- Amazon.co.jp ・本 (493ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163915265
作品紹介・あらすじ
アメリカが抱える巨悪を暴き、♯MeToo運動に火をつけた歴史的な一冊。
著者ローナン・ファローは本報道にて弱冠30歳でピューリッツァー賞受賞!
「爆発的で強力なジャーナリズム」(ピューリッツァー賞評)
「歴史に残る1冊になることだろう」(エッセイスト・洋書レビュアー 渡辺由佳里氏)
ハリウッドの大御所プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性虐待疑惑を調査するよう上司から命じられた、テレビ局20代記者のローナン・ファロー。女優たちの勇気ある証言を得られたことで、取材にのめり込んでゆく。が、やがて身の周りにおかしなことが起こり始める。調査の先に浮かび上がってきたのは、メディア界・政界・司法界による”悪の三位一体”だった。暗躍するスパイたち、大統領をも巻き込む国家的スキャンダルへ。
事実は小説よりも奇なりを地で行くようなサスペンス・ドキュメンタリー。
タイム誌、ワシントンポスト、フォーチュン誌、シカゴトリビューン紙
NPR(全米ラジオ)ほか「今年のベスト本」選出。
21世紀を代表する全米ベストセラーが遂に日本上陸!
感想・レビュー・書評
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圧倒的な権力の元で男性から女性に与えられる性暴力を告発し、世界的なムーブメントとなった”Me Too運動”、その発端はハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力を告発する女性たちであった。その告発は、大手メディアNBCの記者であった著者が発表した記事から始まっており、著者はその功績により2018年のピューリッツァー賞を受賞している。
本書はその一連の経緯をまとめたノンフィクションであるが、ドラマを思わせるような妨害工作の中でいかに著者が1本の記事を出し、世界を変えることになるかという様子が凄まじい。相手はハリウッドの大物プロデューサーであり、これまでも被害にあった女性たちの告発が起きないようにカネや弁護士たちを使った圧力などで自身の悪行を闇に葬ってきた人物である。当然、著者がその闇を暴こうと取材を続けているのもいつしか耳に入り、スパイの送り込みや勤務先のNBCの上層部を利用してプレッシャーなど、ありとあらゆる妨害工作が行われる(実際、そのために著者が発表した最初の記事はNBCではなく、独立系雑誌のニューヨーカーに投稿された)。
しかし、本書は決してハーヴェイ・ワインスタインのような加害者だけを追求するものではない。むしろ、その共犯者として被害者たちの声を無視してきたメディア自体に対する告発こそ、本書の白眉と言える。タイトルの"Catch and Kill"とは、一部の悪質な御用メディアが繰り広げた悪行を指すワーディングである。わざわざこの言葉をタイトルに選んだのも、加害者⇔メディアの共犯関係によって、このような性暴力が続いてきたという点への告発に他ならない。
2022年に読んだ、これから読むであろうノンフィクションの中でも超弩級に面白いこと間違いなしの一冊。 -
2017年10月、ニューヨーク・タイムズ誌とザ・ニューヨーカー誌で相次いでハリウッド映画界の大物プロデューサ、ハーヴェイ・ワインスタインのレイプを含む性的嫌がらせ行為の告発記事が公にされた。本書は、ザ・ニューヨーカー誌の方に記事を発表したローナン・ファローによることの経緯を描いたものになる。
著者のローナン・ファローは、映画監督のウディ・アレンと女優ミア・ファローの実子である(フランク・シナトラが本当の父親だという噂もある ~ 養子との性的関係など複雑な家庭でもある)。いわゆる二世なのだが、おそらくは本人は親の七光りをよしと思っておらず、イェール大学ロースクールを出て弁護士資格を取得、オックスフォード大学で博士号を取得して、米国務省でアフガン関連の職務に就いた後、テレビ調査報道の世界で活躍。MSNBCで自らの名前が入る冠番組のアンカーになった。本書のワインスタイン問題は、その調査報道のネタのひとつとして上がってきたものである。
副題には”Lies, Spies, and a Conspiracy to Protect Predators” ー 嘘とスパイ行為と捕食者を守るための陰謀 ― とある。この本に書かれていることは、ワインスタインの所業を暴いて、#MeToo運動のきっかけとなったというような単純な物語ではない。副題にある通り、ここに書かれていることは、権力者が自らの利権や享楽のために不都合なことが避けられたり隠されたりすることが日常的にかつ比較的組織的に広く行われていたということなのだ。それはある意味ではあきれるほど大っぴらでもあった。ローナン・ファローは、NBCでの調査報道のテーマのひとつとして過去の被害者へのインタビューや関係者への裏取りを進めていったのだが、それがワインスタイン側の知るところになると、ワインスタインはNBCやさらにその親会社のコムキャストの重役たちにプレッシャーをかけてきた。また、ブラックキューブというイスラエルの企業に多額の費用を払って妨害工作を依頼してまで、世に出ることを阻止しようとした。
NBCの重役たちがワインスタインに脅されたとき、彼らの中にも多かれ少なかれ同じようなスキャンダルを抱えているものもいた。そういう人たちは、確かにワインスタインは破廉恥だし、恥知らずだが、ハリウッドではよくある話だとし、そもそもワインスタインのことを多くのことは知らないし、ニュースバリューとしても大きくない、などという言い訳をおそらくは自らに対しても作って、できればなかったことにしようと先延ばしにかけた。他の雑誌媒体に持ち込むことは問題ないという言質を取った上で(そのことはワインスタインにも止められていなかったのだろう)、ザ・ニューヨーカー誌に持ち込めたのは、ファローにとって幸運だったのかもしれない。また、その直前にニューヨーク・タイムズ誌がワインスタインの行為を告発した記事を出したことと、さらにその内容よりもファローが持っている内容(性的嫌がらせだけでなくレイプ行為の事実やワインスタイン自身の声の録音など)が上回った内容であることが大いに後押しになった(先行報道されたことは悔しかったであろうが)。
ザ・ニューヨーク誌から報道が出た後、他のテレビ局から遅れながらも後追い報道を開始したNBCが、あろうことかファローに番組での解説を頼んだ。これを受けて、まだNBCでのキャリアをあきらめていなかったファローはNBCでの取材時にはまだ完成されていなかったというストーリーを守ろうとして放送に臨んだが、結局そうすることができなかった。ワインスタインの脅しに屈したことも含めて、NBCのこうした行動は、おそらくは報道機関としての矜持の欠如にあったのではなかったか。その一方で、ニューヨークタイムズ誌やニューヨーカー誌という雑誌媒体(といっても最近はこれらの記事も含めてWeb記事だが)が報道機関としての矜持を持っていたということなのだろう。
社内の圧力、ワインスタインからの妨害、他誌に抜かれるかもしれないという焦り、などが手に取るようにわかるストーリーはスリリングで惹き付ける。ファローが自らのキャリアのことを意識しつつ、最後はリスクを冒して協力を申し出てくれた被害者たちとの約束を守らなくてはならないという強い思いを心の底から抱えて苦悩したことも感じることができた。
タイトルの『キャッチ・アンド・キル』は、有名人や政治家のスクープ情報の報道含む独占的権利を買い取って、握りつぶしてしまう手法を言う。本書の中でもナショナル・エンクワイヤ誌やアメリカンメディア(AMI)がこの手法を多用していたと告発している。おそらくはこれまでにも同じように多くのことが報道されずに握りつぶされてきたことだろう。#MeToo運動に代表されるエンタメ業界を始めとする性差別の告発の書であるというよりも(もちろんその側面もあるが)、より深刻で重いメディア業界の権力構造の闇に迫る本だった。
なお、先行して報道したニューヨークタイムズの記者による本『その名を暴け』も同時期に出版されている。こちらもお薦めだが、面白さや深さの観点でこちらの本の方がよりお薦め。両方合わせて読むと比べて読むとニューヨーク・タイムズ誌の健全さとNBCの不透明さが感じられて、さらによいかと思う。
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『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』(ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4102401814 -
ハリウッド大御所プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性的虐待疑惑を追求した記者がその全容を記した作品。多くの人が彼の悪行を知りこれまでにも調査した人はいたが、金と権力で、メディア、政界、司法も加担しスパイ活動、囮調査などで葬り去ることができていた。著者が脅しや妨害に屈せず事件を明るみにしたことで、世界中に#MeToo運動が広がった。フィクションでも書けないような驚きの内容だった。被害者は自分にも落ち度があると感じ自分を責めるような思考になる、加害者はそこにつけ込む、また相手の弱点を見つけるよう画策し、なければ偽情報を拡散させるなど、手口は巧妙で卑劣だ。この事件後、その余波はメディア大手、政治家などに波及し同じ手口で女性の口を塞いでいたことも明るみになった。残念だがこれがアメリカ社会なんだろう。でもこれと似たようなことは身の回りで十分に起こりうるだろうと思う。知っておいて損はない参考になる作品だった。
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この本を読む事に正直全然乗り気じゃなかったけど、悪意に対してどういう行動と過程を取れば戦えるのかという事について何がしかヒントが得られるかもと期待して読んだ。結論から言うと前提条件が違いすぎてそういう視点ではあまり参考にはならなかった。
あまりにも内容が強烈(話がショッキングと言うよりはシンプルに展開がすげーのと情報量が多すぎ)で一度読み始めてしまうと終わるまで止められない。
この本に関して読むべき!!とも言えないし読まなくていい!!とも言えない。本くらい自分で判断して読め!
色々考えるけど、以下個人的に読んでて改めて思った事 頭がまとまらないので箇条書き
・この世は誰も信用できない前提で如何に信用できる人を見極めるか(または見極めようとするか)
・誰をどういう基準で信頼するのか 裏切られた時にどうリカバリをはかるのか
・裏切られるリスクを前提にしても誰かを信頼して協力しなきゃ1人ではどんな偉人でも戦えないという事
・それを踏まえた上で結局は自分がどう行動するか どこまで自分の信念を貫けるか
・これは自分に関係ない世界で起きた闇の暴露じゃなくて身近にある話の延長線でしかない
・たまたま派手な名前と世界が舞台なだけ
金額とか規模はでけえけどまあこういう事はあるでしょうね。て話だからこんなひどい事があるなんて…!てなる人は運がいいか鈍いだけなんじゃないすかね。
作者が割と淡々としてるからそこは読みやすかった。テレビ出身だからか構成がちょっとドラマっぽい。
あんま関係ないけどアンソニーボーディンの名前が(いい形だったけど)出てきてちょっと辛かった。 -
#me tooのきっかけになったといわれる本。さまざまな角度から見て、学びになるポイントがいくつもあった。
まず、ずっと続いてきた悪事を暴きたいというジャーナリストの視点。妨害というのはこのような形で起こるのか。また、それを打ち砕くのに、慎重に慎重に合法的な方法を探っていく著者の姿勢。
そして、性犯罪(だけではないかもだけど)を告発するときのデリケートなあり方。被害者ほんにんがどこまで開示するのか、一つひとつ確認しながら進んでいく。そうだよね。
ときどき挟まれる謎のメールの話が、驚くべき事実につながっていくのは、本当に衝撃。
また、世界的なセレブカップルの2世で、美しいだけでなく頭脳的にも天才といわれるローナン・ファロー。彼もまた組織の中で働けば、企画が通らないことに苦悩し、予算の獲得に頭を悩ませる。そんなところも楽しんでしまった。 -
一気に読んだ。日本でもハーヴェイ・ワインスタインのニュースは報道されていたし、そこのに続く#MeTooも日本国内にも広がりを見せた。そのワインスタイン事件が世に出るまでの戦いの詳細が記されている。ワインスタインはもちろんの事こと腐れ切っているNBC上層部の動きには読んでいてはらわた煮えくりかえる。ここまで何度とない阻害に立ち向かったローナン・ファロー、ニューヨーカー、ニューヨークタイムズの記者が素晴らしい。ニューヨーカー、ニューヨークタイムズという老舗報道機関が汚染されていなかった事に安堵する。ローナン・ファローがここまで屈する事なく戦えたのは、父ウディ・アレンと姉の問題に対する彼の立ち位置も影響しているのかもしれない。
日本の報道機関はどうだろうか? -
全ての女性に読んで欲しいと思う。卑劣な罠と暴力を許してはならない。
身の危険に怯えながら告発した女性たち、自身のキャリアを危険に晒しながら報道した、ジャーナリスト達の姿に胸を打たれる。
性暴力、正義と保身等難しいテーマについて考えさせられる本だが、アメリカのエンターメント業界についての興味もそそられるし、敵が迫ってくるスリルもあり、とても面白い。 -
権力者の男性による女性搾取の実像を書したドキュメンタリー本です。本来は、そのような暴力を暴く役割のはずの報道機関もそれを黙認していた事実も明らかにしています。
自由の国といわれ、日本に比べればはるかに女性の社会的地位が高いと言われるアメリカでも、このようなことが行われていることは残念です。
日本の映画界においても同様なことが行われていたことが、最近、明らかにされています。
このような状況が、この本の作者のようなまっとうなジャーナリスト、われわれ第三者の目や発言で、すこしでも改善されていくことを望みます。
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https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/307001
<書評>キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー 著:東京新聞 ...
<書評>キャッチ・アンド・キル ローナン・ファロー 著:東京新聞 TOKYO Web
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