人質の経済学

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905808

作品紹介・あらすじ

◆トランプ後の世界に必読の一冊◆「恐ろしい本。人間が、単なる商品として取引される実態を克明に描く」解説:池上彰(ジャーナリスト・名城大学教授)交渉人、誘拐専門の警備会社、囚われた人質、難民らによって明らかになる事実。・一番金払いが良いのはイタリア政府。それゆえここ15年ほどの間に大量のイタリア人が誘拐されている・助けたければ誘拐直後の48時間以内に交渉せよ・武力による救出の3回に1回は失敗に終わり、人質または救出部隊に死者が出る・10年前、200万ドル払えばイラクで人質は解放された。今日ではシリアでの誘拐で1000万ドル以上支払う・誘拐された外国人は出身国によって、助かる人質と助からない人質に分けられる・誘拐組織は難民たちの密入国斡旋に手を拡げ、毎週数万人をヨーロッパの海岸に運び、毎月一億ドル近い利益を上げている【目次】■はじめに 誘拐がジハーディスト組織を育てた二〇〇四年イラクで誘拐された欧米人は二〇〇万ドルの身代金で解放された。しかし今日ではシリアでの誘拐で一〇〇〇万ドル以上を払うこともある。本書は、誘拐によりいかにジハーディスト組織が成立し、伸長していったかを描く■序章 スウェーデンの偽イラク人二〇〇六年スウェーデンの大学街で、私は「イラク」人に話しかけられた。そのイントネーションから彼が「イラク」からの難民ではないこと、北アフリカのどこかから来たことはすぐわかった。その男は、誘拐をビジネスにしていた■第1章 すべての始まり9・11 愛国者法愛国者法の成立で、金融機関はドル取引を米国政府に報告することになった。コロンビアの麻薬組織は、ドル決済にかわりユーロ決済を選択。イタリアの犯罪組織と接触し、ギニアビサウからサハラ砂漠を越え欧州へ入るルートを開拓■第2章 誘拐は金になる麻薬密輸ルートはやがて、生身の人間を運ぶようになる。北アフリカでの誘拐でも、二〇〇四年からイラクで始まった誘拐でも、政府が金を払った。そしてイタリアと日本の政府が支払った身代金は将来の誘拐を助長する結果を生んだ■第3章 人間密輸へサハラ縦断ルートでは誘拐の多発で観光客が途絶えた。そこでジハーディスト組織が目をつけたのが人間の密輸だ。リビアの海岸からイタリアへボートで渡るルートが一人一~二〇〇〇ドル。誘拐よりも儲けが多く、容易なビジネスだ■第4章 海賊に投資する人々一年で一〇〇〇人を超す誘拐を繰り返すソマリア海賊は、投資する人々がいて初めて船を出せる。誘拐が成功すれば、出資者に利益の七五%が還元される。海賊の取り分は残りの二五%だけだ。ソマリアの経済は海賊でまわっている■第5章 密入国斡旋へ武装した警備員を用意する、軍艦のエスコートを求めるという対策により、ソマリアの海賊事業の成功率が下がった。彼らの次なる商機は移民のイエメンへの密入国斡旋。そこには悪質な斡旋業者の餌食になった移民たちの姿があった■第6章 反政府組織という幻想アサド政権は裕福な市民を拉致し、反体制側は外国人を狙う。反政府組織が「アラブの春」が生んだ「自由のための戦士」というのはメディアの思い込みだ。彼らに必要なのは「食料と武器を買う金」であり、そのための身代金なのだ■第7章 ある誘拐交渉人の独白ヨーロッパの政府は地元経済を変えてしまうほどの大金を払う。マリ北部の誘拐事件で人道支援活動家に数百万ユーロが支払われてから、そこではユーロが流通するようになった。誘拐はありがたい商売だと思われても不思議はない■第8章 身代金の決定メカニズム政府は人質に優先順位を付けている。最も多額の身代金を払っているのはイタリアで、それゆえここ一五年で大量のイタリア人が標的にされてきた。イタリア政府は二重国籍の人質をも救うが、公には身代金の支払いを秘密にしている■第9章 助けたければ早く交渉しろ誘拐犯は長くても数週間でケリをつけたがる。すばやく交渉すれば数千ドルの身代金で救出できるのだ。しかしタイミングを逃せば、人質は規模の大きな組織に売られる。若きケイラ・ミュラーの悲劇を生んだのも数日の出遅れだった■第10章 イスラム国での危険な自分探しフォトジャーナリストを夢見たデンマークのオトセンはスパイとみなされ拷問を受けた。移民の子どもとしてベルギーに馴染めないイェユンは理想郷を求めたシリアで自由を失う。命さえ奪われかねない罠に欧米の若者が嵌っていく■第11章 人質は本当にヒーローなのか?映画の主人公に憧れて脱走し、囚われた米兵バーグダール。無思慮な行動でイタリアの納税者に一三〇〇万ユーロを払わせたラメリとマルズロ。政府は彼らを英雄視し、利用する。一方でその身代金は密入国斡旋ビジネスの原資となる■第12章 メディアを黙らせろ記事一本で二〇〇ドルしか支払わない大手メディア。フリーランサーたちはライバルに勝つためより多くのリスクを選択する。フセインのメディア弾圧の手法を真似るイスラム国は彼らを捕獲し、斬首することで報道の息の根を止める■第13章 助かる人質、助からない人質イスラム国は、人質を身代金目的と外交戦略目的の二つに分類する。スペイン人を始めとする人質一二名の解放で一億ユーロもの大金を得た。一方、後藤健二と湯川遥菜の二人の解放交渉を公にし、日本人に恐怖と不安を植えつけた■第14章 あるシリア難民の告白シリアから逃れたハッサン。洞窟で一〇日間を過ごし、小さなボートに一五〇人乗り。タンカーに乗り移り、イタリアへ。陸路でスウェーデンを目指した。斡旋業者に支払ったのは五〇〇〇ユーロ。それでも在留許可は下りなかった■第15章 難民というビジネスチャンスノルウェーでは難民に家と食事を提供すれば一晩三一~七五ドルが政府から支払われる。老朽化した施設を安く買い取り、難民に提供するビジネスモデルがヨーロッパ中に広がる。一方で難民の大量流入は差し迫った政治課題でもある■終章 欧州崩壊のパラドクス英国のEU離脱は、欧州に押し寄せる難民に、英国人が恐れをなしたことが原因だ。極右勢力の伸長、移民排斥、国境管理の強化は、誘拐から発展した人間密輸に携わるものたちを潤わせるだけだ。そしてその金はテロ組織へと流れる■解説 池上彰(ジャーナリスト・名城大学教授)「トランプ後の世界に必読の一冊」

感想・レビュー・書評

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  • 衝撃的な内容。読んでいてなぜ誘拐がなくならないのかがよく分かる。私の周りではシリア近辺へ行きたがる人はおらず、自身も望んだことは一度もない。そのため欧米人のシリアに対する思いというか憧れが理解に苦しい。無邪気に訪れ、バンバン誘拐されていく様子が読んでいて怖い。しかもただのインタビュー本ではなく、誘拐がいかにしてビジネスとして成り立っているか解説しているため余計に恐怖感が増す。誘拐組織にとって、人質は拉致した瞬間から毎日毎日コストのかかる投資対象となるそうだ。外国人は国籍と職業に応じて値付けされ取引される。日本は全くの無関係とは言えないが、主にヨーロッパと中東の闇を覗いた気持ちになった。

  • 【実際に人質救出交渉にあたった交渉人らが証言】一番金払いがいいのはイタリア政府。人質救出のためには最初の48時間で交渉せよ。誘拐とジハーディストの歴史と構造を活写。

  • 人質ビジネスについて、経緯、事例など詳しくまとめられていた。
    21世紀の現代に起こっていることとは容易に想像できない、悲惨な現状を知った。
    誘拐、海賊、不法移民などすべてつながっていて、犯罪組織の資金源となっている。日本も他人事ではない。
    大変興味深い本でした。

  • 【誘拐ビジネスを繁栄させる要素として、無政府状態、経済発展、そしてもちろん、強欲を挙げることができる】(文中より引用)

    外国人の誘拐や難民の密入国といったテロ組織や犯罪集団が生業とする「ビジネス」に光を当てた作品。数々の犯罪の裏で資金がどのように動いているかを明らかにしていきます。著者は、マネーロンダリングに関する研究の第一人者として知られるロレッタ・ナポリオーニ。訳者は、上智大学を卒業し翻訳家として活躍する村井章子。原題は、『Merchants of Men: How Jihadists and ISIS Turned Kidnapping and Refugee Trafficking into a Multibillion-Dollar Business』。

    単発のニュースとして終わりがちな誘拐などの背後に広がる経済面を活写したという点で高く評価できる一冊。人間が売買の対象にされるという恐ろしさだけでなく、その周りにいかにしてビジネスが形成されていってしまうかという過程をよく理解することができます。

    訳もこなれており☆5つ

  • タイトルの通り、人質に関する経済学。池上さんお墨付きだけありなかなかおもしろい。誘拐、交渉にもいろんな法則、データがあることを知れる一冊。
    歴史的地理的背景も語られており、興味深い。
    人質ビジネス、身代金ビジネスを分析する本

    メモ
    ・9.11後のアメリカのマネロン対策により流れが大きく変わった。アメリカを経由できなくなったことにより、ヨーロッパで資金洗浄が行われるように。その流れでサヘル地域がとても危険な状況に。
    ・誘拐組織のみならず政府も人質一人あたりを値踏みし、値段づけを行なっている。

  • 私たちの考える人質事件は犯罪としての認識だが、テロ組織にとってはビジネスとっては政治取引の手段でしかない。タイトル通り、犯罪もベースにした経済圏が成り立ってしまっている。そんな経済圏を成り立たせているのは実は先進国だということに気づいていない国が多い。そんな先進国のウィークポイントをうまく突かれているのが人質だという状況。不安安定な国では人権ではなく商品としての扱いが克明に記されている。
    人質、移民問題。。悪を売り物にした経済圏はどこにでも成り立ってしまっている現代の怖さを知る一冊。

  • インパクトの強いタイトルだが、原題は「人身の商人」。難民たちの移動が「テロ組織」等の収入源になっていることなどにも頁を割いており、震撼させられる。一過性の議論ではなく、鳥の目で状況を見たい際にオススメ。厚いが読み易い。

  • 「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの
    支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるため
    です。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺
    各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」

    2015年1月15日に安倍晋三が行った日エジプト経済合同委員会合
    でのスピーチは、やはりISに拘束されていた日本人ふたりの殺害の
    引き金になってたんだ。

    前年の11月にはふたりが拘束されていることを、日本政府は把握し
    ていた。それなのにこのスピーチである。

    「人道支援」の部分を協調したかったのであろうが、「ISILと闘う
    周辺各国」という文言が相手を刺激したのだろう。安倍晋三のこの
    スピーチをきっかけとして、日本人2人は身代金要求対象の人質から
    殺害対象に変更された。

    本書ではジハーディストによる外国人誘拐・身代金要求の様々な
    ケースを取り上げ、実際に人質解放交渉の最前線にいる人たちに
    取材して、崩壊国家にはびこる人質ビジネスを詳らかにしている。

    2016年の発行なので、シリアをはじめ中東の情勢には変化があるが、
    大筋では今も変わらないのだろうな。外国人を誘拐し、身代金を
    要求し、まんまと入手した身代金がテロリストの新たな資金と
    なる。

    ここまでは誰にでも考えられることだろうが、人質ビジネスで
    の儲けを元手に今度は自分たちが生み出した難民の渡航斡旋
    ビジネスに乗り出していたとは。

    しかもシリア国内で難民が一番安全に通行できるのがIS支配地域
    だと著者は言う。

    しかし、人の命に値段をつけて儲けているのは中東のジハーディスト
    だけではない。多くの難民が流入しているヨーロッパでも政府の補助
    金目当てに難民ビジネスを行っている人たちがいる。

    そして、人質ビジネスを行っているのは過激なジハーディストだけ
    ではく、独裁政権及びそれに抵抗する反政府組織なのだ。

    中東に崩壊国家・無法国家が生まれたのは、元をただせば欧米(勿論、
    アメリカの言いなりの日本も含む)の誤った中東政策が原因なのだ
    ろう。

    その結果が、難民受け入れ国で軋轢が生まれることとなった。途轍もない
    ブーメランが返ってきたようなものなのじゃないだろうか。

    先進国の驕りがいろんなところで綻びを作っていやしないだろうか。

    尚、欧米各国では人質にランクがあるそうだ。日本政府にも似たような
    ランク付けがあるのかしらね。フリージャーナリストは見殺しらしいが。

  • 初めて知ることが多すぎた……。
    言葉を失うとはこのことだ。読めてよかった。

  • タイトルはミスリーディング。タイトルと表紙は、「ヤバイ経済学」や「貧乏人の経済学」に連なるような経済学についての本に思えるが、実際には英語タイトルの「人身の商人」といったところか。

    ISの「誘拐商売」や「密入国商売」についての説明本である。とてもおもしろい。ジハードといった宗教的側面でなく(側面はなく)、大きな商売としての武装集団による商売が語られている。

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