メルケル 世界一の宰相

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  • Amazon.co.jp ・本 (468ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163914732

作品紹介・あらすじ

今秋引退。世界一の権力を持った女性宰相メルケルの決定的評伝!

東独出身の地味な理系少女が、なぜ権力の頂点に立てたのか?
――その強さの源泉は「倫理」と「科学」にあった。

牧師の娘として、陰鬱な警察国家・東独で育つ。天才少女としてその名を轟かせ、ライプツィヒ大学の物理学科に進学。卒業後は東独トップの科学アカデミーに科学者として勤務する。だがベルリンの壁崩壊に衝撃を受け、35歳で政界へ転身する。

男性中心のドイツ政界では完全なアウトサイダーながら頭角を現す。その過程では、東独出身の野暮ったさを揶揄されたり、さまざまな屈辱的な仕打ちも受けた。40歳で環境大臣に就任すると気候変動に取り組み成果をあげる。50歳で初の女性首相へとのぼりつめる。

首相としてドイツをEU盟主へ導き、民主主義を守り、ユーロ危機も乗り越えた。トランプ、プーチン、習近平ら癖のある各国首脳とも渡り合う。人道的理由から大量の難民を受け入れた。一方で、極右やポピュリズムの台頭にも悩まされた。元科学者ならではの知見を生かし、コロナとの戦いに打ち勝った。

演説では美辞麗句を好まず、事実のみを述べるスタイル。聴衆を熱狂させるオバマのような能力はないと自覚している。SNSは使わない。私生活も決して明かさない。首相になっても普通のアパートに住み、スーパーで買い物をする庶民的な姿が目撃されている。得意料理はジャガイモのスープ。熱烈なサッカーファン。夫の渾名は”オペラ座の怪人”。彼女がロールモデルと仰ぐ意外な人物の名前も、本書で明かされる。


プロローグ 牧師の娘に生まれて
第1章 秘密警察の共産主義国・東独で育つ
第2章 物理学科の優秀過ぎる女子大生
第3章 東独トップの科学アカデミーへ――袋小路の人生
第4章 ベルリンの壁崩壊――35歳で政治家へ転身
第5章 コール首相の“お嬢さん”と呼ばれて
第6章 初の女性首相へ登りつめる
第7章 ブッシュ大統領と親交を結ぶ
第8章 プーチン、習近平――独裁者と付き合う方法
第9章 ベールに包まれた私生活
第10章 オバマ――条件付きのパートナー
第11章 緊縮の女王――ユーロ危機と経済大国ドイツの責務
第12章 民主主義の守護女神――ウクライナを巡る攻防
第13章 難民少女へ見せた涙
第14章 2016年、最悪の年――英国のEU離脱
第15章 トランプ登場――メルケルは“猛獣使い”になれるか
第16章 ドイツにもついにポピュリズムの波が
第17章 ラスト・ダンスはマクロンと
第18章 コロナとの死闘
エピローグ 世界最大の権力を持つ女性、その素顔と遺産とは

感想・レビュー・書評

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  • 読みごたえのある一冊でした。
    2021年首相退任までの様子が書かれているので、現在の世界(EU)情勢がよく分かった。

    イギリスのEU離脱に見られるように、決して一枚岩ではないEUの中で重要なポジションにいるのがドイツの首相。
    メルケルさんは、35歳まで東ドイツで暮らした女性の物理学博士という西側諸国の政治家としては稀有な存在です。
    謙虚で質素、正確で根拠(エビデンス)に基づいた意思決定を信条とする。
    どんな時でも、どんな相手でも、地道に辛抱強く合意点を見つけ出し問題解決に取り組んできた。

    「日本の女性政治家」といえば、市川房枝さん、土井たか子さん、「日本のお母さん」といえば、京塚昌子さんが思い浮かびます。
    メルケルさんは政治家なのですが、「ドイツの肝っ玉かあさん」というイメージもどこかに感じます。
    これほど存在感と信頼感があり、親近感すら感じる政治家は他にはいません。

    メルケルさんは、戦争に敗れロシアに支配された東ドイツという国で人生の半分を過ごしている。
    ベルリンの壁が崩壊の時、そこに35歳のメルケルさんもいた。
    壊された壁の向こうは、自由度も経済力も科学技術力も別世界だった。
    東ドイツはどうなるのだろうと心配になったが、東西統一だと聞いてびっくりした。
    ベルリンの壁が崩壊の時、東ドイツに派遣されていたKGBの諜報活動局のプーチンもいて、(おそらく)苦々しい思いを抱いていた。

    今またロシアがウクライナ侵攻を再開しているが、2014年のロシアのウクライナ侵攻に対して粘り強く交渉し停戦に尽力したのがメルケルさんです。
    メルケルさんはロシア語が話せる。プーチンはドイツ語が話せる。両者は通訳なしに会話ができる。
    メルケルさんは長い間ロシアの監視社会の中で生きてきたので、ロシアの思想も理解しておりプーチンと最善の対応ができる人物として頼られもしたのだ。

    ロシアのエネルギー、中国の市場、アメリカとは安全保障と、この3国と特に密接な関係にあるのがドイツという国だ。
    アメリカとは、ブッシュ、オバマ時代は友好関係を築いてきたが、2017年にトランプが出現しアメリカが信頼できるパートナーではなくなった。
    ドイツにとって最重要3国のトップが、プーチン、習近平、トランプになってしまったのだ。

    実は2016年メルケルは首相の座を降りようとしていたが、世界各地での権威主義の台頭がそれを許さなかった。
    ISテロ対策と難民受け入れがあり、イギリスのEU離脱が決まり、トランプが西側の秩序を壊しまくる。
    プーチンは西側諸国の分断を大いに喜ぶ。習近平は様子を見て弱いところをじわじわ攻めてくる。
    このままではプーチン、トランプ、習近平に好き勝手にやられる。世界の秩序を守るためにリーダーの役目を続けるしかない。

    メルケルさんは、4期目は特に環境問題対策とデジタル技術の向上に注力するつもりだった。
    AIと量子コンピュータの勉強もしていた。中国の技術力に脅威を感じていたのだ。
    しかし未知のウイルスのパンデミックにより、コロナ危機管理マネージャーに急遽変身せざるを得なくなる。

    コロナ対応に関しては、ドイツ人はメルケルの発する言葉を信じた。
    メルケルに嘘をつかれたことは一度もなかったからだ。
    15年間信頼を積み重ねてきた首相が、自分の言葉で自分の本心で語っているのが伝わって来たのだ。
    日本やアメリカのように、公式な情報が信じられないのとは違っていた。

    「国家レベルの危機にあっては、首相はそこにいる必要があって、責任者として指揮する姿を人々に見せなくてはならない。」
    という当たり前のことをきちんと実践し、頻繁に国民に訴えかけた。

    2005年首相になった当時は、東ヨーロッパやロシアとの友好関係維持やドイツ国内の問題改善に注力していたようだが、
    2010ギリシャ財政危機からは、ドイツの首相というよりもヨーロッパの代表のようになる。
    「自国のことだけを考えていればいいわけではないのです。我々はみな、この世界の一員なのです。」と言わざるを得ない世の中になってしまった。

    メルケルさんの考え方や演説での発言内容は、当たり前のことのように思えるのだが、それが絶賛されるような社会は危険な兆候なのだともいえそうだ。

    4期目の任期の終盤にきて、「レガシーは何か。」という質問には、そんなことを考えているヒマはないと答えていた。
    自分を振り返る(=おおむね自分への言い分けで終わる)ことがじれったく我慢ならなかったようだ。

    メルケルさんは、サッカーが大好きらしい。
    世界中が平和の中で、純粋にワールドカップサッカーが楽しめる日が来て欲しいものだ。

  • 「メルケル  世界一の宰相」。

    「私にはいくつか問題があります。女であること、カリスマ性がないこと、コミュニケーションが下手なこと」(P95)。

    まぎれもなくこれは名著である。
    我が娘が将来仕事をするようになり、社会に貢献したいと願いながらなおその社会の理不尽さに翻弄されるようなときがきたらこの本を贈りたい。

    同じようなバックグラウンドを持った同質な集団(西ドイツのエリート政治家集グループ、全員男性)の中に投げ込まれ、異物(東ドイツの田舎者と軽んじられる女性)として孤独を味わったときどうたち振る舞うべきか。

    あまりにも多くの利害を調整せねばならず、しかもそのそれぞれの立場から無能をなじられても冷静さを失わないにはどのような鍛錬が必要なのか。

    平気で嘘をつく、つまり交渉の前提の成り立たない相手となお平和的に合意するためにどれほどの忍耐が必要か。

    そしてもちろん、今この瞬間の国際情勢をどのような基礎知識をもとに理解すればいいか。

    「・・・首相に就任してからというもの、メルケルは定期的にプーチンと話し合いを続けてきた。

    (中略)

    話し合いの最初の三十分は、メルケルが聞き手にまわり、西側諸国によってロシアが被った被害---事実も含まれているが、大半は被害妄想---をプーチンに愚痴らせる。メルケルはそれをプーチンのためのセラピーと考えている。そんなふうにして言いたいことをすべて吐きださせてから、『いい?ウラジーミル、他の国は物事をそんなふうには見ていない。これはあなたにとって得策じゃない』と釘を刺すのだ」(p169)。

    このような同時代的エピソード満載の中でも私から見てやはり本書の白眉は、シリア難民の受入(2016 年)をめぐる一章であろう。

    「・・・危機というのはリーダーの持つ最も優れた資質を引き出すことがある。アンゲラ・メルケルにもそういうことがたびたびあった。だが、この難民危機のケースに限っては、リーダーとしては最悪ともいえる資質を二つも表面化させることになる」(P287)。それが何かは読んでもらうとして、このときの政治的な苦しみ、それを支えたキリスト者としての倫理観、そして空前の規模の難民受け入れという彼女の決断を最後に国民が受容していく過程の読みごたえは比類ない。

    健全財政に固執してユーロ危機を悪化させた、習近平に阿った親中派だと日本でも賛否あるメルケル氏だが、でもこの人の引退でいよいよ世の中はまずいことになるのでは、と感じた人も多かったはずだ。
    そして今、その予感が現実になりそうなことに皆が戦慄している。

    本書のエピローグにこうある。
    「メルケルの他にも、国のリーダーとして優れた指導者ぶりを発揮している女性は数人いる。だが、残念なことにその数はまだあまりに少なく、エゴを抑えられるという理由で女性のほうが最高権力者に向いているかどうか、まだ明確な結論を出すことはできない。ただし、アンゲラ・メルケル一人の例をもってして、一足飛びにそう結論したくなる気持ちも抑えがたい」(P441)。

    断片的なデータだけで判断せず、常に集められる限りのエビデンスをもとに意思決定する。
    そんなメルケルの特質を繰り返し強調してきた著者の、でもこれだけは言わせて的な迸りに思わず笑ってしまうのと同時に、ふと胸が熱くなるのである。

  • 分厚くて、読んでも読んでも進まないので、後半は飛ばし読み。

    メルケルさんの半生を通して、かつての東側諸国と現在進行形のプーチンの恐ろしさや、トランプの愚かさなどが見て取れる。

    東ドイツで育ったメルケルさんは31歳になる頃(1985年)まで、ナチスによるユダヤ人虐殺を知らずにいたとのこと。

    ということは、現在のロシア国民達も嘘だらけの中で生きているということなのだろう。

  • いよいよ退任。ドイツ初の女性首相アンゲラ・メルケルの名言集。 | Vogue Japan
    https://www.vogue.co.jp/change/article/chancellor-angela-merkel-10-quotes

    2007年には中国から“報復”されたが… “人権派”メルケルが“独裁者”習近平から国益を守り抜いた“秘策” | 文春オンライン
    https://bunshun.jp/articles/-/50188

    「メルケルが残したもの -16年間の足跡-」 - BS世界のドキュメンタリー - NHK
    https://www.nhk.jp/p/wdoc/ts/88Z7X45XZY/episode/te/5WYXZNZ6XK/

    『メルケル 世界一の宰相』カティ・マートン 倉田幸信 森嶋マリ | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163914732

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『メルケル 世界一の宰相』『聖子 新宿の文壇BAR「風紋」の女主人』『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』ー彼女たちがいなかったら - ...
      『メルケル 世界一の宰相』『聖子 新宿の文壇BAR「風紋」の女主人』『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』ー彼女たちがいなかったら - HONZ
      https://honz.jp/articles/-/50833
      2022/02/02
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『メルケル 世界一の宰相』(カティ・マートン著/倉田幸信・森嶋マリ訳/文藝春秋) | マガジン9
      https://maga9.jp/2204...
      『メルケル 世界一の宰相』(カティ・マートン著/倉田幸信・森嶋マリ訳/文藝春秋) | マガジン9
      https://maga9.jp/220420-5/
      2022/04/20
  • 政治家として16年ドイツの首相を務めたメルケル。それを支えた自分の資質を一つだけ挙げるとすれば何かと著者がインタビューした際に得られた答えは「忍耐力」。その言葉には、途切れぬ集中力やダメージを受けてからの回復力(レジリエンス)も含まれると著者。読み終えて、この意味がよく分かる。

    為政者を取り上げた著作には、軸とする好奇の視点に加え、好意あるいは悪意が、どちらかに偏って主張される。本著は明らかに前者だ。メルケルを批判しようにも、隙が無かったとも言えるかも知れない。東ドイツ出身の科学者で女性政治家というマイノリティ。少なからず、そうしたバックボーンは彼女の人格に影響しているだろう。知的で理性的、忍耐強く、プーチンに仕返し、堂々と主張すべきを述べ、一方で涙ぐみながら移民の少女の話を聞くほどに、常識的で優しい感性、道徳に満ちている。

    とりわけ、各国のトップとの交友秘話が本著の面白さだ。ブッシュ、オバマ、トランプ、プーチン、サルコジ、マクロン。ギリシアのアレクシス・ツィプラス。例えば、2007年、メルケルが犬を怖がると知ったロシアのプーチンは、自らのソチの豪邸に招き、愛犬のラブラドールレトリバーをけしかけた。対してメルケルは、プーチンのトラウマであるKGB時代潜伏地のドレスデンで意趣返し。メルケルとブッシュ大統領は良好な関係。当初は気候変動に関して懐疑的だったアメリカ大統領を味方につけることができた。ブッシュは気候変動が現実に起きていることを初めて公に認め、2050年までに排出量を半減させることを検討するとG8サミットで。また神経をとがらせていたプーチンを気にして、メルケルはウクライナとジョージア共和国をNATOに加えると言うブッシュの計画に反対し、メルケルの意見が通った。今の世界情勢を見るにメルケルの存在感は大きい。ただ、本著はメルケルを正義、プーチンやトランプを悪者として単純化している印象だ。

    読めば読むほど、国のトップの役割の大きさを改めて感じる。日本は大丈夫だろうか。本著の副作用として、その不安が増長してしまった。

  • とても面白かったです!
    ここに登場する主要人物や事件の多くを知っていますが
    メルケルを主人公とする景色で見ると、こんななんだ!

    1954年西独で生まれたメルケルは、牧師の父の仕事の関係で間もなく東独に移住。数年後にベルリンの壁が建設されて彼女の一家は閉じ込められてしまいます。
    ちなみに「メルケル」は最初の夫の姓だそうです。

    秘密警察国家で育った彼女は物理学を学びますが
    ベルリンの壁崩壊をきっかけに35歳で政治家に。
    51歳から昨年67歳までドイツ首相。

    クリントン、ブッシュ、オバマと交流。
    プーチン、習近平、トランプとも渡り合う。
    ラストダンスはマクロンと。
    ユーロ危機、ウクライナ問題、難民受け入れ、イギリスのEU離脱、国内で彼女に反発する極右支持者に向かい、そしてコロナ。

    西側リーダーになることを決して望んでいなくて
    その役割を押し付けられしぶしぶ引き受けていたそう。
    四期目の出馬したのは、権威主義とポピュリズムが台頭していたから。彼女が政治の舞台から降りれば、トランプ、プーチン、習近平が世界をいいようにするでしょう。

    他人も自分のように合理的だと思い込みがちで
    人の行動の背後にある非合理で感情的な要素がよく理解できない。
    倫理的に正しいというだけでなく、もっと説得力のある主張をすべきときがあるのに、彼女は決して人心掌握術を身に着けないのです。
    しかし2020年3月、そんな彼女は国民にコロナ対策のメッセージを送ります。

    〈共感と力強さが等分にこもったその口調は、ドイツ人がこれまで首相から聞いたことのないものだった〉

    〈ドイツ人はその言葉を信じた。なぜなら、これまでの15年間でメルケルに嘘をつかれたことは一度もないからだ。国民をうんざりさせたことはあったろうし、自分の決めたことについて国民が納得するまで十分に説明しなかったことは何度もある。だが、事実を粉飾することはめったになく、事実をでっちあげたことは確実にない。信頼の積み重ねが、今になって人々の命を救った〉

    その前年ハーバード大学卒業式では学生たちを熱狂させました。
    「しっかりと定着して不変に思えるものでも、変わりうるのです。私たちは一国のためではなく、地球規模で考え、行動しなければなりません。単独ではなく、協力して……何事も当然のものと決めてかかってはいけません。我々に与えられた個人の自由は、無条件に保障されているわけではないのです。民主主義や平和、繁栄も同じです。
    一時の感情に動かされず、自分が大切にする価値観をしっかりと守りなさい……ちょっと立ち止まる。平静を保つ。そして考えなさい」

  • 4月に放送されたメルケルのドキュメンタリー番組で、ドイツでは恒例の退任式での音楽演奏に、ニナ・ハーゲンの歌を選んだというのを見て俄然興味がわき伝記を読んでみた。それにテレビで若いころの姿をみたのも大きい。

    メルケル首相といえばコロナ禍の2020年12月、「あれが祖父母との最後のクリスマスだった」なんてことにはさせたくない、と拳をあげて演説する姿がとても印象に残っている。

    そんな堂々たる姿になろうとは思いもよらない、東ドイツでの中高、大学時代、ベルリンでの研究生活、そして35歳での壁崩壊、政治家への転身。実はそこらへんの結婚とか再婚あたりを知りたかったのが当初の読み始めの目的だったのだが、首相になってからの部分も、目の前で歴史が動いているような臨場感で、政治の話は難しいかと思いきや意外に読みやすく、メルケルとともに歩んだような読後感があった。・・月並みだが、凄い人、ずっしり重い職業人生。

    各国大統領との駆け引き、子ブッシュ、プーチン、習近平、オバマ、トランプ、マクロン、さらにユーロ危機でのギリシャへの対応、クリミア侵攻、シリア内戦による難民受け入れ、そしてコロナ危機への対応と、世界の変化を実感した。

    著者がハンガリー出身(1949生)で同じく旧ソ連下での衛星国としての生活を体験していることも、大きいかもしれない。膨大な関係者に会っているが、メルケル氏は私生活のことはほとんど話さないため、離婚後再婚するあたりまでのことは、同じ研究所員の中にシュタージへの通報者がいたことが後で判明し、記述の情報源はその通報者から、というなんとも皮肉な結果になっている。離婚した独身女性ということで通報すべき人にメルケルはなっており、どこに旅行にいった、どんな本を読んでいる、など報告されていた。

    みた番組は
    2022.4.18 BSプ 映像の世紀バタフライエフェクト「ベルリンの壁崩壊 宰相メルケルの誕生」(45分)

    冒頭が退任式で、それは「カラーフィルムを忘れたのね」という歌でメルケルの青春の歌なのだそうだ。ニナ・ハーゲンは過激な黒メイクのパンクロッカーとしてリアルタイムで知っていたが、実は東ドイツ出身でパンクは西に亡命して活動していたのだ、というのも番組で分かった。

    壁崩壊の時メルケルは35才。「カラーフィルムを忘れたのね」は1974年の歌で、メルケルは20歳で大学で物理を学んでいた頃だ。デートにカラーフィルムを忘れて、撮った写真は白黒になってしまった、というポップな歌。パンクのニナからは想像もつかないぽっちゃりしたかわいい姿で普通のポップソングを歌っている。でもこの白黒の世界は抑圧された東ドイツを批判しているという。

    本ではハンブルクに母方の親戚がいたため、西側のものも送られてきて、若い頃の夢は「ブルース・スプリングスティーンを聴きながら、ロッキー山脈をドライブすることだった」とあって、なにか親近感がわいた。

    あと1本は、
    2022.4.30 BS1 世界のドキュメンタリー「メルケルの残したもの16年間の軌跡」(45分2021フランス) これは研究所時代の同僚で後に映画監督になったミヒャエル・シンドヘルムが出て語ったり、政治家になってから継続して写真をとる企画の写真家などが出てきて、コンパクトにメルケルの歩みが分かった。この番組を見ていたので本が読みやすかったと思う。

    2021.11.25第1刷 図書館


    学習院大学ドイツ語圏.文化学科 退任式の曲
    https://de-gakushuin.jp/news/2021-12-05/

    ハフポスト 「祖父母との最後のクリスマスにしないで」(新型コロナ)
    https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5fd2ca07c5b68256b113c436

    この本で日本が出て来たのは3.11の震災の1行くらい。訪日歴を調べると、
    メルケル氏来日歴
    1997年(橋本龍太郎) 京都議定書採択のため環境担当大臣として訪日
    2007年8.29(安部1次) 首相として初訪日(公式実務訪問賓客)
    2008年7.7-9(安部1次) G8北海道洞爺湖サミット出席のため訪日
    2015年3.16(安部) 訪日(公式実務訪問賓客)

    2019.2.4(安部) にも訪日している。!なんとこの日東京に行っていた。国立競技場わきのオリンピックミュージアムなどを見学。近辺でドイツの旗が道沿いにありガイドさんがもうすぐ通る予定と言い車を見た記憶。

    2019.6.28(安部) G20大阪サミットで訪日

  • TVで見る節目節目の発言に好感を持っていたけど、深く知らないうちに引退されてしまったので後れ馳せながら読んだ本書。明晰な頭脳と考え抜かれた言葉遣い。自分の仕事の局面でも、彼女の姿勢に倣って取り組むと、不思議と落ち着いて考えられることに気付きました。本当に素敵な方です❗

  •  特に派手なパフォーマンスをするわけではなく、確実に、ゆっくりでも成果を上げていく人。功績や人気ではなく、結果を重視する人。
    淡々としているため、人間らしさがなさそうに見えるが、実は非常に人間らしさがある。きっと信念を貫く気持ちがあるからそう見えているのか。
     コロナというパンデミックが起きた時に、メルケルの性格が人々に安心感を与え、またその時の、人間味があるメッセージにより人の心を動かすことができた。
     個人的に魅力のある、非常に面白い人だと思った。

  • メルケルの人生と政治家としてのスタンス、実績、他国との付き合い方が分かる本。
    日本にいると、欧州のトップ同士の付き合いとか分かりにくいけど、よくそれが理解できる。
    メルケルとプーチンは元警察国家出身だから、お互い理解(ただし共感では決してない)できるし、対ロシアとの交渉は、欧州、時にはアメリカも含めメルケルが対応することが多かったよう。
    また、アメリカ大統領で1番信頼していたのがブッシュだったらしい。
    同じ女性として、ここまで頭が切れて人生を切り拓き、だけど権力に溺れず、家庭を大事にする人は素直に尊敬できる。
    勿論かなり良い方に描かれてはいるだろうけど、メルケルと統治下のドイツ政治を知る最適な入門書だと思う。
    ドイツは首相の権限がかなり狭く、しかも連立政権なので、実は内政で出来ることはあまり無く外交に力を注いでいた、最後の一年は与党党首を辞めて外交強化のつもりがコロナ対策に追われたなど、よく知らないドイツの政治もなんとなく全体像が見えてくる。

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