神様の暇つぶし

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163910598

感想・レビュー・書評

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  • 父親を亡くし、空っぽになっていた大学生の藤子の目の前に、父親の幼なじみで、父親より10歳も年上の全さんが現れた。
    全さんは、近所の写真館の不良息子で、今は、有名な写真家だった。

    いつしか、藤子は、全さんにとてつもなく惹かれていき、全さんの愛をひたすら求めるようになった。

    父親より、10歳も年上の男に惹かれる藤子。
    全さんがいなくなった後も、全さんのことが忘れられない。
    忘れるために、醜いところを思い出そうとする。
    思い出は、薄れるどころか、漉されて、濁りが抜け落ち、純度の高い記憶だけが、キラキラとした結晶となり、日を追うごとに輝きを増していく。

  •  女流作家の中で、やはり千早茜さんが一番好きだなぁと改めて感じた。『しろがねの葉』を読んだとき、そのエネルギーや色、香り、鼓動などの生々しさにのみ込まれ、暫くその世界から抜け出せなかったほどだった。こんなに凄いものを書ける方だったんだなぁと今まで読んでいた作品とのスケールの差にもびっくりした。

     描写がとにかく息づいているように生々しく迫ってくる。今回は、初めて本当の恋をした女性の心のうちと、男性の色気においてそうだった。ここに登場する写真家の全さんは、実に色めいている。高齢で身体はしわがれてきているのに…

     個人的に、品のある色気がある人が男女共に好きだ。色気がない人にはあまり惹かれない。そして、そんな色気がある人は滅多に見かけない。例えばどんな人が上品な色気があるか考えてみた。なかなか出てこなかったが、結局、子供の頃から好きな三浦友和さん、あとは絞り出して小泉孝太郎さん、阿部サダヲさん、若い方なら杉野遥亮さんが浮かんだ。自分が女だからか、女性の方で色気のある方は多数いるけれど、品があるという点であまり浮かばなかった。一般の方なら時々出会うけれど、やはり、有名な方だと、性的なものも売りの一つの要素として強調されて、本来あるかもしれない上品さを欠くことなっているのかもしれない。


     実は、不覚にも、前に読んだことがある本とは途中まで気づかず、読んでしまっていた。しかもこの本と、その前に読んでいた本も…。無駄に時間を費やしたなぁと後悔しつつ、先が気になり読み続けた。
    でも、最後まで読み終えた時、この本は再び出会えて良かったと思えた。

    「どんな人の関係も同じです。どんなに深く愛し合っていても、お互い自分の物語の中にいる。それが完全に重なることがきっとないんです。」

     私が時々思いを馳せる、あの人との物語も、あの人から見たら全く別の物語になるんだろう。その答え合わせをしたい気持ちがなくは無い。もし答えあわせができたら、本当の意味でその一つの物語を終わらせることができるんだろうか?と思ったりすることもある。
     幸か不幸か、当時の事は記憶にフタがされているかのようによく思い出せない。ただ何かに深く執着していた感覚が体のどこかに残っている。これが、この本に書かれている「濾されて残った記憶」というものに近いのだろうか?


    こんなに素敵な作家さんがいて、その文章を読むことができて、なかなか私も幸せだなぁと柄にもないことをちょっとだけ感じた。

    全さんの「正直すぎて、まいるわ」という台詞良かったなぁ。

  • 父が不慮の事故で他界し、生きる気力がなくなったかのように生活していた女子大生の藤子…そんな藤子の元を訪れたのは近隣に住む写真館の息子、カメラマンの全さん…父よりも年上の全さんと藤子とのラブストーリー。

    なんとも危うい関係のふたり…ふたりの会話がなんだか面白くて思わず笑ってしまうところもあり…ドキドキがとまらない場面もあり…夢中で一気読みしました!なんとも悲しい、切ない結末になってしまいましたが、藤子が記者に全さんとのことをさらけ出した後、藤子がどんな風に生きていくのか…それが気になります。

  • 明るく軽い感じのタイトルに足元を掬われた!
    他人よりも大きい体格の女子大生 柏木藤子フジコの一夏の濃く重く熱く厚い体験は、彼女に決定的な刻印を残して過ぎ去って行った♪
    中1時に母が出て行き、父は突然の事故で亡くなったばかりの藤子は茫然自失な日々を送っている。
    そんな中、ある夜突然に出血の腕を抱えて現れたのは昔近所の旧い写真館の不良息子だった廣瀬全ゼン。
    亡き父より10歳ほど年長の、父と昔から馴染みだった彼は今は著名な女性ポートレート写真家らしい。
    如何にも無頼な香りを振り撒きながらも何故か藤子に気遣いを示してくれる親父のような全さんに藤子は何故かぐいぐい惹かれていく。
    この著者ならではの文章力表現力が巧み過ぎて読者もグイグイ引き込まれる!
    こんな愛のカタチもあるのかも知れませんが、藤子が何故にどんどん親ほど年齢差のある全さんにのめり込んでしまうのか私には解りません笑
    全さん世代のわたくしには嬉しいストーリーではありましたが。
    なかなか奥深い作品でした。

  • 千早茜さんの長編恋愛小説。

    ◆あらすじ
    母は家を出て行き、唯一の肉親であった父を事故で失った大学生の藤子。自分の容姿に自信がなく、恋愛からも遠ざかっていた藤子の前に現れたのは、父の旧友でカメラマンの全さん。豪快で大胆不敵だけれど、大きな温もりを兼ね備えた全さんに対し、藤子は恋心をいだいてゆく…。

    ◆感想
    藤子の全さんに対する恋心は客観的に見たらファザコン、叶わぬ恋であり、またいくつかの描写のなかで全さんが遊び人であること、さらには先が長くないことも見えていた為、藤子が遠くないうちに再び大事な人を失い孤独で悲しい状況に置かれることは予想できた。
    求めたのは藤子からだったけれど、テクニックと包容力を持つ大人に優しくされれば、経験の浅い女の子なんてころっと落ちるに決まっている。それもわかってて手を出した全さんは、やはり罪深い。藤子はそれを望んでいたかもしれないけれど、読んでいるこちらとしては藤子を無闇矢鱈に傷つけないでと思ってしまった。

    小川未明の『牛女』、読んでみよう。

  • 食べるシーンがリアルでおいそしそう。何も考えず没頭できるのが潔い。

  • 高身長で周りに女扱いされない自分がコンプレックスの20歳の女子大生藤子と、昔近所に住んでいた写真家の全さんとのひと夏の思い出の話です。

    冒頭で全さんは既に亡くなっており、それから既に10年以上経っていることが語られます。

    最初は自分の父親より年上の男の人を最初から異性として意識している主人公に違和感を覚えましたが、歳に関係なく妙な色気があって女性を惹きつける男性というのはいるので20歳の女の子じゃ余計抗えないよなと思ったり。

    藤子は全さんに嘘をつかれていた、捨てられたとショックを受けていますがどう考えても他の女性達とは違う扱いだったので絶対愛されてるよ大丈夫だよ‼︎と思いながら読んでいました(笑)

    ここが泣ける!ってところがあったわけではないんですけど、写真集の自分の体についての藤子の語りを聞いていたら涙が出てきて……
    藤子は自分の外見にコンプレックスを持っているけれど、全さんからみたら死にかけている自分とは違ってご飯をもりもり食べて裏表がなくて純粋な藤子は生命力の塊のようで眩しいくらい美しく映ったんだろうなと思います。

  • 久しぶりの読書に、楽しみにしていた1冊を。

    父をなくしたばかりの大学生の藤子に、父の古い友人で有名写真家の全さん。
    けしてきれいではないふたりの性(生)が、なんだかものすごく美しい。
    写真がすべての全さんにとって、藤子は、FUJIKOでしかなかったんだろうな。

    黒い物体がふたりの間にでてきてからは、あの写真家さんのモノクローム写真のイメージで場面を切り撮りながら読みすすめてました。よかった。

  • 「男ともだち」を読んで千早茜さんにハマり読んだ。冒頭の「思い出は濾される」から惹かれ、表現が本当に秀逸だなと思った。途中から涙が止まらなくて辛かった。千早茜さんの描く男の人はどうしてこうも魅力的なのだろうか。

  • わあああああああ(叫
    これはねーこれはねー好みが極端に割れるやつだよ。で、好きいいいい!って人は(俺のことだ)もう極限までハマっちゃうのよ。

    で、しばらく抜け出せなくなるの。

    全さんみたいなヤヴァイ男って稀にいるんだよね。遭遇したらそれはもう運が尽きた(あるいは幸運)と思って諦めるしかない。
    終わらせることすらしない男って、ほんとうに罪だよね。だからこそ抗えなく惹かれるのだが。

    願わくば生涯こんなものに出会いたくない。
    でも出会ってしまったら骨も残らない覚悟で自分を差し出すしかないんだろうな。

    誰にも薦められない。でも、わたしは藤子のことも全のこともみんな大好きよ。忘れない。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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