昭和天皇の声

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910710

作品紹介・あらすじ

令和時代だからこそ書けた「昭和史小説」の決定版が誕生!天皇とは、この国にとっていかなる存在か。国家社会の融合体の中心である天皇とは、何と窮屈で、脆く、孤独なものか――。昭和天皇が、自ら政治的決定を下したのは「三度」。二・二六事件の青年将校たちは、天皇のために行動している、との信念のもと蹶起し、鈴木貫太郎らを襲撃した。ある憲兵は、蹶起軍こそが、反逆者だと憤った。昭和天皇が、どのような思いを持っているのかを、国民それぞれが夢想し、それを大義名分としてぶつかり合い、昭和という「激動の時代」が作り上げられた。『ゴー・ホーム・クイックリー』や『ミネルヴァとマルス 昭和の妖怪・岸信介』で近現代史を描き、永田町でも注目される中路啓太による「昭和天皇」にまつわる五つの短篇。国民の想いに戸惑い、悩む、生身の天皇の姿!

感想・レビュー・書評

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  • 相沢中佐事件、ニ・二六事件、鈴木貫太郎とその妻たか との関係、日本共産党の幹部から敗戦後に転向した人物との親交、そして立憲君主としての自身の行動への悔恨。昭和天皇・裕仁と、その周辺で天皇と関わった人々について描く。
    ニ・二六事件に関するところは、他の多くの書物でも語られていることだが、相沢中佐や鈴木貫太郎夫婦などについての話は興味深い。

  • 開戦から戦争終結に至るまでのお話。二二六事件や満州事変といった日本を揺るがす大事件が起きた背景と、それに関わった重要人物たちの大きな決断の瞬間が、鮮明に描かれている。首相暗殺事件が起こるような激動の時代にあり、昭和天皇も最後は苦渋の決断で象徴的存在から逸脱して、戦争を終結させた。振り返れば戦争を回避する瞬間はいくらでもあるように思えるが、上からも下からも圧力をかけられた当時者にとって、やむを得ない選択だったのかもしれない。当時のことはそれを経験した人しか分からない、それよりも過去から学んで同じ過ちを繰り返さないことの方が重要だと感じた。色々と考えさせられる内容で大変良かった。

  •  まだまだ昭和十~二十年代には、光を当てるべきドラマがあるのだと気付く。
     最後の一篇が無ければ、五つ星だった。

  • 226事件から終戦直後に至る昭和史の中で天皇が果たした役割を周辺の群像との関わりから浮き上がらせる。

    黎明期の日本共産党書記長が天皇主義者となるくだりは非常に興味深い。

  • 相沢事件、二二六事件など、戦前に軍によって起こされた事件と、当時の昭和天皇の行為について書かれた小説。調査研究が精緻で、実際もこうであっただろうと説得力ある内容になっている。興味深い記述が多く、とても参考になった。
    「(226事件直後の麹町警察署へかかってきた電話)電話の相手は、「鈴木侍従長は生きているか?」と言った。「はい、生きています」「よかった。生きていることは間違いないな?」・・・「ああ、股肱の生死すらも知ることができない。朕はいったい、誰に聞けばよいのか」正確な報告がいっこうにもたらされない中、天皇は、股肱と頼む者たちの安否はもちろん、いったい、誰が信頼できる者で、誰が信頼できない者かもわからない情況に置かれ、苛立っていたものと思われる。そしてそのあまり、みずから麹町警察署に電話してみた、ということのようだ」p133
    「のちに天皇は「私と肝胆相許した鈴木(貫太郎)であったから、このこと(終戦にもっていくこと)ができたのであった」と回想している」p140
    「(改革は若い者にしかできない)まさに若さゆえの所業だと、たかも思った。若かったがゆえに、脇目も降らずに、一つの理想に向かって突き進むことができたのであろう」p147
    「(山本玄峰)力で立つ者は力で滅びる。金で立つ者は金で滅びる。しかし、徳をもって立つ者は永遠なりです」p187
    「(山本玄峰)天皇は右翼とか左翼とか、政治的立場を超えた、大空の太陽のようなものだ」p190
    「(昭和天皇)「自分は立憲君主であって、専制君主ではないのだ。憲法の規定に従わねばならない」大日本帝国憲法の規定では、内閣や議会が決定したことは、天皇も覆せない。もし、覆してしまったとしたら、天皇は立憲君主ではなく、専制君主になってしまう。そのようなことを、天皇は言いたいようだ」p195
    「(欧州訪問中の皇太子)フランスのパレ・ロワイヤル駅からジョルジュ・サンク駅までの四区間、地下鉄に乗った。切符を握りしめたまま改札所を通ろうとして係員に叱られ、地下鉄を降りた後も、切符を返さず叱られた。後々まで、彼(昭和天皇)はこの外遊を人生で最も印象深かったこととして回想し「私のそれまでの生活は籠の鳥のようでしたが、外国に行って自由を味わうことができました」などと言っている」p209
    「侍従たちが昭和天皇の遺品を整理していたところ、机の引き出しから一枚の小さな、古ぼけた紙片が見つかった。裏には彼自身の手で(1921.6.21)と日付が書き込まれてあった。それは、籠の鳥のような生活を脱して自由を楽しんだ、と昭和天皇が懐かしんだ、皇太子時代の渡欧のときの思い出の品だった。すなわち、パリで乗った地下鉄の切符である。勝手がわからず、握りしめたまま改札所を通り抜けてしまったあと、その切符は彼にとって、終生の宝物となっていたのだった」p248

  • あまり期待してなかったんだけど、知らないエピソードが沢山散りばめられていて、一気に読んでしまった。全編良かったが、特に二・二六事件の岡田首相脱出のエピソードが面白かった。

  • 異なる出来事を書いた五つの短編で昭和天皇という存在を描き出す。その内直接的に昭和天皇を書くのは五番目の作品のみ。それ以外の四つは昭和天皇に関わる事件に関わった人たちを通して昭和天皇のあり方が見えてくる。
    相沢事件
    226事件〜岡田総理
    226事件〜鈴木貫太郎
    田中清玄
    昭和天皇
    落ち着いた文章が装丁と相まって、昭和の時代を、今よりも哀しくも優雅な時代を、思い起こさせる。

  • 今の時代も変わらない状況だったら怖いな

  • 【日本人にとって、天皇とは何なのか!】昭和天皇が政治的決定を下したのは三度。この国にとって天皇とはいかなる存在か。国民の想いに戸惑い、悩む、生身の天皇の姿を描く。

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著者プロフィール

中路啓太
1968年東京都生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程を単位取得の上、退学。2006年、「火ノ児の剣」で第1回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞、作家デビュー。2作目『裏切り涼山』で高い評価を受ける。綿密な取材と独自の解釈、そして骨太な作風から、正統派歴史時代小説の新しい担い手として注目を集めている。他の著書に『うつけの采配』『己惚れの記』『恥も外聞もなく売名す』など。

「2022年 『南洋のエレアル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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