- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163906164
作品紹介・あらすじ
絵画を鑑賞する際にただ眺めるだけでなく、描かれた背景や画家の思惑などを知った上で読み解けば、面白さは何倍にも増す――。その楽しさを実感させてくれる絵画エッセイの名手、中野京子さんの新シリーズ誕生です。テーマは“運命の絵”。命がけの恋に落ちた若者たち、歴史に名を残す英雄たちの葛藤、栄華を極めた者たちのその後、岐路に立つ人々……、運命の瞬間を描いた名画や、画家の人生を変えた一枚を読み解いていきます。描かれた人物たちのドラマや画家の境遇を知ることで、絵画への理解がぐんと深まり、興味も広がります。人間への鋭い観察力に裏づけられたドキッとする指摘や、ユーモアあふれる表現などの中野節はもちろん、健在。読むこと、観ることの魅力を強く感じる一冊です。
感想・レビュー・書評
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イギリスは文学の国だけに絵画にも物語を求める気持ちが強いらしいが、西洋画一般に言えることかもしれない。ルネサンス以後、西洋画ではキリスト教の教義を伝えるということから歴史画の格が一番高いということも、絵画に物語を求めることに繋がるだろう。といっても、ダヴィッド「書斎のナポレオン」がその年、モスクワ遠征を迎える、アルトドルファー「アレクサンドロスの戦い」の2王、ブリューロフ、ショパン「ボンペイ最後の日」のように歴史的に有名な運命もあるし、神話の運命、市民・庶民・国家・画家自身の運命もあり、様々である。ブローネル「自画像」は画家が故意に事実と違う左目がどろりと崩れたのを描いたが、その数年後、実際に左目を摘出する羽目になって仕舞ったのだ。まさに予言の絵画である。画家自身「絵画に襲い掛かられた」と言っている。その事件以後、彼独自の絵画を描くようになった。「魅惑」という絵など奇妙な絵で、妙に惹かれる。ヴィンターハルター「皇后ウジェニー」のウジェニーや取り巻きの女性たちは、当時流行のクリノリンを着装していて、スカートがむやみに広がっている。鉄の鳥籠のようなものをつけるなんて恐れ入る。腰を締めすぎて失神した女性もいるそうだ。ウォータハウス「ヒュラスとニンフ」はアルゴ探検隊の一挿話だが、ヒュラスはヘラクレスの稚児で、ニンフに池に引きずり込まれるのは、女性への目覚めを意味しているのではないかという。なるほど。ニンフたちは、ほとんど同じような顔だが、結構かわいい。
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著者の「怖い絵」のシリーズが大変な人気で、図書館で借りられるのはどれだけ先になることやら。
やむを得ず、続編だという本書を先に読むことに。
実に興味深く楽しく面白く知的興奮に満ちた一冊で、人気の訳が理解出来た気になっている。いやもう、こうなったら何としても「怖い絵」のシリーズを読まねばならない。
採りあげられた絵はルノワールの一点だけが印象派のもので、あとはそれ以前の古典派と言われる作品群。
ジェローム「差し下ろされた親指」、ベッリーニ「好機」、デューラー「ネメシス」、
ムンク「叫び」、ダヴィッド「書斎のナポレオン一世」、モロー「オイディプスとスフィンクス」、シュトウック「スフィンクスの接吻」、
アルトドルファー「アレクサンドロスの戦い」、ホッベマ「ミッデルハルニスの並木道」、
ブローネル「自画像」「魅惑」、ヴィンターハルター「皇后ウジェニー」、メンツェル「ヴィルヘルム一世の戦線への出発」、アングル「パオロとフランチェスカ」、
シェーフェル「同」、ホガース「当世風結婚」、ブラウン「イギリスの見納め」、
ウォーターハウス「ヒュラスとニンフ」、マックス「アンナ・カタリナ・エンメリヒ」、
ジョット「聖フランチェスコ」、ブリューロフ「ポンペイ最後の日」、ショパン「同」
そして最後に、ルノワール「シャルパンティエ夫人と子供たち」となる。
原画を知らなくとも、何の差支えもない。
中野京子さんの名調子で、絵の背景となる歴史・戦史・宗教史、はてはモデルとなった人物から画家の生涯、派生した音楽やら日本との自然観の違いまで、実に多岐にわたるその豊かな知識に圧倒されることになる。
「おお、そうなんだ!」と、何度声をあげてしまったことやら。
しかも、一度や二度見たくらいでは見過ごしてしまうような、画面の隅に小さく描かれた人物や道具類にも重要な意味があることを丁寧に解説してくれる。
古典絵画というものがいかに理論に立脚していたか、驚くばかりだ。
画家さんの感覚だけで描いた作品など一点もない。
発注者と相談を重ね、いくつもの文献を読んでは想を練り、熟慮の末に構図と色を決め、その後にオリジナリティを加えてある。
絵画ファンでなくとも歴史好きでなくとも、かなり楽しめる一冊。
タイトルの意味は、「運命的瞬間、歴史の転換点、夢や託宣が告げる未来、生死の境、ファム・ファタール(=運命の悪女)などが描かれた作品」ということらしく、今も「オール読物」で連載は続いているという。
個人的には、ホッベマ作『ミッデルハルニスの並木道』が特に印象に残った。(一点だけ挙げるのも難易度が高すぎるが)
自然との闘いの歴史は日本も同じだが、絵画の表現はこんなにも違うのだなと。そしてそこが国民性の違いでもあるのだろう。 -
一枚の絵画に秘められた<運命>の物語、その凝縮された謎を紐解いて語られる贅沢なガイドブックです。コロセウムで剣闘士がローマ皇帝の裁可を待つジェロ-ム作『差し下ろされた親指』の運命の瞬間、ロシア遠征を前にして画家の前でポーズをとる時間のなかったダヴィッド作『書斎のナポレオン一世』、ムンク作『叫び』の強烈なインパクトに潜む狂気など、著者の奥行のある解説によって、アートの魅力を身近に感じることができる一冊です。
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よく知らない画家、見たことない絵が多いし、時代もやや古典とかそれほど…ってのが多いけど、なるほど鑑賞のポイントがわかりやすくて、とてもドラマチックに見えてくる。
西洋絵画だけでなく日本画でもこういうのでないかなーって思う。探せばあるのかな。 -
有名な絵はあまりありませんが、ギリシャ神話、オランダの建国のことなど、簡潔にまとめられていて、興味深かったです。
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私にとって中野京子さんの本は23冊目
ブログに絵を記録します。
http://nagisa20080402.blog27.fc2.com/blog-entry-376.html
さて、今回もとても楽しく読みました。
そのなかから二つだけ書いておきます。
まず「故国で行き倒れになるよりは」に面白い調査の結果が紹介されています。
2005年に英BBCラジオが行ったアンケート
「イギリス国内で観ることのできる最も偉大な絵画はなにか」
12万人が回答。
結果は驚くべきことにつぎのとおり。
1位『戦艦テメレール号』ターナー(英)
2位『千草車』コンスタブル(英)
3位『フォリー=ベルジェールのバー』マネ(仏)
4位『アルノルフィーニ夫妻の肖像』ファン・エイク(フランドル)
5位『クラーク夫妻と猫のパーシー』ホックニー(英)
6位『ひまわり』ゴッホ(蘭)
7位『スケートに興じるウォーカー師』レイバーン(英)
8位『イギリスの見納め』ブラウン(英)
9位『キリストの洗礼』デラ・フランチェスカ(伊)
10位『放蕩児一代記』ホガース(英)
ちょっと身びいきがすぎるのでは?
私はブリューゲル『ベツレヘムの嬰児の虐殺』を見てみたい。
ウィーンでは息子さんの模写を見たので
ぜひロンドンで本物を。
そして日本人の私が「日本国内で」同じようなアンケートに答えるとしたら
うわー!困ってしまう。
一つ選びなさいと言われても。
お薦めの美術館を聞かれたら
『大塚美術館』。
でもそれでは、「日本人としてのプライドはどうなの?」
ということになってしまうかな。
さてもう一つ、ちょっと落ち込んでしまったというか。
「感じるだけではわからない」
ルノワールは長い間貧窮生活を送ってきたのですが、
この『シャルパンティエ夫人と子どもたち』が成功したおかげで
世間に認められ、今も続く人気画家となりました。
この絵の左に座る少女ジョルジェットちゃん
ブリジストン美術館で会うことができます!
なんて可愛らしい!!
たった今「日本国内で観られる偉大な絵画のアンケート」に答えることになったら
私はこの絵を選ぶことにします!
あ、でも今ブリジストン美術館は休館中なんですね。
ジョルジェットちゃんはパリのオランジュリー美術館に
出張中だそうです。
ところで、この本で知ったのですが、
その後シャルパンティエ家は業績悪化
1907年両親とも亡くなった二年後
ジョルジェットちゃんと妹(絵の真ん中の子はこの子ではなく弟で、若くして兵役中病死。)は
両親のコレクションの大部分を競売にかけたそうです…。
この話が最後で、切ない気持ちで読み終えました。 -
中野京子先生の出版記念イベントで入手。ルノワールの"シャンパルティエ夫人と子どもたち"など、絵自体はよく見ているけれど背景は全く知らなかったものや、"イギリスの見納め"など全く知らなかった作品など、内容も盛りだくさんで楽しい。絵を見る楽しみが深まる。
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タイトルそのまま、運命を物語って余すところないブローネル自画像。その迫力に慄然とした。
ウォーターハウス「ヒュラスとニンフ」、絵ハガキでの複製画を持っているのに、妖精の一人が手のひらへ真珠をのせていることを指摘されてようやく知った。
中野京子一連の著書は、世界史の復習・補講になるので有難い。 -
日本史&音楽選択の私でも分かるように書かれててありがたい( ・ᴗ・̥̥̥ )
過去の人が描いた言葉を持たない謎を秘めた絵画たち…
これだから歴史もアートも読書もやめられない -
絵画だけでなく、背景にある歴史や風俗なども知ることができて面白い。
理解した上で対象の運命を表現する絵もあれば、時代の転換期に生まれ結果的に運命を表現してしまった絵もある。
芸術家たちは何か使命感のようなものをもって作品を残したのか、または引き寄せられるようにして描いたのか、もしくは依頼されたからただ描いただけなのか、
そのようなことにも思考を巡らしたりして楽しかった。