VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908847

作品紹介・あらすじ

◆心理学✕テクノロジー、仮想現実の最前線◆・VR内での体験を、脳は現実の出来事として扱ってしまう・VR内で第三の腕を生やしたり、動物の身体に〝移転〟しても、脳はすぐさまその変化に適応し、新たな身体を使いこなす・イラク戦争後、〝バーチャル・イラク〟を体験するVR療法により、PTSDに苦しんでいた二〇〇〇人以上の元兵士が回復した・VRで一人称視点の暴力ゲームをプレイすると、相手が仮想人間だとわかっていても生々しい罪悪感を覚える・仮想世界で一日過ごすと現実と非現実の違いがわからなくなる・VRユーザーの身体や視線の細かな動きは、正確にデータ化できる・そこからその人の精神状態、感情、自己認識がダイレクトに読み取れる【目次】■序 章 なぜフェイスブックはVRに賭けたのか?私は二〇年にわたり、認知心理学の観点からVRを研究してきた。今のVRブームは、二〇一四年にフェイスブックが「オキュラス」を二〇億ドル超で買収したことから始まったが、実はその数週間前、マーク・ザッカーバーグは私の研究室を訪れていた。■第1章 一流はバーチャル空間で練習するVR内での経験は、現実の経験と同様の生理学的反応を脳にもたらす。VRは人類の歴史上、最も強い心理的効果を持つメディアなのだ。では、これを学習に応用したらなにが起きるだろうか。NFLのチームで行った実験は、驚愕の結果をもたらした。■第2章 その没入感は脳を変えるVRでは一人称視点の暴力ゲームを作らない――ゲーム開発者は早々にこの結論に至った。ゲームであってもVR内の殺人はあまりに生々しく、罪悪感を残すからだ。VRは脳へ強烈な影響を与える。仮想世界で二五時間過ごした男にもある変化が起きた。■第3章 人類は初めて新たな身体を手に入れる特殊な〝鏡〟を使えば、人間の脳はいとも簡単に仮想の身体を自分自身だと思いこむ。これをVRと組み合わせれば、年齢や人種の異なる人間はもちろん、別の動物の身体に移転することも可能だ。人類史上初めての事態に、我々の脳は対応しきれるのか?■第4章 消費活動の中心は仮想世界へ宇宙から海底まで、誰でも簡単に旅ができるVRが普及することで、世界の消費活動は一変する。既に仮想世界で遊ぶための衣服・不動産・船などにあらゆる階層の人々が多額を投じ、巨大な経済圏が生まれている。これを軽視すると未来を見誤るだろう。■第5章 二〇〇〇人のPTSD患者を救ったVRソフト同時多発テロ後、多くの人がPTSDに苦しんだ。治療にはトラウマの再現が有効だが、本人の記憶に頼る従来の手法ではあまり効果はなかった。そこである専門医は、テロ当日を緻密に再現したVRを作製。患者を再度、九月一一日のNYに送り出した。■第6章 医療の現場が注目する〝痛みからの解放〟重度のやけど患者は治療で想像を絶する激痛を味わう。それはどんな鎮痛剤も効かないほどだ。だが治療中の患者にあるVRソフトをプレイさせると、劇的に痛みが和らぎ、脳の活動にも明確な変化が見て取れた。このVR療法の登場に衝撃が走っている。■第7章 アバターは人間関係をいかに変えるか?ユーザーの細かな表情や動きを仮想世界のアバターに反映させる技術は急速に進化している。誰もが仮想空間で交流し、通勤や出張が不要になる日も来るはずだ。だがあらゆるアバターは心理学に基づく印象操作を駆使して、表情や行動を偽装するだろう。■第8章 映画とゲームを融合した新世代のエンタテイメントハリウッドではゲーム業界出身者が集まり、VRを用いた全く新たな物語作品を作り始めている。VRは没入感と引き換えに、一本道のストーリーには向かないという弱点がある。解決策として彼らが注目するのは、AIを用いた〝ストーリー磁石〟だ。■第9章 バーチャル教室で子供は学ぶハーバード大学では、一九世紀の町をインタラクティブに再現したVRを制作。当時の世界にタイムスリップして科学を学ばせる「VR社会見学」を中学生に体験させた。結果、生徒たちの学習意欲は大きく向上。VRは教育の世界も劇的に変えていく。■第10章 優れたVRコンテンツの三条件かつては一部の専門家にしか扱えなかったVRも、今では誰でも簡単に入手できるようになった。既存のメディアとは全く異質で、測り知れない力を秘めたこの技術は、人類にとって諸刃の剣だ。その制作者は三つのルールを必ず守らなければならない。

感想・レビュー・書評

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  • VRは、仮想ではない。現実そのものだ。

    とりわけ、PTRDや認知症の治療や
    教育効果を高める可能性などの有益な未来を
    知ることが出来た。

    しかし、これはダイナマイトや原子力と同様、
    使い方次第で、最悪な道具にもなり得る。

    有益性と猛毒性の両面を様々な実例で
    実感させてくれる興味深い書籍。

  • VRの可能性と危険性について知ることができた。単なるエンタメの道具と思っていたが、インターネットと同等あるいはそれ以上に人間の行動を変えるインパクトがあることを知り、VRを早く体験してみたいと思った。

  • 本書はスタンフォード大学の心理学者でVR研究に長年携わってきた先生による本です。大変面白かったですが、日本語の題名にあるような「VRは脳をどう変えるか」という質問に答えている本ではありません。著者が本書内で述べているように、脳にどういう影響を及ぼすかはよくわかっていない、というのが結論ですので、日本語のタイトルの答えを求めている人は気を付けたほうがいいと思います。むしろVRがどのような領域で活用されつつあるのか、それはどんなインパクト(脳というよりも人間の行動や健康状態などのアウトカムに対して)をもたらしているのか、ということで、原題にありますように「Experience on demand」(オンデマンドの体験)を提供するのがVRの重要な役割ということが、豊富な事例や研究をもとに紹介されています。

    特に印象に残ったのはアメフトのシミュレーションで使われたところクォーターバックの成績が大いに向上したこと、またPTSD(心的外傷後ストレス障害)治療で一定の成果を上げているといったことでした。またVRが進化することで、人間の移動はおそらくコロナ禍直前ほどには戻らないだろうなという印象も強く持ちました。1つの打ち合わせだけのために数時間かけて出張する、といった行為は減るからです。

    個人的には、VRが生み出す体験産業の存在が気になります。メタバースもその一環かもしれませんが、これはかなりの一大産業になるのではないか、もしかすると第3次産業と呼ばれているサービス業の次の第4次産業の座に座るのは体験業ではないか、という予感もしました。なぜなら体験業は、サービス業が満たす欲求とは違う、より上位の欲求(マズローでいうところの自己実現欲求)を満たすからです。VRはじめXRと呼ばれる技術動向を学ぶための良書でした。

    1点苦言を呈するなら、アマゾンの本書のページを見ると、著者のところに、訳者の日本人のプロフィールが掲載されていますが、これは著者に大変失礼でしょう。著者のジェレミー・ベイレンソン氏のプロフィールに差し替えるべきです。

  • VRをどのように使っていくか知りたい人におすすめ

    【概要】
    ●VRを用いたスポーツ選手の練習
    ●マイナスの影響
    ●仮想の身体
    ●エコツーリズム
    ●医療、教育への活用
    ●アバターの効果
    ●優れたVRコンテンツの三条件

    【感想】
    ●今後、躍進するであろうVRについて詳しく書かれている。
    ●VRによって得られる効果が具体的に書かれているだけでなく、VRのデメリットや、作成に当たってどんなことに注意しなければならないかが示されているのは勉強になった。

  • 米国のVR研究者が書いた本。細かな研究内容が紹介されている点は示唆に富む。ただし、ビジネス視点はあまり無いので、これからどのように発展していくかなど、夢を感じさせる内容は少ないです。これは本のコンセプトに依るところなので、理解した上で手に取る分には良書と思います。

  • VRの没入感は他のどのメディアよりも優れている。第三者視点で経験するのではなく、(ほぼ)実体験として経験できるからだ。

    VR活用例①
    スポーツの教育。テニスとか身体の動きを説明するのに最もふさわしいメディアになりうる。アメフトのQBの練習。即座の判断を鍛えられる。現実と同じような心理的状況にできるため、緊張感や視野、音とか動画を見るのとは全く異なるものを味わえる。
    実際に身体を動かすため、身体化認知にも期待できる。

    活用例②
    環境・地球に対する意識の変化。
    宇宙飛行士は宇宙から地球を眺めることで、地球規模の意識が芽生える。世界の現状に不満を感じ、問題解決のためにアクションを起こさなければと感じる→これをオーバービュー効果という
    VRを使えばこの効果の再現が可能では?

    活用例③
    PTSD患者への暴露療法の一環として

    活用例④
    やけどをしている患者の治療の際に気をVRの方にそらすなどして、痛みを緩和するために活用する。

    VRの活用法⑤
    エンターテイメント。
    舞台での劇を固定カメラで撮影(ノーカット、編集なし)→編集やカット→カメラの動き→…今。
    映画は初めから今ある形になったわけではなく、上のような形で右往左往しつつ進化してきた。VRも徐々にその活用が広がっていくのでは。今は草創期。
    現段階での問題点→ストーリー展開に不可欠な伏線とVRの持つインタラクティブな特長のバランス。伏線が見逃される可能性がある。
    →基本戦略1 すべての動きを1箇所に集中させる(VRでやる必要はない)
    →基本戦略2 360度の空間を生かし、四方八方で大事な動きを発生させる⇆VR体験に夢中で、ナレーションが耳に入らないかも
    音や動きで注意を引かせるという案もある。立体音響。
    1つのストーリーの中に様々なエピソードがあり、本筋から離れてもまたストーリーに戻って来られる仕組み。

    VR活用例⑥
    教育現場。
    社会見学など、あらゆる人が普段行けないところに行って体験できる。ただプレーヤーがその体験そのものに夢中になり、学習すべき内容が疎かにになってしまう可能性がある。ナレーションや事実説明が全く不要のVR体験を制作するのも1つの方法。
    VRにより、生徒の動作のすべてをリアルタイムで計測できるので、授業への集中度なども測れる。→その人にあったバーチャル教師


    VRのマイナスの影響
    ・暴力の行動モデリング
    精神面への悪影響や暴力への感覚麻痺
    ・現実逃避
    ・過度の利用
    ・注意力の低下
    対象をデジタルで表現することで、現実世界の本物にはある欠点を消してしまう(例えば不便とか)。このため仮想世界への逃避は現実を正しく認識する能力を失わせ、モノそのものの真価を味わう能力やリアルな物質を相手に作業する能力を弱めてしまいかねない

    VRの特徴である没入感は他社の経験を共有し、じぶんと違う人々の生活を理解するのにうってつけである。他者の一人称視点に立つことで、その人の理解が深まる。例えば高齢者の視点に立つこと。他人には思いやりがあり、自分には厳しいうつ病患者が他者の立場に立つことで、自分に対する思いやりを取り戻すなど。


    バーチャル空間での人々の交流
    実用が難しいわけ→人々の会話には同期性というものがある。会話に参加している人が会話の中の非言語行動と呼ばれる仕草や表情の変化などを共有することが同期性。それをバーチャル空間で再現するのが難しい。
    また会話の中で思わず出る肉体的反応も再現が難しい。顔の赤らみや心からの純粋な笑顔など、生理機能の変化をともなうものはどうすれば良いか。
    電話用アバター。癖や表情の変化を反映したアバターを用いたチャットアプリ。画面に映るのは本人ではなくその表情をリアルタイムで再現するアバター。
    →問題点、データ送信のラッシュアワーが起きると考えられる。またそれがどのタイミングか予測が難しい→インフラの仕組みづくり

    危険性inジャーナリズム
    ・VRの没入感は他のメディアを上回り、プロパガンダに悪用され得る
    ・いくらでも改竄・加工ができる


    優れたVRコンテンツの3条件
    ・VRである必要があるのか
    現実では不可能な体験や現実で危険な行為を危険なく体験するなど
    ・ユーザーを酔わせてはならない
    ・安全を最優先する

  • ソーシャル共有型ストーリーの可能性に期待を持てた一冊。AIを駆使してストーリーを発見するエンターテイメントになるかも?
    コンテンツを作る前に、「VRコンテンツである必然性」を考えるのが大切なんだな。

  • ふむ

  • VRの影響について実験をいくつも紹介している本であった。VRの施設を利用することができれば、学部学生も実験ができるであろう。 
     多くの本はVRの説明に終始しているが、一歩進んだVRの本である。AIについてのこうした本が出てくれることを望む。

  • VRは楽しむものという意識しかなかったが、ある一定の調査から様々な活用についての示唆があった。
    特に、2次元の動画に比べ、心に残るという点が学びになった。その上で使い方やコンテンツを考えていこうと思う。

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