昨日がなければ明日もない

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909301

作品紹介・あらすじ

『希望荘』以来2年ぶりの杉村三郎シリーズ第5弾となります。中篇3本を収録する本書のテーマは、「杉村vs.〝ちょっと困った〟女たち」。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザーを相手に、杉村が奮闘します。収録作品――あらすじ――「絶対零度」……杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院ししてしまい、1ヵ月以上も面会ができまいままで、メールも繋がらないのだという。杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるが……。「華燭」……杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する……。「昨日がなければ明日もない」……事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。「子供の命がかかっている」問題だという。美姫は16歳で最初の子(女の子)を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な女性であった……。

感想・レビュー・書評

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  • 杉村三郎シリーズ第5弾です。
    前作から私立探偵としてリスタートして良いインパクトを残した三郎くんですが、今作も面白かった。

    中編3本が収録されていますが、それぞれに特徴のある困った女性たちがテーマ。

    「絶対零度」では悪役の者たちにマジで腹立てたし、「華燭」は軽い感じで楽しめたし、「昨日がなければ明日もない」では、ハッピーエンドかと思いきや…。ハッピーエンド好きの私としては残念だが、物語としては面白かった。

    星5つに近い星4つです!

  • 杉村さんは犯罪を呼び込んでしまう「体質」を逆用して探偵業を始めた。杉村さんの願いは、「相談」が「犯罪」になってしまう前に食い止めることだ。その点で、杉村さんは正しく、杉村さんほどに適する人はいない。

    と、私は思っていた。
    「絶対零度」は、まだ慰められる部分がないわけでもない。蛎殻オフィスの所長からも、杉村さんが「もっと早くに介入できていたらと後悔が多いです」と愚痴をこぼしたことに「それは無理です。全世界を1人で背負おうとするようなものだ」と評価する。「それもそうですかね」と杉村さんも自分で自分を慰めた。

    もう一つの(短編はあと2つだけど、そのうちのひとつ)事件に関しては、杉村さんは「私立探偵の形をした石になって、私はただ立ちすくんでいた」と終わる。いろんな意味で、杉村さんは深く後悔することと思う。

    でもね、杉村さん。
    人の心は、ましてや犯罪という結果に至るまでの心の闇は、日常からダダ漏れになるタイプの小人と、私たちを含め日常はなんとかやり過ごし普通ならば人生を大過無く過ごすけど小さな人物よりもはるかに広い池にかなり大物を、黒も白も飼っているタイプの人と、あるものだと私は思います。作家の宮部みゆきさんは、ずっとそんな様々な人の闇を描いてきました。その闇は、時には時空を超える物語にさえなりました。石になる必要はありません、大丈夫ですよ。やっていけます。がんばれ。

    ひとつ気になるのは、中学1年生の漣(さざなみ)さんの明日だ。悪い条件ばかりが彼女の上にはある。けれども、人は変わり得る、良くも悪くも。いつか、その顛末を物語の中に紡いで欲しい、宮部みゆきさん。

    でももうひとつ気になるのは、杉村さんの物語が未だに2012年の5月に留まっていること。杉村さんの愛娘桃子ちゃんは、この時点で11歳である可能性が高いので今は19歳になっているはずだ。人生の岐路に立っているだろうか。その間、杉村さんは桃子ちゃんのために自分の命を顧みずに飛び込まないとも限らない大事件が、必ず起きるだろうと私は予測する。その時は短編ではなくて大長編になるだろうけれども、杉村さんの超人的な人の良さと洞察力は、その時のためにもう少し磨いて欲しい。私としてはきっと出てくるそのパートのために、あともう2〜3冊は欲しい。というのはファンのわがままかな。

  • 久しぶりに杉村三郎シリーズ。4~5年前かな?希望荘を読んだの。今多コンツェルン会長の娘と離婚した杉村三郎が探偵として「地味に良い仕事」をする。今回は困った女性との対峙。宮部作品の最も長けている所は、登場人物を丁寧に描写し、喜怒哀楽が気持ちよく伝わり、さらに心の揺れ動きも明快。ただ事件の核心に読者が容易に辿り着けないところにドキドキ感が拡大する。3話からなる面倒な女性が巻き起こす事件。全て最後で痛い(遺体)。最初の話の「絶対零度」自分が当事者だったら絶対に相手に殺意を抱くと思う程の悲壮感。流石の宮部さん。⑤

  • 宮部みゆき先生の作品は、20代の頃一気読みしてから割と遠のいていた。
    またまた会社の方からお借りできたので久々に読んでみることに。

    どうやらこの本は杉村三郎さんという探偵シリーズものらしい。

    最初の依頼人は筥崎夫人。
    娘が自殺未遂をし、一ヶ月以上入院している。
    しかし娘の夫が母親の面会を断っており、娘に会うことができない。
    娘の夫からは、自殺未遂の原因は筥崎夫人たの関係性にある。彼女はあなたに会いたくないと言っている。

    杉村探偵が真相を探るべく、動き出す。


    宮部先生ってこんなタッチの小説でしたっけ?
    あら、この感じ、とても私の好きな感じだわ、、、と気がつくと一気に引き込まれて、小説の世界に没頭。

    本書の半分くらいのところでこの一作目が幕を閉じる。
    え!?幕を閉じちゃうの!?

    そう、この本は絶対零度、華燭、昨日がなければ明日もないの短編3部作でした(^^;;

    一作目を一気に読み好き、短編に落胆して暫く放置してからの二作目、三作目。

    短編なのにとても濃い内容となっておりました。

    探偵作品なのに、ハードボイルドではなく、どちらかというとイヤミス系。

    三作読み終わり、この杉村三郎探偵のことが大好きになりました。
    穏やかで落ち着いていて、優しい人となり。

    本編は杉村シリーズ第五段のようだが、これ以外の作品も最初から読んでみたい。

    誰か
    名もなき毒
    ペテロの葬列
    希望荘

    誰かは既読だが、すっかり忘却の彼方、、、
    再読したいなぁ。。。

  • ★4.5

    『希望荘』以来2年ぶりの杉村三郎シリーズ第5弾
    本書のテーマは、「杉村vs.〝ちょっと困った〟女たち」。
    自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、
    自己中なシングルマザーを相手に、杉村が奮闘します。


    ・「絶対零度」
    杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。
    一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院ししてしまい、
    1ヵ月以上も面会ができまいままで、メールも繋がらないのだという。
    杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるが……。

    ・「華燭」
    杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。
    小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、
    中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。
    会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する……。

    ・「昨日がなければ明日もない」
    事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。
    「子供の命がかかっている」問題だという。
    美姫は16歳で最初の子(女の子)を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、
    しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な女性であった……。


    2年振りの杉村三郎シリーズ。
    待ってました~読める事がとても幸せでした

  • 杉村三郎シリーズ第五作。
    帯に「杉村三郎vsちょっと困った女たち」とあるらしい。(図書館本なので帯がなくて知らなかった)

    そのフレーズ通り、今回は女性が主役の三編を収録。
    自殺未遂の末、夫が親族に会わせない女性。
    過去に姉の婚約者を奪った女性の娘の結婚式での因縁トラブル。
    何でも自分の都合の良いように解釈し攻撃する女性。

    宮部さんは、特にこのシリーズではよくぞここまでと思うほど人の悪意を描いてくれる。
    その点、若竹七海さんの葉村晶シリーズと似ている部分があるのだが、違うのは晶がもう身も心も文字通りボロボロになりながら容赦なく真実を顕にするのに対し、杉村三郎はどこか余裕がある。
    二人とも何度もピンチに陥ったりとことん辛い目に遭ったりしているのにこの違いはなんだろう。

    読んでいるだけでもこの悪意に毒されそうで、読み終えた途端に疲れがドッと来るような作品なのに、直にその悪意に触れたはずの杉村三郎がいつもと変わらぬ涼しい顔というのはそのメンタルに恐れ入る。
    勿論、内なる部分では打ちひしがれているし悲しみも怒りも後悔もあるのだけど、悪意に中てられることなく通常運転が出来るというのはすごいことだと思う。
    その辺りは男性と女性との違いなのか、人生の来し方の違いなのか。

    ここまで非常識なことが、こんなありえないことが、と思いながら読み進めつつ、現実に起こる事件を思い起こしても「こんなありえないことが」起こるから事件に至るわけで、こういうこともないとは言えない。
    勿論無いほうが良いのだけど。

    この作品から登場する立科警部補、これから杉村の良いコンビになるのか、はたまたライバルとなるのか。

  • 杉村三郎シリーズ第5弾。
    このシリーズは、いつも杉村三郎の人柄に救われる。彼自身の生活も天変地異を経ているのだが、ダメージを受けながらもどこか自分を静観していて、堅実な歩みを止めない。
    寛容さが失われつつある今の社会。ごくごく普通で真っ当な杉村三郎…名前からしてインパクトがない…の考えや行動にハッとさせられ、ホッとするのだ。

    三編収録の本作。最初の絶対零度は正直、胸くそ悪くなる(失礼)。だが、これが今の世の人の現実なのだろう。最後の表題作も、ハッピーエンドにして欲しかったなぁとどこかで思ってしまうのだが、甘くはないのだ。

    その時々の社会問題をタイムリーに物語に紡いで我々に投げかけるこのシリーズ、次も期待している。2019.1.31

  • 探偵稼業が板についてきた杉村三郎が「ちょっと困った」女達と向き合う3編。取っ掛かりは確かにちょっと、なのにそれがどんどん不穏な方向に転がっていく。その結末は容赦ないし誰にでも起こり得る可能性にゾッとする。自殺未遂をしたという娘に娘の夫が会わせてくれなくて困る「絶対零度」家族間のトラブルと思っているとまさかのとんでもない闇に突き落とされる。大家の竹中夫人と一緒に結婚式の代理出席に行く「華燭」はまだ最後救いがあってほっとした。表題作は誇張されてるけどいるよなこんな人、なので最後が理解しやすく本当に苦しい…。杉村さんの日常のほっこりする場面もあるけどその分事件パートでの牙が際立つ。やはり上手いな宮部さん。

  • 『昨日がなければ明日もない』―杉村三郎と「ちょっと困った」女たちの物語

    『昨日がなければ明日もない』は、『希望荘』から2年ぶりとなる杉村三郎シリーズ第5弾で、杉村が「ちょっと困った」女性たちと対峙する物語が展開されます。自殺未遂をした主婦、訳ありの新婦、自己中心的なシングルマザーと、それぞれが抱える深い問題を前に、杉村三郎はどのように対応していくのか。この作品群は、家族という絆の中で起こる様々な葛藤と、その影響を深く掘り下げています。

    「絶対零度」では、娘が自殺未遂をした背景にある陰惨な真実を追います。「華燭」では、結婚式という人生の節目で起こる思わぬトラブルを描き、「昨日がなければ明日もない」では、奔放な女性の背負う「子供の命がかかっている」という重大な問題に杉村が挑みます。

    これらの物語を通して、著者は、自己中心的な行動が周囲にどれほどの影響を与えるか、そしてそれでもなお杉村三郎がどう人々を救おうとするのかを描き出しています。特に、家族関係における人間同士の複雑な繋がりが、よくも悪くもなる可能性を示しています。

    中篇3本から成るこの作品集は、一見身勝手に見える人物たちがなぜそのような行動を取るのか、その背後にある深い理由や状況を理解することで、人間の多様性と複雑さを感じさせます。最後の意味深な終わり方は、次作への期待を大きく膨らませます。

    杉村三郎シリーズをすべて読破し、次作の発表を心待ちにしている今、この作品群は、現代社会のさまざまな問題を考えさせるだけでなく、杉村三郎というキャラクターの魅力を再確認させてくれました。『昨日がなければ明日もない』は、杉村三郎シリーズの中でも特に印象深い作品となり、次の物語への橋渡しとして、その役割を果たしています。

  • 杉村三郎シリーズ第5弾。
    あいかわらず闇と向き合うシリーズで、読後感も重め。
    一見普通にみえる日常の中から現れる、悪意。
    当たり前の常識と論理が通用しない人間を相手する、むなしさ。
    「絶対零度」「昨日がなければ明日もない」は、強烈なパンチ力だった。
    大家さんと中学生がさっぱりしていて、「華燭」は唯一すがすがしさがあった。
    3つの中では、まだ救いがある方。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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