東芝 原子力敗戦

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906744

作品紹介・あらすじ

~サラリーマン全体主義は終わった~東芝原子力事業の暴走と、それを糊塗するためにほぼ全事業部で行われた粉飾には、何千人もの東芝社員が関わった。(中略)まさに「滅私奉公」「全社一丸」だ。 そのやり方では、もはやグローバル競争に勝てないことを、我々は知っている。(エピローグより)〈件名 RE:今期の件 E&Yが暴れていて、手を焼いています。財務部から新日本へプレッシャ(原文ママ)もお願いしています。東京側でのご支援も宜しくお願いします。〉(2013年3月28日付) 東芝社内で経営陣が交わした粉飾メールをすっぱ抜き、浜松町本社を震撼させた著者。それだけではない。原子力事業部キーマンの「手帳」、驚くほど緻密に出来事を記録した社内「週報」、そして社内外の原子力事業関係者の動きを記した極秘資料を入手。時に東芝幹部を追い詰め、会見の場に引きずり出してきたスクープ・ジャーナリストが、『月刊文藝春秋』『週刊文春』「文春オンライン」を中心に執筆した記事に、大幅な加筆修正を加えて書籍化した。全ビジネスパーソン必読の「19万人企業滅亡記」プロローグ東芝が現在の惨状に陥った背景には、原子力事業部の田窪昭寛主席主監と、資源エネルギー庁今井尚哉次長の親密な関係があった。第1章 原子力ルネサンス(2006年~2010年)「テレビやスマホの代わりに原発を輸出すればいい」という経産省の思惑。その国策に乗った東芝・西田厚聰社長には、経団連会長への野心があった。第2章 東日本大震災(2011年~2012年)次々と水素爆発を起こす福島第一原発。メーカーとして最大の危機を迎えてなお「原発輸出」にまい進する佐々木則夫社長を支えたのは、田窪昭寛主席主監だった。第3章 粉飾決算(2013年~2014年)買収した米原発機器大手・ウエスチングハウスの減損を隠すため、巨額の粉飾に走る幹部。社内を飛び交うメールからは、粉飾指南役の陰もちらつく。第4章 破滅への道程(2015年~2017年)第二の減損発覚で、土俵際まで追い詰められた東芝。優良事業の売却を繰り返し、残るのは原発事業のみ。東芝本体が倒産の危機に瀕している。第5章 原発ビジネスの終焉(1956年~2017年)原発事業は、軍需との両目的で初めて採算が取れる。「国策」への協力を決断したかつての東芝社長、土光敏夫と現経営陣の違いは何か。第6章 東芝が消える日(2017年~)原子力業界には、東電を頂点とする絶対的なヒエラルキーがある。「東電の正妻」と言われる東芝の命運を握る東京電力で、いま何が起こっているのか。エピローグ「そんなのはゼロ点だ」「俺は聞いてないぞ」と部下を恫喝した佐々木社長。その口ぐせをそっくり真似たのが、原子力事業部の「暴走機関車」田窪主席主監だった。マウンティングが日常の「サラリーマン全体主義」が企業を滅ぼす。

感想・レビュー・書評

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  • 巨額の粉飾決算が発覚し、「解体」された東芝のレポ。
    切れ者高級官僚の原発推進政策を信じ、盲従したあげく見捨てられた、原子力部門の「黒幕」。
    原子力事業の巨額損失を穴埋めするために、自分が立ち上げ優良事業に育て上げた半導体部門を売却させられた社長。
    「チャレンジ」と言われ不正会計に手を染める社員。
    最後は、早期退職という名の首切りか。
    あわれだ。
    が、自分がその立場にあったら、と考えさせられる。
    「サラリーマン全体主義」世界で生きなければならないサラリーマン、「正規」社員も幸せとは限らない。
    WH買収したときは、スゲー、と思ったんだけど・・・

  • 東芝の原子力事業の失敗と、粉飾決算に至るまでの社内模様を描いたドキュメンタリー。本の存在は知らず、会社の上司から勧められて読んだが、事実は小説より奇なりという言葉がピッタリな非常に迫力ある展開の本だった。

    登場人物のキャラクターがとにかく強烈で、人間の「欲」「保身癖」「失敗やミスを隠したくなる感情」「サンクコストを受け入れられない習性」などが経営に与える悪影響を身につまされた。
    特に、各社員が粉飾を疑いなく「仕事」として認識し大真面目に取り組んだことや、その原因がトップの指示が絶対視される雰囲気だったことには驚きで、「サラリーマン全体主義」の恐ろしさを感じるとともに、自分のような担当者も経営の担い手であるという意識を持たなければならないと再認識した。

  • 少し前に東芝がやらかしてほぼ死に体になった。これ読めば結局何が起きてそうなってしまったのかの大まかな流れが理解できる。
    なんか政府に唆されて原子力事業に手出したって聞いてたから可哀想にと思ってたんだけど、だいぶ自業自得なだけだった。
    あと日本における原子力導入の歴史についても学べて便利。
    登場人物が多いため人物相関図のメモ推奨。でないと途中で何度も、この西田って誰だっけ?などとページを遡るはめになる。

  • ラストのメッセージがぐっときた。サラリーマン全体主義の怖さ、これから先はないこと、肝に命じて進んでいきたい。

  • 力作、大義ない官僚、政治、企業の課題。

  • 私が原子力事業部で働いていたのが、2005年から2018年。まさに東芝の西田社長、佐々木社長の時代であり、東芝の盛衰のドラマの真っただ中である。
    実務で原子力事業に関わっていたものとして、本当に耳が痛い内容も含まれているが、改めて原子力ムラの特異性を感じる。

    内容に関しても、精緻な取材をされており、長いこと原子力に携わっていた私でも知りえない内部情報が多く、感心させられた。

    MBAのケースでも学んだことであるが、企業は何故悪に(粉飾決算に)手を染めてしまうのかを考えさせられる。
    エピローグに掲載されている、富山さんの「会社はフィクション」という言葉が全てを表しているように感じられた。存在するのは会社で働く人々であり、事業であり、資産である。救うべきものは会社ではなく、そこで働く人、事業、資産としなければならない。


    東芝の社員は本当に優秀で誠実な方が多いのに間違った正義感・価値観で簡単に間違った方向に舵を切ってしまうのである。サラリーマンであると、自分が何をしているのかもわからないことが多いのは、サラリーマン社会の構造的弊害。


    1Fの廃炉は東芝に頼らざる得ない(=本当は東電も東芝には依存したくない)。これが技術大国を謳っている日本の実態。

    土光さんの「日本を救うのは我々経営者である」という言葉は思い。昨今の東芝は国策に乗っかってビジネスを展開している。自分から流れを創り出す、自分が社会を動かすという強い志を持たなければならない。

    TEPCO再建は元日立の川村さんに期待したい。

  • ★決めつけが物語としての迫力に★おそらく一度も会っていない電力システム社の田窪首席主監を冒頭のエピソードにもってきて戦犯の一人として糾弾する。一度会いにいって会えなかっただけで接触をやめてしまう誠実さの欠如の裏側で、度胸というか割り切りというかストーリーテリングとしては見事。

    経産省の国策に乗っかって、東芝のトップが思考停止して原発パッケージ輸出に邁進したことが問題だと指摘する。東日本大震災の前から、GEやシーメンスは原発は安全コストがかさみすぎプルトニウムの軍事利用も見込めないとして撤退。その時点から国と東芝は原子力オンチであり、震災が原因ではないという。いつも不思議なのだが、国の産業政策が成功した試しは高度成長期以降はないのに、官僚はなぜ自分たちが企業トップより優秀だと信じているのだろう

    6600億円を投じたウエスチングハウスの買収が会社を傾かせたのには違いないが、不正会計は西田時代のパソコンが発端だった。会社の腐敗はそこからなのでは。内部情報をこれだけ集めたのは驚き。日経BPに寄せられた内容なのか。

  • 原子力発電を日本に導入したのは正力松太郎と中曽根康弘であり、"発電だけが目的で成立し得ない原発のコストだが、英政府は「軍需との両目的なら採算がとれる」と考えた。日本政府も同じだっただろう。"とあるが、
    GEとウエスティング・ハウジング(WH)が原子力潜水艦の原子炉の開発競争をして WHが勝ちGEが負けたので開発費を回収するため、日本やスウェーデンなどの同盟国に売りつけたのだと別の人が書いていた。その意味で原発は「軍事だけで採算が取れないプルトニウム生産・原子炉ビジネスのコストを発電との両目的なら採算がとれる」という表現が正しいだろう。
    東芝社内のサラリーマン全体主義は日本の会社であれば、どこでも起こりうることなので、日本人の心性・行動様式が変化しない限り起こりうることだと思った。

  • 90年代後半から現在に至る東芝の内部崩壊を描いたノンフィクション。そこに至るには様々な経緯や偶然の重なりがあるわけだが、シャープの内幕を描いた本などと通底するのは社長を頂点とする大組織内出世と実績作りの虚構さの凄まじさである。よく言われる大企業の"内向き姿勢"がこれほどまでに強烈に作用している事例はないように思うが、シャープもほぼほぼ同じ展開なので、どの大組織にも通じることなのかもしれない。

    またもう一つの観点は、外国企業のM&Aの難しさである。この本では東芝によるウエスチングハウスのM&Aの内幕が生々しく描かれているが、これもまた大企業あるあるである。基本的には内部的な出世や社長の実績作りの為にこれらの無謀な賭けに、しかも集団的に出てしまうようであるが、株主も短期的利益を追求した結果としての事態であれば、株式会社という構造自体の問題にもあるような気もしないでもない。

    ちょっと時間がないので、またヒマな時に詳細を書き足します。

  • エピローグ「サラリーマン全体主義の限界」より
    悪は悪人が作るのではない、思考停止の凡人が作る
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著者プロフィール

大西 康之(オオニシ ヤスユキ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)などがある。

「2021年 『起業の天才!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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