- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163910918
作品紹介・あらすじ
単行本刊行前から注目の「オール讀物」新人賞作家が、2人同時デビュー!〝どっかりしていて、愛嬌がある小説〟森絵都(第96回 オール讀物新人賞選考委員「姉といもうと」選評)〈生きる姿勢が美しい人〉は、ときに可笑しくて、でもじんわりと沁みる。つぶれたスナックの女性店員たちが開いた競馬場で同窓会、職人気質のクリーニング店主と下着を持ち込んできた若い女性客、幸田文の『流れる』に憧れる家政婦の姉と子どもの頃の事故で指をなくしたラブホテルの受付の妹……。乾いていて衒いがないのに、そこはかとなく〈艶〉のある、クセになる文章のリズム。読んでいて、おもわずほほえんでしまう巧まざる〈ユーモア〉、人間観察からあふれでる、生きることへの〈姿勢の良さ〉。身近にありそうな、でもちょっとだけいつもと違う世界を、〈女性たちの持つ違和感〉を織り交ぜつつ、町の商店街の生活、女性同士の友情と葛藤、男性への鋭い視線などを通して描く実力派新人が登場。ささやかだけど美しくて、すこしおかしな日常、全7篇の短篇集。〈収録作〉「ラインのふたり」(アンソロジー『女ともだち』(文春文庫)収録)「カシさん」(第一回林芙美子文学賞最終候補作)「姉といもうと」常(第96回オール讀物新人賞受賞作)「駐車場の猫」「米屋の母娘」「一等賞」(『短篇ベストコレクション 現代の小説2019』(徳間文庫)収録)「スナック墓場」
感想・レビュー・書評
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R3.8.10 読了。
どこかにありそうな日常が描かれた短編小説。「米屋の親子」「一等賞」「スナック墓場」が良かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
初読み作家さん。
表題作含め七編を収録。
人生の一コマを切り取った作品集なのだけれど、不穏なことが起きそうで起きない、この不可思議な感覚が面白い。
例えば「カシさん」。クリーニング屋の常連となった「カシ」なる女性客。初めての来店の時にいきなり下着を出して断ってもなんとか洗ってもらおうとしたり、クリーニング屋に出した服ばかりを着ていたり。その服も何とも言えない微妙なセンスだったり。
例えば「姉といもうと」。物心ついたときから指が何本も欠けている妹と暮らす女性。派遣型の家政婦をしつつ、その派遣先の主人と妹との不思議な縁に気付く。
そして表題作の「スナック墓場」。特に美人がいるわけでもないいかにもな場末のスナックだが繁盛している。だがいつの日からか一人また一人と常連客が亡くなっていく。
他にも「ラインのふたり」ならバイトには許されない車通勤、「駐車場の猫」なら隣のふぐ屋、「米屋の母娘」なら米屋で販売している奇妙な弁当、「一等賞」は主人公の両親との関係、ドキッとする要素がある。
作家さんによっては陰惨な殺人事件だったりドロドロの人間関係だったり、救いようのない家庭内暴力だったりに発展しそうな要素なのだが、この作品集はいずれとも違う。
短編である故とも言えるかも知れないが、最初はやや拍子抜けな感があった。だが読み進めて行くにつれてこれが奇妙な味というか癖というか、興味深くなってくる。
つまりそんな不穏な要素はちょっとしたスパイスであって、それは主人公たちのドラマには関係ないのだ。
不穏な要素を抱えている側から書けば大事件にまで発展するのかも知れないが、そうした大事件とは関係なく生きている側の人たちの物語。不穏な要素があってもそこに振り回されずに生きている姿は何とも清々しいように見える。 -
ちょっとかわった、でもたいして変わらない日常がつまった短編集。
『ラインのふたり』…工場のライン製造で日雇いのアルバイトをする亜耶と露子。その管理をしているジャミラさん。
『カシさん』…街のクリーニング屋の突如現れ、着る服すべてをクリーニングにだすカシさんと、クリーニング店の夫婦のおはなし。
『姉といもうと』…幸田文の小説にあこがれて、家政婦をしている姉の里香。両指に欠損がありラブホテルで働く妹の多美子。
『駐車場の猫』…商店街で布団屋をやっている民子。街猫としてかわいがっている猫は向かいのふぐやの隣の駐車場に現れる。
『米屋の母娘』…ケアマンションでくらす母が怪我をしてしまい、様子をみに訪れる息子の益郎。弁当を買うのは向かいの米屋で、そこには愛想の悪い母娘。
『一等賞』…時々“発作”がおきてしまう荒雄さん。商店街のみんながやさしく見守っている。
『スナック墓場』…スナック波止場の同窓会が行われているのは大井競馬場。美人はひとりもいないのに、なぜか繁盛しているスナックには、なぜか死の匂いがつきまとい…。 -
軽作業で知り合った2人の女性霧子と亜耶のふとしたできごとを描いた「ラインのふたり」
商店街のクリーニング屋さんに来るようになった女性はなぜか下着まで洗濯に出してきて…「カシさん」
家政婦をしている姉と指を失った妹の話「姉といもうと」
商店街の布団やさんの女将さんがかわいがっている地域猫。ある日女将さんが入院することになって…「駐車場の猫」
怪我をした母親の様子を見に行く息子が毎回気になるのは…「米屋の母娘」
自分を忘れるアラオさんを温かく見守る商店街の話「一等賞」
ばあさんとおかめと軍曹しかいないのに毎晩いろんな人が集う「スナック波止場」
短編7話
特にオチがあるわけでもないし
心に残るストーリーでもなかったし
そんなにじんわりもこなかった
いや~ちょっと私には合わなかったな… -
特別じゃないようで特別、特別なようで特別じゃない。
人間って一人ひとりにドラマがあるんだよな、ということを読後感じました。
お隣さん、同じ職場の人、姉妹、夫婦・・・自分にいる近くの人にだってストーリーがある。
そういうことをかみしめて生きたいなと思えるような本でした。
産後1年、やっと本を1冊読めた嬉しさ。 -
私の好きなタイプの小説なんだけどなぁ・・・
なんでもない毎日を丁寧に生きている人の(この本では女性の)日常を、物語にしました。
なのに、
面白くないのはなぜ?
心動かないのはなぜ?
登場人物が魅力的でないから?
物語の世界の中でいきいきとしてないから?
その理由を誰か見つけて -
7編の短編が収められている。
パート仲間、二人だけで暮らす姉妹、商店街の人々、閉店したスナックで働いていた同僚たち、など登場人物はさまざまだが、どれも日々の小さな暮らしの中でさりげなくお互いを気づかう優しさが描かれている。
ただ人間なので、どんなにわかり合っているつもりでも決して噛み合わないことがある。勝手に敵視していた人から優しくされたり、心が通い合ったと思った人から邪険に扱われたりと、微妙なずれによる苦い気持ちや気まずさもはっきりと書かれており、どの作品もSNSでは決して得られない生々しい心の交流を深く感じた。
通いの家政婦として働きながら妹を気づかう『姉といもうと』が最も印象に残った。 -
どの話も後にじっとり残る話ではないけど、なんとも味のある話。
姉と妹の話、ラインの2人、が好きでした。
私にも妹がいました。
こんな感じに暮らせたら楽しかったかも…と思う。
料理も掃除も好きで上手な妹、好きでないけど上手にできる姉。家政婦になりたいと思った理由が、昔読んだ本に由来する、なんかいいな。
多分、初読み作家さん。 -
ちょっと可笑しく、微妙に悲しく、なぜか羨ましい、そんないい話が詰まった短編集。日常を描いていても、他人から見れば、それは非日常である。その距離感を近づけてくれる魅力にあふれている。「姉といもうと」「ラインのふたり」が特にお気に入りで、黙々と生きている姿を見せつけられた。静かに、黙々と、力強く。