シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913681

作品紹介・あらすじ

コロナ禍で苦境に置かれた飲食業界。
補償なき自主休業か、お客の来ない営業か、
それとも他に道はあるのだろうか。
レストランやお店を続けることはできるのか。
料理人であり、スタッフを抱えるリーダーでもある
シェフたちの心は揺れに揺れた。

2020年春の緊急事態宣言、そして冬の感染再拡大を前に
シェフたちは何を思い、どう動いたのか。
そして「これから」のお店の舵取りは。
フランス料理のグランメゾン、
横丁の老舗にオフィス街の新店――。
刻々と変わりゆく状況下、
シェフたちへの取材をライフワークとする著者が、
願いを込めて書きとめた34人の言葉の記録。

インタビュー対象者:
「TACUBO」田窪大祐
「リ・カーリカ」堤亮輔
「シンシア」石井真介
「ロッツォシチリア」阿部努
「酒井商会」酒井英彰
「ビストロシンバ」菊地佑自
「コート・ドール」斉須政雄
「麦酒屋 るぷりん」西塚晃久
「鳥福」村山 茂
「イタリア料理 樋渡」原 耕平
「マンナ」原 優子
「焼鳥今井」今井充史
「オステリア・ナカムラ」中村直行
「ジョンティ」富田裕之
「ル・ブルギニオン」菊地美升
「オトナノイザカヤ中戸川」中戸川 弾
「オストゥ」宮根正人
「高太郎」林 高太郎
「ピッツェリア イル・タンブレッロ」大坪善久
「ラ メゾン ド 一升vin」岩倉久恵
「琉球チャイニーズ TAMA」玉代勢文廣
「クインディ」塩原弘太
「七草」前沢リカ
「パッソ ア パッソ」有馬邦明
「オード」生井祐介
「すし 㐂邑」木村康司
「荒木町 きんつぎ」佐藤正規
「眠庵」柳澤 宙
「ヴォーロ・コズィ」西口大輔
「葡呑」中湊 茂
「オルランド」小串貴昌
「レフェルヴェソンス」生江史伸
「 ワイン スタンド ワルツ」大山恭弘
「銀座・器楽亭」浅倉鼓太郎

感想・レビュー・書評

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  • 料理人たちのプライドとアナキズム。井川直子著『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』【VOGUE BOOK CLUB|ブレイディみかこ】 | Vogue Japan
    https://www.vogue.co.jp/article/vogue-book-club-chef-tachino-coronaka

    『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』井川直子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163913681

  • 2020年3月、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの宣言を受け、日本でもコロナ禍が顕著になっていった。東京で「不要不急の外出自粛」の要請がなされたのが3月25日のこと。外出をやめよう、会食をやめよう、となったときに、大きな打撃を受けたのが飲食店だった。
    さて、どうするか。
    その判断は個々の店で異なった。自主休業するのか、客が激減している中で営業するのか、テイクアウトやデリバリーなどの別の道を探るのか。
    本書は、「食」と「酒」にまつわる人をテーマとするライターである著者が、34人のシェフたちに取材した記録。緊急事態宣言が出た後、4~5月に店主たちの声を聞き歩き、20年10月に再取材してその後の様子を聞いた。
    「正解」のない未曽有の危機の中で、それぞれが出した「その時の回答」である。
    料理のジャンルや店の規模・歴史などはさまざまである。チェーン店等は含まれない。腕一本でやってきた店主が多く、個性があり、一家言ある、そんな印象である。

    20年3月の空気を変えた1つの大きな要因は、東京の自粛要請とともに、有名コメディアンの死だっただろう。それまでは危ないといいつつもどこか呑気な雰囲気だったのが、大きく変わった。
    伝わってくる海外の様子から、「いずれ日本も大変なことになる」といち早く察して警戒していた店もあれば、3月中は普段と変わらず予約でいっぱい、フル回転という店もあった。
    3月の時点では、多くの飲食店で、店員側がマスクをすることに否定的ですらあった。接客をする側がマスクなどしていたら外食の雰囲気がぶち壊しだというのだ。わずかな間に大きく変わったものである。
    7都府県に緊急事態宣言が出たのが4月7日のこと。
    そこからは休業に決めた店が多い。何せ自粛警察と呼ばれる人々まで出現していた頃だ。休業しない店には嫌がらせもあった。だが、休業を決めた店主たちにそうさせたのは、客や従業員から感染者を出したくないという思いが大きかった。
    しかし、休業に対して給付金が出ることは決まったものの、手続きは煩雑で給付までに時間もかかる。金策に駆け回った店主も多い。従業員がいれば、彼らの生活も支えなければならない。

    一方、営業を続けた店もある。東京都から飲食店に対して出ていたのは、休業要請ではなく短縮要請だった。その枠内でやる、何もやましいことはない。営業を続けるということは、店の存続もさることながら、仕入先の売り上げを確保することでもある。自分の店だけが何とかなればよいわけではない。食材を供給する生産者が倒れてしまえば、店もまた続けられなくなるのだ。

    テイクアウトやデリバリーを始めた店もある。
    しかし、その場で提供するのではなく、店の手を離れてからの時間が長いこうした形態は、また違うノウハウを要する。ひとたび食中毒を起こしてしまえば取り返しがつかない。おいそれと転換できるものではないのだ。

    店主たちは危機に奮闘する。
    もちろん、非常にストレスを受け、落ち込む人もいる。いつまで続くかもわからない。そもそも、今までのような形の飲食店が再開できるかもわからない。
    一方で、非日常や空いた時間をプラスに考える人もいる。ゆっくり本を読む時間ができた。忙しすぎる店でてんてこ舞いするのではなく、少ない客とじっくり向き合い、新たな料理に挑むチャンスと捉える人もいる。

    自らの店のことだけでなく、業界全体の向上に動き出すものもいる。
    給付金の支給は遅い。飲食店が悪のように叩かれる。
    こんなことでは外食文化は廃れる。
    若手の料理人たちを助けなければと立ち上がるシェフたちもいる。

    店主たちは基本的に経営者である。道を切り開き、店を構え、維持する。従業員に支払う給与も確保しなければならない。
    同時に、彼らは料理人でもある。人に料理を出す仕事の根本にあるのは、人においしい料理を食べてもらいたいという気持ちである。高級素材を使った味わいを追求したいのか、和気藹々とした店を作りたいのか、日常のちょっと延長線の親しみやすい味を目指すのか。どういう料理・店を提供したいのか、それは各々の生き方に直結する。

    34店すべてがこの先も生き残るのかはわからない。
    その厳しさもにじませながら、2020年の激動の半年をシェフたちの証言から振り返る、貴重な記録である。

  • 金に糸目をつけなければ美味い店はいくらでもあるのだろうが、普通の会社員が自腹を切って、たまにはいいよね、くらいの気分で妻と楽しみに行けるような店というのは実はそうはない。ぼくらがここ10年で見つけたのは数軒で、そういう店には年に数回くらいのペースで通うようになった。その頻度なのでお得意さんと認識されているとは思えないが、ぼくらからしてみれば貴重な店だ。
    コロナで外に気軽に出られなくなって、心配だったのはそういう店のことだった。こちらはしばらくお預けを食っても死にはしないが、店にとっては死活問題だ。もし店が潰れてしまって、二度とあの飯が食えなくなるとしたら寂しい。テイクアウトを始めたと聞いて買いに行ったりはしていたが、できるのはその程度で、なんとか頑張ってくれと思っていた。

    本書はそういう修羅場を、レストランのオーナーシェフの立場から見たレポートだ。コロナが一番ひどかったとき、天秤の片方に載せられたのが命と医療だったから、世間はこぞって自粛当然!という方向に傾いた。それは無理はないと思うのだが、その一方でレストランをやっている人にとってはまさにそこにある危機、死活問題だった。そのときシェフ/オーナーたちは何を考え、どうしたか。
    店を閉じたり、短縮営業をしたり。選んだ方法はさまざまだが、今更ながら「自粛」とはひどい言葉だと思った。強制ではなく自粛であり要請なんだから、営業をやめたり縮小したりするのは「店が勝手にやっていること」であって、保証をする義務はない、という理屈らしい。おまけにボランディアの自粛警察まで出てくるのだから、楽でいい。自分の身は自分で守るしかない(店だけでなく、客や店員の健康も含めて)というセリフが何度も出てくるが、それでいいのか。いったん日本では流行が落ち着きつつあるが、オミクロン株みたいな未知数のリスクもあり、これからどうなるかまだわからない。流行が再燃したら、また同じことを繰り返すのだろうか?

    労作とは思うが、不満も多い。
    本書に登場した34人のシェフ/店は、少なくとも本書執筆時点では全員が「踏みとどまっている」人たちだ。潰れた店は一軒もない。成功事例しか書いてないビジネス啓発本みたいなもので、説得力はあまりない。
    あと、ロックダウンと保証をセットでやった(とぼくは理解している)海外の状況が何も書いてない。これからも「自分の身は自分で」ということなら、何も変わらない。

  • コロナが落ち着いた今読むと、どのシェフの対策もそれぞれが正解なのではと思えます。
    読んでいて、他のシェフとタイプが違うな、と感じたのは「マンナ」の原さんと、「眠庵」の柳澤さん。
    柳澤さんに至っては前職が化粧品会社の研究員だったせいか、飲食の話より日本のクラスター対策やワクチンの話が多い感じでした。それがまた面白かった。

  • 今、このコロナ禍真っ只中を自分も生きる中で、その人気だけでなく哲学も併せ持つシェフたちが何を考え、どう行動したかの記録はとても読み応えのある、自分の行動についても考えさせられる1冊だった。

  • 読了。すごく読みがいのある本だった。新型コロナ第一波くらいの時期のシェフ達の葛藤が記録されている。経営者として、料理人として、接客業従事者として、市民としてのそれぞれ迷いと判断と想い。

    修行とか取引の関係でイタリア在住の人とやり取りがあるシェフがけっこういて、そういう人はいち早く事態の深刻さを肌で感じ取っている感じがした。

    休業の判断もあれば、いつも通りお客さんを迎える場所でありたいという判断もあり、方針の変更もあり、どれもぎりぎりだよなそうだよなという感じ。

    テイクアウトを導入したシェフは、おせちの経験が生きたという内容のことを言っていて、なるほどなあと思った。衛生管理とか法律とかあるものね。

    店員がマスクをしていると気持ちが滅入るだろうから…というのは、私にはない感覚だったので少し不思議だった。でも去年のGWくらいだと、マスクでは感染は防げないという話になっていたと思うので、これもこれで責められる話ではない。人によっては拒絶されたと感じるかもしれなかったし、当時は。

    変革の時だと考え、サステナブルな薪火に立ち戻ったシェフの話も面白かった。「料理を作る火の仕入れ元が電力会社やガス会社」という視点は私には全くないものだった。今は森林管理をしている方からミズナラの薪を調達しているのですって。森を守る手助けになるらしい。こういうのは良いですね。

    昭和7年からの焼き鳥屋さんが、第二次世界大戦やオイルショック、バブル崩壊を引き合いに出して『「またきたな」という感覚』と語っていたのはとにかく老舗の凄みを感じた。これが一番印象に残っている。しびれた。

  • 前に読んだ作品(シェフを続けるということ)がよかったことと扱われているテーマに強い関心を持ったので手に取ってみた。タイトルどおり34人のシェフ達へのインタビュー集で、飲食店に対し「要請」が出た昨年の四月時点に聞き取った内容を逐次noteで公開したものに対して昨年の十月時点でフォローインタビューを行ったものを追加し単行本にまとめたもの。逐次noteで公開したのは当時「何が正解か分からない」という声が多かったために「他所はこうやってるよ」と知らせたかった意図によるものらしい。私には縁のない高級店ばかりだったが一流の仕事人達がどのように事態を受け止め対処を検討し実行したか、に非常に興味があった。もちろん対応が一律ということはなく、即休業に踏み切った人、テイクアウトに切り替えた人、縮退ながら営業を継続した人、先をちょっと減らしたくらいでマスク含め対策を殆ど取らなかった人、と大雑把に分類できる。ほぼ全ての店が予約困難店であり連日満席、という状態からで補助金や融資をどう受けたかなども包み隠さず話す人も多くいて作者との信頼関係が窺えた。いっきに350人分のキャンセルが出た話が一番きつそうだったが他のお店も満席から一転、ポツポツとしか客が入らない状態になってしまっているのだが全員経営者として冷静に判断し対処しているところが素晴らしい。国の援助も見えない時期だけど恨言を言う人は皆無でもらえたら嬉しいけど何も援助がない前提でどうするか、という話ばかり。もちろん外向きでほんとは喚き散らしたりした人もいるのでは…とも思うけど前向きなパワーが素晴らしく不覚にも泣きそうになったほど。今年に入って更に厳しい禁酒法などにもどう対処したのか更なる続編を読んでみたい。安易に言っては申し訳ないけど読めば確実に元気になる気がする。何軒か行ってはみたいけどちょっと自分には敷居高いかな…。それにしても「自分たちが完璧に対応しても全く対策せず前日に密な状態で飲み食いしてたような客が来たらそこまでは対応できない」という理由で休業に転じた店主の言葉は重い。同じような理由で一見さんお断り状態に仕方なくしたお店を知っているが自分だけ儲けたらいい、自分だけ楽しければいい、という人が残念ながら散見される現実に改めて複雑な思いを持った。おすすめです。

  • 2020年2月まで連日満席だった。3月25日小池都知事からの「不要不急」の呼びかけから予約は全てキャンセル。何の補償もされないまま飲食店は先の見えない苦境に立たされる。休業か時短か、テイクアウトや新事業を始めるか、それとも何も変えないか。本書に登場する飲食店はジャンルは様々。立地も客層も様々で老舗であったり新規店もある。正解のない中で苦しみながらも共通していたのは、お客様にどう喜んでもらえるか。従業員の不安をどう取り除くか。そして自分の進むべき道の展望。34店のオーナーたちがとった行動から、お客が絶えない店はいかに経営者のリーダーシップにあるかを痛感した。
    自分の身の回りにもある、べらぼうに美味しいお店たち。可能ならば最低でも月に一度は足を向けたい。美味しいから、それにずっと居てほしいから。恥ずかしながら予算に限りはあるし何もできないのだけど、そういえば彼らから見える強いプロ魂も惹かれる理由のひとつだなと思い当たる。
    インタビュアーの井川直子さんだからシェフたちはここまで心を打ち明けたんだなと思えるくらい、赤裸々な心の動きをまとめた本。昨年から、出来立てホヤホヤの今だからという本が次々と出版されている。揺れ動く価値観と不安の世界で「信念」というとても大切なことが詰まった一冊だった。

    インタビュー対象者:
    「TACUBO」田窪大祐
    「リ・カーリカ」堤亮輔
    「シンシア」石井真介
    「ロッツォシチリア」阿部努
    「酒井商会」酒井英彰
    「ビストロシンバ」菊地佑自
    「コート・ドール」斉須政雄
    「麦酒屋 るぷりん」西塚晃久
    「鳥福」村山 茂
    「イタリア料理 樋渡」原 耕平
    「マンナ」原 優子
    「焼鳥今井」今井充史
    「オステリア・ナカムラ」中村直行
    「ジョンティ」富田裕之
    「ル・ブルギニオン」菊地美升
    「オトナノイザカヤ中戸川」中戸川 弾
    「オストゥ」宮根正人
    「高太郎」林 高太郎
    「ピッツェリア イル・タンブレッロ」大坪善久
    「ラ メゾン ド 一升vin」岩倉久恵
    「琉球チャイニーズ TAMA」玉代勢文廣
    「クインディ」塩原弘太
    「七草」前沢リカ
    「パッソ ア パッソ」有馬邦明
    「オード」生井祐介
    「すし 㐂邑」木村康司
    「荒木町 きんつぎ」佐藤正規
    「眠庵」柳澤 宙
    「ヴォーロ・コズィ」西口大輔
    「葡呑」中湊 茂
    「オルランド」小串貴昌
    「レフェルヴェソンス」生江史伸
    「 ワイン スタンド ワルツ」大山恭弘
    「銀座・器楽亭」浅倉鼓太郎

  • 2023年7月19日読了

  • 未曾有の事態でシェフたちの苦悩や試行錯誤が書かれており、読み応えがあった。
    テイクアウトをするにしても、やるに至るまでの考え方やプロセスは様々だし、立地や普段の客層などでも違うし。
    行ったことのある店や気になる店も多かったので、今も営業を続けてくれてることに感謝。

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著者プロフィール

1967年、秋田県生まれ。文筆業。レストラン取材のほか、主に料理人、生産者など「食」と「飲」まわりの人々、店づくりなどの記事を雑誌・新聞等に寄稿。著書に『シェフを「つづける」ということ』『昭和の店に惹かれる理由』(以上、ミシマ社)、『シェフたちのコロナ禍』(文藝春秋)、『東京の美しい洋食屋』(エクスナレッジ)、『変わらない店』(河出書房新社)などがある。第6回(2021年度)「食生活ジャーナリスト大賞 ジャーナリズム部門」を受賞。2023年4月、『東京で十年。』(プレジデント社)を上梓。

「2023年 『ピッツァ職人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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