しのぶ恋 浮世七景

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913063

作品紹介・あらすじ

 時代小説の名手・諸田玲子が、浮世絵の名作に材を取って、紡いだ極上の短篇七本。

安藤広重「目黒太鼓橋夕日の岡」
歌川国政「五代目市川團十郎の暫」
歌川国貞「集女八景 粛湘夜雨」
鈴木春信「縁先物語」
葛飾北斎「百物語 さらやしき」
喜多川歌麿「深く忍恋」
東洲斎写楽「二世市川高麗蔵の亀屋忠兵衛と中山富三郎の梅川」

 七つの名作から生まれた物語は、男女の喜怒哀楽の表情を濃密に描いた感動作となっている。

 表紙を飾る鈴木春信の「縁先物語」から生まれた物語は、かつて美童と騒がれた男の封印した過去を描いている。
 萩の花咲く軒先で笑いさざめく女が二人。美少女と乳母。少年は若さゆえの無分別からある愚行に及んでしまう。(「縁先物語」)
 喜多川歌麿の「深く忍恋」をモチーフとした作品の主人公は、過去を捨て船宿の女将となっていた恋多き女「おりき」。
 大切な人とは、二度と逢わないつもりだった。遠くから、ひそかに想いつづけようと決めていたが、その想い人が、命の危機に瀕していると知ったとき、女の胸の奥、秘めた想いが動き出す。(「深く忍恋」)
 浮世絵の名作と、時代小説の名手の競演は、人生には、失って初めて気が付く幸せがあることを教えてくれる。

感想・レビュー・書評

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  • オール讀物2018年11月号:太鼓橋雪景色、2019年3,4月合併号:暫の闇、6月号:夜雨、9,10合併号:縁先物語、12月号:さらやしき、2020年3,4月合併号:深く忍恋、2020年7月号:梅川忠兵衛、の浮世絵の名作をイメージした7つの短編を2020年12月文藝春秋から刊行。いずれの短編にも絵になる工夫があり、趣向に堪能できるが、太鼓橋雪景色、夜雨、が秀逸で、好みです。梅川忠兵衛は面白く哀しく、余韻が残ります。

  • 浮世七景とあるように、7人の浮世絵師のそれぞれの名作品の絵から、江戸風俗の物語を紡ぎ出した短編集。取り上げられた絵師は広重、国政、国貞、晴信、北斎、歌麿、写楽。主人公の設定は、武家、歌舞伎役者、長屋の住人、商家、絵師、女主人、遊女と被り無し。更に内容の方も、若き頃の淡い恋、成就することのない悲哀、秘めた恋、怪談に、喜劇と盛り沢山で、何れも力作。楽しめる。

  • 江戸時代。浮世の七つの物語。物語を味わい眺める浮世絵は、一層心に残る。

  • 初出 2018〜20年「オール讀物」の7短編

    「浮世七景」のサブタイトルどおり、7枚の浮世絵からインスパイアされた7話。

    「太鼓橋雪景色」は蛮社の獄に関わる相手と駆け落ちできなかった悲恋を、同じ年頃の娘を持つ身となって、桜田門外の変で思い出す。こういうペーソスが好き。
    「暫くの闇」は、海老蔵の「暫く」にぞっこん惚れ込んだ与太者を、その面倒を見る絵師から見た物語。大胆な構図の役者絵がありそうな話に思わせる。
    「夜雨」は長屋の中に辻斬りがいたという物騒なはなしだが、破れ傘を置いて裾を絞る女の絵からその噺を思いつくのがすごい。
    「縁先物語」は、隠居した武士が、美少年時代に美少女と美しい乳母との間で三角関係になって焼死事件が起きたことを思い出し、何十年ぶりかで向島を訪ねると墓石が二つあって、乳母が自分の子を産んでいたことを知る。物語としてはこれが一番面白い。春信の艶っぽい情景を思わせる絵もいい。
    「さらやしき」は、北斉がお菊の幽霊を描こうとするとき、子供の幽霊に取り殺されそうになる。
    「深く忍恋」は、茶店の看板娘が恋のもつれで遠島者まで出し、死んだことになって悪事にも手を出し、今は船宿の女将になっているが、元の恋人と再会するものの、身を隠す。
    「梅川忠兵衛」は、売れない遊女が、遊女の逃避行の浄瑠璃のまねをしようとして失敗する落語のようなはなし。

  • 浮世絵の七つの名作をモチーフに書かれた短編集。武家娘と水戸藩士の恋心とすれ違いを描いた『太鼓橋雪景色』(安藤広重「目黒太鼓橋夕日の岡」) 身分違いの恋に落ちた水茶屋の娘と武士。実ることはなかったが、十年後に再会する。その十年の間ももお互い心を通わせ合っていたのだけれど…『深く忍恋』(喜多川歌麿) この2作が好みかな。でも、それぞれが全て違った感じでどれも良かったです。

  • 諸田玲子氏の浮世絵から生まれた7篇の物語。

    忘れないうちに、書き留めておこう。
    表紙の浮世絵が、7つあるように、物語も、それに合わせてあるという風流な趣の小説である。

    安藤広重 「目黒太鼓橋夕日の丘」
    歌川国政 「五代目市川團十郎の暫」
    歌川国定 「集女八景 粛そう夜雨」
    鈴木晴信 「百物語 さらやしき」
    喜多川歌麿 「深く忍恋」
    東洲斎写楽 「二世市川麗蔵の亀屋忠兵衛都中山富三郎の梅川」

    太鼓橋というと、関西人で、大阪のすみよっさん(住吉神社)の太鼓橋のイメージが、強い。
    恋心の2人の待ち合わせた太鼓橋、しかし、弥助は、鉄次郎の伝言をひわに 伝える事はしなかった、
    20年も経過してしまったが、未だに、心の隅にその想いは、残っている。
    昔は、家の問題もあり、結婚が、当事者同士の恋心だけでは、結ばれることは、なかったのだと。

    「暫の闇」は、昔の娯楽というと、やはり、芝居や歌舞伎だったのだろう。
    今だったら、映画、ゲーム、アニメと、、、、それでも、オタクは、沢山いる。
    江戸時代も、そんな人が居たのだと、・・・

    「夜雨」は、この歌川国定の浮世絵が、赤いけだしで、裾の着物をぎゅっと絞っている女性。
    破れ傘が横にあり、頭に手ぬぐいをかぶって、大雨に当たった姿が、よくわかる。
    濡れ鼠のようになったおしお。
    そして、何ごともない様な素振りで、仕事に精出す弥助。
    そんな2人なのだが、・・・仲睦まじく締めくくられていて、はな歌交じりのおしおさんの声が、聞こえそうであった。

    「縁先物語り」は、若気の至りで、お嬢様のお初でなく、乳母のたみとの交わりで、無分別と薄情なまま、隠居の身になった英左衛門は、火事でなくなったという場所まで、行って見て、火事の真相と、そこにあった墓石を見つけるのだった。
    自分の子供を宿しながら、身を引いたたみを思うと、少し心残り。

    「さらやしき」の浮世絵も、なんとも言えない幽霊である。
    口から煙が、フ~と漂い、目が、どこともなくうつろさ。
    百物語で、鉄蔵は、さらやしきを書き上げてしまったのは、お菊の背後霊が、成した技かも・・・と、思わせてしまうような話である。

    「深く忍恋」喜多川歌麿の美人画であるけど、頭のまげを強調して、襟の幅の広さで、首を長く細く描いている。

    おりきの女っぷり、そして、麻之助の思いの深さを心に姉妹、昔に戻りたいう気持ちに蓋をして、姿を消す事に・・・
    長煙管の羅宇のようにすげかられたら、・・・・

    「梅川忠兵衛」 取り柄のない女 小梅、人形浄瑠璃の話に、自分もなれるのではないか?と、思って、西国屋のボンボンと、一緒に道行をするのだが、・・・・
    別れてしまって、一緒に居た時が、一番楽しかった事に気が付くのだった。
    でも、最後の供え物の饅頭を食べるではなく、呑みこむと、書かれている事は、この小梅のしたたかさというか、物事を深く考えない人格にして、面白さと、卑屈さのない物語りにしていると思った。

  • 短編集7篇
    浮世絵からしのぶ恋をテーマに過去の忘れられない恋や幽霊話やすっとぼけた道行など作者の筆が冴える.船宿のおりきの純情を描いた「深く忍恋」が良かった.

  • 【浮世絵の名作から生まれた傑作短篇集】歌麿、北斎、広重、鈴木春信などの浮世絵の名作に材を取って紡いだ極上の短篇七本。失って初めて気付く幸せの哀歓を描く。

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著者プロフィール

諸田玲子
静岡県生まれ。上智大学文学部英文科卒。一九九六年『眩惑』でデビュー。二〇〇三年『其の一日』で吉川英治文学新人賞、〇七年『奸婦にあらず』で新田次郎文学賞、一八年『今ひとたびの、和泉式部』で親鸞賞を受賞。著書に『お鳥見女房』『あくじゃれ瓢六』『きりきり舞い』シリーズのほか、『四十八人目の忠臣』『波止場浪漫』『帰蝶』『女だてら』『尼子姫十勇士』『しのぶ恋』など多数。

「2023年 『其の一日 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

諸田玲子の作品

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