- Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163903897
作品紹介・あらすじ
一九九九年のラスベガス。ソニーは絶頂期にあるように見えた。しかし、舞台上でCEOの出井伸之がお披露目した「ウォークマン」の次世代商品は、二つの部門がそれぞれ開発した二つの商品だった。それはソニーの後の凋落の予告するものだった。世界の金融システムがメルトダウンし、デジタル版ウォークマンの覇権をめぐる戦いでソニーがアップルに完敗し、ニューヨーク市役所が効率的に市民サービスを提供できない背景には、共通の原因がある。それは何か――。謎かけのようなこの問いに、文化人類学者という特異な経歴を持つFT紙きってのジャーナリストが挑むのが本書である。かつてタジキスタンの寒村に3年にわたって住みこんで、現地の人たちがあたりまえすぎて意識していないような分類の仕方をとらえ、その共同体の特異性をうきぼりにしたように、著者は、現代の様々な組織に「インサイダー兼アウトサイダー」として入っていく。はじめに なぜ、私たちは自分たちが何も見えていないことに気がつかないのか?序章 ブルームバーグ市長の特命事項ブロンクスで、違法建築のビルにすんでいた家族が焼死した。なぜ、ニューヨーク市庁の検査官は、こうした違法建築を見つけることができないのか。答えは、三〇〇もの細かな専門に分かれた部署、つながっていないデータベース、つまり「サイロ」にあった。第一章 人類学はサイロをあぶり出す二〇世紀に始まった学問「人類学」は、アウトサイダーの視点をもってその社会の規範をあぶり出す学問である。その社会であたり前すぎて「見えなかった」規範が、アウトサイダーが中に入って暮らしてみることで見えてくる。第二章 ソニーのたこつぼ一九九九年のラスベガス。ソニーは絶頂期にあるように見えた。しかし、舞台上でCEOの出井伸之がお披露目した「ウォークマン」の次世代商品は、二つの部門がそれぞれ開発した三つの商品だった。それは「サイロ」の深刻さを物語るものだった。第三章UBSはなぜ危機を理解できなかったのか1UBSは、保守的な銀行と見られていた。ところが、〇八年のサブプライム危機で、ゴミ屑同然となったサププライムローンをごっそり抱えて破綻寸前に追い込まれる。危機を抱えていたことを察知できなかった原因は、当たり前と思っていた分類の誤りにあった。第四章経済学者たちはなぜ間違えたのか?ロンドンスクールオブエコノミクスを訪れた英国女王の素朴な問い「なぜ誰も危機を見抜けなかったのか」。経済学者や中央銀行、規制当局も、サイロにとらわれていた。CDOをしこたま仕入れるSIVといった新しい会社群は、サイロの分類にはなかったのだ。第五章殺人予報地図の作成シカゴの人口は、ニューヨークの人口の三分の一であるにもかかわらず、殺人事件の件数はシカゴのほうが多かった。IT起業家の若者が、その職を捨て、警察官になり、「殺人予報地図」の作成にとりかかる。データをクロスさせ、殺人がおきそうな地区を予報する第六章フェイスブックがソニーにならなかった理由ザッカーバーグは創業の当初から、マイクロソフト化やソニー化しないためにはどうすればよいかを考えていた。スタートアップの規模が急成長し、社員の数が互いに認識できる150のダンバー数を超えた時、サイロを打破し、創業の熱をどう維持するか?第七章病院の専門を廃止する病院は細かな専門に分かれている。外科、内科、心臓外科、心臓専門科、リウマチ科、精神科、しかしこうした専門を患者の側から捉え直したらどうだろう。クリーブランドクリニックは外科と内科を廃止、各専門をクロスオーバーさせることによって革新を生んだ第八章サイロを利用して儲ける大手銀行では、債券、株券、等々細かな分野で分かれてトレーディングをしている。情報や知識は共有されない。JPモルガンで2012年に明るみに出た60億ドルの損失は、そうしたサイロが生み出したものだった。が、そのサイロを衝いて儲けた者もいたのだ。終章 点と点をつなげるこれまでの事例をもとに、サイロに囚われないための方法論を考えてみよう。組織の境界を柔軟にしておくこと、報酬制度がそれを後押しするようになっていること等々、そして人類学の方法論を適用してみよう。アウトサイダーとして自らの組織を見つめなおすのだ。
感想・レビュー・書評
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『サイロ化しないように云々』と私の会社の経営陣は言っているが、現場ではサイロ化万歳状態。トップ・ミドルマネジメントが意識的にサイロを突破する意識と仕組みを構築する必要があると痛感。
テクノロジーの活用には触れられていたが、人類学的視点及び教養(リベラルアーツ)を一人ひとりが高められるか、というのもカギだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
単純化して言えば、「サイロ」は「専門化」だろうか。「細分化」と言い換えてもよいかもしれない。
人類の歴史は分業の歴史だ。我々の多くは、例えば食事をするのに農作物を育てることもなければ、動物を殺めることもない。これほど日常的に携帯電話を使っていながら、それを一から作ることもない。細分化された領域に専門特化することで、人類は社会や文化を効率的に発展させてきたのだ。
だから、筆者は「サイロ」が必要で、とりわけ複雑さを増す現代社会において、その重要性は高まるばかりとまで言い切っている。
本書がテーマとするのは、「サイロ」の負の側面である。専門化/細分化が高度に進み、物の見方や考え方(本書では「分類法」「分類システム」と表現される)が硬直化された社会や組織では、チャンスが失われるばかりか、その存在を揺るがしかねないリスクが無自覚に抱え込まれる。これは全編に渡って通底する筆者の問題意識で、第1部では「サイロ」により引き起こされた大禍が、第2部では「サイロ」を乗り越える挑戦が描かれる。
特に興味深かったのは、第2部・第6章 「フェイスブックがソニーにならなかった理由」で、「サイロ」に蝕まれて失墜したソニーを反面教師として、巨大化しても創業時のイノベーティブな風土を保とうとするフェイスブックの取り組みが描かれる。そこで画期的な試みとして登場するのは、新入社員研修での横のつながりの醸成や、人事異動といった、むしろ「サイロ」に苛まれていると見える日本の大企業で一般的に行われている施策であったことが何とも皮肉に感じられた。
サイロを打破するための方法論は終章で詳述されるが、この皮肉が起こる構造も含めて理解する上では、細かな専門を廃したクリーブランド・クリニックが描かれる第7章の一節に最も合点がいった。
「システムをカネで買ったところでサイロを破壊することはできない。システムは自ら創らなければ意味がない。新しいシステムを構築するプロセスやそれについて議論することを通じて、組織は変わっていくのだ」 -
読了
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大企業でよくあるセクショナリズムや蛸壺現象を、サイロを打ち破った事例を交えて完全否定せずに解説しているところがすごくいい。解説も専門的になりすぎず読みやすかった。
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組織のありかた。を考えさせられる内容でした。特に、規模が大きくなるとどうしても縦割りになってしまう。
いかに、互いの事を知り、組織として強くなれるか。非常に興味深かった本です。 -
ソニーの凋落、というのはいろんな本で語られているけど、
こんな風に一般的な形に抽出できるんだ、と目から鱗。
他の例も面白い。とくにフェイスブックの成功。これからどうなるのかさらに見ていきたい。
なんどか本の中でも語られているが、この本はサイロ批判の本ではない。
サイロができると認めた上で、どうするか、の考えを与えてくれる。 -
銀行の例は理解するのは難しかったが、ソニー、Facebook、病院の例でなんとか理解できた。
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元々ソニーの話が読みたかったのだが、この本のテーマを忘れて没頭して読んでいた時間もあるぐらい、それ以外の話も全部おもしろかった。
全体の業務量が増えると専門分野やカテゴリーによって組織が分割されていくのは仕方ないとして、あまりも業務を組織的に細分化しすぎるのはどうよ?と思ってはいたけれども、やはりそうかと。細分化された組織同士が枠を超えて協力し合うというのはなかなか難しいものがあるし。。。この弊害を認識している会社や人もいるから、大企業が必ずこの失敗を犯すとは限らないですね。
この本ではアウトサイダーと言っていますが、サイロをあぶり出すのに必ずしも外部的ポジションの人間またはそういった経験のある人間である必要はないと思います。俯瞰する視点を持ち、見えないものの存在に気づくかどうかではないかと。
日本ではサイロ越えの方法としてタバコミュニケーションというのがあります。これはタバコを吸う人と、そのメリットを知っている人しか恩恵に与れませんので、もっと認知された上で、日本流のサイロを越える方法として確立されたらいいのに(タバコと関係なしに)。飲みニケーションも広義にはand本来はそういう効果を期待している部分もあるので、そんなに忌み嫌うようなものではないと思っています。そういう場でしか得られないものってあるので。 -
タコ壷にはまるな
上司に言われたがタコ壷にはまった人とインサイダー兼アウトサイダーの視点でタコ壷を破壊したひとたちのドキュメンタリー