赤い砂を蹴る

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163912363

作品紹介・あらすじ

社会派作品で評価の高い、劇作家・石原燃の小説デビュー作にして、第163回 芥川賞候補の注目作!「——お母さん、聞こえる? 私は、生きていくよ。」画家の母・恭子を亡くした千夏は、母の友人・芽衣子とふたり、ブラジルへ旅に出る。芽衣子もまた、アルコール依存の夫・雅尚を亡くした直後のことだった。ブラジルの大地に舞い上がる赤い砂に、母と娘のたましいの邂逅を描く。渾身のデビュー小説!

感想・レビュー・書評

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  • 亡き母の代わりに、亡き母の友人と共にブラジルの大地を踏む千夏。
    広大で荒々しい、乾ききった大地に舞い上がる赤い砂がとても印象的。
    表紙に広がる鮮やかな色彩のイメージそのままに、見る者の気持ちをわき立てる。

    近しい人を亡くした虚無の心も、ありのままに受け止めてくれる母なる大地に包まれながら、千夏は亡き母を悼むと共に、生きる力を取り戻していく。
    自分の一度きりの人生をあきらめるな。
    千夏と共に私も力強いメッセージを受け取った。

    あの太宰治の孫、しかも芥川賞候補作という好奇心から読了。
    お祖父さんの作品同様、私にはちょっと手強く、読み終えるのに苦労した。
    敢えて比較するならば、太宰治がマイナス思考なのに対して、お孫さんは物事を肯定的に考えるプラス思考の人なのかな。
    生も死も全てをそのまま受け入れる母性を感じた。表紙がとにかく綺麗で一枚の絵としてずっと眺めていたくなる。

  • 「芽衣子」の生まれ故郷のブラジルへの旅において、似た光景を見る度に、過去のエピソードが時系列バラバラに織り込まれる構成は、初読だと分かりづらい部分もあった中で、後半突然に訪れた「千夏」の、母親「恭子」への想いに、こみ上げるものがあった。

    それは、お互いの存在意義を認め合うこと。親子だけど対等に相対する関係は、再読すると、その想いに至った過程が丁寧に積み重なっているのが分かるし、既にそうした想いで旅に臨んでいた千夏の気持ちを考えると、また異なる趣がある。

    弟「大輝」の死、浅ましい義父、大輝の絵を描き続ける恭子、憶測で偉そうな一般論をひけらかす周囲の他人たち、病気の恭子への気遣いが支配欲だったと悟った千夏、等々、バラバラな構成が実は綿密に組み合わされていることに気付かされる。

    そこに加わるのが、恭子の友人の「芽衣子」で、彼女は彼女で、アルコールに依存する夫や、おそらく外国籍を理由に厳しくあたられた義母に対する悩みをもっているが、彼女なりの努力で対応する。

    千夏と芽衣子は恭子を共通点に知り合い、それぞれ家族の死をいくつか迎えながらも、お互いの細やかな話でそっと支え合っている光景に、ブラジルの暖色系の風景描写と過去の出来事の寒色系の対比が、重なる様は、なんとも言えない感じがある。

    芽衣子の夫や義母にしても、実は同情するような出来事があって、それを思いやる芽衣子の行動が、少々行き過ぎているのではないかとも感じたが、芽衣子の本音も後半に明らかにされ、そこで彼女なりの思いの深さを知る。ここが、上記した千夏の恭子への想いと重なり、これは千夏と芽衣子それぞれが主人公の物語なのだと思った。

    最後に、最も印象深かったのは、千夏が、恭子と大輝の死の事実を肯定することで、自分の人生を肯定することになると思ったことです。家族の素晴らしさを感じました。どんなイレギュラーなことがあろうとも、死が訪れようとも、存在意義はある。

  •  太宰の孫で、津島佑子の娘、まあ、なんというか、「小説」を書くということに勇気がいったでしょうねえ。今どき、「太宰の文章と比べてこの人は・・・」なんていうことを言われる人も言う人もあるとは思えないのですが、この出自だけで言われそうですよね。
     お若い方かと思って読みましたが、幸田文のデビューを思わせるお年のようで、次にどんな作品をお書きになるのか、ちょっと楽しみですね。
     ブログであれこれ書いてます。そちらもどうぞ。
      https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202112110000/

  • 人生の終活を考えた時。そんな人にオススメしたい。
    構成がとても独特でした。
    舞台背景や時系列がバラバラな所があるので回想とし紐付けました。この物語の主人公は二人である。母を亡くした千夏とアルコール依存症の夫を亡くした千夏の母の友達芽衣子とブラジルに行く。
    『死』に対して生きて行く事を考えさせられる舞台として、遠い国ブラジル旅行を伏線として捉えた。
    母を看取る時の親娘の心の会話がこの物語の真骨頂だ。
    遥に遠いブラジルの赤い砂を蹴るの千夏の思いは『死』に対し自分に生きる力を誓う様に思える。それを私なりに回収した。

  • 時々、必要なタイミングジャストに出会う本があるのだけど、まさにそうだった。
    近親者が他界し、親との関係も色々と思う今読めて良かった。
    今作は、悲しみも苦しみも忘れられるなんて適当なごまかしはしない。きっとずっと消えない。
    でもタイトルに集約される強さで、共に歩こう、としっかりと背を支えてくれる良い作品だった。
    文章も好き。
    著者のこれからの小説も楽しみだし、舞台も見てみたい!

  • 面白かったと同時に読んでいて少し苦しかった。家族と何かわだかまりがある人は読んでいてわかるところがあると思う。
    自分の人生を否定したくないから、その人の存在を含めて肯定したい。よかったところだけ覚えておけたら。

    お母さん、聞こえる?私はかわいそうじゃない。嫌だったことは忘れない。でも生きていくよ。

    太宰治の孫の作品だとは読んだ後に知った。

  • 初読みの作家さん。
    …家族ってやっかい。

  • 読みながら「光の領分」のさまざまなシーンを思い出した。 光あふれるビルの一室、 屋根になげられたおもちゃ、 飲んだくれてベッドから出てこない母親、 そして、娘を連れ出したままなかなか帰ってこない別れた夫への平手打ち。 このシーンが、「赤い砂……」にも出て来た時はどきどきした。 繋がっているってすごいな。 自由奔放な母親は、死ぬまでそうやったんかな。 「子どもには親を嫌う権利があるんだから」 かもしれん。 どうぞ嫌ってくれてもええよ。 たこ八郎の「迷惑かけてありがとう」って言葉も思い出した。

  • 太宰治のお孫さんとか,そういう話しはいらない。とてもみずみずしく、親を受け入れること,親から自由になること,自分の生き様を肯定することを静かにブラジルで省察する、素敵な物語だ。

  • 母の死契機、小説に「別の楽しさ」 芥川賞候補の劇作家・石原燃さん:朝日新聞デジタル
    https://www.asahi.com/articles/DA3S14576807.html

    『赤い砂を蹴る』石原 燃 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163912363

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著者プロフィール

劇作家。小説家。東京生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。2007年より戯曲を書き始め、書き下ろしの依頼を受けるようになる。2011年の夏に大阪に移住し、演劇ユニット燈座(あかりざ)を立ち上げる。2016年に東京に戻り、現在はフリーで活動している。

2010年、日本の植民地時代の台湾を描いた『フォルモサ!』が劇団大阪創立40周年の戯曲賞にて大賞を受賞。2011年には原発事故直後の東京を描いた短編『はっさく』がNYの演劇人が立ち上げたチャリティー企画「震災 SHINSAI:Thester for Japan」で取り上げられ、2012年3月11日に全米で上演された。その他の主な戯曲作品に、義足を盗まれる事件に遭遇した母娘を描いた『人の香り』、NHK番組改編事件を扱った『白い花を隠す』などがある。

2020年、自身初の小説『赤い砂を蹴る』が出版され、第163回芥川賞候補となった。

戯曲
短編『はるか』
初演:2010年 ユニットえりすぐり(渡辺えり主宰)第1回公演「乙女の祈り」にて
掲載:「せりふの時代」Vol.56/2010夏号

『笑うハチドリ』
初演:2010年 ユニットえりすぐり(渡辺えり主宰)第2回公演にて

『フォルモサ!』 劇団大阪40周年記念戯曲公募 大賞
初演:2011年 劇団大阪 第69回本公演にて

短編『はっさく』
初演:2011年 Pカンパニー番外公演その2「岸田國士的なるものをめぐって」にて
掲載:「テアトロ」2011年10月号
※抜粋版が英訳

『父を葬る』 第24回テアトロ新人戯曲賞 佳作
初演:2012年 マルハンクラブ(半海一晃主宰)番外公演にて
掲載:「テアトロ」2011年10月号

『人の香り』 第18回劇作家協会新人戯曲賞 最終候補
初演:2013年 燈座 旗揚げ公演にて
掲載:「優秀新人戯曲集2013」劇作家協会編

『沈黙』 第22回OMS戯曲賞 最終候補
初演:2014年 Pカンパニー第14回公演シリーズ罪と罰 CASE-1にて
掲載:「テアトロ」2014年11月号

『夢を見る』 第23回OMS戯曲賞 最終候補
初演:2015年 燈座×占部、勝手に巣づくり企画 @SPACE 梟門オープン予定地にて

『界境に踊る』
初演:2015年 燈座×虚空旅団 協力公演にて

『白い花を隠す』 第25回読売演劇大賞優秀演出家賞(演出:小笠原響)
初演:2017年 Pカンパニー第19回公演シリーズ罪と罰 CASE-3にて
掲載:「テアトロ」2017年5月号

『花樟の女』
初演:2021年 Pカンパニー第32回公演シリーズ罪と罰 CASE-9にて
掲載:「悲劇・喜劇」2021年3月号

『蘇る魚たち』
初演:2021年 O企画 1st stage

『彼女たちの断片』
初演:2022年 TEE東京演劇アンサンブル劇団公演にて

小説
『赤い砂を蹴る』 第163回芥川賞候補
初掲載:文學界2020年6月号
出版元:文藝春秋

『スピルカと墓』月刊・掌編小説
初掲載:東京新聞2021年1月31日

「2022年 『夢を見る 性をめぐる三つの物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石原燃の作品

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