2050年 世界人口大減少

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163911380

作品紹介・あらすじ

「これは、世界の『未来の年表』だ」解説=河合雅司(『未来の年表』シリーズ著者・人口減少対策総合研究所理事長)2050年、人類史上はじめて人口が減少する。いったん減少に転じると、二度と増えることはない。名門調査会社イプソスのグローバルCEOらが、世界各国にてフィールドワークを敢行。統計に加えた貴重な証言をもとに警告する本書。この震撼シナリオが進むとすると、米中の覇権争いは予想外の展開を見せインド、そしてアフリカの台頭も早まるだろう。世界経済の行方、温暖化や格差・貧困などのSDGs問題、われわれの人生もが激変する。著者によると、課題先進国・日本の「復活への切り札は一つだけ」それは、「女性」か「若者」か「若い老人」か「AI」か「移民」か?【目次より】序章 2050年、人類史上はじめて人口が減少する1章 人類の歴史を人口で振り返る2章 人口は爆発しない--マルサスとその後継者たちの誤り3章 老いゆくヨーロッパ4章 日本とアジア、少子高齢化への解決策はある5章 出産の経済学6章 アフリカの人口爆発は止まる7章 ブラジル、出生率急減の謎8章 移民を奪い合う日9章 象(インド)は台頭し、ドラゴン(中国)は凋落する10章 アメリカの世界一は、今も昔も移民のおかげだ11章 少数民族が滅びる日12章 カナダ、繁栄する"モザイク社会”の秘訣13章 人口減少した2050年、世界はどうなっているか

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    国連の「世界人口予測2019」によれば、世界人口は2030年に85億人、2050年には97億人、2100年には109億人に達するとされている。しかし、筆者のダリル・ブリッカーはこの予測に懐疑的だ。筆者は2050年に90億人で人口がピークに達し、その後は減少が続き二度と上昇しなくなると予想している。

    この「人口はどんどん減っていく」という前提条件のもと話が展開していくのだが、筆者の主張の数々はあまりに暗く悲劇的だ。人口減少は避けられない運命であり、しかもそれを覆す手段は「ない」。高福祉国が出産奨励施策を実行しても、中東地域からの移民を受け入れても、はたまた若い国であるインドやアフリカ諸国が頑張っても「人類の縮小は止められない」と述べている。大変ショッキングな内容だ。

    ひとつ、先進国による重点的な子育て支援をピックアップしてみよう。
    現在先進国の中で出生率がかなり上位なのがスウェーデンだ。
    スウェーデンは1990年代の不況が終わると、出生率向上のために新しい施策を導入した。育児休暇は480日間に延長され、ほぼ全期間で収入の80%が補償される。夫婦はそれぞれが少なくとも2カ月間の育児休暇を取るよう求められ(取得努力ではなく必須だ)、それが消化できないと権利の一部を失うことになる。ベースとなる手厚い家族手当に加え、子供がひとり増えるごとに手当が加算される。子供の数が多いほど、ひとり当たりの手当の額も増額される仕組みだ。ストックホルムでは、ベビーカーを押している親は無料で公共交通機関を利用できる。ほとんどの職場では、従業員の子供が病気になって親が家に残る必要がある場合、有給休暇が与えられる。

    そうしたたゆまぬ努力の結果、スウェーデンの出生率は見事に「1.9」である。悲しいことにこれだけやっても人口を長期間維持するには足りない水準なのだ。お隣のフィンランド――こちらも世界最高レベルの子育て政策を採用している――はなんと1.35(2019年)。日本よりも低いのだ。

    ここまで頑張っても自国民が子どもを産まないのであれば、もはや移民に頼るしかない。事実、スウェーデンは人口を底支えするために次第に移民に頼るようになってきており、生粋のスウェーデン人の間に新たな移民流入に対する反発も広がりつつある。ただし、移民は人口こそ増やすが出生率の改善にはつながらない。すぐに移住先の出生率に合わせて子供を産まなくなるからだ。そうすると、移民を受け入れてもその場しのぎにしかならないばかりか、将来的には移民すら高齢者となって経済を圧迫していく。

    現在人口増加地域であるインド、アフリカ諸国においても減少トレンドは変わらない。
    多くの発展途上国における家族計画とは、経済的必要性であり、宗教と家父長制という伝統に則った儀式だった。今でも家と家との結びつきを重視した婚姻制度は強く残っているが、それも徐々に変革を迎えている。経済状況の好転と女性の権利の拡大によって、「子供は多くて二人」と考える女性が増えているのだ。伝統的な男性優位社会においては子供を産むことによる女性の負担は尋常じゃないため、結婚相手を自力で選べるようになった女性の間では、理想とする「家族サイズ」の縮小が進んでいる。もはや世界の価値観は少子化に傾いており、これを覆すことはできないというわけだ。
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    「世界人口は減少し続ける」「どの国も出生率は2.1を割り込むようになる」「移民は人口を増やすが、出生率の向上にはつながらない」など、筆者の主張は単純明快だが、それを補強するためのエピソードが抜群に面白い。各国の女性(とくに社会的に高い位置にいる人)へのインタビューにより割り出した家族意識の変遷や、ケニア人を例に取った、先進国と発展途上国の個人のアイデンティティの違い(先進国はアイデンティティを国に根ざし、発展途上国は部族と親族と家族に根ざす)、また経済発展による家族形態の変化が出生率をどう下げていくかなど、読んでいて新たな発見が生まれるものばかりだった。内容はシンプルでわかりやすいが読み応えは抜群。とてもおすすめの一冊だ。
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    【まとめ】
    1 世界人口が減少に転じるとき
    世界の人口は2050年に90億人で頂点に達し、減り始める。そして一度減少に転じれば、二度と増加することなくずっと減り続ける。

    出生率が下がる最も大きな要因は都市化だ。
    中世ヨーロッパの社会では人口の90%が農業で暮らしていた。だが産業革命とともに登場した工場により、労働者は都市に集まってきた。農場では子供を作るのが「投資」になる。だが都市では子供は「負債」になる。2008年に行われたガーナの都市化と出生率に関する研究では、次のように結論している。「都市生活では子育ての費用がかさむ見込みが高いため、都市化は出生率を下げる。都市では住宅費が余計にかかるし、おそらく家庭内生産の面でも子供は都市ではあまり役に立たない」。

    次に関係している要因は女性の教育水準の向上である。社会が都市化して女性の力が増すと、親族の結びつき(子供を作れとプレッシャーをかけてくる存在)、組織的宗教の影響力(避妊と堕胎を悪とみなす存在)、そして男性の支配力が、出生率とともに低下する。


    2 老いゆくヨーロッパ
    EUの現在の出生率の平均は1.6である。
    1930年代の大恐慌の時代になると、欧州の多くの国では、かろうじて人口を維持できる程度の赤ちゃんしか生まれなくなった。その危機が去ったあとには、大恐慌と第二次世界大戦により出産が抑圧された反動で、先進国にベビーブームが起きる。
    スカンジナビア諸国の出生率は1世紀以上も着実な低下を続けたのち、1930年代中頃に底打ちして増加に転じた。1935年、イングランドおよびウェールズの出生率は1.7、ベルギーは1.9で底を打ち、その後は上昇傾向に転じている。戦後に西ドイツとなる地域の出生率は、1933年には1.6と人口置換水準を大きく下回っていた。ところがその後ドイツ人はふたたび赤ちゃんを産み始め、フランスでも同様に出生率は上昇に転じた。フランスとベルギーの出生率は第二次世界大戦の最中にも増加していたようだ。

    しかし、1960年代まで続いたヨーロッパのベビーブームは1970年代になるとふたたび人口置換水準まで落ち、その後もさらに下がり続けた。現在、フィンランドの出生率は1.8、スロベニアは1.6。欧州で出生率が最高レベルのフランスは2.0、デンマークは1.7だ。

    このトレンドはなんら新しいものではない。前述したように、それまで出生率は1世紀半にわたり下落してきた。都市化、公衆衛生の改善、豊かさの広がり、そしてなによりも女性の自立性が高まったことの結果として、世代を経るごとに女性はますます子供を産まなくなっていた。ピルの登場や産児制限が利用しやすくなったこと、適切な性教育なども一定の役割を果たした。要するに、ベビーブームは一時的な例外現象だったのだ。

    人口減少に対する欧州の解決策は「移民」だった。だが、移民はメリットに匹敵するだけの問題も引き起こす。孤立、拒絶、民族間の衝突、高まる緊張感などだ。さらに、移民を「輸入」すれば確かに下がりつつある出生率の底上げにはなるが、その移民は(イスラム系移民も含め)すぐに移住先の出生率に合わせて子供を産まなくなる。わずか一世代、移民本人の子供の世代になれば、もう20世紀の都市生活に馴染み、「子供というのは少数を大事に育てるものだ」と考えるようになる。

    子供を持とうと思わせるための多彩な支援政策は確かに一定の効果を持つ。目盛りを動かすことができるのだ。ただし目盛りを大きく動かすことはできない。しかもそうした支援政策には巨額の費用がかかり、不況時にも同じ政策を続けるのは難しい。
    工業化と都市化、そして経済成長によって初めて、産む子供を少なくしようという選択を女性ができる条件が整えられる。しかし、一度そうなったあとでは、不況になると出生率が低下し、景気が回復して生活が豊かになっても出生率を下げるのだ。


    3 人口減少トップランナー、日本
    日本の出生率は1.4であり、長期に渡り低迷が続いている。このトレンドはほか先進国と比べて珍しいものではないが、日本の特徴は強力な移民制限政策を採っていることにある。
    日本は血統主義、すなわち国籍が血筋に応じて与えられる。より正確に言えば、生まれた子の親の片方がすでに日本国籍を持っていることが条件になる。2015年に日本が国籍を与えた外国人の数は9469人であり、2010年より3500人近く減っている計算だ。

    アジアの女性が結婚と出産を先延ばしにする理由のひとつに、男性優位の文化がある。
    ミレニアル世代の男たちは、自分が親の世代より進歩的で家事や子育ても喜んで分担していると主張するが、統計データからは別の姿が見えてくる。日本人男性が家事に割く時間は1996年(1日27分)から2011年(90分)で確かに3倍になっている。だが、日本人女性の平均である3時間と比べればまだはるかに少ないし、大半の先進国の男性と比べてもやはり少ない。OECDの調査によれば、日本人男性はOECD諸国のなかで子供の世話をする時間が一番少なく、家事をする時間は韓国人男性の次に少ない。
    この理由はアジア人男性が怠惰だからではない。その正反対である。日本人男性は一週間の労働時間が80時間になるケースも珍しくないのだ。あまりに疲れ切って性交渉さえ持たなくなることが日本の少子化危機の一因かもしれない。ある調査では、18歳から4歳までの日本人男性の4%が、過去1ヵ月間にセックスをしていないと回答しており、2年前の調査より10%ほど上昇している。

    人口減少を埋め合わせる別の方法は移民だが、日本やアジア諸国は移民にまったく対応していない。カナダは国民人口1000人当り4人の難民を受け入れているが、中国は0.22人、日本は0.02人、韓国は0.03人だ。こうした移民受け入れ反対の国や地域の人々は、自分たちが人種的に同一だと考え、その同一性には価値があり、守るべきものだと思っている。

    日本経済の停滞基調がそろそろ30年にも及ぼうという理由の一端は、人口の高齢化にある。人口の減少はイノベーションを起こせる若者の減少を生み、イノベーションの減少は銀行の融資の減少を生む。そして人々は年齢とともに消費を減らしていく。
    日本人全体が今、ひとつの選択を迫られている。日本社会に移民を受け入れるか、それとも小国として生きるすべを学ぶか、そのどちらかしかない。おそらく日本人は後者を選ぶのではないだろうか。感情を表さずに優雅な冷静さを保ちながら、消えゆく村落や国富の減少を淡々と受け入れるのだ。


    4 移民は減少している
    貧しい国から豊かな国への移住は今でもある。だが、最貧国でも1世代前と比べてずっと豊かになっている。1990年には極貧状態(1日2米ドル未満)で暮らす人が18億人以上いたのに、2015年には8億人未満まで減った。今世紀中に極貧状態を皆無にできる可能性は、たんに「ある」のではなく「高い」。そして、貧困状態にない人はあまり移動しない。要するに、近年の中東からの難民は、我々の祖先とまったく変わらぬ危険と困難に耐えているとはいえ、より大きな真実を見えにくくしている。実は、難民をめぐる状況は見かけよりも落ち着いているのだ。

    2015年、世界の難民の半数以上(54%)はわずか3カ国から発生した。シリア(490万人)、アフガニスタン(270万人)、ソマリア(110万人)だ。また、一部のヨーロッパ人は欧州大陸が難民であふれていると主張するが、世界の難民の90%は先進国でなく発展途上国の難民キャンプで暮らしている。中東と北アフリカが40%、サハラ以南のアフリカが30%だ。難民受け入れ国のトップ3はトルコ(250万人)、パキスタン(160万人)、レバノン(110万人)である。そして、西側諸国の支援を受けたイラク軍やクルド軍が次々とISISを撃退し、シリア内戦の暴力も沈静化しつつあるため、難民たちは少しずつ帰国を始めている。2017年前半だけで30万人が帰国した。
    難民を除く国際移民を見ると、全体の4分の3は「押し出される」のではなく「引き寄せられる」動きをしている。中所得の国からより豊かな国へと引き寄せられているのだ。

    全体として、局地紛争を除くと、ここ数十年の移民をめぐる状況はかなり落ち着いていたと言える。もはや移民危機など存在していない。

    そもそも、移民は人口減少や高齢化の根本的解決にはならない。移民はそれほど若くなく、中央年齢は39歳だ。その年齢だと多くの人は、もう新たに子供をつくらないだろう。したがって、移民人口が出生率を上げてくれる可能性は実はとても低い。また、別の理由として、移民は移住先の国の出生パターンにすぐ適応するという点もある。
    もはや、移民が国境を超えることはほとんどなくなるかもしれない。どこでも出生率は下がっており、最貧国ですら下がっている。しかも、かつては極めて貧しかった国でも賃金は上昇傾向にあり、移民になる動機は減っている。

    それでも、人口減少が目前に迫った国にとって、減少を食い止める当面の最適な方法は移民の受け入れを増やすことである。移民がその国を必要とするのと同じだけ、その国も移民を必要としているのだから。


    5 カナダの成功
    カナダの総人口は3520万人。5年間で人口は5%増えており、現状のままでも2060年までに5000万人まで増える計算だ。

    この増加の鍵を握っているのが移民だ。年間30万人の移民を受け入れており、さらにその数を年間45万人に増やそうという動きもある。それでいてカナダに来る移民はカナダで生まれ育ったカナダ人より良い教育を受けており、治安の悪化もない。トロントは住民の半数が外国生まれだが、殺人事件の発生数は世界で8番目に少ない。

    その秘密は移民の選定条件にある。カナダでは、カナダ経済に貢献できる人を条件に移住を許している。欧州の国のように、人道的な理由をメインとしていない。難民受け入れを自国の利益のために利用する、と完全に割り切っているのがカナダの特徴であり強みだ。

    1960年代、カナダで移民・永住希望者へのポイント制度が導入される。これは教育水準や仕事のスキル、英語もしくはフランス語の能力、カナダとの関係の深さなどに応じて加点し、可否を判断する制度だ。これにより、世界中どこの誰でも移民を申請できるようになった。ラテンアメリカから何百万もの移民(多くは違法)を吸収するアメリカや、近隣の北アフリカや中東から移民を引き込むヨーロッパとは違い、カナダは全世界からの移民を歓迎するようになった。ただし、カナダに移住後すばやく仕事が見つけられるだけの職歴と学歴があることが条件として明記されている。移民とはカナダにとってなによりもまず経済政策なのだ。労働力不足をおぎない、人口増加を支えることがその狙いだ。
    1990年代になり、低出生率が一時的現象ではなく完全に社会に定着したとわかると、カナダ政府は水門を開け放ち、年間25万人の移民を受け入れることにした。

    移民文化の代表例であるアメリカやオーストラリアでさえ、自国民のアイデンティティをしっかりひとつの概念として持っている。ところがカナダは多文化の寄せ集めになった。それぞれのコミュニティは独自の文化的な繋がりを保ち、出身地である市町村や州、国といった共通の単位でまとまっている。

    移民を積極的に受け入れている国であっても明確な「国民的気質」と呼べるものがある。移民はその気質を自分にも取り入れるか、さもなくばその国を去るしかない。
    ところが、カナダにはそこまで強い国民的気質というものがない。カナダ人はお互いが相手に合わせようとする。この「調整の文化」がカナダという国を、形もなければ目的もなく、結局は意味すら持たない場所にしている。
    しかし、まさにこの国をひとつにまとめる機能の欠如こそ、カナダが脱国家的国家(ポストナショナル・ステート)として成功できた秘訣なのである。カナダには世界中のあらゆる地域、あらゆる階層に属する人がやって来て、主に大都市に住み、仕事を始め、友好的な人々に囲まれ新生活を送れる。こうしてカナダは地球上で最も多様性に富みながら平和で和気あいあいとした国になったのだ。

    ただし、カナダ人の移民に対する意識は、必ずしも全員肯定的なわけではない。全カナダ人の1/3は多文化主義をまったく支持しておらず、ケベック州(独立のための住民投票があった州だ)は多文化受け入れに対する許容度がはるかに低い。


    6 2050年に世界はどうなっているか
    環境負荷の面を考えると、地方に住んで車を使うより、都心の高層ビルにぎゅうぎゅうに住んで地下鉄を使ったほうがいい。都市化とイノベーション、そして人口減少こそ地球温暖化を止める最適解かもしれない。

    しかし、その時世界は平和なのか?

    可能性を挙げればきりがない。いずれにせよ、未来は放っておいてもやってくる。我々は自分の道を進むだけだ。高齢者を大事にし、若者をはげまし、すべての人が平等に扱われる社会にしなければならない。移民を歓迎し、彼らと共に暮らしつつ、人々がその社会で暮らしたいと思えるよう自由と寛大さを維持していかねばならない。人口減少時代が必ずしも社会の衰退期になると決まっているわけではない。とはいえ、現在我々に起きつつあること、近い将来に起きることを理解する必要はある。人類が地球に生まれてからこのかた、このような事態に直面したことは一度もないのだ。

  • 科学と政治思想が対立する時、どちらをどの程度優先すべきか。旧ソ連における、メンデル遺伝学を排斥したルイセンコ学説の例を見れば、科学を優先すべきことは明らかなようにも見える。しかし、例えば、海産物に比較的高い濃度で含まれるヒ素と、「我が国での、伝統的に海藻類や魚介類を摂取する食習慣」とをどのように整合するか、科学に従ってヒジキを食べるべきでないのか、は悩ましい。

    本書が主張する統計的事実は、都市化で子供は資産ではなく負債となり(p.30)、女性の教育水準が上がると出生率が下がる(p.32)の2点である。

    人口当たりの炭素排出量が最も少ないアメリカの州は(都市化の進んだ)ニューヨーク州であることを指摘する(p.311)。直感に反するが、田舎暮らしは環境負荷が高い。思えば、佐藤史生のマンガ「アシラム」(精霊王(小学館、1989、文庫、2001)収録)もそんなテーマだった。

    本書は、国連人口部(UNPOP)の中位推計ではなく、低位推計が実現すると考える。世界的な教育の普及が出生率の低下をもたらす、と考えるからである。ピル(p.70)、親族の影響力の低下(p.72)、宗教の影響力の低下(p.74) 、女性の自分の出産に関する決定権の掌握(p.75)が、出生率の低下をもたらす。

    著者達は日本における労働力不足の解決策は、女性でも、高齢者でも、AIでもなく、カナダを例として(p.301)、移民であると論じる(p.131)。ただ、それは短期的な解にすぎない。移民の教育水準が向上し、移民女性の権利が強くなれば、出生率は似たような数値に収斂する(p.254)。

    人口減少に伴って、少数言語も、少数民族も滅びる(p.283)。

    環境問題による人類絶滅危機を前提に、人類の計画的滅亡を選択肢に入れるべき、とする小林和之による法哲学論文「未来は値するか〜滅亡へのストラテジー」(「法の臨界3」(東京大学出版会、1999)所収)を思い出した。

    【目次】
    序章 2050年、人類史上はじめて人口が減少する
    1章 人類の歴史を人口で振り返る
    2章 人口は爆発しない--マルサスとその後継者たちの誤り
    3章 老いゆくヨーロッパ
    4章 日本とアジア、少子高齢化への解決策はある
    5章 出産の経済学
    6章 アフリカの人口爆発は止まる
    7章 ブラジル、出生率急減の謎
    8章 移民を奪い合う日
    9章 象(インド)は台頭し、ドラゴン(中国)は凋落する
    10章 アメリカの世界一は、今も昔も移民のおかげだ
    11章 少数民族が滅びる日
    12章 カナダ、繁栄する"モザイク社会"の秘訣
    13章 人口減少した2050年、世界はどうなっているか

  • 人口爆発していそうな国でも、宗教の衰退、都市化や女性の思想変化など様々な理由で実は人口減が起こっているという。いろいろ納得できた。でも解決策は結局政治家のお仕事…ってところかな。
    経済や将来の発展を考えれば人口増でなくてはならないかもしれないけど、すでに世界には人が多過ぎると思うんだけどなぁ〜。自然に少し返そうよって思ってる私。心配してても未来はやってくるわけだし…

  • 書かれている事実は興味深いが、基本的に「人間は増やすべき」というスタンスに立ちながら「出生率が下がるのは女性の地位と教育が向上したから」と言いっぱなしにしたり(そんなん見たら、ニッポンの男様がたが「やっぱオンナの人権奪おうw」となるに決まってるのに)、移民受け入れにしか活路がないとわかりつつ己の偏狭さゆえに滅びゆく諸外国をたいそう「男らしく」ウエメセ・pgrしてるけど、それって女性活用にしか活路がないとわかりつつも己の偏狭さゆえに滅びつつあるあんたら男と何が違うの??? とつっこみどころがありまくりだったり、しょせん白人の男様だなという感じ。
    解説がまたひどくて、たいがいな爺である著者2人を「若者」とか、ホモソ爺社会の衰退の原因をまざまざと見せつけられる内容だったw

    2020/4/30〜5/1読了

  • ・P27:人口置換モデル
    1st stage:出生率も死亡率も高い
    2nd stage:出生率は高く死亡率が低い
    3rd stage:出生率も死亡率も低い
    4th stage:出生率は人口置換率に等しく、死亡率は低い
    5th stage:出生率は人口置換率を下回り、平均寿命は延び続ける

    ・P41:テレビドラマによる「両親に子供ふたり」という新しい家族像
    このクリーバー家(50年代の人気テレビドラマ「ビーバーちゃん」の一家)ははらずも、一つの思想信条を社会に広めるアイコン役を務めた。"家族とは夫と妻、および夫婦の作った子どもたちで構成されるものである"---誰もがそう思い込んだのである。

    そのような家族は昔から普遍だろうと思われるかもしれないが、実はそれまで存在しなかった。20世紀になる前の家族は、もっとゆるやかに広がっていた。若い夫婦がどちらかの両親と同居することも普通であり、経済的に独立するか家が狭くなり過ぎてからやっと別居していたものだ。

    ・P46:都市化と女性の地位向上が、発展途上国でも起きつつある
    何が出生率を引き下げるのかをもう一度思い出して欲しい。---それは都市化である。都市化が進むと若い労働力は不要になり、逆に子どもは経済面での負債となる。そして都市化は女性に力を与える。自分の身体を自ら支配できるようになった女性は、例外なく子どもの数を減らす。

    この二つの要素は19世紀から20世紀にかけて先進国の社会にしっかりと根をおろした。そして今やこの2つの要素は発展途上国にも影響を与えつつある。国連は2007年、その年の5/23に人類史上ではじめて、都市に住む人の割合が農村に住む人の割合を上回ったと宣言した。

    ・P78:今回の人口減少は、ゆっくりと時間をかけて意図的に行われる
    著者である我々二人は、国連の「低位推計」かそれに近いシナリオが実現するだろうと考えている。読者の大半は、生きているうちに世界人口が減少に転ずる日を目撃するだろう。

    ・P97:根強い反移民感情
    ブリュッセルの夕食会に集まった若きフランドル人のカップルたちには、イスラム教徒の友人が一人もいない(それどころかワロン人の友人もいない)。本人達もわかっている。この全く異質な新しい住民達がベルギー社会に溶け込めるよう、ベルギー人はもっと努力しなければならないと。「彼らのことをもっと知りたいと思います。我々は皆、お互いのことをもっと理解できるようになるべきです」とジュディスは力説する。だがそれは簡単ではない。

    ・P105:良い環境でも悪い環境でも下がる出生率
    工業化と都市化、そして経済成長によって初めて、産む子供を少なくしようという選択ができる条件が整えられる。ところが、一度そうなった後では、不況になると出生率低下につながりかねず、景気が回復すると子供作りも上向く。良い条件が出生率を下げ、悪い条件も出生率を下げるのだ。

    ・P123:移民や難民を受け入れないアジア諸国
    よそ者になかなか国籍を与えないのは日本だけではない。中国、韓国、そして台湾も、移民や難民の受け入れはほとんどゼロに近い。こうした国や地域の人々は、自分達が人種的に同一と考え、その同一性には価値があり、守るべきものだと思っている。

    ・P145:米国の可処分所得の70%を握るベビーブーム世代
    オールドチェラは"ブーメサンス"の代表事例だ。ブーメサンスとは、X世代やY(ミレニアル)世代よりも人数が多くて裕福なベビーブーム世代のニーズに応えよう、というマーケティング上の積極的姿勢を示す。

    ・P181:負の遺産に苦しむブラジル
    かつての宗主国スペインとポルトガルはひどい支配者で、金と砂糖を持ち去った代償としてカトリック以外はほぼ何も残さなかった。そして、一度でも奴隷制に汚染された社会は何処もそう簡単には元に戻らない。ブラジル人はいまだに"パラ・イングレス・ヴェール"---「イギリス人に見せるため」という言い方をする。

    この定型句の由来は19世紀、国内外を問わず奴隷貿易を禁止したイギリスに見せるため、奴隷貿易をしていないかのように表面を取り繕った港を指した。今でも、部外者に良い印象を持たせるために悲惨な現実を持つものは全て"イギリス人に見せるため"と言う。

    ・P259:移民排斥の伝統
    アメリカの歴史には、人種差別的で国粋主義的で大衆迎合型の不寛容な思想が、一本の暗い水脈のように脈々と流れている。いわく、近頃の移民は自分達アメリカ人と異なり、英国の価値観とプロテスタントの信仰を持っていない。その二つこそが、アメリカ建国の根底にある真の価値観及び信仰なのだ。

    新しい移民が我々に同化することは決してないだろう。移民の受け入れを止め、既に国内に入っている移民には警戒の目を緩めずにいるべきだ。彼らはアメリカへの脅威である---。

    1978年に成立した「外国人・治安諸法」をめぐる議論には、こうした考え方が色濃く反映されている。同法の狙いは、建国間もないアメリカをフランス移民やフランスの影響による堕落から守ることにあった。

    ・P288:利己的な理由で移民を受け入れるカナダ
    ・P294:ベトナム難民の大成功
    カナダ人が難民や移民を喜んで受け入れるのは、カナダ人が特別に善良な人々だからではない。それがカナダ自身の自己利益になると発見したからである。この発見はカナダの歴史に根深く刻み込まれている。しかもこの発見は、カナダが国家として機能的欠陥を持つという残念な事実がもたらした、意図せざる結果なのである。"国をひとつにまとめあげることができない"という国家としての機能的欠陥こそ、カナダが脱国家と多文化を見事に実現できた秘訣だったのである。

    ・P301:脱国家的国家
    カナダにはそこまで強い国民的気質というものがない。カナダ人はお互いが相手に合わせようとする。この"調整の文化"がカナダという国を、形もなければ目的もなく、結局は意味すらも持たない場所にしている。

    ・P302:アメリカからカナダへの"難民"
    カナダ人は、自分達でそうありたいと思っているほど移民に寛容ではない、と(クィーンズ大学のキース・)バンティング教授は言う。

    「(カナダ人の意識は)大まかに3タイプに分けることができます。全カナダ人の1/3は多文化主義を全く支持しておりません。1/3は熱心な多文化主義者です。最後の1/3は"軽度の多文化主義者"とでも言うべき人々で、今の(多文化主義的な)政策を条件付きで支持しています。彼らの支持は変わる可能性があります。」

    ・P303:ケベックはアイデンティティを守りたい
    一方、ケベック州の人々の意識はどうか。認めたくない事実ながら、ケベック人は他のカナダ人に比べ、多文化受け入れに対する許容度が遥かに低いのである。その一因は「ライシテ」に関係する。これはフランス由来の政教分離政策で、もともとはカトリック教会の権威に反発から始まった。

  • 世界で出生率の低下が起きていて、2050〜2060年頃から世界人口は減り始める。
    要因は女性への教育普及により子供を産む選択の権利が向上したこと。また、都市化が進み、子供を持つことがコストになることで、多く産みたいと思う女性が減ったこと。
    この現象は止められることが無いという。
    本書では人口減少の解決策が移民を受け入れること以外に提示されていなかった為、残念だった。
    出生率をあげるには、都市化ではなく地方に移住させ、子供を育てるコストを下げるのがいいのか?

  • ● 2050年、人類史上初めて、世界人口が減少する。一旦減少に転じると、二度と増える事は無い。
    ●復活への切り札は1つだけ。
    ●マルサスの人口論は間違い。人口は爆発しない。
    ●中国の弱点。統一された大きな帝国には強大な中央政府が必要であり、そこには強大な官僚機構が必要となる。そして強大な官僚機構汚職と腐敗を読み込む。
    ●日本の女性の4分の1が高齢者。妊娠可能年齢にある女性の数は1年ごとに前年より減っていくから手に負えない。
    ●アジア諸国は、移民や難民を受け入れない。ロスジェネ、世界一の債務残高、働けない高齢者、教育費に苦しむ若者。
    ●日本は社会に意味を受け入れるか、それとも小国として生きる術を学ぶか、そのどちらかしかない。
    ●アフリカの人口爆発は止まる。持参金の仕組みが出生率を下げる。
    ●ブラジルも出生率が急に減っている。
    ●同性婚を支持する国ほど出生率が低い。ブラジル、チリ、メキシコ、アルゼンチン、ウルグアイ。
    ●アメリカの世界一は、今も昔も移民のおかげである。
    ●人口減少こそ温暖化防止の最適解。
    ●アメリカが失敗したら、インドが世界の中心に踊り出る。

  • 日本やその他先進国、それに中国、アジア。人口減少はこれらの国々で起きていること。でもなぜか将来的には人口増加をなんとかしなくちゃならない。なんだか矛盾した考えを持っていた。

    しかし実はアフリカでもそうなるだろうということが実データや各国での聞き取り調査でリアルに実感できた。

    キーワードは女性だったのだ。女性が教育を受け、自分で自分の運命を決められる権利を持つ社会では同じことが起きる。これは腑に落ちた。

    とすると、フランスなどは人口減に踏みとどまっているように私には見えていたが(大多数の人はそう思っているだろう)、それもあくまで延命措置に過ぎないように思える。

    移民を増やすぐらいしか策がない。しかしそれも移民がその国に馴染んでくると、女性が権利を持ち、教育を受けていくと早晩その国の女性と同じように子供を産むことを避けるようになるのだから移民政策も焼石に水、ただの延命措置でしかない。
    それにそもそもどの国も人口減少し始めると他の国に移民する必要がなくなる。かくして移民政策も取ることができなくなる。

    女性を虐げ教育を受けさせず権利も与えない社会が世界から消え去った時、全世界で同じ状態になってしまうのだろう。

    とすると、先日中国で人口子宮システムを開発したとニュースで出ていたが、人類としてはいよいよ真面目に取り組むべき事柄だと実感する。もう人類は人口子宮で種を残すしか道はなさそうだ。SFではありふれた世界だが、その世界でなければならない必然性、理由ができてしまった。ロボットに人間を管理される世の中というテーマではなく人類が種を長らえさせるために必要な技術だったのだ。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/748328

  • めちゃくちゃおもしろかった。
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163911380

    日本は政策転換しないと国として壊滅する日が近い、として海外各国から注視されているという内容。人口動態と女性の社会進出の関連はよく言われていることだけどさらに突っ込んで仮説を立ててるところがおもしろいし現実味がある。もうね、こんなに資源のない国でものづくりを経産省がいまだに進めてる時点で終わってるんだよね。職人技術はすばらしいけど、なぜか職人気質の崇拝になってしまいがちなのも終わってる(精神論やめて)著者はコンサル会社とジャーナリストで二人ともカナダ国籍の人のせいもあってカナダをベンチマークにしてる(カナダ人の自国愛は強い)(おわり

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