- Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163907758
作品紹介・あらすじ
「武士の世を作る」御家人たちの土地が、公家たちの荘園として搾取されていた屈辱の時代は終わりにする。頼朝が生涯をかけての願いが今、実現するかどうかの瀬戸際に来ている。頼朝没後22年、65歳になった北条政子はおのれのすべてを振り絞って、後鳥羽上皇との戦いへと御家人たちを力強く鼓舞する。鎌倉幕府三代の将軍の側に、妻として母として、そして時代の要としてその存在を輝かせ続けた北条政子。喜びと苦しみ、類まれなる人生の最後で得た感慨とは。頼朝晩年の大いなる謎に、著者懇親の解釈が肉迫する。魔界・鎌倉を舞台に、頼朝と政子を通して源氏三代のドラマ、人間の業を大胆にドラマティックに描き出してみせた長編エンタテインメント!
感想・レビュー・書評
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続けて鎌倉関連の作品。
悪いイメージで描かれることが多い頼朝・政子夫妻視点ではどう描かれるのかと不安と期待で読んでみた。
意外にも政子は大河ドラマのキャラクターに近い。
義経排除の際は頼朝の冷徹さに付き合っていて、またダークサイドな政子か…とうんざりしていたが、その後は情に深い政子が強くなっていく。
静御前が生んだ男児の助命嘆願したり(叶わなかったが)、大姫入内話の時には『佐殿は、どのようなものでも利用なさるのですね』と皮肉、頼朝が邪魔な勢力を次々排除していくのには『鎌倉府第一を掲げれば何をやってもよいとなれば、その大義の刃は己や妻子眷属に向けられる』と苦言と、読みながらハラハラするほど。
だが決定的な溝ができることはない。そのくらい夫婦の絆は強い。頼朝の冷徹さについていけなくなり時に孤独を感じつつ、後半は時に激しく動揺しながらも最後まで頼朝に寄り添った、頼朝にとって『かけがえのない女』だった。
頼朝は、最初は『怜悧な人』で武士の府という理想を作り上げるためにはあらゆることを犠牲にしてきた冷徹な人間でもあったのだが、後半は思いもよらない姿に。
頼朝を描いた作品をそうたくさん読んだわけではないが、これほど哀れな頼朝は初めてだった。
どこまで史実に近いのか、伊東さんの完全なるフィクションなのかは分からないが、正直こんな武衛は見たくなかった。
だが最後は鎌倉殿らしさを見せてくれたのでそれだけが救い。
もう一人意外だったのは大姫。薄幸の人のイメージしかなかったのだがこの作品では新たな大姫が描かれた。体調を崩しては政子が駆け付ける度に大姫は政子に痛いところを突いてくる。そして『母上への最期の置き土産』がそう来るとは。
意外ではないのは義時。こちらは他の作品でもさんざん描かれる、奸智に長けた実に嫌なヤツ。
それも『そなたは「こうした方がよい」と思ってもそれを告げず、そうせざるを得ないように仕向けるのが得意でした』と政子に言われるような、一番卑怯なやり方。
あんなことこんなこと、ほとんどの犠牲の裏に義時がいる。この義時では大河ドラマの主役にはなれないだろう。
義経は功名心が強く唯我独尊の男。だが大江広元は『武士としてのあらゆる美点』を備えていて『好いておりまする』と言っている。なのになぜ義経を排除するのかと言えば『用済み』だから。最後まで利用された可哀そうな男だった。
可哀そうと言えば範頼も。とにかく小粒、凡庸。その凡庸さが命を長らえられた一方で、結局は命取りとなった。一体どう振舞えば寿命を全う出来ていたのか。
息子・頼家は幼いころから父・頼朝にも母・政子にも懐かず、長じては親を親とも思わない危険人物。これなら排除されても仕方ないなと思う。
この時代、仕方のないことだけれど政子が自身で育てることが出来ていれば少しは違った親子関係になっていただろうか。
作中一番光った人物は畠山重忠。『筋の通った男』で頼朝は彼の『正しさ』を愛した。だがそれだけでは『武士の府が守れない』と彼の真っ直ぐすぎる気性を危ぶむ。
結局は頼朝の方が先に死ぬわけだが、奥州征伐には大義がないと苦言を呈し、次第に朝廷に近づく頼朝には清盛と同じ道を行くなら『もうついていけませぬ』と言う。そして終盤にもまた彼らしい真っ直ぐな言葉で頼朝に物申している。それも命がけで。
確かに政治家には向いてないが、武士として忠臣としては実に格好いい。
頼朝の死がどう描かれるのか、そして頼家が将軍になった後の新体制は。この作品での描かれ方も斬新だったが、ドラマの方も楽しみ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み応えがあった一冊。
武士の府を守り抜く、その志を共にした頼朝と政子。
決して順風満帆ではない二人三脚。
この作品はまるで鎌倉に吹き荒れる嵐を見たようだった。
理不尽な斬首、首実験、致し方ない時代を改めて思う。
そして義時がミステリアス過ぎて怖さも。
頼朝の側でこまめに動くその裏側を想像してしまう。
そして終盤は病を患ってからの頼朝の周りに流れる不穏な空気、虎視眈々と権力闘争を伺う輩、花押争奪戦と…一つも見逃したくないほど読み応えあり。
そしてやっぱり思う。政子は武士の府だけでなく家族、親子の府も創りたかったはず、と。 -
来年の大河の予習、2冊目です。
この本は読む前、特に期待してなかったのですが、予想以上に面白かったです。
初めて読む作家さんですが、文章が上手かったですね。
前回読んだ永井路子の本より北条義時の登場場面が多かったですし、頼朝が段々老化でぼけていくんですが、その様子が刻銘でリアルで良かったです。
北条義時に関しても彼特有のずる賢いところが上手く描けてたと思います。
2冊読んだので予習としてはもういいかな。
あとは伊東潤さんの本は千利休の本が評価高いので今度読んでみようと思います。 -
大河の鎌倉殿の13人の予習として読みました
登場人物一覧をコピーして、
北条義時が小栗旬、畠山重忠が中川大志、
比企能員が佐藤二郎、梶原景時が中村獅童、
と書き添えて読みました。
歴史の教科書に載ってない、鎌倉創世記の空気を感じました。
来年の大河が楽しみです。
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鎌倉幕府誕生直後から源頼朝死去までの治世を北条政子視点で読み解くという実にマニアックでよい時代小説。特に晩年の源頼朝がアルツハイマーだったという大胆な設定にすることにより、現代のそこかしこで起きている高齢家庭問題、あるいは企業の継承問題とシンクロするという作者の狙いが大当たりした作品となっているように思える。政子さん、がんばった、がんばったよね!
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いい国つくろう鎌倉幕府でお馴染みの源頼朝とその妻北条政子の物語で、前半は義経討伐に至る経緯がメインとなっていて、どうして義経が討たれなければならなかったのかが描かれていて、あぁ、これなら討たれてもしょうがないわ、と思える内容となっている。
後半は言っていいか悩むが、ほぼ若年性痴呆症の話になっていて、家族に同じ立場の人がいると、まぁ、よくわかる内容になっている(かくいう私もよく理解はできたw)。
でもその分、物語としては、展開が希薄で同じパターンの繰り返しでなかなか読むのがしんどくなってしまった。
しかしやっぱり、そもそも鎌倉時代って、ほぼ古事記とか神話の時代と変わらない感覚で、なんだかドラマ成分が希薄に感じてしまうなぁ。 -
政子は幸せだったのか、気になります。
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2023.0121
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他の作家は頼朝が落馬と簡単な死を書いて頼朝を暗殺する経緯がないがこの作品は頼朝の耄碌が原因とする説でそこにページを割いている。そして政子の苦悩、北条ではなく、鎌倉幕府を護る事を念頭において尼御台の勤めをこなしている。ドロドロしたのはないので読みやすく楽しく読めた。