- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163912868
作品紹介・あらすじ
コロナウイルスが全世界を席巻するなか、いち早くマスクマップアプリを開発。世界に名を馳せた台湾のデジタル担当相には、逸話が多い。いわくIQ180、学歴は中卒、独学でプログラミングを学び、シリコンバレーで成功した起業家、1ページ0.2秒で資料を読む、トランスジェンダー、学生運動を支持する無政府主義者――ハンドルネーム“Au”で知られる天才シビックハッカーのすべてを、気鋭の台湾人ジャーナリスト2人が徹底解剖する。特別付録「台湾 新型コロナウイルスとの戦い」収録。〈オードリー・タンの言葉〉「天才とみなされない多くの人々には、自分にしかない輝きがある。天才とみられる多くの人には、自分にしかない闇がある」「誰でも、最後に行く道は与えられたコースではなく、自分の命の赴く方向なのです」「人はデフォルトではその人自身なのであって、特定の性別ではない」「人工知能は永遠に人間の知恵に取って代わることはない」「うわさは、真実よりも格段に速く伝わる。情報や通信について学んだ者ができることは必ずある」〈オードリー・タン7つの習慣〉・本はほとんどiPad Proで、必ずデジタルペンを使って読む・大部の資料を頭に入れるには、寝る前に全ページをめくり、その後最低8時間眠る・2か月に1度、常に新しい習慣を身に付けるようにする・大勢の人のために行うことは、大勢の人の助けを借りる・したいことをする時に、性別は考えない・ネット上から人の作品をダウンロードしたら、自分の作品もアップロードする・体験した出来事や物事を、短い言葉に要約する
感想・レビュー・書評
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こちらはご本人の著ではなく台湾人のジャーナリスト2人による著を、ご本人オードリー・タン氏が推奨している(笑)
タン氏を知ったのは、「サピエンス全史」でおなじみのユヴァル・ノア・ハラリ氏との雑誌か何かの対談をネット記事で読んで興味を持ったのだ
その後、TVでもお見かけするように…
タン氏を見て、「デジタルを駆使し、子供たちに暖かい笑顔を…」そんなキャッチフレーズが勝手に頭に浮かんだ
簡単にオードリー・タン氏をご紹介すると
IQ180、しかしながら中卒、35歳で台湾のIT大臣、ハッカーのDNAを持ち、ビットコイン富豪でもある
中国語と英語を自由に操り、トランスジェンダーであることを表明している
コロナ禍においては「マスクマップアプリ」を指揮し早期に完成させ話題となる
8歳からプログラミングを学び、ハッカー文化に憧れていたタン氏(ハッカーというとどうしてもハリウッド映画に感化されているわたくしは「悪」のイメージだが、ホワイトハッカーとブラックハッカーがあるようだ もちろん言うまでもないがタン氏の憧れはホワイトハッカー)
ホワイトハッカーというのは「探求心から難題を解決しようとする人」ということになるらしい
ハッキングの3つの特徴は「遊び心」、「知性」、「探求精神」
そうまさにタン氏は使命感からではなく「興味」から政府の仕事に入り込んだのである
官と民との素早いコミュニケーションが重要であると理解し、説得ではなく相手の立場をより深く知り、その立場から別の人と口論ができるくらいまで全面的にその考えを理解することだと考えていた
このような考えをベースに「オープンガバメント」を志す
例えば協働会議をすべて実況中継し、かつ会議後に完全な書き起こし原稿をオンラインで公開する…など徹底している
これだけではなく、驚くことにタン氏は自身のスケジュール、インタビュー記録、会議記録もオンラインで公開し「完全な透明性」を実現している
肖像権も著作権も放棄し、インタビュー内容と写真を無料の公共資産と徹底しているのだ
あっぱれである
そんなタン氏の幼少時はいかに
心臓が悪かったためあまり外で遊ぶことはできず、家の中で多くの時間を過ごした
そのため考えることが大好きで、身体を使うことに慣れておらず、モタモタしたため他の子たちからは笑われた
さらに小学校に入ると、天才ぶりを発揮し先生がついていけない事態に
授業に出なくてよくなる→一人でいる時間が増える→孤独になる
さらに家庭内でも天才すぎる故、周りがどう接すれば良いのかがわからなくなってしまう
学校では妬みや恨みによりいじめられ(暴力によるいじめもあり)、良く思わない先生も現れ、体罰を受けることもあったようだ
一旦はバラバラになってしまったかに思われた家族であったが、軋轢を繰り返しながらも何度も話し合いを重ねどうにかゆっくり修復された
やがてタン氏は自分にとって学歴はどうでもよく高校には進学しないことを決断
踏み慣らされていない型破りで、チャレンジ精神に溢れた、先が見えないけど驚きに満ちた人生の道を選んだのだ
そうして独学で学びながらコニュニティーや実業の世界へ進んでいく
Xジェンダーについて
13-14歳の頃、自分を男性的と自覚できなかった
また、生まれつきテストステロンの数値が異常に低かったタン氏は24歳から女性になる
両親は「それで人生がより幸せになるのなら、私たちは必ず応援する」とのこと
(どんなときでも味方になってくれる人が人生にたった一人でも居るだけで、頑張って生きていけるものだ)
そしてタン氏は以下のように前向きに語る
「私の人生にあった、社会の期待と一致しないところは、社会が悪いのでも、私が悪いのでもないとわかっている。私自身の経験を分かち合うことで、この社会は本来非常に多種多様な要素で構成されているために、自然と多様な価値観が生まれること、世の中の進歩と称するもののために、その他の価値観が犠牲にされてはならないことを、皆が知ることができる」
日本と同様、台湾でもLGBTはなかなか受け入れられなかったようだ
このような偏見が人を殺すことがあるという悲しい台湾での出来事もこの書に載っていたが(こういう事件は本当に悲しくやり切れない)、「性」なんかにこだわることよりもっと大切なことがたくさんある
タン氏が多くの人への勇気や希望、そして世間の理解への広がりの架け橋となっている
台湾の民主化
かつては台湾も日本のように若者の政治に対する関心が非常に薄かったようだ
情報の可視化により、社会の正当性が高くなり、国民の自由性も高まり、人びとの市民自由度も高まって、社会がより健全になる…とタン氏が語るように、台湾は「市民が提案、国民が参加」の理念が当たり前の風潮となっているようだ
こういった取り組みにタン氏は貢献している(本書ではより「ひまわり学生運動」を手助けした具体的なタン氏の功績が描かれている)
人のためのインターネットを
インターネット上の情報が増えつづけ、私たちは多くの情報をダウンロードし、知的欲求や娯楽の目的を満足させている
しかしこの先もずっと大量の情報に頼り続けていると「参加する機会」がどんどん減って、ただ受け入れるばかりになる
一方だけの言い分を聞くことと同じだ(まさに危険な兆候)
そこでタン氏は、アップロードとダウンロードのバランスをはかれという
自分に必要な大量の情報をダウンロードしたら、自分がネットワークを利用し、何かを発表してインターネットに貢献することが必要だと提言する
創作に参加することで、人びとはこの世界の未来の一部は自分が参加することで成り立ち、それが世界に拡散されていくと感じることができるという
(日本もこういう考えを軸に皆が政治に関心が集まってよりよい社会を皆で考えていけるといいのだが…)
タン氏は自然体で、世間の当たり前にとらわれず、自分に正直に生きている
あらゆることを受け入れ、理解しようとする
自分を等身大に公開し、公正で自然体であり続ける
何者でもなく、肩書にこだわらず、属性も気にしないフットワークの軽さ
この行動性により多くの人や組織やコミュニティが助けられ、彼女を必要とする
好奇心も旺盛で楽しむことを忘れない
義務感ではない好奇心の強さから恩着せがましさもない
ニューヒーローいや、ニューヒロインだ
そして透明性を重んじ、一人一人が参加した平和な世界を創りたいと考えているように思う
彼女の考えはとても正論に感じることが多く、気持ちよく読むことができた
また特別付録として「台湾 新型コロナウィルスとの戦い」までもある(付録といっていいのか…)
■台湾のコロナ対応まとめ
・2003年SARS感染被害を教訓にしている(台湾は長い間国際組織から排除されてきたため、WHOからの支援は一切なかった)
・中国もWHOも信じない 台湾独自の判断で対応した
・医療専門家を政府機関にいれ、報酬も医療界と同じ扱いで雇用
・政府の迅速な対応…こちらもSARSを教訓に法律、医療資源、組織を整備しなおしたおかげ
・普段から十分な医療資源を蓄えている(例えば4400万枚のマスクや、各病院が常に30日分の医療資源を備蓄している)
・完璧な防疫システムの追求と訓練(各病院や介護施設等の同線を設置する等)
・徹底的な水際作戦(島国を活かしている)
・帰国者の渡航履歴と健康状態をQRコードを利用してオンライン管理
他にもSARSでの教訓が生かされた防衛措置がいくつもある
そして台湾は「最も有効なワクチンは透明性のあるコミュニケーション」とし、国民が一丸となって協力し合った様がひしひしと伝わった
コロナ対応だけでなく、近いようで遠い国台湾の情勢や、政治、歴史、国民性も知ることができ大変興味深く読むことができた
いやぁ、想像以上に盛りだくさんの充実した書であったし、新しい風みたいなものを感じすがすがしい気持ちだ
今後もタン氏の活躍に注目していきたい
彼女から得られる自分の人生にもつながるヒントが楽しみだ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
少し前に話題になった台湾の天才大臣、オードリー=タンの経歴や素顔を追った本。
興味はあったが買って読むほどではなかったので、図書館で借りた。
頭が良すぎる為に遭った幼少期のトラブルや、特殊な経歴など興味深く読んだ。
でも、彼女はまだこれからの人だからこれはまだ途中経過に過ぎないのだろう。 -
世界中が新型コロナウィルスの脅威に覆われた2020年。
いち早く対策を立て続けに講じて、被害を最小限にとどめてきた台湾。
その中心人物の一人が、唐鳳(タン・フォン、オードリー・タン)。
2016年、35歳にしてIT大臣に就任。
IQは180だが、中卒。
ハッカーのDNAをもち、いつでもプログラムが書ける達人。
Appleで顧問としてSiriの開発に携わる。
トランスジェンダーであることも表明している。
「私は政府のためにではなく、政府と共に働いているのです。人々のためではなく、人々と共に働いているのです」
「すべての物事は変化し、変化するということだけが不変です」
「自分で勉強することのメリットは、他の人には見つけられないものを見つけられる、ということです。これはとても重要で、そうでなければ付和雷同するだけになります。誰かが言ったことに同調するだけでは、自分がありません。でも、誰かとシェアできることも重要です」
「大事なことは、情報のダウンロードとアップロードのバランスなのです。ネットコミュニティからのダウンロードに対し、アップロードが多ければ多い歩と、自分がインターネット上の『市民』であると感じられます」
知のトップランナーは、地に足のついた現場の人だ。
良い意味で人間くさい天才の言葉と行動が、明日への希望となって心と体に染み入ってくる。
知恵は現場にあり。
対話こそすべてを切り開く武器だ。 -
【我は通さない】
読書量が半端ではないことがよくわかりました。
天才であるが故に悩みも多い。 -
まず、オードリー・タンという人物についての理解が深まりました。未来の世界を想像して行動するというのがどういうことなのか。そして社会に貢献することの必要性や楽しさも感じました。基本的に優しい人なんでしょうね。思考の流れについても参考になる部分が多かったです。インターネットを駆使してよりよい社会を構築しようとしている姿に心を動かされました。
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彼女関連の書籍をいくつか読んでいたので真新しい事項は多少少なく感じた。ただそれはいくつも読んだから故です。
オードリー・タンさんの言葉は、あぁそうだよね、それが当然だよね、という言葉が多い。腑に落ちる。だけど、それを普段から考えられたり、他の人とも対話してそこから拾い上げて実行出来る人が私を含めて世界に少ないことが彼女を神格化している理由ではないだろうか。
文頭の理由より、巻末の台湾の対コロナ史が個人的にはドキドキしながら読めた。何て柔軟に、素早く、しっかり行動の出来る政治家が多いのだろう、と。そしてマスクが足りなくなりそうだから生産ラインを増強する、と言えば私も参加すると国民はこぞって手を挙げる。医療従事者が足りない、となるとやはり元医療従事者が手を挙げる。マスクに少し余裕出てきたから世界に、と動く。総統は直接防疫センターに顔を出していないという。ただし、YouTubeで関係者に謝意を伝えているという。逆に言うと防疫センターはそれだけ出来上がっていた組織で、総統も厚い信頼を寄せていた、と言うことだろう。そして制限時間無く行われる日々の防疫会見。誠意をもって対応し記者からも満足の結果を得ているという。国民はテレビやネットで中継を追うという。
この様な国民性が「台湾」という民主国家の全てを表していると思う。
当然日本国民の一人として大変羨ましい(苦笑)だけど、それを実現させるには個々人がちゃんと政治に向き合って考えていかなければいけない、ということを理解した。
台湾の方々は地道にそれをやってこられて、今の社会を築いたんですから。羨ましい社会を作るためには日々の積み重ねが大事だ、ということも学びました。