進化の謎を数学で解く

  • 文藝春秋
3.21
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902371

作品紹介・あらすじ

●"最適者"はどこから来るのか?新しい種が生まれた時、なぜそれが古い種にとってかわるのか?ダーウィンは、それを「自然淘汰」という考えで説明した。環境の変化に適応できない古い種は淘汰されていく、それが「進化」なのだと。しかし、では、どうして都合よく、新しい環境に適応した新しい種は生まれるのだろうか? 自然淘汰は、最適者を保存改良することはできる。だが、その最適者はどこからやってくるのか? ダーウィンがどうしても解けなかったのが、その「最適者の到来」の謎だった。今、5000次元の組み合わせを解くことのできる数学とコンピューターが、「最適者の到来」の道筋を解きあかしつつある。[目次]◆プロローグ その偶然は起こりうるのか?ハヤブサの目は一キロ先のハトを見分ける。獲物を高速で追跡する間、眼の水分を保ちながら、泥をはらう第三のまぶたがある。紫外線をも見ることができる。しかし、このような複雑な機能を持つ眼が進化するには気が遠くなるような偶然と年月が必要なはずだ◆第一章 最適者の到来ダーウィンは、新種が生まれた時、なぜその新種が旧種におきかわっていくのかということを「自然淘汰」という考えで説明した。しかし、ではなぜ、その新種は生じるのだろうか。現代の分子生物学は、実験とコンピューターの力を借りてその謎を解こうとしている◆第二章 生命はいかにして始まったか?始まりはDNAだったわけではない。自己複製できるRNAが始まりの候補だ。しかし、RNAは、栄養がなければ複製できない。つまり、その前に、生命の原材料を生産できる化学反応のネットワークが存在していなければならなかった。熱水噴出孔がその候補地だ◆第三章 遺伝子の図書館を歩くグルコース、クエン酸、エタノールなど、ある物質を「代謝」してとりこむことができるか否かを0、1で表せば、その組み合わせは2の5000乗に達する。これを5000次元の図書館にみたてる。この5000次元の組み合わせを解くためにコンピューターを利用した◆第四章 タンパク質の多様な進化20種のアミノ酸でできるタンパク質も20×20×20×……と膨大な組み合わせの図書館をもつ。長年の研究でタンパク質の性質がかなり解明され、この図書館もコンピューターで分析可能に。そこである問題に有用なタンパク質を探すと、次々と新しい答えが見つかった◆第五章 新たな体をつくる遺伝子回路植物の光合成に有利な複葉のような、新たな体はどうやって生じるのか。体を形作る遺伝子は、多くの遺伝子がつながる「回路」に調節されている。この遺伝子回路も天文学的な組み合わせの図書館をもっていた。そこには、うまく働く新たな体の候補者が無数に待っていた◆第六章 隠された根本原理とはここまで見たように、生命は一つの問題に、わざわざ複雑で膨大な解決策を準備している。なぜ単純にしないのか? 多少の変化で動じない「頑強さ」が、その答えのカギだ。多様な環境変化に対応する新種の候補を用意できるのは、隠れた「頑強さ」があるからだった◆第七章 自然と人間の技術革新自然が新種を生み出すイノベーションと、人間の技術革新は似ている。たとえばコンピューター言語の電子回路も、その組み合わせの図書館を考えられる。調べてみると、電子回路の図書館にも頑強な解決策のネットワークがあった。生命以外でも、同じ原理が働くのだ◆エピローグ 生命そのものより古い自然の創造力隠された遺伝子のネットワークが新種を生む原理は、コンピューターで数学的にシミュレートして初めてわかった。こうした原理は、生命のみならず、重力による銀河の形成にもあてはまる。哲学的に言えば、自然がおのずから創造する力の源泉は、生命や時間より古い◆訳者解説「生命が最適者を発見するのに奇跡は必要ない」

感想・レビュー・書評

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  • 我々素人の持つ「進化」に対するイメージといえば、アメーバみたいな原生動物から恐竜や三葉虫などの古代生物に繋がり、そこから何やかんやと枝分かれする「道筋」を辿って、ヒトや鳥、魚類などの現在の動植物に至る…というくらいのものだろう。しかし、この本で描出される「進化」の概念は、我々が通常持つそれとは根本的に異なる。「古いものから新しいものへ」「劣ったものから優れたものへ」「混沌から秩序へ」などという単純なグラデーションはそこにはない。「道筋」と呼ぶには余りに複雑かつ高度に絡み合ったネットワーク内を、新機軸(イノベーション)を求めトライアルアンドエラーを繰り返しながら徘徊する際限の無い試み、それこそが進化の本質だと著者はいう。

    しかもこのネットワークたるや、その探索に伴い生ずる生存に中立的で小規模な変化を保守しながら、死の危険を伴うジャイアントリープを生物に強いることなく、やがては全く新しい新機軸に辿り着けるよう配慮されているという至れり尽くせりぶり。あたかも全能の智者が予め生物が採り得るオプションを全て用意して、進化空間に慎重に配置しておいてくれたかのようだ。代謝系、タンパク質、遺伝子調節回路が持つこのような精緻なメカニズムを目の当たりにすると、一神教信者でなくとも「科学者は真理を『発明』するのではなく『発見』するのだ」という言説にも頷けるものを感じてしまう。

    本書でこのネットワークを説明するために用いられている図書館のアナロジーは極めて適切で理解し易い。さらにはそこでの進化における新機軸探索と人間社会におけるイノベーション達成の過程の類似性や、単純性と環境適応能力のトレードオフなども具体例を多く用いて説明されており、ある程度ハードな内容にも関わらずスムーズに読めた。ただ邦題はいただけない。「数学」という文字を入れると売れるのだろうが、対象の取り得るポジションが指数関数的に増加するネットワークの複雑さの描写を別にすれば数学的な要素は希薄。コンピューターの発達で進化の複雑な過程を数的にクランチできるようになった、というだけの話。原題の直訳「最適者の出現」でいいと思うのだけど。

  • 表題のわりに数式の一つも出てこないと思ったら、原題は[Arrival of the fittest. Solving Evolution's Greatest Puzzle.]直訳すれば『最適者の到来。進化の最大の謎を解く』。

    "進化"のよくある説明として、キリンの首は目的を持って伸びたわけではなく、首が短いキリンが自然淘汰により絶滅しただけだと語られる。
    では、なぜキリンの首は伸び始めたのか。自然淘汰は最適者の"生存"を説明できるかもしれないが、最適者の"到来"を説明することはできない。
    その答えを一言でいってしまえば"偶然"なのであるが、その"偶然"とは、遺伝子の中立的な変異、エラーを許容する冗長構成、天文学的な組み合わせから正解にたどり着く近傍探索。といった十数億年かけてたどり着いた機構に支えられている。
    その機構を解き明かすシステム生物学が本書の主題。

    進化論は未だ多くの信仰で否定される事があるが、乱暴に言ってしまえば、神を信じるか、偶然を信じるかの違いでしかない。
    この偶然がどのような機構によって支えられているのか、読書のみでその理解を深めようとすることは、反対派から見れば別の信仰心を高める行為にすぎないのかもしれないが、"仕組み"の理解はいつかどこかでその類似系を役立てる時が来るだろう。

  • ふむ

  • サイエンス
    数学

  • 息子へ

    この本も、あまりオススメ出来ないなぁ。
    最初のワシの下りとかは良いけど、文体も難解で全く内容が入って来ないよ。

  • タイトルにひかれ購入し、途中まで頑張ったが、難しすぎる。。。
    遺伝子のランダムな変化だけだと、パターンが膨大すぎて、いまのような変化を遂げる理由が説明できないといったことと理解したが、、、

  • 進化は自然選択で説明するには複雑過ぎるのではないか、という疑問に対して、遺伝子ネットワークという考え方で「あり得る」とする。
    この辺を解けるのが量子コンピュータなのかな、という、茫洋な感想。

  • とっても面白い。難しい部分もあるが,進化についての理解が深まる。

    本のタイトル「進化の謎を数学で解く」は誤訳だと思う。
    Arrival of the fittest: Solving Evolution's Greatest Puzzle がなんで「進化の謎を数学で解く」になるのか?数学なんて本文読んでも出てこないのだが?まさかコンピュータを駆使する=数学,って思ってる?翻訳者の年齢からしょうがないか?

    p.234 の余剰電源は冗長化電源,余剰メモリーは冗長化メモリー,余剰回路は冗長化回路だろうね。redundantは工学系では冗長という意味だから。
    p.235には余剰性(冗長性)と訳しているのが不思議。

    p.281に「現代のチップは,64桁の2進数よりもはるかに大きな数の足し算,引き算,掛け算,割り算をするので,数百万のゲートを必要とする」とあるが,大きな数の四則演算のために数百万必要な訳ではない。

  • 期待してたほどではなかったのが残念・・・やはり研究者自身が書くと、自分の論点・成果をくどくど説いてしまうのか。
    生命の誕生のところを除けば、要は進化はネットワーク状になっている(進化の前と後の状態を並べていった時にネットワーク状につながる)、そのことで進化は効率的に頑強におこなわれる。
    一番残念なのは、図書館の例えが、むしろ分かりづらいこと。ネットワークでいいではないか。
    知りたかったのは、(遺伝子型)ネットワークのその特性がなぜ生まれるか、ということだったのに、それが驚くべきこととである、という点で終わってしまっている。

    以下メモ
    1.生命の誕生について
    自己複製よりも代謝(他の物質を作り出す機能)が生命の起源に先行。その中で(おそらくクエン酸回路)自己触媒的な代謝、そして自己複製因子が生まれて生命につながった。

    2.
    代謝(ある物質から別の物質を作る)の発展・多種なタンパク質の進化・遺伝子と一連の反応により形状の変化、そこにはネットワークの力が表れている。それは、あるノードが別のノードとつながっている(たとえば、ある代謝を行う代謝プログラムから、別の代謝を行う代謝プログラムへは、少しずつプログラムを変えていけば到達する)ということと、その隔たりがそれほど大きくないこと。そして、別々のノードは、その近傍(=少しだけプログラムを変えるだけで起きる現象)にかなり異なるノードを持っている、という近似した部分を持たないネットワークであるという。
    そのことは、多様な可能性が実現することを示している。

    そこで生命にとってもう1つ重要なのは、特定のことができるのに特定のノードに依存しなくてもいいということ。たとえば、ATPを燃料として活用するためのタンパク質は、Aというタンパク質でなくてもBでもいい。つまり、適用する進化は一筋でない。たとえば鳥と植物は明らかに違う系統の種なのに、同じ働きをするグロビン(形はかなり異なる)を持ち、酸素をコントロールする。

    もう1つ重要なのは、大きな変化は致命的であるということ。たとえば遺伝子が(人の操作で)狂されるとと形状などがおかしくなったりする(たとえば体中に目ができるとか)。しかし遺伝子が指定するタンパク質が変わるくらいなら、一連の反応への影響が大きくなることはあまりない(一連の反応が特定のタンパク質に依存してない=同じ機能をもつタンパク質が存在する)。そういった小さな変化でも、様々な方向へ進化できるということが、本書でいう図書館であり遺伝子型ネットワークの特性。当然といえば当然かもしれないが、あるタンパク質を作るための道筋が一つしかなければ適応する進化は格段にシビアで、生命は生まれては滅ぶとなりかねない。
    例として、大腸菌と同じ生存可能性をもつ(=グルコースを利用できる)細菌は大腸菌のおこなう代謝と80%違う代謝をしている。

  •  進化論といえば「自然淘汰」=「最適者生存」の理論である。しかしこの理論だけでは、生物が環境に適応しようと(進化)するとき「ちょうどいい変異」が起こる理由を説明できない。ほんとうにランダム、行き当たりばったりでいいのか……という疑問はかなり物騒で、ID論とか今西説とかに行き当たったりするのだが……これを説明してしんぜようという恐ろしい本。

     なぜそんな都合のいいことが起こるのか。生命の使っている暗号体系(これは本書にない言葉だが)が非常に強靱であることによるのだと本書は説明する。つまりDNAがたんぱく質をコードし、そのたんぱく質が酵素や遺伝子調節因子を規定して、そのネットワークによって生命体を生み出し、複製し、変化させるというしくみに秘密があるのだという。

     それをちゃーんと説明すると……というのが本書なので、けっこう歯ごたえがある。巻末の訳者解説がすばらしいので、まずはこっちを読んでアタリを付けてから本分を読むのがいいのではと考える。

     たとえば遺伝子が3文字ひと組でたんぱく質をコードしていることはよく知られている。しかし、この暗号には冗長性があり、たんぱく質とコードの関係は1対1ではない。たとえば3文字目にエラーがおこっても、たいていは無事に済む。
     こうした冗長性が、たんぱく質の性質を決める立体構造や、遺伝子発現のタイミングなどいろんなレベルで存在し、ちょっとしたエラーでおかしくはならないが、有益なルートは保存されるというしくみになっているのだ。
    「膨大な数の組み合わせによる複雑なネットワーク」だから強靱なのだ、という考え方は生命のいたるところに発見できると思う。本書では触れられていないが、たとえば免疫系のネットワークがまさにそれに当たるのでは。つまり、筆者の考え方は、すごくいい線をついているのでは。

     本書は遺伝子変異が「ランダム」であることは否定しない。そこを前提に、なぜ「ランダム」なのに有益な遺伝子変異が生まれ、保存されるのかという謎に迫っている。刺激的な一冊だ。

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