円谷幸吉 命の手紙

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163911021

感想・レビュー・書評

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  • 円谷を失ったのは、日本の大きな損失だったけど、人間円谷にとって、本当に大事なものは何だったのか。

  • 私が初めて円谷幸吉を知ったのは
    小学生の夏休みの自由研究で『オリンピックの歴史』を調べた時だった。
    記念すべき東京オリンピックでマラソンランナーとして参加し、ゴールの国立競技場に入ったところで後続のランナーに抜かれ銅メダル。
    その後自殺したという事実は小学生ながら衝撃だった。

    当時は国民の前で抜かれ銅メダルに〝なってしまった〟ことを悲観しての自殺だったんだなと単純に考えてしまったけれど、実際亡くなったのは四年後のメキシコオリンピックの直前だったから、そんな単純な話ではなく…。(もちろん一因ではあっただろうけれど)

    色々な不運や怪我、裏切り…色々な要因があっての自殺だったんだということがこの本を読むとよくわかる。(もちろん真実は本人にしかわからない)
    そういう経緯を読むと有名な遺書の内容がまた身につまされるほど悲しい。

    その頃の日本は多分今の日本以上にオリンピック選手に対して結果を求めていただろうし、プレッシャーも大きかったと思う。
    円谷幸吉という人を知った日から随分経ってから、ロサンゼルスオリンピックの水泳で代表だった長崎宏子選手が世間が期待したメダルを獲ることができなかった時、彼女が自分を追い詰めて間違った選択をしたらどうしようと思ったことを思い出した。

    今はその頃とはまた違った空気の中でオリンピックが行われるようになったけれど
    それは表面だけで、一人一人の選手の中には相当の葛藤があるのだろうと思う。

    アスリートは技術力はもちろんだけれど、相当の精神力を必要すると思うから、私には到底真似できない人達であって、だからこそ尊敬に値する。
    (もちろん個人差はあるにせよ!笑)
    この先、円谷幸吉のような辛い思いをして自分を追い詰め、疲れ果てた末に自分で命を終わらせる人が出ませんように…。

    最後に、自殺の動機の一つになったのではないかと言われた婚約者との破談で
    元婚約者の証言は衝撃的だった…。
    まあ、事実だったら…の話だけれど。
    これも当人同士しか分からないこと。

  • オリンピックに殺された男の話。
    オリンピック選手って、
    綺麗な面…輝かしい功績だったり、見せどころのある挫折…しか見えないことが多い。
    だから、この本はとてもリアル。
    文化系より体育会系の方が結局はやってることが陰湿だよな、と思った。

  • 円谷幸吉は、言うまでもなく1964東京オリンピックの男子マラソンで銅メダルを取った伝説のランナー。
    しかし、その栄光から、わずか4年後に自ら命を絶ってしまいます。
    本書は、自死の影に一体何があったのかを、膨大な数の手紙や関係者への取材を元に迫ったノンフィクション。
    栄光の影に挫折あり。
    東京オリンピックで銅メダルを獲得した後の円谷は、まさに挫折の連続でした。
    自衛隊体育学校に在籍しながら練習に明け暮れますが、体調不良とスランプに見舞われ、大会では記録が思うように伸びません。
    信頼していた指導者が異動(事実上の左遷)で離れ、孤立無援の状態で、もがき苦しみます。
    さらに私生活では、婚約していた女性がいましたが、破談に追い込まれます。
    転落と言えばこれ以上ない転落ぶりは、読んでいて痛々しいほどです。
    それでも幸吉は、来たるメキシコオリンピックでの「金メダル獲得」を至上命題に掲げ、闘志を燃やし続けます。
    しかし、肉体は思うようになりません。
    幸吉の苦悩はいかばかりだったでしょう。
    自殺する前年1967年の大晦日には、郷里の福島県須賀川市で一家団欒、地元の味覚を堪能します。
    地元の味覚は、幼いころから郷里を駆け巡っていた記憶と密接に結ばれていたことでしょう。
    そして、年が明けて1月9日、自衛隊体育学校宿舎の自室でカミソリで頸動脈を切って自死します。
    「父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました」から始まる、あの有名な遺書は、読んでいて胸が詰まりました。
    「幸吉は、もうすっかり疲れ切って走れません」
    の言葉は、涙なしでは読めません。
    これほど哀切な死が、全体あるでしょうか。
    幸吉の死後、彼の遺書に触発された三島由紀夫は、こう一文を記しました。
    「自尊心と肉体は、もっとも幸福な瞬間には、手を携えて勝利の壇上に昇ったが、もっとも不幸な瞬間にはお互いが仇敵になる。実に簡単なことだ。解決は一つしかない。自尊心を活かすためには、崩壊に赴こうとする肉体を殺すほかない」
    恐らく、そういうことなのだろうと思いました。
    最期の日々に付き添った謎の女の正体に迫る最後の章も読み応えがありました。
    2020東京五輪の前に読みたい一冊。

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著者プロフィール

 1954 年石川県生まれ。スポーツノンフィクションライター。著書に「神様が創った試合――山下・星稜VS 尾藤・簑島――延長18 回の真実」「日本シリーズの決定的瞬間――その時、指揮官は何を決断したか」「ダルビッシュ有はどこから来たのか」「原貢のケンカ野球一代」など多数。

「2019年 『東京オリンピック1964』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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