死の島

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908052

作品紹介・あらすじ

文藝編集者として出版社に勤務し、定年を迎えたあとはカルチャースクールで小説を教えていた澤登志男。女性問題で離婚後は独り暮らしを続けているが、腎臓癌に侵され余命いくばくもないことを知る。人生の終幕について準備を始める中、講師として彼を崇拝する若い女・樹里は自分の抱える闇を澤に伝えにきたが-―激情に没入した恋愛、胸をえぐるような痛恨の思いを秘めて皮肉に笑い続けた日々。エネルギーにあふれた時代を過ぎて、独りで暮らし、独りで死ぬという生き方は、テレビで繰り返し言われるような「痛ましく、さびしい」ことなのか。ろくでもない家族でも、いさえすれば、病院の付き添いや事務処理上の頼みごとができて便利なのだろうか。生きているうちから、人様に迷惑をかけないで孤独でない死を迎えるために必死に手を打ち備えることは、残り少ない時間を使ってするようなことだろうか。プライド高く、理性的なひとりの男が、自分らしい「死」の道を選び取るまでの内面が、率直にリアルに描きつくされる。 人生の幕引きをどうするか。深い問いかけと衝撃を与えてくれる小池真理子の真骨頂。『沈黙のひと』と並ぶ感動作。

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの小池作品。
    私の中では「恋」を超える作品が無く、読む機会も段々と減っていたが、今作では末期ガンである元編集者の69歳の老人と、26歳の普通の女性が巡り合い、死を迎えるまでを描いていると言うことで、どことなく「恋」の時の年の差を超えた恋愛小説を期待して、読み始めたが、実際には死と向き合う人間の葛藤の物語であった。
    人間は生きている限り、誰しもが老いる。
    その老いをどう受け止めるか?
    主人公の澤は、今までの人生を決して悔いることもなく、孤独であることも受け止め、ラストは自分の意思を貫く。
    自分も身内、親しい他人もいない中、この先、澤のようになって行く可能性が高い。まだ年齢的には先の話だが、とても考えさせられる内容だった。

  • 2回目。
    澤登志夫は編集者をリタイア後、カルチャースクールの小説講座の講師をしていた。
    67歳にしてがん再発のため講師を辞すことになり、講座最終日に一人の生徒に声をかけられる。
    人生の終盤はどのようにやってくるのだろう。最後の幕引きはどんなだろう。病み衰える体で色々なことに意欲が失われても、最後まで自分らしくあることにこだわるのはどのような気持ちだろう。

    アルノルト・ベックリーンの「死の島」
    恐ろしげなタイトルとは裏腹に、色味を抑え、静謐で清浄な空気が感じられる絵画が、死に向かう澤の心の拠り所となって、行くべき場所を指し示し、それに従って船を漕ぎ出した、そんなような感じがした。

  • あぁ…凄いのを読んでしまった‼︎
    静かな作品ですが、読むのを止められなかった。人生の幕引きをどうするか?人間にとって真の救いとは何か?ということを考えさせられる傑作です。静かな涙が滲みました。

    作中に出てくる、アルノルト・ベックリーンの『死の島』という絵画。(このモチーフで何作も描かれている)私もこの絵については初めて知り、検索して絵も見て…読後、この絵のイメージが頭の中に染み付きました。(気になる方は検索してみてくださいね)

    人は1人で生まれて、1人で死んでいく。それだけは確実に平等ですよね。自分は最期の瞬間に何を思うのだろう?
    そんなことをグルグル考えていました。

    最近『死』というものが、心の中では身近になってきてる気がします。いえ、私自身は大病もしてないし、まだまだ長生きするつもりですが…。この三年で、夫と両親に立て続けに逝かれたもので…。
    『人はどう最期を迎えるのか?』ということを、否応なく考えてしまう。

    思えば、父方も母方も、祖父祖母ともに早くに亡くなっていたので、私はおじいちゃん、おばあちゃんと過ごす、ということを経験せずに育ちました。
    本来、歳の順にお迎えがきて、親が子にその時の様子を見せたり話したり…そういう“順番”であることが、安らかな気持ちになれる一つなのかもしれないなぁ…とよく思うのです。

    とはいえ、思い通りにならないのが人生だけど…。自分にとって大切な人のことを考えながら読みました。
    夫や両親に会いたいとひたすら思う…。いつか私も死の島へ行けば会えるのだろうな…。ガッツリ私的な感想でごめんなさい、

    心に残ったフレーズを少し。

    ーーーーー

    どれほど激しい情熱も例外なく、時と共に落ち着いていくものらしい。そしてひとたび変容した情熱は、形こそ変わっっても、二度と元には戻らなくなる。

    おれたちは似たもの同士だったんだよ。だからこそ、お互い、あんなに夢中になれたんだ。(中略)だからきっとおれたちは、死ぬ時も似たようなことを考えるんだよ。そうだろう?

    土台、運命というのは皮肉なものである。人格とか、意思とか尊厳とか、これまで積み重ねてきた努力とか、さらに言えば思想だの哲学だの、人が懸命になって自分を支えるために編み出した、ある意味では高尚な思考のプロセスなどにはまったく目もくれない。情け容赦なく、運命は人の人生に影を落とす。あんなにツイてなかったのだから、今度こそ、という儚い希望すら、一瞬にして無惨にも打ち砕く。

    利口な女だった。一見、絶えず甲高く囀る小鳥のように無駄口を叩いているように見えて、その実、彼女は話題にしていいことと悪いことを明確に線引きしており、口も堅かった。

    いくら必死になって自分を分析し続けても、まとまりのいい結論や精神の安らぎは得られない。流れに身を任せて生きてみる。それが一番だった。

  • どうやったら、こんな描写ができるんだろう。読んでる途中は文字を追うことに一杯一杯だったけど、1章を読み終えて、目を閉じて、主人公二人の目線でフレーズを思い出した時、葛藤、闇、希望、覚悟を感じた。



    メモ用
    土台、運命というのは皮肉なものである。人格とか、意志とか尊厳とか、これまで積み重ねてきた努力とか、さらに言えば思想だの哲学だの、人が懸命になって自分を支えるために編み出した、ある意味では高尚な思考のプロセスなどにはまったく目もくれない。情け容赦なく、運命は人の人生に影をおとす。あんなにツイてなかったのだから、今度こそ、という儚い希望すら、一瞬にして無残にも打ち砕く。

  • 読んでいる最中、読み終わってからも静かな気持ちになれる本だった。
    小池真理子さんの本は「恋」以来、好きになれないものが多く、今回も期待してなかったけど、その思いが裏切られた。
    またひとつ別の段階にいったのか、この作品がたまたまなのか、とにかくこの本は良かった。

    主人公は末期がんを患い、余命わずかな年老いた男性。
    彼は小説講座の講師をしていたが、その職を辞す際に、若い受講者の女性から声をかけられる。
    彼女は、辛口な批評をする事で有名な主人公が、最もその講座で才能を認めていた女性だった。
    彼女の書いた作品は実体験を元にしたもので、実の祖父と母親が男女の関係になり、主人公が祖父を殺害するというものだった。
    それ以後、歳の離れた二人の交流が始まった。
    そんな折、昔の恋人が亡くなり、遺書に彼にあてて1枚の絵を残していた事を彼は知る。
    その絵のタイトルは「死の島」。

    読んでいて対比する二つのものを感じた。
    若さと老い。
    男と女。
    その対比するものを描く事で、どちらも、そのものが強く感じられる。

    私はこの主な登場人物の男女、どちらにも共通点がないけど、二人の思いが理解できるし共感できた。
    さらに、この話はとにかく平坦で、刺激的な事がないのに退屈する事がなく、却ってそれが良かった、と思えた。
    もし、これが二人の男女の関係を描いたものだったら、その時点で読む気が失せていたと思う。
    何もないように思えるものをちゃんと読ませるし、分からないものを共感させられる、それが本当の小説だし、作家の力量なんだなと改めて感じた。

    以前、母親に「もう歳をとって達観した人が自殺する事はないんじゃない」と言うと、「病気で自殺するとかあるわ」とすぐに答えて、それを聞いて「なるほど」と思った。
    この男性の考え方やした事を肯定も否定もしないけど、その時の「なるほど」がこの本には満ち溢れていた。

    死は誰にでも訪れるけど、自殺しない限りはそれは本人の思うようにならない。
    そんな事すらも自分の思うようにしようというのはある意味傲慢だけど、その傲慢さを感じさせない、何か荘厳なもの、ただただ静かなものがこの本には漂っている。
    タイトルになっている「死の島」は不気味な絵ではあるけど、私は何となく見ていてやすらいだ。
    ここに行ってみたいと素直に思った。
    そんな思いがそのまんまこの作品に通じていて、救いのないストーリーのはずなのに、心が救われるような気持ちになった。

  • 老いたお父様の話を思い出した。そして、書いてる筆者も『老い』に向き合うざるを得ない年齢になってきてる。
    若い女性とのsexを伴わない恋愛小説でもあり、死に向かい合った小説でもある。
    樹里がおしっこの匂いに生を感じた所が、生々しかった。
    この筆者はやっぱり好き。

  • 末期がんを患った69歳の登志夫が選んだ最期。生を見つめ、人生を思い返し、死を間際にしてたどり着いた場所。そのひとつひとつの想いに圧倒される、健康な人間が見つめる生と死とは違うものが確かにある。病に冒された者にしかわからない生と死がある。生が、死が身近に感じられるのは死を実感した時だけなのかもしれない。死を想う時に生への想いも同時に浮かび上がり生への執着と死への肯定とはんする感情が生まれ次第に死への肯定と生への感謝へと流れていく。こうして考えることすら死を間近に感じた時には全く違って見えるのかもしれない。今感じられる全てを感じ、何一つ見逃すことなく生きてその先に死がある。その瞬間までたくさんのものを実感を伴って生きていたい。本当に凄い作品。

  • 初出 2016〜17年「オール讀物」

    装画がなぜ山本六三のスフィンクスなのだろう、ベックリンの死の島で良かったのではないか、というのが読み終えた時の違和感。
    出版社の編集者だった70歳の澤登志夫は4年前腎臓癌が見つかり治療していたが、ステージⅣまで進行して骨髄と肺に転移していたため、治療をやめ、長野の別荘に行って点滴治療を利用して失血死を選ぶ。
    その過程で小説講座の教え子で澤が作品を誉めた26歳の樹里との交流があったが、澤は樹里には何も伝えなかった。樹里は澤のことを小説に書こうと思う。

    私も癌になったら、延命せずペインクリニックだけで最後を迎えたいと思っているので、主人公の葛藤や決意には考えるところが多々あった。

  • 日経に作者がこの本のことを書いていたので図書館から借りた。
    テーマは重く簡単に感想は書けない。
    まぁ自分が高齢者だからこう思うので未来のある若者なら小説の一つで済ませられるのかも知れない。

  • 3.5

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小池真理子の作品

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