人口で語る世界史

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  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910857

作品紹介・あらすじ

人口を制する者が、世界を制してきた──ロンドン大学・気鋭の人口学者が、“人口の大変革期”に当たる直近200年を叙述。「人口」×「歴史」を交差させた、全く新しい教養書の誕生!・産業革命のもといち早く人口を増加させた英国は、植民地政策のもと世界の覇権を握った・猛追するドイツとロシア。人口膨張への脅威が各国を戦争へ駆り立てる・ヒトラーによる優生学。人口増との大いなる矛盾のゆくえ・日露戦争に勝利した大日本帝国は、世界の人口大国へ・超大国アメリカの出現。人種・移民問題を端緒とする翳りとは・戦後の復興も遂げた日本が、世界に先駆けて少子高齢大国へ陥った本当の理由・王者・中国の14億人パワー。だが一人っ子政策の後遺症が。インドはいつ追い抜くか「人口」に対して、「技術革新」「経済」「地政学」「為政者」「戦争」「宗教」「イデオロギー」「移民」「医療の進歩」「女子教育」「自己決定権」などの様々なファクターを掛け合わせ、アカデミックな裏づけのもと一般読者向けに書き下ろした決定版。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、ロンドン大学の人類学の教授である著者が、きちんとした学術的な考察を踏まえて上で、一般読者向けに書きおろしたものだそうだ。

     1800年代以降の世界の人口変動から世界史を語る。
    なぜこの200年なのか?

    「その答えは、18世紀末から19世紀初めに、人口学的に歴史の大きな断絶、根本的な変化があったということだ。これ以前にも、人類が人口学的に劇的な変化を経験していたのは間違いない。ただそのほとんどは伝染病や大虐殺など、死に関わるものだった。そのような出来事は散発的で、長期にわたって影響が続くものではなかった。」

     産業革命以降、資本主義の発展の歴史を語ったピケティも、この200年を俯瞰していたが、学際的にも、1800年以降の世界は、歴史的に貴重な一時代なのかもしれない。

     本書を読むと、人口問題は、経済、政治のみならず、文化やイデオロギーなど、あらゆる領域で、民族、国家の方向性を左右する大きな要素であることがよくわかる。

     「マルサスの罠」(ある地域の人口は、その土地で生産される農作物で養える以上に増えない)から解き明かし、産業革命以降、農業生産性向上や輸送手段の発達、公共衛生環境の整備により、マルサスの罠を抜け出す国が現れ、人口転換という現象がブリテンから始まる。要は、人口爆発の端緒だ。死亡率の低下、出生率の低下、人口転換による、新たな食糧調達先を求めての移住、そして移住先での新たな人口転換・・・。人口変動の波は、時を前後して、グローバルに拡散していく。

     そして、その地域、その時代における社会の変化を、「人口」という視点から詳しく解説していく内容に唸らされる。歴史にif はないが、“人口の大きな変化がなければありえなかった歴史的な出来事はたくさんある”として、様々な史実を読み解く。

    「20世紀初頭にロシアの乳幼児死亡率が劇的に低下していなければ、波のように押し寄せるロシア兵に立ち向かうことなく、1941年にヒトラーがモスクワを占領していたかもしれない。」
    「アメリカ合衆国が毎年のように何百万人もの移民を受け入れ、1950年代から人口が二倍になるという事実がなければ、経済は中国に凌駕されていたかもしれない。」
    「半世紀にわたる日本の出生率の低下がどこかで止まっていれば、四半世紀にも及ぶ経済停滞を経験せずに済んだかもしれない。」
    「シリアの平均年齢がイエメンよりスイスに近ければ、内戦に突入しなかったかもしれないし、過去40年でレバノンの高齢化が急激に進まなければ、再び内戦になだれ込んでいたかもしれない。」

     こんな例を、次から次へと見せられ「人口」という新たな視点に瞠目させられると同時に、次々と世界の詳細な些事にまで及ぶ話っぷりの著者、その博識ぶりにも驚かされる。

     日本についても、比較的詳細な分析が披露されている。
     我が国日本が他国と違うところは、移民が少なかったことだと、著者は指摘する。
    「外国から入ってくる人だけでなく、外国へ出ていく人も少なかった」と。
     そして、他国に先駆けて少子高齢化のトップランナーをひた走る日本は、今後の人口動向を見据えて、いかなる未来像を描くのか。現状のどこが問題なのか、労働力不足なのか、市場の拡大が見込まれないことか、それとも若年層の負担増、やる気の減退なのか。
     日本人としてのアイデンティティを維持するか否かも、我が国の場合は大きいのではないかと思われる。目指すゴールによって採るべき選択肢は変わってくるのだろう。

    「乳幼児死亡率が下がると、あるいは乳児死亡率が下がったあと、出生率も下がる。」

     この人口の潮流の基本的なパターンを第1章から3章くらいまで読んで理解し、あとは、「猛追するドイツとロシア」(第4章)、「ベビーブーマーの誕生とアメリカの世紀」(第6章)、「日本・中国・東アジア、老いゆく巨人たち」(第8章)、中東、北アフリカ、サハラ以南と、地域を分けて解説している各章は、どこから読んでも、どこを拾い読みしてもいいような内容になっている。

     巻末の、平均余命、合成特殊出生率の考え方の解説も分かりやすかった。

  • 英ロンドン大学で教鞭をとる気鋭の人口学者が、専門的知見を一般向けにブレイクダウンした歴史教養書である。

    邦題は「世界史」となっているが、本書が扱うのは19世紀以降であって、世界史全体を俎上に載せているわけではない(ただし、18世紀以前の人口動向についても、随所で言及はされる)。

    過去200年に話を絞ったのは、人口をめぐる一大転換が起きたのが200年前だから。

    人口学の古典・マルサスの『人口論』に記された常識に当てはまらない現象が、18世紀末から19世紀初頭の英国に、まず最初に起きた。
    マルサスが規定した「人口増加への制約」を超え、人口が爆発的に増え始めたのだ。その背景にあったのは農業革命・産業革命である。

    以後、人口爆発は順次各国に飛び火し、マルサスの人口論は過去のものになった。
    19世紀初頭から現在までの200年は、長い歴史の中にあっては“人口の大変革期”であり、本書はその変革について概説したものなのだ。

    過去200年の世界史を、著者は人口学的見地から改めて意義付けていく。たとえば――。

    《19世紀の大幅な人口増加がなければ、ブリテンは19世紀前半に世界のワークショップにも、そして後半に世界の金融大国になることもなかっただろう。(中略)人口増加でどのくらい経済が成長したかを検討すると、経済成長の約半分は純粋な人口増加の影響だったことがわかる》(71ページ)

    《人口は戦争(2度の世界大戦/引用者補足)の結果だけではなく、その原因にも影響を与えた。(中略)
     もう一つ関連するのが、人口が増えていたヨーロッパがとても若かったということだ。現在の平和で老いつつある大陸とはまったく違う。社会の若さと戦争へ向かう傾向には関連があることが証明されている》(124~125ページ)

    「人の数が国の富を築く」とフリードリッヒ大王の言葉にあるように、「人口とは軍事力であり経済力である」(第2章のタイトル)のだ。

    著者は安易な人口決定論には陥っていないが、人口動向がその国の今後を占う大きな要因となることを知り尽くしている。
    そこから、過去200年を振り返るのみならず、今後の世界についても、人口学的見地から大雑把な見取り図を描いてみせる。本書は未来予測の書でもあるのだ。

    人口という補助線を引くことによって、世界の見え方が変わる――そのことを思い知らされる良書。
    人口学の面白さを一般に伝える入門書としても優れている。

    第8章で日本・中国・東アジアの人口動向がまとめて論じられており、他の章にも随所に日本への言及がある。
    「歴史上最も速く高齢化が進んでいる」日本は、平均寿命の高さ、出生率の低さなどでも世界で突出しており、人口学者から見れば興味尽きない研究対象なのだろう。
    その意味で、日本でこそ広く読まれるべき1冊だ。

  •  日本は今、少子高齢化に悩んでいます。しかし、人口動態はどの国、地域であるかに拘わらず、同じように変化するようです。
     すなわち、社会が豊かになり、出生率が上昇する。衛生管理が改善し、医療が発達することにより、死亡率が低下する。これにより、人口が爆発的に増える。そして、女性への教育が行き渡り、出生率が下がり、人口が減少する。
     先進国であれば、いずれ人口が減少することは避けられないのですね。中国が一人っ子政策をしましたが、大きな人口動態にはそれほど影響しないのだとか。そして、人口が減り始めたこれからのことは、未だ世界のどこの国も経験がしたことがないことです。
     日本は、世界で最も少子高齢化が進んでおり、どのように対処していけばよいのかを、世界が注目しています。でもいまの政権での対策を見ていると・・・

  • 表層的に現れる歴史の裏側に、人口や人々の思想がある。

    表層的に現れる事象よりも、その、裏側を知る方が真理に近い気がして興味深いです。

  • イギリスの地方には中世の城跡が多数あって、いくつか訪問したことがあるのだが、説明文を見てみると、籠城側は概ね2桁の人数で戦っているとあり、立派な城構えに比べて落差を感じることが多かった。毎回不思議に思っていたのだが、この本を見てみると、さもありなんという思いがした。欧米だけに偏らず、日本を含めてアジアにちゃんと言及されているのは良かった。それにしても、戦争と殺戮が横行した時代・地域でも、統計的には人口は増えている(ほぼ唯一の例外がホロコースト)というのは意外だった。

  • 人口という視点で過去200年程度の世界史を振り返る、これまでにない視点での歴史書。
    人口データは昔ほど実態と違っている可能性がありますが、徴税や徴兵のため、国家は以前より人口の把握を行っていたという話があり、確かに納得させられます。
    大英帝国の帝国主義時代から、対抗するドイツやロシア、その後のアメリカの反映、日本や中国の現状、今後発展するだろうアフリカ諸国と全世界に目を向けながら、非常におもしろい視点で考察されています。本書で述べられているとおり、歴史の背景に人口の影響は大きく、新たな視点で歴史を眺めることの楽しみを改めて感じました。著者は日本はもちろん、世界の実情に詳しく、その地域だけを読んでも十分楽しめます。

    個人的には、最後に書かれていた訳者のあとがきが気になったので、こちらも記録したいと思います。
    「他の国に先駆けて少子高齢化が進む日本としては、なぜそれが問題なのか、そこから考えていく必要があるのかもしれない。労働力不足が問題なのか、市場の縮小が問題なのか、豊かな生活ができなくなることが問題なのか、あるいはそもそも日本人のアイデンティティの問題なのかどのような答えを出すかによって、目指す解決策も変わってくるだろう。」

    ■19世紀の初めから世界中のほとんどの地域で、物質的状況、栄養、住居、健康、教育レベルが大きく向上したのは、経済に関わることだったのは間違いないが、同時に人口に関わることでもあった。
     つまり、人間の生産や消費のしかただけでなく、生まれてくる人間の数、大人になるまでの生存率、成長した人間が生む子の数、人が死ぬ年齢、地域や国や大陸館を移動する可能性などに関わっているということだ。生活上の進歩は人口のデータ、特に誕生と死に反映される。
    ■近代化とは、出生率低下と平均寿命の延びという人口転換を経験する、あるいは通過するための十分条件である。近代化するだけで人口転換を経験する。
    ■人口学の基本は、出生数、死亡数、移民
    ■ケインズ(1919)「歴史上の大きな事件は、人口増加とその他の根本的原因が、時間がたつにつれて変化することで起こる。その時代の観察者たちは、それらの要因に気づくことなく、愚かな政治家たちのせいにする」
    ■女性が教育を受けなくても出生率は下がることがあるが、教育を受ければその結果としてほぼ確実に出生率は下がる。
    ■20世紀末から一部の先進国の出生率がやや上昇している要因の1つは、人口統計学ではテンポ効果と呼ばれているものだ。これは社会の意識が変わり、女性が教育を受けて仕事を持つようになり、出産の時期を遅らせることだ。
    ■特に出生率が低い社会は、近代化、個人主義、女性解放が進み、晩婚化が進む一方で、婚外子を伝統的に好まない社会。職場が女性の受け入れに前向きで、男女問わず仕事と子育てが両立できる対策がとられている国の方が出生率ははるかに高い。
    ■何人の子を持つかの決定は、社会、文化、経済、宗教などの因子に左右されるので一定しない。しかしどんな社会でも、人はたいてい長生きを望む。そのため寿命を延ばすことを目標にする個人や政府、社会はほぼどこにでも存在する。
    ■ある“文明“によってひとまとめにできる国家や民族は、人口も他のことも似たような動きをする傾向にあるという有力な証拠がある。そしてそれこそが文明と定義できることなのだ。
    ■日露戦争(1904〜05年)での華々しい勝利によって証明された日本の近代化と変革は、アングロ・サクソンひいてはヨーロッパ人が生来的に持っている強みと誤解されていたものが、本当は民族的な強みではなく、人口規模と経済力や産業力の組み合わせにすぎないことを実証した。
    ■低出生率は一般的に、収入の増加、都市化、女性の教育、特に高等教育と相関関係にある。
    ■産業革命の流れでみたように、経済と人口のつながりは単純ではなく、だいたいは双方向に働いている。人口動向が経済発展に影響を与え、経済発展が人口動向に影響を与える。
    ■歴史と社会科学では因果関係がよく問われる。国家政策はどうあれ、人口動向は外的な因子として、外部から社会に持ち込まれて一方的に影響を与えるものではない。むしろ社会そのものから現れるもので、その環境に起因すると同時に、環境によって形成されるものだ。それでも因果関係は人口動向のパターンから、世界の動き方とそこで起きる出来事へとたどることができる。そして人口の潮流が歴史の流れを決めることはないが、その形をつくる。そしてたいていの場合、人口の動きが違えば異なる結果が生じる。
    ■専制支配と無政府状態は対極の位置にあると思うかもしれないが、前者は後者の前触れであり、そこから第三段階として安定と民主化へ向かうと考えられる。
    ■人口動向の変化は異なる地域を次々と襲うつむじ風のように見える。それと同時に、あるいはそれが通過したあとに、社会的、経済的発展が起きる。
    ■人口動向の未来
    ①増加するグレー(高齢化)
    ②増加する緑(環境に優しい世界へ)
    ③減っていく白(白人の減少)
    ■この著しい高齢化が世界にどう影響するかを予想することはできないが、年齢中央値が20歳前後の社会(1960年)と40歳を超える社会(2100年)とは根本から違う。起こると思われる政治、経済、技術的な変化だけでなく、純粋に人口の高齢化による変化があるからだ。
    <楽観的見方>
    ・世界はもっと平和で順法精神にのっとった場所になる
    ・高齢社会はほぼ平和である
    <悲観的見方>
    ・活力が失われ、革新的でリスクを恐れない行動を避ける傾向がある
    ■将来に何が起こるにせよ、一つだけ確かなことがある。これまでと同じように、人口動向と地球の運命はこれからも互いに関わり続ける。誕生と死、結婚と移住が私たちの生活の中で特に重要な出来事である限り、人口が歴史の方向性を左右し続けるだろう。

    <目次>
    第1章 人口を歴史がつくってきた
    第2章 人口とは軍事力であり経済力である
    第3章 英国帝国主義は人口が武器となった
    第4章 猛追するドイツとロシア
    第5章 ヒトラーの優生学
    第6章 ベビーブーマーの誕生とアメリカの世紀
    第7章 ロシアと東側諸国、冷戦の人口統計学
    第8章 日本・中国・東アジア、老いゆく巨人たち
    第9章 若く好戦的な中東と北アフリカ
    第10章 未来の主役か、サハラ以南のアフリカ

  • 2020-5-27 anazon p50%

  • タイトルに「世界史」とあるが、人口にフォーカスしている為19世紀以後の記述がメイン。最近流行りの地政学系の本に近い構成。

    平均寿命の延びと乳児死亡率の低下で人口が増え、出産が選択可能になってから出生率が落ち高齢化社会に突入するという現象が地理、政策、戦争などの条件問わずどの国にも逃れよう無く共通して発生する。そしてBRICSなど途上国は経済発展に至らないまま人口減少に向かい始めてしまう。
    ここから先、先行者利益を得たNATOの覇権はまだまだ続きそう。

  • 3月12日 読売新聞 書評
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50172545

  • 人口からの切り口でみるのがユニークだと感じて手に取った。イギリスの興隆をああいう風に分析したのは初めて知ったので気づきも多い。アメリカ、さらにドイツや日本の分析も納得感があった。同時に、中国に関する分析がもっと深掘りしてもらってもよかったと感じた。

    世界人口は今世紀中にはピークアウトするという予測もある。この前提が続くのか、崩れるのか、そういう思考ゲームをしてみるのも刺激的だと感じた。カナダ人ジャーナリストが書いた以下のほんと併読すると違った見方ができるかもしれない。「2050年 世界人口大減少」

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