毒々生物の奇妙な進化

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906010

作品紹介・あらすじ

猛毒種のDNAには、生命の歴史が詰まっていた!◎本書に登場する愛おしくも恐ろしい奴ら◎・カモノハシ:カワイイ姿のその蹴爪に猛毒を隠す。刺されると大量のモルヒネを投与しても全く効かないほどの激痛に襲われる。・サシハリアリ:アマゾンの部族では、大量のサシハリアリを入れた手袋に手を入れて我慢する、という通過儀礼が今も存在する。部族以外では2、3秒で卒倒する。・アンボイナガイ:美しい貝殻に見惚れて手に取ったら最後。モリのような歯でどの毒ヘビよりも強力な毒を打ち込まれ、数分で命を落とす。・エメラルドゴキブリバチ:人間には無毒だが、ゴキブリにとっては悪夢の存在。脳に直接毒液を注入し、そのゴキブリをマインド・コントロールする。・ヤママユガの幼虫:毛のように見えるトゲの1本1本に毒がある。刺されると傷口や鼻・目の粘膜からの出血が止まらなくなる。【目次】■はじめに 世にも奇妙な毒々研究の世界■第1章 猛毒生物の遺伝子に挑む私はカモノハシに会うためオーストラリアを訪れた。可愛い彼らは、実は猛毒種である。その毒液からはクモやヘビ、トカゲなど、さまざまな生物から切り貼りされたような遺伝子が大量に見つかっている。それは何を意味するのか?■第2章 最凶の殺戮者は誰だ?海でクラゲに刺され、猛烈な痛みのなか意識を失った女性。なんとか一命をとりとめた彼女はその後、毒クラゲの研究者になった。自分を襲った毒は何だったのか。そして彼女が見つけ出したのは、赤血球を破裂させる猛毒成分だった。■第3章 注射するのはヘビの毒免疫を進化させ、毒ヘビを食べられるようになったマングース。では、同じ哺乳類である人間も毒への耐性を獲得できるのか。それを解明すべく、26年間にわたりヘビの毒を自分の体に注射しつづける男。その体に起きた異変とは?■第4章 人生を変える「激痛」昆虫学者のシュミットは「刺されると痛い昆虫」ランキングを作るため、アリやハチなど、78種に自ら刺された。その1位はサシハリアリで、ふつうは刺されると数秒で卒倒するという。実物を見るため、私はアマゾンに向かった。■第5章 人食いトカゲの島へ上陸インドネシアのリンチャ島に生息するコモドオオトカゲ。毒で獲物を出血死させる凶暴な彼らは、ときには人間さえも食べてしまうという。その小さな島に上陸した私がまず目にしたのは、彼らに食べられた動物たちの頭骨だった。■第6章 骨の髄まで食べつくすあらゆる毒の中でも、私たちの体を壊死に至らしめる毒はもっとも残酷だといえる。ドクイトグモに咬まれると、私たちの皮膚は青、赤、紫、黒と変色して壊死する。その症状の「ロクソスセレス症」は、絶対にググってはいけない。■第7章 そのとき食物連鎖が逆転した美しい貝殻の内に、人を殺せるほどの猛毒を隠しもつイモガイ類。彼らはかつて、海の中では魚類に食べられる弱い存在だった。だが、身を守るために手にした毒を進化させることで立場が逆転。魚類を食べる捕食者へと変身したのだ。■第8章 恐怖のマインド・コントロールエメラルドゴキブリバチは、獲物の心を操り、ゾンビ化させる特殊な毒をもっている。毒を送り込まれたゴキブリは、幼虫の餌として進んで自らを差し出すのだ。一方、人間の心を操る毒も存在し、闇市場では高額で売買されている。■第9章 ミツバチの毒がHIVを殺す生物が作りだす毒はどれも、製薬学にとっては宝の山である。2000年代以降、その毒から新たな薬が発見されているのだ。糖尿病からアルツハイマー、筋ジストロフィー、そして癌に至るまで、毒由来の特効薬が次々と現れている。

感想・レビュー・書評

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  • キワモノ的なタイトルと表紙だが、なかなかおもしろい1冊。

    「毒」といってもさまざまあるが、本書のテーマは動物が作る毒である。

    動物の毒といって多くの人が思い出すのは、やはりヘビではないだろうか。クモやハチ、クラゲなどもなじみ深いところだろうか。
    だがそのほかにも、ある種の貝やカエル、トカゲなどにも毒を持つものがいる。意外なところではカモノハシだろうか。見た目はかわいいが、蹴爪には猛毒があり、歴戦の退役軍人でもそれまで経験したことがないほどの痛みに叫ばずにはいられなかったほどだという。

    こうした動物たちはなぜ毒を作るのか?
    生物が何かを作り出すには、それなりの「コスト」が掛かる。捕食や生殖に使う資源やエネルギーを回してでも、彼らが毒を作ってきたのは、それが何らかの「利益」を与えるからである。
    例えば敵から身を守り、例えば餌を捕らえやすくするため、彼らの毒は、それぞれの目的に特化された働きをする。例えば獲物に出血させて殺すために、例えば血液を凝固させずに獲物の血を長く吸い取るために、例えば逆に血餅を作らせて血流を止めてしまうために、例えば神経系に損傷を与え敵を短時間で倒すために。酵素、イオンチャネル阻害剤、溶血剤、血液凝固剤、生理活性ペプチド。さまざまな物質でさまざまな経路に攻撃を仕掛ける。
    近年の測定技術の向上で、彼らが実際にどういった物質を使っているのかが明らかになってきている。往々にして、彼らは複数の物質を組み合わせて「毒」として使用する。1つの物質では獲物もすぐに対処できてしまう。複数を使用することで、相乗効果が望める上に免疫系にも叩かれにくくなる。毒を使うものと使われるもの、それぞれの攻防があって、長い年月を掛けて発展してきたのが多様な生物毒というわけだ。

    こうした生物毒を研究する面々もなかなか個性的である。研究対象から「たまたま」生物毒に行き着く人もいるが、中には初めから生物毒そのものに魅入られたかのような人もいる。26種類の毒ヘビに噛まれ、23回骨折したという猛者もいる。飼っているヒルに自身の血を吸血させて養い、授業中に実演して血が止まらなくなり、学生を真っ青にさせた教授もいる。著者自身も毒ウニに刺されて呼吸が出来なくなったり、マカクザルに噛まれて12回注射をする羽目に陥った経験がある研究者である。
    研究者ではないが、ヘビ毒を繰り返し注射することで「免疫系を鍛えよう」としている人もいる。非常に危険ではあるが、あながち荒唐無稽とも言い切れない。生物の中には、実際にヘビを捕食できるように毒に耐性のあるものもいる。

    毒とはいうのは、要は生物のシステムに対して、何らかの作用を持つものである。その作用をうまく利用すれば、逆に「薬」になる場合もある。
    ある種の麻痺毒は、どんな鎮痛剤も効かなかった慢性疼痛の患者の痛みを和らげることに利用できることがわかっている。本来の獲物であった魚類では運動に関与する神経系に作用したものだが、ヒトでは痛みに関与する神経系に「特異的に」作用することがわかったのだ。

    実のところ、生物毒は長い長い年月を掛けて生み出された、生理活性物質の宝庫とも言えるのだ。考えようによっては、従来のものとはまったく異なる作用機序を持つ薬剤のリード化合物になりうる「原石」が見つかるかもしれない。
    著者は最後に、毒性生物を含めて多くの生物が絶滅に瀕している現状を憂う。
    生物多様性の重要性は多々目にしてきたが、毒を持つ動物が絶滅したら、彼らの毒もなくなってしまうから、という論点は初めて見た。一瞬のけぞったが、少し考えるとこれは考える価値のある指摘であるようにも思う。
    いやはや、本当に「毒にも薬にもなる」のだ。毒、侮り難し。

  • タイトルといい、おどろおどろしい表紙デザインといい、最近ちょくちょくみかけるおもしろはったり系の生物本かなと思ってあまり期待していなかったが、しっかりした本だった。科学的な話題と、その辺がよくわからなくても面白いエピソードのバランスがよくて、読み応えもあるし読みやすくもある。
    調べれば調べるほど精妙な毒の機能。進化の結果というより、神様が与えたもの、と考えたほうが一つ一つ説明しなくて済むから楽だな、とぼくでも思ってしまう。だからこそ、自然は不思議で面白い。

    コモドオオトカゲが口の中に致命的な細菌を飼ってて、噛まれた獲物はそれで死んでしまう、という俗説はぼくも信じていた。普通に毒があるのかあいつ。読んでよかった。
    毒々生物が自分の毒にやられない理由を知りたかったが、これは書いてなかった。例えばガラガラヘビは、毒で倒した獲物を飲み込んで腹痛くなったりしないのだろうか? 同種の毒々生物同士で喧嘩したらどうなるんだろう? 抗体があるから平気? 飲み込んでも平気だけど、血に入るとダメ? 蛇は口の中ケガしてたら自分の毒で死んじゃうの?

    毒々業界には変?な人もいるようだ。「刺されると痛い昆虫」ランキングを作るために78種にわざわざ刺された昆虫学者の方、ご苦労様です。毒が効かない身体になるために、毒を少しずつ注射する人がいるという話はびっくりしたが、毒々生物の毒が(血清ではなくて文字通り)薬になる可能性があると読んでもっとびっくりした。確かに、速やかに細胞を殺す毒をピンポイントでがん細胞に送り込めれば・・・

  • 非常に面白かった。原題は”ヴェノモス”(毒液を分泌する/有毒なという形容詞)、原書の装丁は大変美しいハコクラゲ。本文中にも述べられているハワイの赤血球を破裂させる猛毒クラゲなんだが、残念なことに日本語版の装丁は安っぽいB級ホラー映画のような写真と邦題でひどい。この本が書店や図書館の書棚にあるのは知っていたが、興味本位で内容の薄いアカデミックでない書籍のような印象を受けて手に取らず。が、某所で原書のほうの引用を拝見して、日本語版の表紙と題名から受ける印象とはまったく違う書籍のようだったので読んでみた。読んでよかったとつくづく感じる。毒液動物やその毒液について、さらにその毒液の利用など中心はぶれることなく毒液の魅力が伝わってくる。巻末には引用文献もしっかりと載せられており、さらに気になる部分の文献が簡単に探せるようになっている。Circaetus(チュウヒワシ属ミディアムサイズのアシピター)、スネークイーグルと呼ばれる種類の猛禽は餌にしている猛毒のクサリヘビの毒から身を守る血清タンパク質をもっていることがわかっているらしい。もしかしたらハチクマもハチ毒のアレルギー反応がでないようにする抗ヒスタミン的なものをもっているかもしれない(私想像)。様々なエキサイティングな実話とさらに、毒液生物のつくりだす毒で現在どのような薬の研究がなされているかなど、わくわくする話もてんこもり。それにRecluse spider(Loxosceles reclusa ドクイトグモ)の話は前住地でもよく聞かされていたが、釣った魚の類の盛った話かと思ってあんまり気にしてなかったが、本当だったのか、と本書を読んでゾーッとした。特に強力な壊死性の毒液を持つこのクモの咬傷によるロクソスセレス症というのは決してググってはいけない、と何度も書かれているぐらい。書かれるとググってしまうのは人情というものだが、当時ググっていたら野歩きが少し怖くなっていただろうと思う。ともかく、日本発売が今年2017年2月、原作が2016年で書かれている研究などはさらに古い2014年などの話になるのでそこらへんは念頭おいておくべき。大変ホットな分野だと思う。

  • 毒をもった生物が、なぜ毒を持つようになったのか。その進化を解読する試み。
    この手の研究者は男性だろうと思っていたら、この著者は女性であった。ステレオタイプはいかんな。
    カモノハシも毒をもっているとは、まったく知らなかった。
    そして、いまや生物のもつ毒は薬の宝庫となっているそうだ。
    ドクイトグモの毒は強力な壊死性があるらしく、曰く、
    『彼らに咬まれることで起きる病変やその他の症状は、医学的にはロクソスセレス症と呼ばれる。これは、ググったりしないでほしい。……私を信じて。』
    思わずググってしまったが、意に反してまったく恐ろしくないのであった。で、英語のloxoscelismで画像検索すると、なにやら表示されない画像がずらずらと出てきました。ん、結構グロいかも。

  • 著者はド変態である。毒を持つ生物を専門とする生物学者で、有毒ウニに刺されて呼吸不全になったり、有毒サルに近づいてひっかかれて物凄い本数の注射を打たざるを得なくなったりしている。それでもなお、あくなき探求心で毒を持つ生物を追い続けている。これを変態と言わずして何と言うのか。

    250ページちょいの一冊丸々をかけ、様々な有毒生物の生態や毒のタイプ、その毒がどんな目的で使われているのか、その毒をどのようにして獲得したのか、毒がどのように作用して痛みや死をもたらすのか、といったことが網羅されている。世界中、あらゆるところに多様な毒を備えた生物が分布していることが分かり、面白いやら怖いやら。知的好奇心はグイグイ刺激される。

    なるほど、と思わされる有益な知識も多々、盛り込まれている。例えば、「咬む種」が有する毒は攻撃のためで、麻痺や細胞毒素などを含み、致死性が高い毒も多い一方、「刺す種」の毒は防御のためであり、強烈な激痛を即座に与えて相手に警告を与え、自らが捕食されないようにすることを目的としていて、命に関わるような猛毒ではないことが多い、などは、生活のなかで有毒生物に相対した時に役に立つ情報。もちろん例外もあるとしているが、こういう大まかな分類だけでも非常に勉強になる。

    後半の2章ほどにおいては、生物の持つ毒が有望な医薬品のネタになるということが触れられている。例えばある種のコブラ科の蛇の毒は、血液脳関門を通過してしまうため、中枢神経系に作用する鎮痛効果を得ることができるらしい。これまでの鎮痛剤とは異なる作用で痛みを取り除くことができれば、癌の治療にも道が開ける可能性があるとのこと。

    そんな「毒の可能性」を追い求めるのが毒物生物学者であるならば、著者をド変態と呼ぶのは失礼かもしれない。死後まで読んでいくと、著者や著者の同僚への評価がちょっと変わる。

    実用書でもあり、趣味の本でもあり、医薬品開発分野の未来を描く本でもあり。
    いろいろな楽しみ方ができる良書。

  • ふむ

  • 毒そのものについての解説も詳しいのだけど、本書の中心は進化の仕組みにあって、「ごく小さな虫の持つ、見えないほど細い毒針で、なぜ人が一瞬にして卒倒してしまうようなことが起きるようになったのか」というあたり。

    毒へびと人の視覚の進化の関係についての記載は結構おもしろい。

    2019年に読んだ科学系の本ではいちばんおもしろかったかも。

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00260213

  • 一見かわいいカモノハシ、いかにも怖そうな蜘蛛やクラゲ・サソリ
     有毒動物満載のこの本には、びっくりです。
    というより、それらの生物を研究している科学者たちの アプローチの仕方に驚きます。
    面白かったけれど 途中まで読んで、中止。

    猛毒種のDNAには、生命の歴史が詰まっていた!

    ◎本書に登場する愛おしくも恐ろしい奴ら◎

    ・カモノハシ:カワイイ姿のその蹴爪に猛毒を隠す。
      刺されると大量のモルヒネを投与しても全く効かないほどの激痛に襲われる。
    ・サシハリアリ:アマゾンの部族では、大量のサシハリアリを入れた手袋に手を入れて我慢する、という通過儀礼が今も存在する。
      部族以外では2、3秒で卒倒する。
    ・アンボイナガイ:美しい貝殻に見惚れて手に取ったら最後。
      モリのような歯でどの毒ヘビよりも強力な毒を打ち込まれ、数分で命を落とす。
    ・エメラルドゴキブリバチ:人間には無毒だが、ゴキブリにとっては悪夢の存在。
      脳に直接毒液を注入し、そのゴキブリをマインド・コントロールする。
    ・ヤママユガの幼虫:毛のように見えるトゲの1本1本に毒がある。
      刺されると傷口や鼻・目の粘膜からの出血が止まらなくなる。

    2017/3/8 新刊棚で見つけ、借りて読み始める。4/4 途中で中止。

    毒々生物の奇妙な進化

    内容と目次・著者は

    内容 : 原タイトル:Venomous
    刺した獲物をゾンビにするハチ、無痛で人を殺すタコ…。
    彼らの遺伝子には何が刻まれているのか。
    毒に魅了された女性科学者が世界各地に生息する猛毒生物の遺伝子に迫る。

    目次 :
    第1章 猛毒生物の遺伝子に挑む
    第2章 最凶の殺戮者は誰だ?
    第3章 注射するのはヘビの毒
    第4章 人生を変える「激痛」
    第5章 人食いトカゲの島へ上陸
    第6章 骨の髄まで食べつくす
    第7章 そのとき食物連鎖が逆転した
    第8章 恐怖のマインド・コントロール
    第9章 ミツバチの毒がHIVを殺す

    著者 : クリスティー・ウィルコックス Wilcox,Christie
    ハワイ大学で博士号取得(細胞分子生物学)。 生物学者。
    同大学でポスドクとして毒々生物を研究する傍ら、
    サイエンスライターとして『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』にも寄稿。

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