中野京子と読み解く 名画の謎 対決篇

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903088

作品紹介・あらすじ

横たわる美女、片や絶讃、片や大スキャンダル!?同様の題材や図柄なのに、その意味や世の評価は時に正反対。人気シリーズ第4弾は様々な観点から2点の絵を対決、真相を紐解きます。

感想・レビュー・書評

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  • 二つの作品を対比して、比べることで見えてくる意外な発見を楽しむ趣向の著作。

    まず、表紙からして目を引く。左側はオーストリア=ハンガリー帝国皇后エリザベート。右はフランス皇妃ウージェニー。同じ画家が描いた肖像画だけに、絵の質に差がないと仮定すれば、妃個人の資質が描き出されるのか。しかし儚げに見えるウージェニーはエピソードから見れば、理知に長けていて、時に冷酷だ。エリザベートの義弟マクシミリアンの銃殺にフランスが関わっていることから、対面した二人であるが、対面の機会が機会であるだけに、親密にはなれなかっただろう。
    中野京子さん著作でよく取り上げられる、「メデュース号の筏」。この怖いもの見たさから惹きつけられる作品がハリウッドのパニック&サスペンス映画につながる、とは「なるほど」と思った。ジェリコーが「メデュース号の筏」を描くために、死体を何枚もスケッチした、という話は知っていたが、ハリウッドにつながるとは、それまでは怖いもの見たさの作品がなかったのだろうか。これに対比されているのが「ワトソンと鮫」コプリー作。この絵も別の中野京子さん著作で見たことがある。やはり私もジェリコーの方が画力があるなあ、と感じる。どちらの作品も絵が描かれたエピソード込みで知られるようになったのは共通している。

    19「飲んだくれ」の章。どちらも初見の絵画だった。私も酒を飲むが嗜む程度である。この章で取り上げられているのが、ドガ「カフェにて」とレーピン「作曲家モデスト・ムソルグスキーの肖像」。ドガは印象派でレーピンはロシア・リアリズムの巨匠。作風が全く違うけれど、どちらにも哀しみが漂っている。「カフェにて」に描かれる男女、特に女性の諦めのような表情。目の前にはアブサンという酒。このような境遇の女性がこの頃には星の数ほどいたことだろう。飲まなきゃやってられない。そんな気持ちだろうか。この当時のアブサンは幻覚作用があったらしく、20世紀には欧米のほとんどで製造販売が禁止される。再び解禁されたが、それは以前のアブサンとは違う。ゴッホが耳を切り落としたときにアブサンを飲んでいたというのは知らなかった。このような境遇の女性の先行きを考えると暗澹たる気持ちになる。例えそれが、過去の出来事であっても。「ムソルグスキーの肖像」はムソルグスキーの音楽が理解されなかった、時代を考えると悲しい。農奴解放令で突然に経済状況が悪化、母の死、アルコールへの逃避。「展覧会の絵」や「はげ山の一夜」をたくさんの人が評価するのはもっと後のことだけれど、天才レーピンはムソルグスキーの才能を当時から高く評価していたという。自らの埋葬費用がないムソルグスキーのために肖像画を描き、売ってそれに当てるのが目的だったという。ムソルグスキーの才能が分かっていれば分かっているほど、レーピンは辛く悲しい絵画だっただろう。

    知っている絵もあれば、まだまだ知らない絵もある。とても面白かった。

  • 「怖い絵展」とかをやっている
    有名な人ですよね。
    絵画をそのような斬新な切り口で
    紹介してもらい、
    実際に平易な文章なので、
    読みやすかったです。
    でも、
    「対決」となると、
    もっと対決感を期待してしまった。

  • レーピンは中野京子の本で知った画家だ。今回も、目を引くなと思った絵画はレーピン作だった。眼光鋭いモデスト・ムソルグスキーの肖像。レーピンは人間の中の不条理を好んで描いたように思う。

    美男対決も見応えあり。

  • 実物が観たくなった。

  • 怖い絵とは違った名画を対比して語る一作。
    大変面白かったです。
    別の著作にも紹介されていた作品もありましたが(オフィーリアは3回目!)それでも面白かったです。

  • 生涯堅実で光り輝く人生だったルーベンスと、裕福な妻の死から人生が上手くいかなくなった浪費家のレンブラント。
    2人の夫婦の肖像画が印象的。
    ルーベンスは木陰の思慮深く互いを思いやる夫婦といった雰囲気。
    レンブラントの酒場での妻との絵はなんとも陽気な酒飲みおじさん、という感じ。

  • 一見固い文章だけど、熱くて作品にも作者にも愛が溢れてる。今回はいつもよりちょっと砕けてる感じがさらに面白かった。同じ主題の作品を比べつつ、モデルの人生や神話、映画についての多様な知識。オフィーリアの周りに浮かんでいる花にまで意味があるなんてっ!死、叶わぬ恋、悲しみ、貞潔、無邪気…三島由紀夫が衝撃を受けた聖セバスティアヌスの殉教。三島が同じポーズで写真に残したことをチクリと皮肉っている。

  • まだまだ観たい絵がいっぱいあるなぁ。

  • 名画を対決させるというのも、おもしろい視点だと思いました。比較させた名画の解説を読んでいるうちに、名画の見方や注目ポイントがわかってきて、楽しく学べた。

  • 2016.11.24 朝活読書サロンにて真珠子さん紹介。

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著者プロフィール

早稲田大学、明治大学、洗足学園大学で非常勤講師。専攻は19世紀ドイツ文学、オペラ、バロック美術。日本ペンクラブ会員。著書に『情熱の女流「昆虫画家」——メーリアン』(講談社)、『恋に死す』(清流出版社)、『かくも罪深きオペラ』『紙幣は語る』(洋泉社)、『オペラで楽しむ名作文学』(さえら書房)など。訳書に『巨匠のデッサンシリーズ——ゴヤ』(岩崎美術社)、『訴えてやる!——ドイツ隣人間訴訟戦争』(未来社)など。

「2003年 『オペラの18世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中野京子の作品

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