わかれ縁

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163911700

作品紹介・あらすじ

いつの時代も家族円満は難しい⁉人情時代小説の名手が描く江戸の離婚模様夫婦となって5年。定職にもつかずに浮気と借金を繰り返す亭主に絶望した絵乃は、身ひとつで家を飛び出し、離縁の調停を得意とする公事宿「狸穴屋」に流れ着く。夫との離縁を望むも依頼できるだけの金を持たない彼女は、女将の機転で狸穴屋の手代として働くことに。果たして絵野は個性豊かな狸穴屋の面々とともに一筋縄ではいかない依頼を解決しながら念願の自身の離縁を果たすことができるのか⁉【狸穴屋に持ち込まれた依頼の一部】「二三四の諍い」……狸穴屋にやってきたのはまだ10代の兄妹、彼らの望みは両親を離縁させることだった。「双方離縁」……嫁と母の仲が悪い。家格も絡んでなおややこしい、武士を悩ませる江戸の嫁姑問題。「錦蔦」……才能ある息子を引き取るのはどっち? 職人の家のあいだで起きた大岡裁きの結末。

感想・レビュー・書評

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  • 夫の浮気と借金の繰り返しで働き口を三度も首になった絵乃。良からぬ思いを抱えながら歩いていた時に出会った椋郎に連れていかれたのは、様々な訴訟事を引き受ける公事宿〈狸穴屋〉。離縁を得意とする〈狸穴屋〉で働くことになった絵乃は自らの離縁を成し遂げたいと考えるのだが…。

    金遣いの荒い母親と倹約家の父親を別れさせたい子供たち、嫁と姑のいさかいに辟易する夫、子供ながら並外れた絵の才を持った息子をそれぞれ自分の家の跡継ぎにしたい元夫婦。

    公事宿のお仕事物かと思っていたが、いわゆる訴訟事が描かれるのではなくその前の段階で解決させている。現代で言えば弁護士または司法書士による無料相談の段階で解決という感じだろうか。
    夫婦双方、さらには子供側までの話も聞いてどのような解決法が良いのかを提示。
    その解決法はいわば喧嘩両成敗のようなもので、どちらも譲らなければならないけれど、どちらにも有利も不利もあるのだから平等といえる。

    実際の公事に発展すれば現代同様、時には何年も掛かるような大事なので出来ればその前の話し合いで済ませたいというのは分かる。しかし実際の公事の様子や手続きの様子も見たかったなと思う。

    公事という珍しいお仕事物ではなく、公事宿〈狸穴屋〉を舞台にした様々な人間ドラマだった。
    七度も離縁したという女将の桐の腹の据わり方、手代の椋郎の人の好さが良い。
    ささくれだち、諦めの境地にまで至っていた絵乃を前向きにしてくれる。

    絵乃の夫の狡猾さにはゾッとする。終盤は絵乃の母親が登場するが、悪い女かと思われた母親にも別の物語があった。
    絵乃の離縁の顛末については痛快とは言い難い。しかしこの時代ならではの、女性の置かれた苦しい状況を逆手に取った離れ業とも言える。
    ただやはりもう少し爽快な方が良かったかとは思う。

    女性側からの離縁と言えば駆け込み寺くらいしかないと思っていたので公事でも解決出来るとは知らず興味深かった。それでも公事にするならかなりの時間とお金が必要で、それだけの覚悟も必要。そこは現代と変わらない。

  • わかれ縁 
    2020.02発行。字の大きさは…字が小さくて読めない大きさ。
    わかれ縁、二三四の諍い、双方離縁、錦蔦、思案橋、ふたたびの縁の6話。

    亭主・富次郎と別居して、公事宿・狸穴屋で手代見習として働く絵乃の活躍の物語です。

    【わかれ縁】
    絵乃は、亭主・富次郎の金遣いや女癖の悪さに疲れ、5年連れ添った亭主・富次郎と別れることを決意して、公事宿・狸穴屋の公事担当の手代見習となります。

    【二三四の諍い】
    白粉紅問屋・下田屋の次男・弥惣吉と妹・お帯は、父・四方右衛門と母・お留を離縁させてほしいと公事宿・狸穴屋にやって来ます。翌日には、長男・二三蔵が、母と弟妹の金遣いの荒さを理由に離縁させたいといってきます。下田屋の主人夫婦の話を聞くと、長男は、跡継ぎとして厳しく育てられ、下の弟妹は、母に甘やかされているのを見た絵乃は、長男が焼き餅を焼いているのを知ると……。

    【双方離縁】
    元狸穴屋の手代・お志賀は、夫・櫓木啓五郎の同僚・若林世一郎の嫁と姑がいがみ合っているため、世一郎の妻・宇名と母・六津の双方離縁を考えていると告げ、何とか嫁姑の和解を考えます。

    【錦蔦】
    錦屋須兵衛は、妻・真佐と離縁した。錦屋の跡取り息子・修之介は、母・真佐が寂しそうなので母について母の実家・蔦屋へ行きます。須兵衛は、修之助の絵に対する才能を認めて取り返してくれるように狸穴屋に依頼してくるが。実家の蔦屋雉右衛門は、修之介の才を認めて蔦屋の跡継ぎにと思っている。修之助は、絵師になりたい。さて、どうなるか……。

    【思案橋】
    絵乃は、父・基造と自分を捨てて男と駆け落ちした母・布佐を11年ぶりに思案橋で見ます。その母が、絵乃が離縁をしょうとしていた亭主・富次郎を刺したと番屋に自首して出て来ました。

    【ふたたびの縁】
    絵乃の亭主・富次郎を刺したのは、富次郎に金をむしり取られて、金が無くなったら捨てられたお郷でした。絵乃は、お郷に、富次郎に妻・絵乃に罪を着せるために、富次郎に言われてしかたなく刺した、と言わせます。お郷の罪は軽くなり、富次郎は、捕まり、絵乃との離縁も成立します。絵乃は、母・布佐とふたたび縁で結ばれました。そして、2人して父・基造の墓にお参りします。

    【読後】
    読み終って胸が暖かくなります。
    絵乃の成長に、目が離せません。
    ただ、時代劇は、殺陣が無いと、どうもつまんないです。どこかに、少し殺陣が有ってもいいのではと思いました。
    2021.01.24読了

  • 公事宿「狸穴屋」
    奉行所で訴訟を起こすまでもない諍いを間に入って解決する公事宿

    駆け込み寺の話は読んだことがあったが公事宿の小説は初めてで設定は面白い。

    ただ主人公がいまいち好きになれなかった(´ー`)
    女将さんは素敵だったんだけどな…

  • 主人公の絵乃(えの)は、浮気と借金を繰り返す富次郎に人生を狂わされながらも別れることができずいた。ある雨の日、小伝馬町の辻で、帰る家がないと絶望し立ち尽くしてしまう。そこへ急ぎ足の男が通りかかり、避けきれずに衣を汚してしまい、立ち寄った甘味処で、知らぬ者同士だからこそ言えることもあると促され身の上を話すと、「その離縁、うちに任せてもらえませんか?」男は公事宿の手代だったのだ──

    経済力のない女は、どうしようもない旦那でも別れることが出来ないのは、今も昔も同じなのですね。公事宿・狸穴屋で、富次郎から離縁状を取るために、手代として働きはじめた絵乃が扱う離縁のエピソードを、連作短編で描いています。

    私も経済力があれば、もしかしたら別れていたかもしれません。でも、別れずに28年過ごしてきて、今は良かったと思っています。もちろん、浮気も借金も富次郎ほどではありませんし、今は改心していると私には思えますし。
    別れるも別れないも、決めるのは自分自身。どっちの道を進んでも、みな幸せになれますように。

  • 久しぶりに良い本読んだって満足感が。

    是非続編を。

  • 公事宿の手代に拾われた絵乃。見習いとなって経験を積みながら、踏み切れずにいた亭主と離縁する覚悟を決めるが、そこで事件が発生

    やっと出発点で、話は終わった感。続きを期待です。7人もの亭主がいる女将の桐の詳しい話もぜひお願いしたい。そして、公事宿と言えば、澤田ふじ子作の公事宿事件書が初で、その時江戸時代に民事訴訟を担うような役目の人たちがいたことにびっくりしたのでした

  • オール讀物2017年11月号:わかれ縁、2018年2月号:二三四の諍い、5月号:双方離縁、8月号:錦蔦、11月号:思案橋、2019年2月号:ふたたびの縁の6つの連作短編。自らの離縁をかけて公事宿の手代となった絵乃の離縁専門公事師人情仕事ストーリー。良くできた展開で、楽しめましたが、お話が序盤にしか到達していないように思い、さらなる展開を期待したくなりました。

  • 時代を江戸にすればほっこりそこそこの話になると編集者は思ってるのではないだろうか。
    最後の解決法はダメでしょ。

  • +++
    結婚して五年、定職にもつかず浮気と借金を繰り返す夫に絶望した絵乃は、身ひとつで家を飛び出し、離縁の調停を得意とする公事宿「狸穴屋」に流れ着く。夫との離縁を望むも依頼できるだけの金を持たない彼女は、女将の機転で狸穴屋の手代として働くことに。果たして絵乃は一筋縄ではいかない依頼を解決しながら、念願の離縁を果たすことができるのか!?
    +++

    理不尽な江戸のしきたりの中で、健気に生きていく女性と、その縁の物語である。幼いころに母に出ていかれ、父娘二人で生きてきた絵乃だが、その父も病で逝き、好きで嫁いだ夫はろくでなし過ぎて、なんの望みも持てなくなっている折、狸穴屋の手代・椋郎とひょんな縁で繋がったのが物語のはじまりである。離縁の調停を得意とする公事宿である狸穴屋で、人々のさまざまな揉め事を見聞きしながら、絵乃が少しずつ自分の考えをしっかり持つようになり、明日を生きる光をみつけていくのが心強く、応援したくなる。この先も好い縁に恵まれることを祈らずにはいられない一冊である。

  • 辛いけど優しいお話。
    お布佐さんが気の毒すぎです。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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