日本のマラソンはなぜダメになったのか 日本記録を更新した7人の侍の声を聞け! (Sports graphic Number books)
- 文藝春秋 (2016年11月29日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163905662
作品紹介・あらすじ
男子マラソンの日本記録が14年も更新されていないのをご存じだろうか。それでもなお、リオ五輪の男子マラソン中継は視聴率ナンバーワンだった。ちなみに女子マラソンは3位。日本人のマラソンへの興味は尽きることがない。かつて世界で名を轟かせていた宗茂、瀬古利彦、中山竹通、その後も日本記録を更新してきた児玉泰介、犬伏孝行、藤田敦史、高岡寿成、この7人にインタビューし、当時の勝利の方程式、現在のマラソン界の問題点を語ってもらった。彼らの多くが口にしたのが、「練習量が少ない」ということだったが、あとがきのなかで現役の川内優輝が見ている“景色”もまた非常に興味深い。2020年東京五輪で再び表彰台に上るために必要なことが凝縮された1冊である。陸上関係者はことのほか、マラソンや駅伝が好きな方には心からおすすめしたい。7人が日本記録を出した当時の練習メニューも付いている。≪目次≫●宗茂 2020年東京で、表彰台に上がるために必要なこと。●瀬古利彦 24時間マラソンのことを考えなくてはいけない。●中山竹通 人と同じことをやっていては勝てない。●児玉泰介 成功と失敗を次のためにうまく利用することが大事。●犬伏孝行 「日本人トップ」ではなく優勝を狙え。●藤田敦史 東京五輪を目指す大学生が、社会人になる前に出来ること。●高岡寿成 チャンスは回ってくると思って、行かなければいけない。あとがき 川内優輝が見たリオ五輪と三村仁司が見てきた男子マラソン
感想・レビュー・書評
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ダメになったことをあげつらう本じゃなくて、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けてどう立て直したらいいかを、宗茂さん以下、日本記録を出した7人のマラソンランナーたちへのインタビューなどで解き明かす本。一般ファン向けというよりは、いま練習に取り組んでいる選手向けの提言である。
宗兄弟や瀬古さん、中山さん、谷口浩美さん(はこの本には出ていない)など、日本の男子マラソンはかつて、世界を牽引する存在ですらあった。ところが、この本が上梓された時点でオリンピックなど国際舞台で上位に入る選手はほぼなく、日本記録も14年間も破られて来なかった。それはなぜなのか。
ペースメーカーがついたタイムトライアルではアフリカ勢らに敵わなくても、単純にスピードだけでは済まないオリンピックなら勝てるかも知れない・・・。意識の持ち方、どんな練習をしたら相手に勝てるかを自分で考える力、オーバーワークを恐れないこと。往年の名ランナーたちがどんなメンタルで、どんな努力をしたか、その鬼気迫る練習っぷりと、理路整然とした語りっぷりが見事。
この本のあと、今年の2月に設楽悠太選手が16年ぶりに日本記録を更新した(更新の報奨金1億円を手にしたという)。設楽選手のやり方はこの本の軸線とは異にしているようだが、さて、日本開催のオリンピックで、日本ランナーの復権はあるのだろうか。 -
今の選手は才能はあるけど練習量が絶対的に足りていない。メディアもちょっと速いとすぐ持ち上げて消耗させてしまう
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際物が多いスポーツ関連の本の中で、これはとてつもなく面白い。もちろんインタビューは、それぞれの個性がでていて、懐かしく面白いけれど、極めつけは練習メニュー!!!
一応ウルトラランナーの端くれ私としても、これだけ走れればと納得のメニューのオンパレード。 -
練習メニューを見るのがおもしろいです。
市民ランナーの自分からすると、月並みながら世界と戦う人たちのメニューはタイム設定がかけ離れていて「ほげー」ぐらいしか言葉が出てきません。
ただ、やっていることはそんなに大きく変わらないのだなあと思いました。
あと今まで読んだマラソンの本になかった視点といえば2つかな。
まず、結構たらればが多かったってことです。たらればは悪い言葉みたいに捉えられる部分もありますけど、日本の1番になる人たちだから引退されても向上心の塊なのだと思います。きっと指導者をされる原動力でもありますよね。
2つ目はもっと練習しろとひたすら書いてあったことです。
今まで読んだ本は休息をとって回復することが大事ってあったのですが、この本はより練習することで故障に強い脚ができるってスタンスです。そういう考え方もあるなあと思いました。
先人達から意見を聞いた川内選手も距離走を長くして福岡国際でいいタイム出しましたもんね。
前瀬古さんの本読んでも書いてありましたが、歩くフォームも大事(今回は犬伏さんのとこに書いてました)。忘れがちです。 -
著者がレース展開を記述、説明しているくだりは少し冗長で読み辛い部分があるが、日本記録をかつて更新した経験を持つ7人がインタヴュー取材で語っている言葉のすべてはまさしく金言で、非常に読み応えがあった。
7人皆が口を揃えて、今の選手たちのメンタリティーや練習のやり方について苦言を呈していることもとても興味深い。
どの業界、分野においても、「昔はよかった…」というロートルの戯言に過ぎない、と片付けてしまうのは簡単だが、やはり客観的に考えても、現代の若者たちの方がいろいろな意味において脆弱であるというのは否定できない事実なのだろうと思う。
練習や食事にまつわる科学的なノウハウが進歩し、シューズの性能も上がっているはずなのに、なぜ男子マラソンの日本記録は15年間も更新されないのか、30~40年も前の宗茂・猛兄弟や瀬古利彦氏、中山竹通氏らの記録にすら及ばない選手がほとんどなのはどうしてなのか、確かにタイトルを裏切らない明白な答えはこの本の中にあった。
トップクラスの素質を持った上で、川内優輝選手のようなハングリー精神と貪欲さを備えるマラソンランナーが今いれば…、と外野にいる者としては勝手に夢想してしまう。
去年の東京マラソンで村山謙太選手が勝負に出た背景が垣間見えたのは面白かったし、そこに一筋の希望の光が見える気もした。
また、もちろん次元はまるで異なるけれど、7人のレジェンドたちが語る練習に関するサジェスチョンは、一市民ランナーの端くれたる自分にとっても参考になる部分があった。 -
双子の宗兄弟、エリート瀬古、ビッグマウスの中山とかつての日本男子マラソン界にはスターが切磋琢磨し、世界を舞台に勝負していた。しかし、今のマラソン界を見渡すと、公務員ランナー川内優輝とカンボジア代表の猫ひろしが実力以外で注目されているだけ。報道されるレース結果も優勝者ではなく、日本人トップ。
こんな現状になってしまった責任はどこにあるのか。東京オリンピックに向けて勝算はあるのか。そんな意見をかつての実力者7人に求めたインタビュー集。
7人がほぼ指摘するのは、最近のランナーの練習不足。体調管理やケガの心配で厳しい練習をしない風潮は間違っていると。厳しい練習を繰り返す体力がなければ、最初からレースでは勝てない。マラソンは練習で走ってナンボであり、こうして彼らは記録を出してきたのだ。
7人の中で一番の読み応えのあるインタビューは予想通り、中山竹通。現役の頃から一匹狼的な存在で、勝つことに徹していた。彼のように自分のマラソンを作りあげることだけに専念し、孤独で強いランナーが登場してほしい。が、スポンサーや所属団体、監督に縛られるこのご時世には難しいのかもしれない。