美しき愚かものたちのタブロー

著者 :
  • 文藝春秋
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  • / ISBN・EAN: 9784163910260

作品紹介・あらすじ

第161回直木賞候補作!

日本に美術館を創りたい。
ただ、その夢ひとつのために生涯を懸けた不世出の実業家・松方幸次郎。
戦時下のフランスで絵画コレクションを守り抜いた孤独な飛行機乗り・日置釭三郎。
そして、敗戦国・日本にアートとプライドを取り戻した男たち――。
奇跡が積み重なった、国立西洋美術館の誕生秘話。
原田マハにしか書けない日本と西洋アートの巡りあいの物語!

感想・レビュー・書評

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  • マハさんの作品、33作品目の読了となりました。
    ずっと気になっていた本書、マハさんの作品で積読もまだまだある中で未購入の1冊でしたが、最近利用させて頂いている地区センターにありました♪

    明日が返却日、これでも一応期日から逆算して手にとるようにしているつもりですが、いつもギリギリセーフ_( '꒳' )_って感じに^^;

    そんな「美しき愚かものたちのタブロー」ですが、これぞマハさんの大道!!って感じのアートにまつわる史実に基づいたフィクション作品です。

    国立西洋美術館の誕生秘話、世界を代表する西洋美術が数多く日本にあるのはバブル期に大金を投じて大企業が購入した作品もありますが、私財を投じて絵画や彫刻を買い集めた通称・松方コレクションと呼ばれる作品のおかげです。

    日本の実業家であった松方幸次郎が大正から昭和初期にかけて収集した美術品、松方コレクションには、浮世絵約8000点と西洋絵画、彫刻、装飾芸術品など約3000点が含まれていましたが、一部は散逸や焼失してしまいました。現在、浮世絵コレクションは東京国立博物館に所蔵されています。西洋美術コレクションのうち、フランス政府から日本に寄贈返還された近代フランス絵画やロダンの彫刻など約370点は、国立西洋美術館のコレクションの基礎となりました。国立西洋美術館は、1959年に松方コレクションを保存・公開するために設立された美術館です。松方コレクションには、ゴッホの『ファンゴッホの寝室』、ルノワールの『アルジェリア風のパリの女たち』、モネの『睡蓮』、ロダンの『地獄の門』などの名作があります。松方コレクションは、日本の美術史や西洋美術の受容史において重要な役割を果たしたコレクションです。。

    凄くないですか?ってか、凄過ぎですよね!!だって、これだけの作品を一個人が購入したんですよ。
    目的はただ一つ、日本に世界に負けない美術館を創る!そして多くの人々に本物を見せる。

    そんな松方幸次郎が主人公ではありません。
    本書は松方が心血を注ぎ買い集めた作品を日本に返還してもらうべくフランス政府と交渉についた交渉人・田代雄一の回顧録。

    松方がパリの画廊で作品を購入する際にアドバイスをした田代、当時パリで出会った日置釭三郎は松方の秘書を務めていました。

    戦争という残酷な歴史の中、松方が購入した多くの作品は日本に送られることなくフランスに留め置かれます。

    フランスに攻め入ったナチス・ドイツを筆頭に決して見つかる訳にはいかない多くの作品を戦時下のフランスで守った日置。

    愚直な男達、そんな熱き男達をマハさんは「愚かものたち」と形容しましたが、タイトルにある「美しき」はその後に続く「愚かものたち」にも「タブロー」にもかかる枕詞。

    マハさんの作品と出会うことで美術館に行き本物と出会うことの素晴らしさを知った私にはまさに必読書でした。

    素晴らしい(*´ ω`*)


    <あらすじ>
    物語は、日本に本物の西洋美術を見せる美術館をつくるために、私財を投じて絵画や彫刻を買い集めた実業家・松方幸次郎と、その遺志を継いだ人々の冒険を描いています。

    1953年、美術史家の田代雄一は、パリに向かいます。目的は、フランス政府に接収されている「松方コレクション」を日本に返還してもらうための交渉です。

    田代は、昔、松方に同行してパリの画廊を訪ね歩き、購入する絵画の選定にアドバイスしたことがあります。そのときに出会った日置釭三郎は、松方の秘書で、松方コレクションにおける重要人物です。

    田代は、パリで日置と再会します。日置は、松方が日本に帰国しても、ひとりでフランスに残って、戦争の中で松方コレクションを守り抜いた人物です。

    物語は、田代の回想によって、松方との出会いから、絵画収集の経緯、クロード・モネとの親交、戦争の影響など、松方コレクションの数奇な運命をたどります。

    最後に、田代と日置は、フランス政府との交渉に成功し、松方コレクションの一部を日本に返還させます。その後、国立西洋美術館が開館し、松方の夢が実現します。


    日本に美術館を創りたい。
    ただ、その夢ひとつのために生涯を懸けた不世出の実業家・松方幸次郎。
    戦時下のフランスで絵画コレクションを守り抜いた孤独な飛行機乗り・日置釭三郎。
    そして、敗戦国・日本にアートとプライドを取り戻した男たち――。
    奇跡が積み重なった、国立西洋美術館の誕生秘話。
    原田マハにしか書けない日本と西洋アートの巡りあいの物語!

    日本人のほとんどが本物の西洋絵画を見たことのない時代に、ロンドンとパリで絵画を買い集めた松方は、実はそもそもは「審美眼」を持ち合わせない男だった。
    絵画収集の道先案内人となった美術史家の卵・田代との出会い、クロード・モネとの親交、何よりゴッホやルノアールといった近代美術の傑作の数々によって美に目覚めていく松方だが、戦争へと突き進む日本国内では経済が悪化、破産の憂き目に晒される。道半ばで帰国した松方に代わって、戦火が迫るフランスに単身残り、絵画の疎開を果たしたのは謎多き元軍人の日置だったが、日本の敗戦とともにコレクションはフランス政府に接収されてしまう。だが、講和に向けて多忙を極める首相・吉田茂の元に、コレクション返還の可能性につながる一報が入り――。

    世界でも有数の「美術館好き」と言われる日本人の、アートへの探究心の礎を築いた男たち。美しい理想と不屈の信念で、無謀とも思える絵画の帰還を実現させた「愚かものたち」の冒険が胸に迫る。

    内容(「BOOK」データベースより)

    すべては一枚の絵画(タブロー)から始まった。あのモネが、ルノワールが、ゴッホが!国立西洋美術館の誕生に隠された奇跡の物語。

    • なおなおさん
      ヒボさん、地区センター本の返却はいつもギリギリのようですね^^;
      マハさん本33冊なんてすごいな。私はまだ5冊です(´•ω• ก̀)
      ヒボさん、地区センター本の返却はいつもギリギリのようですね^^;
      マハさん本33冊なんてすごいな。私はまだ5冊です(´•ω• ก̀)
      2023/12/08
    • ヒボさん
      なおなおさんこんばんは♪
      お陰様で地区センターに図書館の電子図書、積読本と忙しく過ごしています(笑)
      読みたい本があり過ぎて悩ましい...(...
      なおなおさんこんばんは♪
      お陰様で地区センターに図書館の電子図書、積読本と忙しく過ごしています(笑)
      読みたい本があり過ぎて悩ましい...( ੭⌯᷄ω⌯᷅ ).。o
      2023/12/08
  • いきなりオランジュリーのモネの睡蓮の前に立った時の感動描写があいかわらずセンスが良くって圧倒されました。まるで自然の中に立っているような四方を埋めつくす圧倒的なスケールで描かれた睡蓮の池。
    マハさんの「ジヴェルニーの食卓」を読んだ時の光景とオマール海老が浮かんできました。
    それは、薫風に山腹を分け入り、人知れず咲くクマガイソウの群生地を見つけた時の感動とか、錦秋にブナやミズナラの森を愛でながら黄金色にぬめり輝くナメコの密集した1本を見つけた時の衝撃にも匹敵するんだろうなって私レベルに脳内変換して思いました。
    タブローって絵画のことなんですね。響きが人名のようで親しみ感じます。
    日本に美術館を作ろうと欧州に渡り絵画の収集に情熱を燃やした松方幸次郎、日本に運ばれたものは経営破綻の煽りを受けて競売で散逸。ロンドンの倉庫に保管していたものは火災により焼失、フランス政府の管理下に置かれていた美術品の数々が「松方コレクション」として寄贈返還されそのコレクションを展示するため国立西洋美術館が誕生したとゆう史実に彩を加えた作品です。
    吉田茂総理の巧みな交渉術は秀逸だし、第2次大戦中、パリに残る松方コレクションを疎開させ保管に勤めた日置釭三郎。「敵国人財産」としてフランス政府に接収されるまでの間、守り抜いた功績は忘れてはいけない。
    松方コレクションの数奇な運命を越えて鑑賞できる喜びとゆうのは希少種の花々に巡りあうときめきに通じるものがあるかもしれません。感涙でした。
    一度、西洋美術館に訪れたく思いました。

  • 『美しき愚かものたちのタブロー』=『芸術家と芸術に魅せられたものたちの絵画』。何より『美しき愚か者たち』とは、ここでは美しい作品を世に放つ芸術家たちと「松方コレクション」を最後まで守りぬいた人たちのことである。

    このところ著者の戦争時代ものばかり読んでいる。「暗幕のゲルニカ」、「翼をください」、そして「美しき愚か者たちのタブロー」。続けて、読んでいるためしっかり発生年月を記憶してしまう。

    1939年9月の英独戦争に始まった、第一次世界大戦は、日本、ドイツ、イタリアの三国を中心とする枢軸国陣営とイギリス、ソビエト連邦、オランダ、フランス、アメリカなどの連合国陣営とで 戦われ、1941年6月の独ソ戦争、同年12月の太平洋戦争を経て、1945年5月ドイツ降伏、同年8月日本降伏にて終戦する。そしてサンフランシスコ講和条約が、1951年に締結された。アメリカ第6軍司令部で日本の吉田茂首相とアメリカ国務長官アチソンらの署名により、この戦争は完全に終わる。

    そしてこの大戦終結の講和条約締結を機にフランスに遺留された松方コレクション移管に向けた歴史が動き出す。
    この作品は、日本に美術館の開館を夢に美術品を集める神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)社長・松方幸次郎、松方の集めた美術品(松方コレクション)を命をかけて戦争から守り抜く川崎造船嘱託社員・日置釭三郎、松方の美術館開館の夢を実現すべくフランスから作品を移管する美術史家の主人公・田代雄一郎、3人の『美しき愚か者たち』が夢を実現すべく奔走した歴史が記されている。

    この3人の『愚かものたち』において、私は日置釭三郎が不憫に感じてならない。戦争中の4年間に名画とともに逃げ、名画とともに過ごす。松方に引き抜かれて、川崎造船所の社員としてパリに暮らすことになり、ジェルメンヌとの再会が果たせたことは願ってもないことであろう。このことがあって、日置は松方に対し、忠誠を誓うことも当然であるとは思う。日置のというより日本人の特に、当時の日本人の気質のように感じられ、それ故にタブローに翻弄されながらタブローを守ることだけに人生を駆け行ったように思えてならない。日置にとって、名画によって与えられた幸せよりも、名画により奪われた日置の生活の自由の方が大きいのではないかと…『妻・ジェルメンヌまでも巻き込んでしまったことへの後悔はなかったのであろうか?それよりも妻と最後まで共に暮らせたことに対する幸せな気持ちの方が大きかったのか?』私にはどうしても日置の人生が寂しく感じられる。そのため日置自身が名画によって癒されたり、心が躍らされることがあればと思わずにはいられない。

    並行して、戦争という歴史の渦の中、『栄枯盛衰』のはかなさも感じられた。
    『栄枯盛衰』…1805年のアウステルリッツの戦いの勝利記念として翌年、皇帝ナポレオン・ボナパルトは凱旋門の建設を命じるが、幽閉先で亡くなったナポレオンは、生きて完成した凱旋門を通ることはできなかった。また、本作に登場する松方幸次郎にしても、然りである。当時の日本で画学生に本物のアートに触れる機会を作るために自らの終生を費やし優れた西洋画を買い集める。そんな財力があった時代から、世界大恐慌により殆どの絵画を差し押さえられ、戦争によるロンドンの倉庫が焼失や、戦争敵国財産としてフランス政府に没収され、念願の美術館建設を果たすことが出来ず、亡くなる時は集めた美術品は何一つ残っていなかった。繁栄と衰退の人生の儚さが戦争という力によって支配されているような錯覚を起こしてしまう。

    戦争により奪われたもの、戦争に向かい合い日本の歴史を築き上げてきた偉人たちの奮闘を感じることができる作品であった。

  • 本文P273より

    タブローが松方幸次郎という不世出の実業家の心を動かし、彼の生き方を変えようとしている。
    美術の持つ底知れぬ力に彼は驚き、そのすばらしさを、「こんな時世」だからこそ日本国民に伝えたいと願っているのだ。
    ー役に立ちたい。
    田代は切実にそう思った。そのためにはどうしたらいいのか。
    ータブローだ。
    名画を傑作をみつけて、それを日本に持ち帰ってもらうのだ。そのためにこそ自分は尽くしたい。

    以上抜粋。
    ラスト数ページでは、感極まり、涙が止まりませんでした。

    閑話休題。
    この作品を読んで、ささやかですが、私も自分の美術館を作りたくなりました。
    以前にとある企業からいただいた超豪華なプラスティック製の、オランジュリー美術館の特大カレンダーが家にあり、絵の部分だけ切り離して飾れるようになっています。
    絵が6枚あるのですが、ルノワールの<ジュリー・マネ>という三毛猫を抱いた少女の絵だけは、以前から飾っていたのですが、他の絵も飾ろうと思いました。
    モネの<睡蓮の池、緑のハーモニー>は緑が鮮やかでとても美しく、ゴッホの<銅の花瓶の花(あみがさ百合)>は筆のタッチが素晴らしく色彩も豊か。シスレーの<雪のルーヴシエンヌ>はとっても静謐で美しく、絶対飾ろうと思いました。モネとゴッホは特にマハさんのこの作品他の影響で、お気に入りになりそうです。

    絵<タブロー>とは人の心を幸せに豊かにしてくれますね。
    それに気づかせてくれたこの作品とマハさんには感謝の気持ちでいっぱいです。

    • まことさん
      国立西洋美術館、私もいつか行ってみたいと思っています。
      私の美術館というのは、カレンダーを部屋に飾るだけのことです(^^♪
      昨日、ホーム...
      国立西洋美術館、私もいつか行ってみたいと思っています。
      私の美術館というのは、カレンダーを部屋に飾るだけのことです(^^♪
      昨日、ホームセンターでカレンダーを留めるピンを買ってきちゃいました。今、どこの壁に貼るか考え中です。
      来年も、カレンダーいただけないかと思っています♪
      2019/06/24
    • まことさん
      ありがとうございます!
      今回、図書館には、全然、別の作品を予約してしまったので、次回に予約します。(予約枠が決められているので)
      楽しみ...
      ありがとうございます!
      今回、図書館には、全然、別の作品を予約してしまったので、次回に予約します。(予約枠が決められているので)
      楽しみです(^^♪
      2019/06/25
  • 美術館巡りは割と好きで国内はもちろん、海外へ行った際もその国の主要な美術館へは行くようにしている。上野の国立西洋美術館は何度も行ったし、「松方コレクション」の事も知ってはいた(残念ながら2019年の松方コレクション展には行けなかったが)。

    本作はその「松方コレクション」に纏わる美術品に関する話でもあるし、戦後日本の敗戦国から立ち直る苦悩の歴史の話でもある。現在、私たちが上野で「松方コレクション」を気楽に見れるようになった裏側でこんなドラマがあったとは全く知らなかった。

    本作は美術に造詣の深い原田マハならではの想像を交えた小説として高い完成度を有しているが、ノンフィクションとしてNHK特集やプロジェクトX的な番組を制作しても十分面白くなるのではないか。ほとんどの人が名も知らずスポットライトも当たらない、日置釭三郎などの地上の星たちの並々ならぬ働きがあってこそ「松方コレクション」を私たちが楽しめるのだと分かって感動した。

    この作品を読んだ人は間違いなく国立西洋美術館へ行きたくなるはず(笑)
    私も今は何の企画展をやっているのだろうとwebでチェックして、GWは混むから行くなら5月の第2週目かな…などと思っているところだ。

  • この作品には、魂が震えました。大袈裟なようですけれど。

    クロード・モネの《睡蓮》が四方の壁を埋め尽くす部屋から物語が始まります。
    1953年、オランジェリー美術館の一室で 想いにふける美術史家の田代雄一。
    時の総理大臣、吉田茂の依頼を受けてパリにやって来ていたのです。
    <松方コレクション> の返還交渉が目的でした。
    松方の熱い想い。
    その想いを遂げるため、必死で動いた男たちの物語。
    人の命に終わりがあっても、アートの力は次の世代へと受け継がれていきます。

    コレクションの主、松方幸次郎は1866年生まれ。
    明治、大正、そして昭和25年を生き抜いた実在の人物です。
    イギリスやパリで買い集めた西洋美術作品の数は三千点以上にのぼるとか。
    造船所の社長で、戦艦や戦闘機の製造に関わるビジネスをしていました。
    美術品購入は、最初はビジネスを円滑に進めるための手段でもあったようです。
    しかし、美術品と関わるうちに、松方の夢はそれとは別の方向に向かいました。
    日本の若者のために本物のアートに触れられる美術館を創りたい、と。

    田代という男は実在ではありませんが、モデルになる人物はいたようです。
    若い時に、松方のアドバイザーとして 松方とともに画廊を巡り絵を買い付ける
    という貴重な経験をしていました。

    松方が一大コレクションを築き、それを戦火のフランスで守り抜いた
    日置釭三郎という男がいて、吉田茂と田代が返還の交渉にあたったのです。

    物語の最後の場面でも、田代はモネの《睡蓮》の前にいました。
    1959年、上野の国立西洋美術館の一室。
    田代の胸に浮かんでいたのは、モネのアトリエ、ジヴェルニーの池のほとり。
    松方と共にいた 美しい風景が蘇ります。

    国立西洋美術館設立60周年の はなむけ として書かれた作品です。
    現在 美術館は、館内施設整備のため、2022年春まで休館だそうです。
    再び扉の開く日が待ち遠しいです。

  • 松方幸次郎は日本で初めて美術館を作ろうとしていた。しかし、西洋絵画を全く知らない。そんな松方の代わりに目となって絵画収集の手伝いをした田代。ゴッホ、マティスの絵の収集、モネとも出会う。戦争を経て、松方は破産。帰国した松方の代わりにフランスで絵を守ろうとするのは日置。それぞれの絵画への想い、西洋絵画をめぐる物語。
    なんて熱いんだろう。それぞれの絵に対する思い入れがひしひし伝わる。絵画については、詳しくはないけれど、モネの絵は好き。絵の歴史にそんなことがあったとは、とかなり驚き。松方さんが美術館を作るという熱意、日置さんの守り抜く思いとそのために待ち受ける過酷な運命、圧倒的にやられました。そう、後半の日置さんのところが特に印象に残りました。以後、美術館に足を運ぶとなると違った目で鑑賞できそうです。知識がある方はどうかわかりませんが、予備知識的なことを得ることができ、そして感動できる本だと思います。

  • 戦前、川崎造船所(川崎重工、川崎製鉄の前身企業)の経営者として巨万の富を築き、その財力でヨーロッパの印象派・後期印象派の絵画を買い漁り、日本に私設の美術館(「共楽美術館」)を作ろうと画策した松方幸次郎。

    その松方の夢は川崎造船所の経営悪化で頓挫したが、ヨーロッパに保管されていた膨大な数の絵画(松方コレクション)は、第二次世界大戦の最中もある男は手でしっかりと守られていた。松方コレクションは戦後、フランス政府が「第二次世界大戦時の敵国の在外財産」として接収し、所有してしまっていたが、この絵画コレクションを日本の手に取り戻そうと松方の盟友、吉田茂首相が立ち上がった。フランス政府との交渉人に選ばれたのが、日本を代表する美術史家、田代雄一。その田代は、かつて欧州留学中に松方の絵画購入のアドバイザーを務めたのだった。

    本作は、田代のフランス政府との松方コレクション返還交渉、絵画購入に向けた松方・田代のパリ画廊巡り、そして絵画管理人日置の戦時中の孤軍奮闘、などの場面を描いた力作だ。なお、「タブロー」とは、フランス語で絵画のこと。

    「いかにもわしは愚かものだろう。絵のなんたるかもよくわからんくせに、ただやみくもに絵を買い漁る愚かな年寄りだろう」「わしは絵のことはわからん。それでも絵を買い集めるのだと決心した」「かつての君のように、ほんものの絵を見たくても見られない若者が、日本にはごまんといる。白黒でないほんものの絵を、彼らのために届けたいんだ」「日本にも、このルーブルに負けないくらいの美術館を創らんといかん。……なあ、田代君。わしは、本気なんだよ」。太っ腹で大胆果敢な松方の人物の大きさが印象に残る一冊だった。

    松方コレクションの返還/寄贈交渉、実際はどんな感じだったんだろう? かなりタフな交渉だっただろうことは想像に難くないが。

    著者の本を読む度に、その文章の巧みさから、自分も絵画の素晴らしさを理解できるのではないかと錯覚してしまうのだが…。本作の中で大絶賛されているファン・ゴッホの「アルルの寝室」の良さは、残念ながらよく分からなかった。田代に「これは、タブローという名の「奇跡」じゃないか」と独白させるような凄さ、どこにあるのかな? 少しくすんだ色で、寝室を歪んだ形に描いた平凡な絵しか見えない。"奇跡" といわれてもなあ(笑)。絵心の無さを痛感させられた一冊でもあった。

  • 読み終わると一本の名作の映画を見たような満足感でいっぱいの気持ちになる。

    原田マハさんの美術史をもとに作られた小説は、本当にフィクションが含まれているのかと錯覚をおこすほど、巧みに紡がれていていつも感動する。

    読み終わったらすぐにでも国立西洋美術館に行きたくなる、こちらの気持ちを掻き立てるほど夢中にさせてくれる本。

    原田マハさんの小説に出会っていろんな背景を知って美術館にいくのがより一層楽しくなった。

  • 絵画など観るのは好きではあるが、そこまで詳しくなく、なんとなく読んでみたのだが、まぁ面白い笑
    戦前戦後の国同士の緊張感や、そこに振り回される人びと、西洋美術を中心に進むストーリー、また登場人物たちの人生譚など、最後まで食い入るように読んでしまった。ちょうどゴッホ展も始まるので、ぜひ観に行ってみたい。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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