13・67

著者 :
  • 文藝春秋
4.23
  • (179)
  • (120)
  • (57)
  • (13)
  • (3)
本棚登録 : 1221
感想 : 174
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907154

作品紹介・あらすじ

華文(中国語)ミステリーの到達点を示す記念碑的傑作が、ついに日本上陸!現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデェンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。2015年の台北国際ブックフェア賞など複数の文学賞を受賞。世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。映画化件はウォン・カーウァイが取得した。著者は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。本書は島田荘司賞受賞第1作でもある。〈目次紹介〉1.黑與白之間的真實 (黒と白のあいだの真実)2.囚徒道義 (任侠のジレンマ)3.最長的一日 The Longest Day (クワンのいちばん長い日)4.泰美斯的天秤 The Balance of Themis (テミスの天秤)5.Borrowed Place (借りた場所に)6.Borrowed Time (借りた時間に)

感想・レビュー・書評

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  • 鬼★5 超濃密なミステリー! 激動の時代 香港を舞台に正義感あふれる警察官たちの物語 13・67 #陳浩基

    イギリスから中国への主権移譲をめぐる時代の香港。正義感と市民を守る使命にあふれる刑事、クワンを中心に繰り広げられる警察小説&ミステリー。全6編からなる連作中編集。

    めちゃくちゃ面白い!
    単なる警察小説ではなく、ミステリー要素が超高品質なんです。しかも香港の歴史や警察の汚職など社会派要素もたっぷり味わえる名作。世の中にこんなに面白いミステリーがあるなんて、やっぱり世界は広いよ。

    中編程度のお話が全部で6話あるんですが全部面白い。それぞれ全部2時間ドラマでも十分行ける。事件もバラエティに富んでいて、尋問もの、誘拐もの、マフィアVS警察、アクションものなどなど様々。
    しかも年代も登場人物も少しずつ違っていますから、それぞれが新鮮に読み進められます。時代があえて未来から過去へ遡る形で綴られるのも見事。

    なんといっても警察官が魅力的過ぎる!
    悪を懲らしめる、無辜の民たちを護る情念がカッコいい!特に主人公の刑事の人生が丸ごと描写されていますが、彼の成長と活躍ぶりが見ものです。

    また香港の歴史や、その中で光と影を知ることができる社会派小説としても必読。海外ミステリーを独特の世界観を味わえるという、大変すばらしい作品でした。
    タイトルも秀逸で、途中こういう意味なんだろうな…と思ってましたが、最後まで読むと真の意味がわかります。

    2013 黒と白の間の真実
    奇妙な尋問から始まる本格テイストなミステリー
    いきなり☆5レベルのお話で強烈、ミステリーとしても100点
    そしてこんな終わり方をして、これからの話はどうなるのかめっちゃ気になる!

    2003 任侠のジレンマ
    香港マフィアVS刑事のガチンコ警察小説
    練りに練った構成と後半の衝撃的な展開にはびっくり
    教官の鋭利さ、ローの成長が気持ちいい作品。

    1997 クワンのいちばん長い日
    街で起こった愉快犯的な事件と、脱走犯を追いかけるゲームのようなミステリー
    これも緻密なプロットと真相がスゴイ
    教官の今までの知識と経験がいかんなく発揮されて、後味が素晴らしい作品。

    1989 テミスの天秤
    ホテルで発生した香港マフィアとの派手な銃撃戦! …からの裏切り者を洗い出す頭脳戦へ
    教官の正義感、犯人との対決、刑事としての魂が垣間見える超絶胸が熱くなる名作

    1977 借りた場所に
    警察を監視する立場の家庭で誘拐事件が発生。
    ジェットコースターのような犯人との誘拐遊戯から、一気にトンデモな急展開。
    教官の日本刀のようにスパッと真相を見抜く利発さと行動力が圧巻!

    1967 借りた時間に
    爆破テロを阻止するため、切れ味するどい青年と若い警察官が奔走する。
    主権移譲前の荒れた香港を舞台に、若気にあふれた彼らのパッションが熱いっ
    驚愕のラストも見逃さないように。

    正直、クソ面白いです。
    なんだかつまんない刺激のない毎日を送っている方に特におすすめです。ボリュームがあるので、しっかり時間をとってゆっくり読みましょう。

  • フォローしているレビュアーさん方の高評価なレビューを見て読んでみた。二段組480ページのガッツリした作品だったが、中身も濃く高評価なのも頷けた。

    タイトルは2013年から1967年という意味。香港警察の『天眼』ことクワン刑事と、彼を『教官』と慕うロー刑事の活躍を描く。
    『ロー、いいか。ルールを守るだけでは、事件など解決できない。(中略)警察官たるものの真の任務は、市民を守ることだ。ならば、もし警察内部の硬直化した制度によって無辜の市民に害が及んだり、公正が脅かされるようなことがあるなら、我々にはそれに背く正当性があるはずだ』


    富裕層一家の主人が殺され、家族や関係者を集めて謎解きをするのが末期癌で意識がないままベッドに繋がれたクワンというビックリ設定から始まる第一話。
    二つのマフィアグループの間で起こる小競り合いから殺人にまで発展し抗争事件が起きるのではという緊張感が高まる第二話。
    劇薬がビルの屋上から撒かれる事件が続く最中、凶悪な囚人の脱走と脱走を手助けした仲間たちと警察との銃撃戦という次々起こる大事件に振り回される第三話。
    強盗犯グループのアジトを見張り中に起きた、一人の警察官の暴走をきっかけに多数の市民の犠牲を出してしまった銃撃戦になった第四話。

    クワンの手法は違法すれすれでバレたら良くて始末書もの、悪ければ懲戒処分になるような危ういもの。しかし相手は警察のやり口や法律の抜け穴を知り尽くした強者だから、さらにその上を行くためにはこの位しなければ解決出来ないのだろう。
    まるで横山秀夫さんの警察ミステリーを読んでいるかのようで、読み進めるごとに景色が一変、また一変とし、一体いつ本当の構図が見えるのかドキドキする。

    日本の小説でもいわゆる「警察の暗部」を描く作品はあるが、この作品で描かれる香港警察はさらに上を行く。何しろ警察内部に賄賂で簡単に転ぶ者、内通者になる者など警察と敵対する人物がいることが前提として謎解きが進められるのだ。
    外にも内にも油断出来ない人間だらけだからこそ、クワンのこの手法は確立されて行ったのか。

    一方でクワンの『天眼』振りにも驚かされる。クワンとローは共に現場を見て聴き込みもしたのに、まるでホームズとワトソンのように見える景色が違う。
    多分同じ景色を見ても、同じことを聞いていても注目するところが違うからだろうけど。
    それにクワンは「偶然」を信じないし、先日読んだ『同心亀無剣之介』のように見過ごし勝ちな小さな違和感や発見を忘れない。

    それが発揮されるのが第五話。イギリスからやって来た、警察内部の汚職を調べる警察官の息子が誘拐される事件。ただ一度だけ見たものも忘れないクワンの能力に驚く。同時に彼の決着の付け方にも感心する。ただ真実を明るみにし、犯人を見つければ良いというものではないこともある。

    ここまで読んできてクワンの『天眼』振りや手法に感心させられたものの、何故時代を遡る手法にしたのかは分からないまま。
    しかし最終話の第六話を読み終えると、その謎が解ける。同時に冒頭に上げた、ローに語った警察官の有り様を何故クワンが目指すようになったのかも。最後まで読むとそう来るかー、と唸りたくなる。こんな形で第一話に繋がるとは。

    あとがきにによると、一話一話は本格ミステリーの体裁だが、全体的には社会派ミステリーという二重構造にしたらしい。
    最終話の1967年当時、香港警察は統治国たるイギリスのための組織であり、作中、香港市民からは『黄色い犬』と罵られている。しかし現在は中国共産党のための警察になっていて、イギリスが中国共産党に取って代わっただけに見える。イギリスに移住する人々もいるらしく、何とも皮肉な現状だ。
    これから香港がさらにどう変わっていくのか、香港警察がどんな位置付けになるのかも注目だ。

  • すげーー!!!面白かった!
    読み応えありまくり!
    本格ミステリと社会派ミステリどっちも楽しめるとか…すごい。
    ただ、名前や地名が馴染みがなくて読むペースが落ちた。
    でもストーリーは最高にワクワクできて面白い!
    やっと読むことができたー!達成感!満足感!!

    この作品に出会わせてくださったブクトモ様!
    超感謝です\( ´ω` )/

  • 「人の命が何よりも大切」という考えで結ばれた天眼クワンと弟子ロー。1967~2013年のアイデンティティが揺らいでいた香港で警察官として事件を解決していく。

    本作は6篇の連作中編形式で2013年から時代を遡り、クワンを中心に過去を解き明かしていく。さらにローや他の登場人物達を過去に繋がり持たせることで物語りに厚みを持たせ、それが読み応えとなっているところが面白い。

    香港といえば中国に返還されたものの言論統制が年々厳しく、政府を批判した書籍が置かれていた書店の店主が捕まったなどのニュースが聞こえてくる。

    作者はそんな香港社会の現在の切実さも併せて訴えたかったのだろうと思う。

  • 凄い本を読んでしまった。物語は香港警察の伝説的な刑事、天眼、名探偵と謳われるクワンの人生を追う6つの中編で構成される。読者はまず第一話で度肝を抜かれる。そして最後の第六話でまた驚愕し、人生の哀しさを思う。著者はあとがきで、ミクロ的には本格、マクロ的には社会派のミステリを書いたという。まさに両者が見事に融合している。さらに、著者は、今の香港の警察がかつてのヒーローのような存在からかけ離れるたものになっていると指摘し、市民のために戦う警察のイメージはいつか復活するのかと投げかける。残念ながら、その後の雨傘運動、昨年から続く逃亡犯条例への抗議運動の中で、警察は市民に敵対し、あまつさえ発砲までして見せた。2013年以降の物語が紡がれるのか、それはどのような形になるのか、陳浩基の新作を追い続けたい。

  • うーん、上手いなぁ。
    バッターボックスに立ち、見せかけのボール球を楽々見逃し。その後に来る変化球をこれだ!と思いフルスイングするも見事に空振り。そして、思いもよらないところから飛んでくる球を呆然と見逃してしまう。

    この小説は、6編から成り、1人の警察官の人生を遡りながら、香港の歴史をなぞっていく。私には香港の歴史のことはよくわからないが、それでも、単にミステリに留まることなく、本書に深みを与える役割を果たしている。

    この壮大な物語を読んで、まず思ったことは、なぜ短編集なのかということ。長編だったらどれだけ面白いのかと興味を持った。しかし、この構成は長編を読むよりも価値があることかもしれない。それだけ見事だ。
    そして、翻訳モノが嫌いなミステリ好きな方にも是非読んでいただきたい。損はしない一冊だ。

  • 何も言うことなし。とにかく読んで欲しい一冊。中国返還された香港の1967~2013年に起こった事件を解決する老教官クワンとその弟子ローの物語。久々に侠気あふれる小説が出てきたなあ。正義とは何か?考えさせられる。中国系の作品はあまり読んだことがないのでこれを機に面白そうなのを探したい。

  • 衝撃の一冊でした。面白かったです。
    *****
    香港警察界伝説の「天眼」クワンが昏睡状態のまま脳にセンサーを繋ぎ「はい」「いいえ」だけで推理する第一話目から一気に引き込まれます。

    あの人が犯人かなと思って読んでいると、全く予想しなかった展開に…。毎回終盤でオセロのようにパタパタ世界が反転していく感覚は痺れました。
    短編ミステリーとして、それだけでも完結しているのに全体を通してみるともっと大きな括りの社会派ミステリーにもなっています。
    そうしてラストまで読むとまた最初に戻りたくなる憎いまでの仕掛けと演出…。!今のところ2023年読んだミステリー部門1位です。

  • クワン警視の警官人生が、2013年から6章ごとに1967まで遡って描かれる。それは激動の香港史でもある。先日読んだ同作家の「網内人」同様、いやそれ以上に驚かされた。各章末ごとに驚きはあるが、最後1967年の結末には圧倒される。以下各章ごとに振り返ってみたい。

    最初はクワン最晩年の2013年。彼の病室で「弟子」ローによる「取り調べ」が行われる。対象は殺された者の家族。ローの頭脳明晰さが強調される章だがクワンの思いが根底にあり、言葉を発しないクワンも存在感大である。

    次は2003年。ローがクワンに悩みを相談するところから始まる。黒社会と芸能界との関係が描かれ、昔よく観た香港映画の各場面が思い浮かぶ。ここに登場する芸能人にモデルはいるのか、などと考えてしまった。

    3番目は1997年。香港の中国返還が間近に迫った時、クワンも退職を迎えるのだが…。脱獄囚石本添の足取りについて捜査するが、またまた予想外の結末に。黒社会との癒着が招いた結果で、クワンはまだ隠居できないようだ。ここでローはクワンの「弟子」になる。

    4番目は1989年。前章の石本添を逮捕すべく出動したチームだが失敗、一般市民が巻き添えになる。ここでのローは若輩者という設定。本書に登場する石本添、石本勝兄弟の生の言葉がほとんど出てこないのは残念。おそらく3章と4章の間で石本添は逮捕されたのだろう。その場面が見たかった。キーマンとなった警官の行動が醜くて嫌になる。

    5番目は香港在住のイギリス人の子どもが誘拐される事件。いろいろ遠まわりさせられ、案の定びっくり!な結末に。最後に、廉政公署職員ヒルに対するクワンの口調がガラリと変わったことで、両者の関係も明らかに。

    最後は1967年。香港の反英暴動を背景に、クワンが清廉な警官になるきっかけとなる1日が描かれる…と言いたいところだが…。最後まで読んでから、思わず第1章に戻って読み返した。まさかまさかの結末である。

    著者が人物描写を曖昧にする意味がよくわかった。映像化できないのでは?と思ったが、ウォン・カーウァイが版権を取得したとか。彼なら決定的な部分を曖昧にして映像化できるだろう。逆に社会的リアリティを強調する部分はどうなるのか。いずれにしても映像化に期待したい。

  • 一言でいえば「優れた社会派ミステリー」ということになろう。イギリス領を経て、中国に返還され、いずれにしても中途半端な形での主権しか得られない「香港」を六篇の中編を通して描きだしている。たまさか香港が「民主化」を求めて激しいデモが勃発し、市民と警察が日々衝突しているこのタイミングで本作を読んだからか、この作品に描かれたフィクションからは明確な香港の姿が立ち昇ってくる。
    一定の主権を得て、それなりの自由を持ちながらも、ひと握りの権力者によって民主的決定権を実質的に剥奪されている香港の現状は、すぐ近くにある極東の島国とも重なり合う。権力を手にした愚か者が、あらゆる公的なモノをほしいままにする有り様が本作には描かれている。それは、本当にわがことのような恐ろしさを伴っている。
    訳者は「市民と直接相対する国家権力は警察しかない」と書いていたが、本当にそのとおりだ。かつては漠然と怖い存在だった警察が、この作品に描かれた警察のように汚職まみれだとしたら、我々市民はいったい何をよりどころに生きればいいだろう、と考えさせられる。怖い存在たる警官は、それでもかつての幼い頃の自分にとっては、「正義の味方」だったはずだ。それが愚か者の権力者の軍門に下り、文字通りの「権力の犬」になり下がった社会――それに絶望した市民たちの精いっぱいの抵抗こそ、今の香港で日々展開されている過激なデモなのではないだろうか。
    本作は、香港の歴史とそれに続く「今の香港」をも描きだしているように思えた。そして、それはあたかも戦時下に「国家総動員法」という天下の悪法を作ってしまった国が、今、似たような法をいくつも作り、自分たちを徹底的に守る(もちろんここでの「自分たち」には、一部の「お友だち」を除く一般市民は含まれない)ことにのみ汲々とする現状を描きだしているような畏怖をも感じさせる。
    ただただ救いなのは、主人公たるクワンとその弟子ローの誠実さだ。そこに触れたとき、いつか香港にも、わが国にも、そのような救世主が現れることへのかすかな希望を覚えるのである。

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著者プロフィール

●著者紹介
1975年生まれ。香港中文大学計算機学科卒。台湾推理作家協会の海外会員。2008年、短篇「ジャックと豆の木殺人事件」が台湾推理作家協会賞の最終候補となり、翌年「青髭公の密室」で同賞受賞。2011年『世界を売った男』で第2回島田荘司推理小説賞を受賞。2014年の連作中篇集『13・67』は台北国際ブックフェア大賞など複数の文学賞を受賞し、十数ヵ国で翻訳が進められ国際的な評価を受ける。2017年刊行の邦訳版(文藝春秋)も複数の賞に選ばれ、2020年刊行の邦訳の『網内人』(文藝春秋)とならび各ミステリランキングにランクインした。ほかの邦訳書に自選短篇集『ディオゲネス変奏曲』(早川書房)がある。

「2021年 『島田荘司選 日華ミステリーアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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