魔女の原罪

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163916880

作品紹介・あらすじ

法律が絶対視される学校生活、魔女の影に怯える大人、血を抜き取られた少女の変死体。
一連の事件の真相と共に、街に隠された秘密が浮かび上がる。

僕(宏哉)と杏梨は、週に3回クリニックで人工透析治療を受けなければならない。そうしないと生命を維持できないからだ。ベッドを並べて透析を受ける時間は暇で、ぼくらは学校の噂話をして時間を潰す。

僕らの通う鏡沢高校には校則がない。ただし、入学式のときに生徒手帳とともに分厚い六法を受け取る。校内のいたるところには監視カメラが設置されてもいる。
髪色も服装も自由だし、タピオカミルクティーを持ち込んだって誰にも何も言われない。すべてが個人の自由だけれども、〝法律〟だけは犯してはいけないのだ。

一見奇妙に見えるかもしれないが、僕らにとってはいたって普通のことだ。しかし、ある変死事件をきっかけに、鏡沢高校、そして僕らが住む街の秘密が暴かれていく――。

『法廷遊戯』が映画化され注目を集める現役弁護士作家の特殊設定リーガルミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 異端の街、鏡沢町に住む高齢者はカツテと呼ばれていました。その反対は他の町からの多数の入居者たちです。
    鏡沢高校は中高一貫校でクラスは各学年に二クラスづつ。

    高校二年生17歳の和泉宏哉(こうや)はクリニックを開業している父の和泉淳と手伝っている母の静香の息子で、人工透析患者で、週に三回、人工透析を自宅クリニックで受けています。
    宏哉が透析を受けるときはいつも隣りに同級生の水瀬杏梨(あいり)も一緒に透析を受けていました。

    杏梨は、オカルト系の本が好きでよく読みながら透析を受け「魔女狩り」について話したりする少女でした。
    宏哉の担任教師の佐瀬は年齢は宏哉の父くらいですが、3年前に鏡沢町にやってきて教師になりました。教師になる前は弁護士だったという経歴の持ち主です。

    そして、杏梨がしばらく透析に来なくなり、宏哉は心配をしますが、土砂降りの雨の日、土砂の中から杏梨の遺体が発見されます。

    そしてその二週間後、和泉静香が殺人容疑で逮捕されてしまいます。果たしてその真相は…?


    ここまでが第一部。
    第二部は『魔女の原罪』という少女の手記から始まり、宏哉と静香の弁護を頼まれた佐瀬の交互の語りになります。


    宏哉の出生の秘密が明らかになり、途中これはオカルトかとも思いましたが、宏哉と佐瀬が探偵役となって事件の核心に迫るミステリーです。
    最後の法廷シーンの宏哉と佐瀬の対決シーンが読まされました。

  • ★5 透析治療を受ける高校生が、自身の運命と学校と街の秘密に向合うリーガルミステリー #魔女の原罪

    ■あらすじ
    主人公の男子高校生の宏哉は、いつも同級生の杏梨と腎臓透析に通っていた。彼女は魔女と魔法使いの違いについて宏哉に問いかける。どうやら彼女には秘めたる想いがあるようだ。
    彼らの通っている高校は校則がない自由な校風だったが、ルールはすべて日本の法律に準ずるというものであった。ある日部室で窃盗事件が起きると、犯人は朝礼で発表され、全校生徒に糾弾を受けることになる。
    犯行について不審に思った主人公は、独自に事件調査と与えられた罰について考え始めるが…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    魂が抉られる…
    先生は社会問題を読者に突き付けてくる作品が多いですが、本作もかなりドギツイです。正義感や罪の意識といった追及されたくない微妙な部分を、ぐいぐいと抉ってきます。

    いつもながらの法律を基盤にして、現代の歪んだ社会の物語が展開されます。世の中にはびこる犯罪と刑罰。学校、会社、町、ネット社会… 生活するうえで必ず付きまとう人間関係の描写が、あまりに痛烈で胸に刺さる。

    違法だからダメ、適法だからすべて良い。
    確かに先人たちが頭を捻って作り上げたルールは、常識的で理にかなっているものが多いのでしょうが、考えることを放棄してしまったらどうなってしまうのか…
    極論、本書のような世界になってしまうのではと恐ろしさを禁じえませんでした。

    本作プロットの出来が素晴らしく、エンタメとしても面白いです。
    一見学園ものと思いきや、スモールタウンものでもあり、青春ものでもあり、リーガルミステリーでもある。
    謎解き要素もなかなか破天荒で驚愕の真相が待ち受けています。しかし悲しくも納得もできてしまうストーリーでした。

    そして物語の後半は、からだじゅうが痺れまくりで、もう何も言えねぇ…
    主人公の真面目で実直な心情に対して、とりまく関係者の歪んた想い。血の色のようにどこまでもどこまでも深い不幸さが染み出てきて、読み終わった後は、しばらく戻ってこれなくなってしまいました。

    ■きっと共感できる書評
    かつて業務手順を作る仕事をしていたことがあります。いかにミスを少なくし、合理的に仕事を進めるか。まずは目標を明確にし、現状を分析、各工程を整理してマニュアル化を進めていく。この業務マニュアルに沿って仕事を進めれば、その会社の業務はすべてがうまくいくはずでした。
    しかし現実は甘くありません。関係者から何度もダメ出しや改善要望を受けることになったのです。

    実はルールを定義すること自体は簡単なんです。
    なにより難しいのは、ルール通りの運用を実現化することなんですよね。

    被差別部落の問題を知っていますか? 他にも人種や性別による格差など、難しい社会問題が根強く残っています。

    これはダメ、こうあるべきというルールを決めるだけでは何も解決しない。
    さらにひとりひとりが我が事になって考え、皆でとことんまで話し合う。おそらくそれでも解決しない。

    では、解決するにはいったい何が必要なんでしょうか…?
    自分の都合を通すのではなく、まずは相手を信じる、受け入れてあげるということから始める必要があるのでしょう。

  • 五十嵐律人という作家が自分の持つ武器を極限まで研ぎ澄まして生み出した物語

    そんな気がしました

    「加害者家族」とは加害者なのか?被害者なのか?
    このテーマは日本社会の持つ特異性の上に成り立つ問いでもあるようにも思いました

    そしてタイトルの『魔女の原罪』です
    少女は問います
    魔法使いと魔女の違いとは何か?
    それは魔法使いは使う魔法によって善悪が決まる
    対して魔女とは存在そのものが悪であると

    そして魔女の子は生まれながらにして魔女なのか
    生まれながらにして罪を背負っているのか

    その答えは現実の世界にこそあるような気がしました

  • 和泉宏哉と水瀬杏梨は高校2年の同じクラスで、2人とも週3回人工透析を受けている。
    そして、通う高校は生徒の自主性が尊重される自由闊達な中高一貫校であるのだが…。
    始まりからどんな展開になるのだろうと気になり仕方ない。
    第一部・異端の街から第二部・魔女裁判と二部構成で話は進む。

    学校の自由さに少々、疑問を持ちながらも次第にこれはこの街全体がおかしいことに気づく。

    終盤で人工透析を2人が受けるという意味がわかるが、血液を利用した遣り方に何故⁇という怒りすら感じた。

    18年前の殺人犯の手記「魔女の原罪」と同じような事件が起こると周辺は騒つき…
    この繋がりに気がついたとき、和泉宏哉自身の気持ちを思うと言葉も出ない。

    言いようもない結末に心が暗くなる。

  • 五十嵐律人さんローリング6冊目(現時点で出版されているものの中ではおそらく最新作)

    こちらは、原罪論、加害者家族の立場、真実義務vs誠実義務 等がテーマとなった作品。

    犯罪の遺伝を阻止する為に血液を交換するという発想…。普通ではなかなか考えられないことだと思うが、閉鎖環境とその街での慣習や儀式、原罪に対する強迫観念等により、極限状態に追い込まれることで、それが最善だと思い込んでしまうのは、ある意味宗教的な怖さを感じた。

    また、作品中盤で、弁護士の葛藤(誠実義務と真実義務の話)が出てきたが、これは本当に難しい命題だと思う。被害者の立場からすれば真実を追求してほしいと願うのが一般的で、かつ健全なのだろうが、五十嵐さんの作品の中で、冤罪の苦しみや、加害者と被害者両方の立場に触れたことで、今の日本は誠実義務が優先されているということに対し、不思議と安心感を覚えた。

    最後に、五十嵐さんの作品に出逢ってから、裁判の傍聴に興味を持ち、先日初めて刑事裁判と民事裁判一つずつ傍聴してきた。刑事裁判の中で、加害者家族が証言台に立つ姿を見たときに、本作で描かれる加害者家族の立場をより深く理解できた気がした。

  • 校則がなく、唯一守らなければならないのは法律だけという特殊環境下の設定と街に漂う不気味な違和感をこのような形で結びつけるとは予想外でした。ただやっぱりテーマがちょっと重かったかなと。

    主人公はとある街の高校生で、その高校には校則がなく唯一守らなければならないのは法律だけ。その法的根拠として、学校には監視カメラが多数付けられているといった環境。そんな中、窃盗を犯した後輩が吊し上げられ、それに違和感を抱いた主人公が謎を探るというストーリー。

    作者さんが弁護士ということもあり、必然的に探偵も弁護士だったり、裁判の描写があるのはやはり特徴的であると同時に、この物語のテーマもやはり弁護士として働いてる作者さんだからこそ書けるテーマだったのかなと思いました。

    最初はただの学園もの的な話かなと思っていたので、後半に連れて気味の悪い描写が増えて、そのギャップが少し嫌だったので、評価は普通です。

  •  級友同士の高校生、宏哉と杏梨が透析をする場面から、物語がスタートし、何が始まるのだろう?と惹き込まれる。そして、杏梨が遺体となって見つかり、宏哉の母がその件に関わっているとされ、逮捕される。正義感の強い宏哉、医師でクリニックを経営する父、そこで臨床工学技士として務める母、温かく絆が強い家庭として描かれていた。そこには、母が罪を犯す要素が全く感じられなかったので、この展開がどうなるのか、どんな背景が隠されているのか、益々惹き込まれていった。
     しかしながら、自分には結末が物足りなく感じたので、残念だった。新感覚で、興味を惹きつける展開までは良かった。

  • 学校の中だけの話かと思ったら
    町全体に話が広がっていき、だんだんと面白くなっていきました
    謎がわかると話に入り込みやすくなった

  • 五十嵐律人さんの「法廷遊戯」にハマったので図書館でこちらの作品を貸し出しました。
    今年4月に出た長編。
    10月といえばハロウィンなのでタイトルからしてこの時期に読むのにぴったりと思った(笑)

    舞台は鏡沢町--読んでいくとちょっと特殊な町と感じる。
    中世にあった魔女狩りや魔女裁判のことに触れながら、物語の中でいま起きている事件がうまい具合に絡んでる。
    血が苦手な人は気分が悪くなるかもです。
    第1部と第2部で構成されていて、個人的には第2部からペースが早くて展開もいくつかあっておもしろかった。
    法律と医学の勉強になりました。

  • 情熱に溢れた一作品。
    テーマは個人とはなにか、かな。
    日本では、犯罪加害者の家族までも罪を着せられる風潮にある。アメリカなどでは、加害者の家族は、被害者と同様に、憐れみや同情をもたれることが多い。それをこの物語で知った。

    途中から変調するストーリー。
    『法廷遊戯』もそうだったが、法律の穴、法と人とを考察させる。

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著者プロフィール

1990年岩手県生まれ。東北大学法学部卒業、同大学法科大学院修了。弁護士(ベリーベスト法律事務所、第一東京弁護士会)。本書で第62回メフィスト賞を受賞し、デビュー。他の著書に、『不可逆少年』『原因において自由な物語』『六法推理』『幻告』がある。

「2023年 『法廷遊戯』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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