- Amazon.co.jp ・本 (861ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163910970
作品紹介・あらすじ
舞台の書き割りのように嘘っぽく、突き破って奥へ進んでもまた別の書き割りが現れるこの世界で、翻弄される人間たちもまた、その書き割りの一部のように描いた。作り物に徹するその絵には乾きのおかしみがあり、胸に深く迫ってくるのだ。本作は高度に複雑化し、現実より「作られた現実」の出来事が強い力を持つ社会を生きる現代人の感覚を強く意識する。(「読売新聞」5月28日、文芸月評より)※※※※※現実が終わり、伝説も終わる――作家・阿部和重の東京の自宅に、ある夜、招かざる客が瀕死の状態で転がり込んできた。その男・ラリーの正体は、CIAケースオフィサー。目的は、地下爆発で国会議事堂が崩落したことにより首都機能が移転され、新都となった神町に古くから住まう菖蒲家の内偵。新都・神町にはまもなく、アメリカ大統領オバマが来訪することになっていた。迫りくる核テロの危機。新都・神町に向かったCIAケースオフィサーと、幼い息子を連れた作家は、世界を破滅させる陰謀を阻止できるのか。『シンセミア』『ピストルズ』からつづく神町トリロジー完結篇。作家、3歳児、CIAケースオフィサーによる破格のロードノベル!
感想・レビュー・書評
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864ページ…文庫本だと2分冊になって528+567ページ。なっが…
阿部和重ビギナーだった頃、真っ赤な本書を図書館で見つけて興味を惹かれて借りたのだが(奥様の川上未映子さんの「夏物語」を同じ時に借りてる。ブクログの記録見ると2019年12月登録となっているから、もう4年以上前。コロナ・パンデミックの直前のことだ)、その厚さと一見堅苦しい文章に恐れをなして、最初の15ページくらい読んで返してしまった。
今回は僕も阿部さんの著書の経験を積んで、また、オーディブルの力を借りて読み切った。(ちなみに、32時間41分の朗読)
神町トリロジー最終作。
CIAケースオフィサーと作家・阿部和重がタッグを組み、オバマ大統領の首都・神町訪問に際して仕掛けられた核テロを防ぐ、というストーリー。
作中には、奥様・川上さんも出てくる。
川上さんピキッピキな感じで描かれている笑
この作品の中では、東日本大震災は起きていない。
代わりに、永田町直下型地震が起きて国会議事堂が崩落し、そのことが原因となって政府は首都を山形県東根市神町に移転する。
なぜ、移転先を山形県東根市神町に?
それはまあ、読んでみて。
すごい真面目な小説だと思うんだけど、物言いが大仰で、どうしてもじわじわと可笑しくなってきてニヤニヤしながら聞いてしまう。
阿部さんの作品、大好きだなあ。
♫What the World Needs Now Is Love/Jackie DeShannon(1965)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
自分の感想をまとめるために他人の感想を読んだが、三部作の最終作から読んでしまった割にかなり入り込めて読み易く内容も充実していたのに、評価が低くて、不思議な流れで前作への期待を高める形になった。内容としては映画的というか、海外ドラマを活字で読んでる感があり長さの割にずっと集中出来るピークが持続されており、名前に偽りなしと思った。初の阿部和重だが、自分には以前の作品も読みたくなるとても高水準なものだった。
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2020年9月6日、2周目読み終わっての感想を追記。
阿部作品、年代順に読んできてたどりついた現時点での最新刊。初読時に感じた文体や表現のウザさは嘘のように消えて、冒頭から面白く読めた。というか、初読時は様子見というかお手並み拝見というか、なぜかだいぶ意地悪く読んでたみたい。
私はシリーズものが苦手で、そのわりに好きなシリーズものの新刊を楽しみに生きてみたいという憧れがあるのだが、一連の神町ユニバース作品のおかげで、シリーズもの(じゃないけど)を楽しむ喜びがちょっとわかったかも!
前に図書館で書評まとめ読みした時に仲俣暁生さんのが一番わかりやすく面白かったから、また読み返してみたけど、やっぱりここまで深くは読めなかったなあ。頭の中で次々映写される場面に運ばれ、細かい描写に乾いた笑いを誘われつつ、忘れてた展開に驚いたりしてるうちに、意味を考えるのを忘れちゃったんですよね。阿部作品はそういうパターンが多いかも。再読ゆえの深まりとかなかったです。
ひたすら巻き込まれる45歳小説家阿部和重とは対照的に、じぶんの意志で神町を駆け巡っているであろう映画監督の川上さん、カッコ良かった。父子関係も素直にいいなあと思えた。お子さんの成長を見守っているからこその変化がこれからも作品にあらわれていくのかな(とかいう期待を裏切ってくれてもまたよし、だが)
田宮家好きだから、もっと彩香に出てきて欲しかったな。あと、久々にサイモン&ガーファンクル聴きたくなりました。聴こう。
以下、初読時の感想↓
860ページの長編、最初は正直、永遠に読み終わる気がしなくてどうなることかと思ったけれど、200ページを過ぎた頃だろうか、オバマとゴルフクラブのくだりあたりからじわじわ面白くなってきた。というか、楽しみ方がわかってきて、無事に最後まで読めました。以下、感想を備忘録的に。
*『シンセミア』未読、『ピストルズ』面白かったけど内容全部忘れた状態で読みました。なまじ『ピストルズ』を読んでいただけに「ああこの人物いたな。でもよく思い出せない」というモヤモヤが序盤の停滞の原因となった気がする。でも、思い出すのを潔く諦めてからは流れに楽しく乗れるようになった。楽しみ方としては、ひたすら台詞の応酬が続くタランティーノの映画とか、黒沢監督でいうと『ドッペルゲンガー』や『セブンスコード』、あと、今年読んだピンチョンの『LAヴァイス』に近いのかな。
*愛してやまない『ミステリアスセッティング』と少しだけつながっているおかげで挫けずにいられた。
*独特の文体は最初「うーん、ちょっと滑ってる?」と感じてしまったんだけど、だんだん憎めなくなってきた。例えば、英語の小説なんかでは普通にある、固有名詞や代名詞ではなく「四五歳の小説家」といった説明的な表現を主語にあてる手法。最初はちょっとうざかったのだが、執拗に繰り返されると「許せる」を通り越して「好きかもしれない」とすら思えてくるというか。
*アヤメメソッドの特性上、どこまでが幻でどこからが現実なのかよくわからない。慣れてくると「ああ、これは幻覚なのだな」とわかってくるのだが、ちょっと油断するとすぐ騙される(笑)。この仕組みは面白かった。あと小刻みに時系列が戻ったりするのも。
*これだけ育児に積極的な父であっても、「父と子」と「母と子」のつながりってのは種類が違うんだなあ、と妙に感心してしまう部分多々あり。きのこ頭の映記くんの脳内キャストは『シャイニング』のダニー坊やで。
*数々の引用の何割くらいを理解できたのかはわからないけど、知ってるの出てくると嬉しくなりますね。とりわけ、最後に引用された詩人。これを数年前に訳した本を通して知っていたことは、長い物語を読み通したごほうびのように感じました。知らない固有名詞は基本読み流したのだけれど、けものの勘で唯一ググった「アッシュ・ケッチャム」はググってよかった。
ちょうど文芸誌の書評が出そろうタイミングで読み終えられたので、近々で図書館に行って各誌読み散らかしてこようと思う。 -
「シンセミア」はめっちゃハマった、「ピストルズ」はそうでもなかった、でも「シンセミア」がおもしろ過ぎたんで続編が出たって聞いた時は「文庫になったら読もう」と思ってた。ただ、文庫が上下巻になってハードカバーと大差ない値段になるとは思わんかった。そして、そのタイミングでハードカバーの古本に巡り合うとは。
で,中身。神町サーガ完結編とは言うものの神町パート少なくね?正直思ってたんと違う感。長さにしては読みやすいけど、そこまで引っ張られることもなかったかな。 -
ピストルズ、シンセミアと続いてきた神町トリロジーの最終話。話を膨らませた割に結末のインパクトが乏しかった。
神町の町民たちも、菖蒲家の人たちも、パッとしない。 -
シンセミア、ピストルズに続く神町三部作のラストの作品。発刊された直後から気になってた作品がやっと読めた。
阿部氏本人が主人公となり、大活躍するのだが前作の二作が面白かったか。
2019年の作品だが、今のプーチン大統領の暴挙を予言する記述があって興味深い。 -
「シンセミア」「ピストルズ」に続く神町トリロジー最終作。阿部和重は神町を書くのはこれで最後だとあとがきで述べている。本当に最後なんだな...と思わせる大作である。
阿部和重作品を初めて読んだのは、本作品でも散々言及される「スパイ養成所出身者の日記という設定」の「インディヴジュアル・プロジェクション」であるが、それ以前の阿部和重作品はよくも悪くも形式的な文章に拘っているように読め、(全く内容が思い出せない)「ABC戦争」始め、「とにかくなにがなんだかよくわからず、情報が絡まって複雑極まりないが、力業で押し切って読ませてしまう」文体だった。当時高校生だった私の脳は爆発寸前であった。
これまた本書に言及がある「ニッポニアニッポン」、すなわち「シンセミア」以降の阿部和重は情報量をそのままに文体を変化させている。それは純文学の論理の中にエンタメを巧みに組み込んで大風呂敷を広げまくる作品であり、広げ切った風呂敷をそれでも(広げる前のようにはいかないが)畳むことのできる稀有な作家となった、ように思う。
やっと本作「オーガ(二)ズム」の話に移ると、主人公は「テロリズム、インターネット、ロリコンといった現代的なトピックを散りばめつつ、物語の形式性をつよく意識した作品を多数発表している」作家・阿部和重である。自己を投影した主人公の紹介がWikipediaからの引用である点がまず興味深い。彼の家に血塗れの外国人が転がり込んでくるところから物語は始まり、「シンセミア」「ピストルズ」のみならず「ニッポニアニッポン」「ミステリアスセッティング」などの著作を巻き込みながら物語はどんどん広がってゆき、そして「神町」に収斂する。
兎にも角にもまずはこの小説の情報量である。ニュースからの引用を巧みに構成した物語世界は、明らかにぶっ飛んでいるのにリアルである。この構成力には舌を巻くほかない。そして、情報の細かさ。とにかく商品名から何から何まで具体的名称に拘った表記。読みながら何度かGoogleのお世話になった。
そして極上のエンタメ、ロードノベル感を提供しながら圧倒的に描かれるのがこの日本の形。CIAにひたすらこき使われる阿部和重(彼が「アッシュ・ケッチャム」の渾名を付けられるのはさすがに調べて笑ってしまった)、本人も「属国人」と名乗る日米関係。そしてその裏で暗躍するものの「望み」。広げに広げた風呂敷を大団円で畳まず、26年後に飛ばして見せる日本の形。
そして私もすっかり忘れていた「アヤメメソッド」。この力の強大さが物語に「信頼できない語り手」を頻出させ、物語が複雑化する。と同時に「人の心を操る」とは何なのか、人心とは何なのかを昨今の社会情勢とともに考えずには居られない。
「神町サーガ」のなかでもとりわけ読みやすいこの作品は、齋藤環の指摘もあるように伊坂幸太郎との共著「キャプテンサンダーボルト」を想起させる。リーダビリティも人への薦めやすさもトリロジー中いちばんだ(「シンセミア」は表立って人に薦めにくかった...)。トリロジーを全部読むのが厳しいと思っても、この1冊から遡っても全く問題ないので、是非この大きな偽史物語を読んでいただきたく思う。 -
結局あそこでぼこぼこにされた阿部和重は一体誰だったんだろう。
ずっとフルネームなの面白いですね。
そして3歳児はいつもアイドルであり独裁者。
誰も敵わない。 -
『シンセミア』、『ピストルズ』に続き、山形県の架空の町、神町を舞台としたいわゆる”神町サーガ”の最終作。とにかく面白すぎて、700ページを超える大著だが、一気に読んでしまった。
作家本人を主人公に据えた上で、東京から首都機能が移転された神町を舞台に、バラク・オバマ&CIA、そして前作『ピストルズ』で描かれた菖蒲家という特殊能力を有する一族の対立を描く本作は、極めて良質なアメリカのアクション超大作映画を見てるかのようなスリルに満ちている。
前2作を読んでいれば、それぞれの登場人物や世界がこうした結実するということに驚きを覚えるだろうし、読んでいなくてもこのリーダビリティの高さと躍動する物語の面白さは必ず伝わるはず。
思い起こせば2003年、大学2年のときに『シンセミア』の単行本上下巻を徹夜して読んでしまった日のワクワク感は未だに色褪せていない。17年経ち、その世界がこうして結末を迎えつつ、最新作がこうした感動に満ちたものであることを喜びたい。 -
スケールはとても大きいのに舞台はほぼ山形の神町だけなのが面白い。主人公が阿部和重さん、ご本人。これまでの神町サーガだけでなく他の阿部作品の集大成でもあるかのような内容で本気で楽しむためには『ミステリアスセッティング』『ニッポニア・ニッポン』は読んでおいた方がいいようだ。数々のサブカルチャーからの引用がちりばめられており、注釈をつけたら大変なことになる。まったくの同世代のため理解できるのが嬉しい。去年の末までに読み終えたかったのだけど、800ページもあって、しかも文字がぎっしりつまっているページが多く、一か月遅れでようやく読み終えた。途中、阿部和重が戦場に巻き込まれ、巨大ロボが現れる章があって、最後の方でその説明があるかと思ったらまったくなかった。結末でラリーが生きていると判明した場面は泣きそうになる。