かれている。もっとわかりやすく言えば、司馬遼太郎と大河ドラマがボロクソに描いている。
    歴史書などでも、政策的にも陸軍を本部主導の官僚制で統制したことで第二次世界大戦を間接的に招いたと指摘されることもある。
    だが、この本を読むと、史書や書簡の解説などにより、それらの描写や指摘には疑問点があることがわかる。それもかなり反証的に。

    山県有朋の是非はともかく、歴史認識が騒がれる昨今、歴史認識というものはかなり思い込みでできており、曖昧なものだと自省したな。良書だな。

  • ふむ

  •  近代日本における陸軍の創始者というべき人物であり、近代日本を語るうえで欠かせないのが山県有朋である。しかし、その功績、知名度とは裏腹に、あまり肯定的に評価されない。実際、当時、大衆から人気であった大隈重信の葬儀とは対照的に、山県有朋の葬儀に参加したのは政界、財界など政府関係者くらいであった。そのような評価を下される山県有朋を、著者は膨大な資料をもとに、従来の評価を覆そうと試みたのが本書である。
     先ほど述べたように、山県有朋は大日本帝国陸軍の創設に関わる重要人物である。そのため、明治政府のなかでも地位の高い立ち位置におり、官僚を中心とした山県閥といわれる絶大な影響力を持っていた。しかし、山県は、今でこそ当たり前である政党政治に対し懐疑的な意見を持ち、それは生涯一環して捻じ曲げることはなかった。おそらく、それが原因で、あまり高く評価されなかったのであろう。
     幼少期の山県まで遡ると、若くして両親を亡くし、育ての親であった祖母も自殺したのでった。そのような環境で育ったせいか、山県の性格的に内気、周囲に中々打ち解けられる人物であった。これは人たらし、交渉力に長けた伊藤博文の性格とは対照的であった。
     伊藤博文と山県有朋はともに内閣総理大臣を務めたが、思想は真逆であった。伊藤博文は、現代の政党政治を日本に根付かせようと邁進した、いわゆるリベラル派であったが、山県有朋は思想的に保守的な立場であり、伊藤の意見とは相反した。この二人の思想は実際の政治運営の成果に注目すると興味深いことがある。
     先ほど述べたように、伊藤は昔から人懐っこい性格からか、交渉術、調整能力に秀でた人物であった。そのため、外交面での功績が多く目立つ。その一方で、山県は内政面で多大な功績を残したが、外交面での見方はあまり優れておらず、列強に対する見解は、伊藤の眼力のほうが優れていた。このように、政治家としての山県有朋の功績は、内政面において注目すべきだということがよくわかる。
     とはいえ、山県有朋は頑なに政党政治との連携を拒否したわけではなく、軍とのよい関係を築けるのであれば、素直に連携できるほどの柔軟性をのちに持つようになった。とりわけ、西園寺公望と原敬との関係は良かったことがわかった。たとえ思想が違ったとしても、その意味で、陸軍、官僚の仲介役として十分な役目を果たしたことがよくわかる。
     本書の最後に、太平洋戦争と山県有朋含む陸軍の関係について言及する。一部の意見として、山県が創設した軍部大臣現役武官制が、結果的に敗戦を導いたのではないかというものがある。たしかに、山県が陸軍を創設した張本人ではあるが、著者はその意見に反論する。むしろ、山県有朋の存在があったからこそ、陸軍が暴走せずに組織を均衡できたという。著者は山県有朋ではなく、その精神を忘れた、当時の陸軍に原因があると見る。いずれにせよ、山県有朋が近代日本の国家形成に重大な役目を果たしたことは間違いないだろう。

  • 「坂の上の雲」から明治期の歴史に興味を持った人にとっては、いや、概ねの人にとって、山縣有朋は、派閥を使って様々な策謀を弄する、謂わば悪役的なイメージを持たれているが、本書では、山縣が明治の始まりから大正期までに担った役割を、丹念に繙いている。そこから浮かび上がってくる山縣像は、まさに「愚直」に藩屏として皇室を支えようとした一武人としての姿であり、単なる悪役というには忍びない、裏方としての役割を担ってきたことが分かる。仮に自分が、不平等条約改正、憲法制定、議会開設、日清・日露の両戦役など、次々と降りかかってくる難題を捌いていく立場だったならば、果たしてどうだっただろうか、そして、山縣を悪役としてバッサリ割り切ることが出来るだろうか?私は「否」である。

  • 明治以降の近代日本の歴史物をよく読むのだが、どの作品を
    読んでも魅力を感じない人物のひとりが山県有朋。

    薩摩だろうが、長州だろうが、会津だろうが、土佐だろうが、
    幕末から明治にかけての激動の時代、それなりに魅力的な人物
    が多い。なのに山県有朋については人間的な魅力をまったく感じ
    ることが出来ずに今まで来た。

    同じ元老でも西園寺公望には非常に惹かれるのだけれどなぁ。

    同じ年に同じ歳で亡くなった大隈重信の国葬には一般市民だけ
    でも約30万人が参列したのに対し、山県有朋の国葬には彼が
    絶大な権力を振るった陸軍をはじめ、警察や内務省の関係者
    ばかりで一般市民の参列はほとんどなかったと言われる。

    どれだけ嫌われ者なんだよ。「有朋」なんて名前なのに…。

    なので、本書で私の有朋像が変わるかと思って読んでみたの
    だが、著者が言う実は優しくて生真面目との有朋像がいまひとつ
    ピンと来なかった。

    奇兵隊時代は高杉晋作のおまけみたいな存在だし、征韓論の際に
    は西郷隆盛にもいい顔をしたい、長州の実力者・木戸孝允には
    背きたくないでだんまりを決め込むし、後の西南戦争では西郷軍
    の力を見くびって苦戦するし、近代日本初の汚職事件・山城屋事件
    では絶対に関わりがありそうだしさ。

    どうも優柔不断な小心者にしか思えないんだよね、本書を読んでも。

    ならば、何故、彼が権力の中枢にいられたのかと考えると、維新の
    英湯たちが暗殺されたり病没したりして、次々に世を去ったから
    というのが大きいのではないかと感じた。

    藩閥政治に固執して政党政治を目の敵にするし、言論統制もこの人
    だしな。

    公式令を、軍令を持って無効化しているところは。やはり後々の昭和
    陸軍の暴走の遠因だと思うの。

    これまでと違った山県有朋像を描こうとした著者の意図は分からんでも
    ない。しかし、やっぱり私は好きになれなかったわ。どうにも「陰湿」
    との言葉が思い浮かんでしまうのだもの。

    山県有朋が亡くなった時、石橋湛山は「死もまた、社会奉仕」と書いた。
    これが私には強烈な印象になっているんだろうな。

  • 2009年刊行。著者は京都大学教授。陸軍の父ともいうべき山県有朋の評伝。著者としては、藩閥政治家、官僚政治家、陸軍長州閥といった民衆を顧みない政治家のイメージを打破したかったのかもしれないが、誇張が過ぎるのでは、解釈に無理があるのでは、との気も。まして、愚直とはとても思えない。他の山県評伝や他の維新期以降の書とクロスリファレンスの上からみて、伊藤との対抗関係から権謀術数を駆使した人物との印象は変わらないなぁ。もっとも、叙述は丁寧で、維新前も十分に検討しているので、著者の叙述姿勢は悪くはない。

  • 決定版・山県有朋伝ともいうべき著作。

    幕末から大正末期まで生きた、「愚直」な(自分の利害や人気を勘定に入れず、やるべきだと考えることを全力でやる)権力者の生涯が描かれる。

  • 新書文庫

  • 山県有朋の生涯についてまとめた本。彼は政党嫌いで有名だったが、それは彼が軍人であること以上に、二度に渡る外遊時代にフランスの過激的民主主義の流れ(ブーランジェ事件)などに居合わせてしまい、民主主義は国益に合わないという観念を強くしてしまったためと感じた。また、対外政策については強硬派でもなく、むしろ大陸進出や欧米列強との戦闘には消極的であった。政党政治が進む中、彼は旧来の藩閥官僚や学士官僚のうち政党官僚の道に進まなかったものたちからの求心力を集めていく。それが、内務省や陸軍省での山県系官僚を形作っていったのだろう。山県が元老として力をもった背景には、幕末を生き抜いたもののうち、維新三傑は早期に没し、その後あとを継いだ伊藤が朝鮮半島で暗殺されて以降、明治天皇が頼るものがいなかったためだ。その他の元老、井上馨、大山巌、松方正義のうち、大山以外は軍人ではなく、大山も山県を支持していたため、彼以外に明治時代に陸海軍を束ねられる人がいなかったのも大きなポイント。彼の死の直前に開かれたバーデンバーデンの密約で、山県系の排除が画策された背景には、大陸政策に消極的な山県、人事権を掌握している(藩閥思考と思われた)山県、さらには権力の権化と目された山県に対する否定的な見解が出たのだろう。

  • 山県有朋の生涯を、
    彼の行動や内面の挫折と成長を細かく描きつつつづる。

    同時期の他人の伝記や評伝、また日中太平洋戦争の
    顛末などを結果から捉えるとどうしても評価されづらく
    むしろ悪者とされがちな山県ではあったが、
    彼の理念や性格を通し、行動が理解できるようになった。
    総理としての政権運営や元老としての信念。
    また軍人としての奔走や、同時代人との交流など
    見どころは多い。

    当時としても非常に長生きをした山県ではあったが
    歴史の常として権力者はいつか老い衰え、
    思考が硬直化して歴史についてゆけなくなる。
    世間に理解されず世を去る姿はさびしく感じた。

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著者プロフィール

1952年 福井県に生まれる
1981年 京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学
    名古屋大学文学部助教授、京都大学大学院法学研究科教授などを経て
現 在 京都大学名誉教授、博士(文学)

著 書
『大正デモクラシーと政党政治』(山川出版社、1987年)
『立憲国家の確立と伊藤博文』(吉川弘文館、1999年)
『政党政治と天皇』(講談社、2002年、講談社学術文庫、2010年)
『昭和天皇と立憲君主制の崩壊』(名古屋大学出版会、2005年)
『明治天皇』(ミネルヴァ書房、2006年)
『山県有朋』(文春新書、2009年)
『伊藤博文』(講談社、2009年、講談社学術文庫、2015年)
『昭和天皇伝』(文藝春秋、2011年、文春文庫、2014年、司馬遼太郎賞)
『原敬』上・下巻(講談社、2014年)
『元老』(中公新書、2016年)
『「大京都」の誕生』(ミネルヴァ書房、2018年)
『大隈重信』上・下巻(中公新書、2019年)
『最も期待された皇族東久邇宮』(千倉書房、2021年)
『東久邇宮の太平洋戦争と戦後』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2023年 『維新の政治と明治天皇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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