- Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163907437
作品紹介・あらすじ
世界的な物語作家と聖路加の気鋭の漢方医が打ち合う、生命を巡る白熱のラリー!『精霊の守り人』から医学の未来まで、知的好奇心を刺戟する圧倒的な面白さ!なんのために生まれ、なんのために生き、なんのために死ぬのか。人は、答えが出ないとわかっている問いを、果てしなく問い続けるような脳を与えられて、生まれてきたのでしょうか。--上橋菜穂子なんのための生なのか、という問いは、いささか弱音のようにも聞こえるのですが、この弱音こそが、優れた物語の書き手である上橋さんの「創作の源泉」であるように私には見えてくるのです。--津田篤太郎最愛の母の肺がん判明をきっかけに出会った作家と医者。二人の話は、身体のシステム、性(セックス)、科学・非科学、自然災害、宗教、音楽、絵画、AI、直感……、漫画から古典、最新の論文にいたるまで縦横無尽に広がっていき、物語の創作の源泉もひもとかれていく。かつてないほど刺激的な思考体験ができる究極の一冊!【著者略歴】上橋菜穂子1962年東京生まれ。立教大学文学部卒業。文学博士。川村学園女子大学特任教授。89年『精霊の木』で作家デビュー。著書に『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、『狐笛のかなた』『獣の奏者』『鹿の王』など。野間児童文芸賞、路傍の石文学賞、本屋大賞、日本医療小説大賞など数多くの賞に輝き、2014年には児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞作家賞を受賞する。津田篤太郎1976年京都生まれ。京都大学医学部卒業。医学博士。聖路加国際病院リウマチ膠原病センター副医長、日本医科大学付属病院東洋医学科非常勤講師、北里大学東洋医学総合研究所客員研究員。西洋医学と東洋医学の両方を取り入れた診療を実践している。著書に『未来の漢方』(共著)、『病名がつかない「からだの不調」とどうつき合うか』『漢方水先案内』がある。
感想・レビュー・書評
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ほの暗い永久から出でて
生と死を巡る対話
上橋菜穂子 津田篤太郎
良い本 滋味になる
少しずつ消化したいので本当に大事にゆっくり読みたい
ミノガになりたいと願うような世の中が来ないことを祈る、とか
災いと恵は不可分である、とか
いい深い思索があってよい
AIには物語がない
死ぬことがないので死と再生の繰り返しの過程を通じて人のような成長もすることがない
画家の一時期の絵は習得しても
その画家が辿ったような成長をすることはないだろう
"生きなければならないが、生き続けてはいけない"という生命の連綿と続く非情な摂理
"私は、この世に在ること、そのものを、哀しむ心をもつて生まれてきました。
その哀しさや虚しさを宥める道を探すために、多くの物語を紡いできました。御伽噺ほど無邪気に都合良いものでは満たされず、さりとて、文学よりは、幸せでありたいと願う心に寄り添いたくて、矛盾する様々な糸を、あるときは矛盾のままに、あるときは知恵で辻褄を合わせながら、物語を紡いできました。
それでも、心の底にはまだ、あの幼い頃の、晩秋の夕暮れどきの、青白い哀しみがひっそりと宿りつづけています。"詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
作家の上橋菜穂子と東洋医学者の津田篤太郎の往復書簡形式による共作だ。
上橋菜穂子はこの書簡のやり取りの途中で実母を癌で亡くしており、その看取りを津田氏がしたということもあって、副題にある通り生と死にまつわる話が多く登場する。
雌はただひたすらに蓑の中で生殖を待ち、生殖器官以外の器官はほとんどないというミノガの生態から始まり、動物は「あまりに大きい物(風力発電の羽)」や「理解できないもの(足音も立てず高速で近づいてくる車)」は認識できず見えないのではないか、ならば人間も同じで見えないから認識できていないだけの何かが世界にはあるのではないか、という話まで、生命や世界に対する考察は深く広がって、興味深い。
個人的には、上橋菜穂子の「人間は驚くべき精密さで生命を維持し、しかしいつかその精密さで自身の生涯を終えようとする」という、老化と死の仕組みを改めて明文化することによってクッキリと輪郭を持った生命の不思議さと、津田篤太郎の「完全無欠のAIは死を知らず再生を知らないために、死と再生の経験を経た人間の模倣はできない」という科学と人間の不思議さが印象的だった。
ふたりとも文学博士と医学博士であり、知識の量と洞察の力がすさまじく、それほど厚い本ではないのになるほどと思わず頷きたくなるようなくだりがたくさんあった。
面白かった。 -
聖路加にも漢方医が居るんだ、、、
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世界的な物語作家と聖路加の気鋭の漢方医が打ち合う、生命を巡る白熱のラリー!
『精霊の守り人』から医学の未来まで、知的好奇心を刺戟する圧倒的な面白さ!
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163907437 -
今後、時間をあけてまた読みたくなる。そんな気付きに溢れた2人の書簡のやりとりをまとめた本です。
『母の贈り物』はまさにこの本で言うところの「不連続な」出来事によるものであり、自分のこれまでの経験になぞらえて、そしてこれからの未来に想いを馳せながら読んでいると自然と涙が出てきました。
サラッと文字を読むだけなら1日で読み終えられる分量ですが、とにかく色んなことを考えながら読んでしまい1週間もかかってしまいました。自分が普段ぼんやりと考えている人生や生き方、親や家族についての思考の整理にもなりました。おすすめです。 -
こんなふうに豊かなものを持ちたいなあ。生きること、死んでゆくこと、読んでいて、わくわくするのに、しんとした気持ちにもなるやりとり。気づきが多すぎて、栞だらけ。
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「生命をつなぐことに意味があるのか」なんていうありきたりで無意味な問いよりもっと奥の、深い思索に、上橋先生の世界が少し垣間見えた気がした。
おもしろかった! -
児童作家の上橋菜穂子さんと、上橋さんのお母様の主治医の一人でもあった津田 篤太郎氏の公開往復書簡集、かな。
生と死、生と性、「私」と種の中の個体としての命……永遠の生を希いつつ恐れる人間の心の不思議。
母親の介護と看護をしながらそんなようなことを思う上橋さんと、博識で洞察力もある津田氏、賢いお二人の、日常生活の頭の上で交わされているような高尚な思考のやりとり。
最初に出てくるミノガの雌の話からしてショッキングだし、老いというのはそれ自体(種にとって)有用なメカニズムなのだという視点も私には発見で、なるほどなーとうなずくばかりだけど、面白かった(そう言ってよければ)。
この世の苦や悲しみ、病や死にさえ、それ自体の意味があるのかもしれないと、私(たち人間)はそれに向き合うことを考える必要さえなく、ただ受け入れれば良いのかもしれないと、ふと思った(それが難しいから色々大変なのだけど、一周回ってそう思った)。 -
死生観についての本と思い読み始めた。
一言で感想をいうのは難しい…
が、読んで良かったと言えることは間違いない。
人や生き物の生き死にを、ある時は俯瞰で、ある時は至近で語られていたような気がする。
私が好きな、吉野弘の詩の一節が挙げられていたのが、ちょっと嬉しかった。 -
「鹿の王」を書き、お母さまを看取った上橋さんが生命や人体の不思議に思いをはせるのはとても自然な流れだ。津田先生の言葉はやわらかいのに理路整然とわかりやすく、お話もすとんと胸に落ちてくる。医療を突きつめていくと哲学のようになり、そのなだらかな繋がりもすべて人という不思議につながる、当然のものに思える。ファンタジー好きの私は「想定の箱」の話が面白く、ル=グウィンが大好きな自分で本当によかったと思う。