Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906737

作品紹介・あらすじ

藤田哲也という天才科学者(1920-1998)がいた。 専門は気象学。32歳のとき渡米し、シカゴ大学の教授にまで上り詰め、「Mr.トルネード(竜巻)」と呼ばれた。 藤田の人類への最大の功績は、1970年代に続発していた飛行機事故の原因を「ダウンバースト」という気象現象だと突き止め、飛行機事故を激減させたことである。「ダウンバースト」とは、突発的に非常に狭い範囲で生じる下降気流であり、起きる直前でなければ、予測不能である。今日、私たちが安心して飛行機に乗れるのは、彼のおかげなのだ。 だが、この功績は、藤田が活躍したアメリカでは広く知られているが、日本ではほとんど知られていない。それだけではない。藤田がどのような人生を歩んだのかが、わかってきたのは、ここ数年のことだ。 本書の著者・佐々木健一氏は、そんな藤田哲也の人生に強く惹かれ、アメリカ全土、総移動距離3万キロを超える取材を敢行して、その人生を追いかけた。 そして、NHKのテレビ番組「ブレイブ 勇敢なる者」シリーズの第一弾として、藤田の人生を描く「Mr.トルネード」を制作した(2016年5月2日放映)。 本書は、「ダウンバースト」現象の解明を軸に、番組には収めきれなかった成果を盛り込んで書き上げられた、世界初の藤田哲也の本格的評伝である。 評伝でありながら、小説より面白い。 藤田の映画が見たくなる。 天才科学者の人生は、「数奇な人生」(singular life)でもあったことが明らかになる、わくわくする科学者の物語がここに誕生した。

感想・レビュー・書評

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  •  著者はNHKのディレクター。NHKのテレビ番組『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』の取材をもとに書かれた『辞書になった男』がたいへんおもしろかった。同様に本書も先にテレビ番組『Mr.トルネードから気象学で世界を救った男~』が先行していて、その取材をもとに書かれたものだ。
     竜巻という自然現象の発生が北米に集中していることから日本では知名度がないが、藤田哲也博士はアメリカでは気象学の分野で非常に有名だということだ。著者はその姿を立体的に描くために、日米に散らばる関係者の多くにていねいに取材している。「理論家」というより「観察者」だったという藤田博士の姿勢につながるかのようだ。
     幼少時のエピソードがおもしろい。中学三年のとき学校のイベントで、江戸時代に和尚がノミと槌だけで掘ったトンネルで有名な大分県の「青の洞門」を訪れた。感想文としてクラスメイトが「和尚はすごいことをしました。見習うべきです」とか書いているなかで、「自分なら道具を作ってから穴を掘る、そうすればトンネルと道具の両方を残すことができる」と書いたという。藤田は研究に使う道具を自分の手作りで作ることで有名だったそうである。
     航空機が着陸時に急に制御を失い墜落してしまう現象。その原因は、藤田が発見し「ダウンバースト」と名付けた、地表近くに局所的に発生する強い下降気流だった。藤田がその存在を信じることができたのは、長崎に落とされた原子爆弾の調査にあったという挿話も興味深い。
     藤田のおかげで、以前は「1年半に1回」起こっていたという墜落事故が、劇的に少なくなったという。そのことは今後飛行機にのるたびに、思い出すことだろう。

  • 知られざる偉人。
    三体0をkindleに入れたままにして読んでないのを思い出した。

  • Mr.トルネード藤田哲也。知らなかった。こういう人を科学者と言うのだろう。事象を観察し事実を積み上げデータを作り、想像力を駆使し理論を組み立て、そして証明してみせる。何より不幸な事故を失くしたいという思いが強かったのだろう。世界中から尊敬されているのに、なぜか日本では無名な存在。本書によって藤田哲也を知る事が出来て良かったと思う。

  •  米国シカゴ大学で竜巻研究を行った藤田哲也先生の評伝。長崎に投下された原爆の実地調査、後年発見するダウンバースト、その不思議な結びつき、独特の研究活動、彼を取り巻く研究者達、その全てが活写されている素晴らしい一冊だった。

  • 藤田哲也という天才科学者(1920-1998)がいた。
    専門は気象学。32歳のとき渡米し、シカゴ大学の教授にまで上り詰め、「Mr.トルネード(竜巻)」と呼ばれた。
    藤田の人類への最大の功績は、1970年代に続発していた飛行機事故の原因を「ダウンバースト」という気象現象だと突き止め、飛行機事故を激減させたことである。
    「ダウンバースト」とは、突発的に非常に狭い範囲で生じる下降気流であり、起きる直前でなければ、予測不能である。今日、私たちが安心して飛行機に乗れるのは、彼のおかげなのだ。
    だが、この功績は、藤田が活躍したアメリカでは広く知られているが、日本ではほとんど知られていない。それだけではない。藤田がどのような人生を歩んだのかが、わかってきたのは、ここ数年のことだ。

    本書は、「ダウンバースト」現象の解明を軸に、番組には収めきれなかった成果を盛り込んで書き上げられた、世界初の藤田哲也の本格的評伝である。

  • なぜ日本ではイノベーションが起こらないのか、みんなで議論している昨今ですが、その答えが本書にあると思いました。「Mr.トルネード」藤田哲也は、やはり日本生まれたけどアメリカしか育てられなかった天才なのだと思いました。特異点を打ち消す同調圧力社会と特異点がさらに特異になっていくことを称賛する社会の違いを強く感じます。アメリカでも批判や無視もさらされる「変わった」学者であり、批判者が味方になっていくプロセスや、あるいは共同研究者へも訴訟を辞さないエキセントリックなエピソードは本書のハラハラドキドキを作り出しています。また著者がTVディレクター出身だけあって、証言者の顔が写真としてそれぞれに掲載されているので彼らの藤田に対する想いがビビッドに伝わります。死を恐れずダウンバーストの中を飛行したがる狂おしいまでの好奇心と計算尺まで手作りするような圧倒的なクラフト力と理論より先に現象をビジュアルで捉えることの出来る直観能力と、つまりクレイジーなまでの心と腕と目をもった観察少年、それが「Mr.トルネード」なのでありました。こんな特異点、教育でつくることできるのか?それでもいくつもの賞をとった彼がキャリアの中で大事にしていたのが「昭和十四年 小倉中学 理科賞」というところに希望を感じたりします。褒められることから生まれる自己肯定感、それがトルネードのようにどんどん渦を作っていくようなそんな体験を子どもたちに与えることが大切なのかもしれません。

  • 【工学部図書館リクエスト購入図書】
    ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB23858018

  • ☆Fスケール、ダウンバーストなど

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著者プロフィール

1943年東京都生まれ。東京大学文学部フランス語フランス文学専修課程卒業。同大学院人文科学研究科美学芸術学博士課程修了。埼玉大学助教授、東京大学文学部教授、日本大学文理学部哲学科教授を歴任。元国際美学連名会長。現在、東京大学名誉教授、国際哲学系諸学会連合副会長。文学博士。1982年、『せりふの構造』でサントリー学芸賞受賞。著書に『せりふの構造』『作品の哲学』『ミモザ幻想─記憶・藝術・国境』『美学辞典』『美学への招待』『日本的感性─触覚とずらしの構造』『ディドロ『絵画論』の研究』ほか。

「2016年 『講座スピリチュアル学 第6巻 スピリチュアリティと芸術・芸能』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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