生命の星の条件を探る

著者 :
  • 文藝春秋
3.67
  • (7)
  • (25)
  • (15)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 217
感想 : 33
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903224

作品紹介・あらすじ

「もしも、地球にある水の量を今の10分の1に減らしたら何が起こるだろうか」 本書の著者である阿部豊氏は、その妻阿部彩子氏の研究ジャンルで利用される大気循環モデルを、生命の星の条件を探ることに利用することを思いつきます。 大気循環モデルはコンピューターのシミュレーションモデルで、地球の将来の気象条件を探るために開発されたものでした。 2011年に『アストロバイオロジー』誌に連名で発表された論文は、世界中で引用されることになる衝撃的な結論を示していました。 水の量を10分の1に減らしたほうが、生命の星としての地球の寿命はあと30億年伸びるというものだったのです。 本書は、このように、著者の研究テーマである、「地球以外に生命の星はあるのか」について、様々な大胆な仮説から迫っていくものです。 ・太陽系でプレートが動くのは地球だけで、それが生命にとって不可欠だった。 ・地球はあと10億年たつと、気温が1000℃を越え生命は住めなくなる。 ・水は惑星誕生の瞬間にすでに獲得されていた ・海は地球の内部のマントルの水からできたと考えられる。 ・地球の大きさの10倍の「スーパーアース」型惑星は、陸地のない水浸しの惑星になる。 等々、直感を裏切る驚愕の発見が次から次へと披露されます。序章 地球以外のどこかに私たち以外にもこうして星空を見上げている存在はあるのか、満天の星空の下で、そう考えるところからこの本は始まる。そのことを解明するために、様々な分野を横断した研究が始まっている第1章 水なぜ、生命には水が必要だと言えるのだろうか? 土星の衛星タイタンの湖のようにメタンでは駄目なのだろうか? その秘密のひとつには、水は宇宙のなかで、あまりにありふれたものということがある第2章 地面が動くこと我々の足元では、大陸を乗せた巨大な石の板「プレート」が動いている。こうしたプレートが動く惑星は太陽系では地球だけだ。なぜ、このことが生命にとって重要なのだろうか? 鍵は二酸化炭素にある第3章 大陸陸地がない海だけの惑星を考えてみよう。そこで生命は繁栄するか? 陸地には生命にとって重要ないくつかの働きがある。それは二酸化炭素を貯え、リンを供給することだ。そのメカニズムとは?第4章 酸素酸素がないままでも微生物は存在できる。しかし現在のような複雑な進化をとげた生物、知的生命は存在できないだろう。エネルギーを効率よく生み出す酸素の機能とは? 生物の大型化と酸素の関係とは?第5章 海惑星と陸惑星地球の海の水の量を10分の1にしたら生命は存在できるだろうか。直感に反して、そうした「陸惑星」の方が生命が存在する期間は長い。「海惑星」の地球はあと10億年で生命の住めない環境になる第6章 惑星の巨大衝突太陽系の惑星は形成の最終段階に、惑星同士の巨大衝突「ジャイアントインパクト」を繰り返していた。衝突の衝撃で地表はすべて荒れ狂うマグマの海と化す。惑星の形成過程を探ってみよう第7章 大気と水の保持水は宇宙空間でありふれている物質であるために、惑星は形成期に水を含んで誕生する。では、火星と金星に水がなく、地球にある理由は何か? 太陽からの距離と惑星の大きさが大きく関わっている第8章 大きさ太陽系外に巨大な地球型惑星「スーパーアース」の発見が相次いでいる。生命の条件に惑星の大きさは関係するのだろうか。計算すると「ミニ地球」にも「巨大地球」にも思わぬ難点が生じるとわかった第9章 軌道と自転と他惑星もしも、太陽系に木星がなかったら、地球はどうなるだろう。地球の300倍の質量を持つ木星はその重力で、太陽系外からの彗星から地球を守る働きをしている。変化する軌道と自転軸の働きとは?第10章 恒星太陽の寿命はおよそ100億年。しかし恒星のなかには、わずか1000万年程度の寿命しかないものもある。恒星の大きさは恒星の明るさと寿命を決め、惑星の環境を大きく左右する結び 「ドレイクの方程式」を超えて1961年、地球外の生命体の存在について、確率論から迫った科学者がいた。ドレイクの方程式と呼ばれるその考察は、その後の観測技術の発達の中で、どう評価されるべきなのか。そして将来は?補遺 磁場は生命に必要なのか解説 「信念」を「科学」に変える 阿部彩子

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み

  • ドキュメンタリーでよく見るような内容について科学的にどう捉えているのか?を地学の面からも踏まえて書かれていて面白かったです。
    また、生命における水がなぜ必須条件なのか?
    水以外での生命も存在するのでは無いか?などに関する素朴な疑問にも対応してくれる本でした。

  • >つまり、惑星表面に水が多いほど、暴走温室効果や全休凍結が起こりやすく、惑星表面に水が存在できる条件は厳しくなると考えられるのです。
    >水の少ない陸惑星ではそれほど極端な環境の変化は起こりにくく、水の量が多い海惑星ほど環境は不安定になりやすい、というわけです。(※惑星全体に水を運ぶことができる「つながった海」ができる惑星が海惑星、地球で言えば水の量10分の1以下になると陸惑星。)

    >地球の大気や海を構成している揮発性物質の多くは惑星形成と同時に取り込まれたと考えています。

    >大きな惑星(※スーパーアース)は水浸しで陸地がない可能性が高い

    >地球の特徴は次の4点に集約されます。①地表に水があること。②大陸があること。③プレートテクトニクスがあること。④生命がいること。

    >(地球型生命に必要な)リンの供給という点で、大陸の存在は重要と考えられます。しかし、大陸がどれくらいあればよいのか、ないとまったくだめなのか、という定量的問題はよくわからないのです。


    ・・・という地球惑星システム科学者によるハビタブル惑星についての各種考察。
    大量の系外惑星が発見された今日において、新しい知見と大量の数値実験に基づいて語られる生命発生についてのお話。

    n=1であるところの生命について、観測と理論と空想から解き明かしていくのはエキサイティングであり、かつまだ分からないことだらけの分野の楽しさもある。

    よく聞くようなお話もたくさんあり、新しく知ることもたくさんあり、大変面白く読みました。
    陸惑星のほうが海惑星よりもより安定的というのはびっくり。
    水がありふれた物質だということはなんとなく知っていたけど、想像以上に普遍的な物だった。そりゃエウロパ・エンケラドゥスみたいなのも出来るわけだ。

    基本的に平易な本なので、生命の発生に興味のあるかたには大変おすすめ。SF者にも必読。

  • 惑星学の最前線を学ぶ知的興奮の旅を味わうことができる。第一線の知見を、これだけかみ砕いて語るには、相当執筆の苦労があったと偲ばれる。惑星探査にもっと貢献したくなる本。

  • (特集:「先生と先輩がすすめる本」)
    私は高校時代に「宇宙人が居る(居ない)事を証明するにはどうしたらよいか?」という課題を地学の先生から出され途方にくれた経験がある。もちろんファーストコンタクト未経験の人類にとって明確な答えはない。本書は「地球以外にも生命の星はある」という「信念」に基づきその諸条件を科学的にひとつずつ検証している本となる。地球惑星システム科学の最先端の研究成果を一般向けに書き下ろした、といったレベルをはるかに超えて、若くしてALSを発症して亡くなった作者の執念のようなものを感じる「夢の書」でもある。
    (ロボティクス学科・教員推薦)

    ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00559786

  • 生命が存在できる惑星の条件とは、いったいどのようなものがあるのか。この本はそんな疑問に多角的な視点から回答をくれる名著だ。例えば、地球環境科学を少しでもかじった人なら、まず第一に液体の水が存在できることを生命の星の条件に挙げるだろう。しかし、液体の水の量については考えたことがあるだろうか。この条件についてはあまり考えたことがないはずだ。常識的に考えると、地球のように表面に水が多く、海で覆われている星のほうが環境が安定しているのではないかと考えてしまいがちだ。しかしこの本の主張によれば、水の量はより少ない方が環境が安定している期間が長く、生命が存在しやすいらしい。私はこの部分を読んだとき、自分の考えがいかに周囲の環境によって偏向されているかがわかりとても驚いたし、将来人類が移住する星のイメージが地球のような惑星からスターウォーズのタトゥーインのような砂漠のイメージに変更されて面白かった。
    この水の条件以外にも、本書では多角的な視点から生命の星の条件を考察している。そのどれもが地球ではかなり絶妙なバランスで保たれており、私は生命が生存できる環境というのはかなり珍しいのではないかという印象を持った。ぜひ本著を読み、生命が存在できる地球環境のありがたさを噛み締めてほしい。 (地球惑星科学コース 3年)

  • 地球科学・惑星科学の見地から、生命が存在するためにはいかなる条件が必要なのか、様々な角度から検証します。
    地球にある環境はいかにして出来たかを確認し、生命の星となる条件を考えます。もしも一部の要素が違ったらどうだったかなどを検証します。そして、この宇宙のどこかで、もしもこんな星があったらどうなるかといった科学的な予想のお話まで及びます。
    この本は専門的で難しくなるお話はなるべく避けて、一般向けにかみ砕いてまとめられています。また、わかりやすく丁寧な文章で書かれているので、読みやすい良い本だと思いました。

  • 【大西浩次先生】
    いま、空を見上げると「惑星」をもつ星をいくつも見つけることができる。1995年、最初の太陽以外の恒星のまわりの惑星(太陽系外惑星=系外惑星)が発見されて以降、今日、4000個近い系外惑星が見つかっている。2000年ごろから重力マイクロレンズ現象による系外惑星探査をしてきた者として、地球的な惑星の発見が大きな目標であったが、いま、そのような星が実際に発見されつつある状況になってきた。地球のように、「液体の水」を持つ位置「ハビタブルゾーン」に存在する惑星が見つかってきている。では、そのような惑星には生命がいるのであろうか。著者である阿部豊博士は、ブラックホールなどの研究で有名なホーキング博士と同じ筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、自由にならない体にも関わらず、ひたすら、生命の星の条件を探る旅を続けている。きっと生命はいるはずだという強い信念と自由な発想で進めてゆく途上で、予想外の結果を次々と突き止めてゆく。あなたも真実の探求の旅に出ませんか。

  • 入門書から一歩深めるアストロバイオジーの本。噛み砕いた表現にはなっているが、理解は決して簡単ではないだろう。地球以外に生命は発生するか、という問題意識には必須な問い掛けである、「もしも」の話しが多いからだ。

    ちいさな多くの驚きと大きな二つの驚き(海惑星と陸惑星、磁場のトピック)に満ちた著作でした。

    ・「液体の水」の存続にきわめて重要ななのが、水蒸気以外の温室効果ガスの存在。
    ・プレートテクニクスはいまのところ地球以外の惑星では確認されていない。
    ・地球の大陸地殻を特徴づけている花崗岩は、地球以外の天体ではまだ発見されていない特殊な岩石。
    ・最近の実験結果では、陸惑星のハビタブルゾーンは、水の量が少ないほど広がることが分かってきた。典型的な陸惑星のほうが海惑星より3倍以上広い。
    ・もしも月がなかったら、太陽の潮汐力だけが歳差運動の原因になり、自転軸の傾きは10度以上の大きな振幅になる。(現在は22.1~25.4度)
    ・地球の磁場は、現在は南がN極、北がS極だが、この両極はしばしば逆転する。一番最近は約70万年前。
    ・太陽の磁場も太陽系外からやってくる宇宙線が太陽系内に入り込むのを妨害している。
    ・短期的に磁場がなくなっても、生き物が大きな影響を受けたという証拠はない。

  • 太陽系外の惑星に生命が宿るにはどのような環境が必要かを、水、酸素、大陸の存在、二酸化炭素、惑星の大きさ、惑星の軌道などの諸条件ごとに検証する科学読み物的な本。この手の本は外国の著者によるものが多いのですが、残念ながら訳がイマイチなケースが多く、何回読んでも頭に入ってこないということがよくあります。ところが、この本は著者が日本人ということで文章がスムーズに頭に入ってきて読みやすさ抜群でした。最新の研究成果もふんだんに盛り込まれ、内容の質・量と読みやすさ共にこの分野の本では抜き出ている印象を受けました。
    生命が誕生し、進化するために必要な条件を整理する過程における考察に飛躍がなく、また専門的になり過ぎない程度に考察を進めるので議論の進む方向性を見失うことなく読み進むことができました。我々が地球環境に対して抱くイメージには実は誤りも多いことが新鮮でした。例えば「地球温暖化=有害な現象」と捉えがちですが、適度な温暖化がなければ寒冷化し過ぎるとか、陸地と海の比率がより極端になり、海がより広大になれば却って気候が極端になって生命にとっては厳しい環境になるとか。
    著者はALSを発症し、この本を書き上げるのに3年を要したとのことです。著者のその熱意が伝わってくるような本でした。

  • 著者は、地球の特徴として、「①地表に水があること。②大陸があること。③プレートテクトニクスがあること。④生命がいること。」の4つを挙げる。地球には空気があり、海があり、適切な気温に保たれているが、本書ではこのような地球に生命が生まれる条件について議論されている。

    水や空気や気温や気候が生命の条件に都合よく合うことについては、いわゆる人間原理にも似た議論が出てくる。つまり、「地球とは少し違う環境の惑星があったとして、そこに生物があるとしたら、その生物は惑星の環境によく適応しているでしょう。そして、逆の言い方をすれば、その惑星の環境はその惑星の生物たちにとって「奇跡のように」すばらしいものに見えるのではないでしょうか。こういうわけで、私は地球の条件がいかに微妙に見えても、奇跡の星という言い方で片付けてしまいたくないのです」というのが著者の考えである。そして、この問題を論理的かつ科学的に考えるにあたっては特に強く求められる姿勢となるだろう。

    実際に、タイトルにある「生命の星の条件」を確定するのは難しい問題である。著者も次のように述べる。「すでに述べたように、地球の生命は、地球の環境に合わせて進化していて、進化は必ずしも同じ道をたどるとは限らないのです。さらに地球の生命についてですら、全体としてみたとき、惑星がどのような状態でなければならないか、はっきりしないのです」
    その上で、著者は水の存在割合やプレートテクトニクスの影響、さらには近日点と遠日点の差などにも言及する。

    「この背景にある問題は複数あります。一つの根源的問題は、我々が地球の生命という、一つの生命しか知らないことです。これから「一般的な生命」を推測するしかありません」ー 果たして「一般的な生命」などというものをわれわれは推定することができるのだろうか。まずは、ここに困難が存在していることを否定できない。

    宇宙全体において生命が生まれて人類とコミュニケーションできる確率がどの程度あるのかという議論では「ドレイクの方程式」が有名である。ちなみに具体的なドレイク方程式は次の通りである。
    = 人類がいる銀河系で1年間に誕生する恒星の数
    x その中で恒星が惑星を持つ確率
    x 惑星を持つ恒星のそれぞれで、生命を宿しうる惑星の平均数
    x それらの惑星が実際に生命を宿す確率
    x それらの惑星が実際に知的な生命を宿す確率
    x それらの知的生命の文明が、宇宙で検出できる通信信号を放つ技術を得る確率
    x その文明が、信号を出し続ける時間
    = 銀河系において地球と交信可能な文明の数

    1961年の時点で仮に数値を入れて計算をしたところ宇宙全体で「10個」とされていたが、もちろん諸々の説が存在する。

    著者は2003年にALSを発症して、この著作を書いているときにはすでに病床にあるということを、同じ分野の准教授でもある妻の阿部彩子さんが書いたあとがきで知った。口述で速記を作らせて、画面上で修正していくという作業を続け、3年間の情熱を注いでできたものがこの本だということである。

    「この本を読んでくれた方々が、科学者阿部豊と一緒に、「地球以外にも生命の星はある」という「信念」を「科学」に変える探求を応援して参加してくださるなら、こんなに嬉しいことはありません」

    良い意味でその並外れた苦労を感じさせない内容になっているが、襟を正して読ませてもらわねばと思った。

全33件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1960年広島市生まれ。1982年北海道大学卒業。1989年茨城県石岡市で新規就農し妻の佳子さんとともに有機農業を営む。約300aの畑では野菜や麦、豆類、雑穀など100種類を栽培し、どの時季にも20種類以上の品目がそろう。主な出荷先は個人宅配の他、自然食宅配ふたば、大地を守る会、常総生協など。あべ農園http://abenouen.web.fc2.com/

「2015年 『いちばん親切でよくわかる 有機・無農薬で家庭菜園』 で使われていた紹介文から引用しています。」

阿部豊の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジャレド・ダイア...
トマ・ピケティ
カルロ・ロヴェッ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×