- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163901930
作品紹介・あらすじ
ハワイ諸島の雄コオロギは寄生バエの攻撃から逃れるために、突然変異により羽音を出す器官を消失し、わずか5年で鳴かないように進化した。他にもガラパゴス・フィンチやグッピー、ヒキガエル、キスイガメなど、動物界では急速な進化を遂げた例が多数見つかっている。進化には、何百万年という途方もない時間がかかるという考えは誤りだ。急激な進化は人間の間でも起きている。牛乳を飲めるようになったのも、マラリアへの抵抗力がついたのも、チベット人が高地に順応できるようになったのも、青い瞳の人間が現れたのも、たった数千年の間に起きた急激な進化の結果なのだ。だから、「人類は歴史の大半を狩猟採集で生きてきた。農耕定住生活を初めてから、疫病も圧政も過重労働も始まった。病んだ現代人は原始人にならって、米や麦などの炭水化物を摂取することは止め、肉食中心の生活に戻るべきだ」とする石器時代への憧れ(パレオファンタジー)は幻想だ。炭水化物は人類を滅ぼさない。なぜなら、現代人のDNAは農耕文明開始後の1万年の間にも進化しているからだ。食事、セックス、健康、家族、病気──。人間活動のすべてを司る進化の仕組みについて、「性淘汰におけるハミルトン─ズックのパラサイト仮説」で有名な進化生物学の第一人者が説き明かす。進化における我々の常識を覆す、刺激に満ちた一冊。私たちは今でも進化しているのか?目次序文進化には途方もない時間がかかるという考えは誤りだ。乳製品の摂取も、高地への順応も、数千年の間に人類に起きた進化の結果なのだ。第1章 マンションに住む原始人人間は歴史の大半を狩猟採集で生きてきた。病んだ現代人は今こそ原始人を見習うべきだ──石器時代への憧れは正しいのだろうか?第2章 農業は呪いか、祝福か疫病も専制政治も過重労働も、人類が農耕定住生活を始めてから発生した。果たして農業は諸悪の根源なのか? 恩恵はないのか?第3章 私たちの眼前で生じる進化ハワイで鳴かない新種コオロギが現れたのは、環境の激変に適応するためだった。動物の世界では数十年単位で速い進化が起きている。第4章 ミルクは人類にとって害毒か哺乳類の中で離乳後もミルクを飲むのは人類だけだ。なぜ乳製品を消化できるようになったのか? それは牧畜の開始より前か後か?第5章 原始人の食卓肉食中心だった原始人に習って、我々は米や麦など炭水化物の摂取を止めるべきだ──「石器時代ダイエット」は本当に正しいのか?第6章 石器時代式エクササイズ我々の体が石器時代に適しているのなら、どんな運動をすべきなのか? マラソンか短距離走か、「積み重ねた石を運ぶ」ことなのか?第7章 石器時代の愛とセックス人類に最も適した男女関係は一夫一妻か、一夫多妻か、フリーセックスか? 霊長類や狩猟採集民の性行動を例に、愛の形の歴史を探る。第8章 家族はいつできたのか人間の赤ん坊は他の動物に較べて成長が遅く、手がかかる。幼児の世話をしてきたのは誰なのか。人類の進化を家族の視点から考える。第9章 病気と健康の進化論遺伝子によって、病気になる運命かどうかは決まっているのか。AIDS、結核、癌。人類と病気の関わりを病原体の進化から読み解く。第10章 私たちは今でも進化しているのかチベット人が高地に住めるようになったのも、耳あかに二つのタイプが存在することも、すべて人類が「進化している」ことの証なのだ。訳者あとがき解説 炭水化物は人類を滅ぼさない 垂水雄二
感想・レビュー・書評
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序章と一章を読んだが、同じ進化は思ったよりも急速に起こる。生物にとって進化は環境に間に合わせのための妥協であり、人間にとって原始時代の生活が適しているわけではない。
以上の繰り返し。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書の主旨は、「人類は進化を達成した」「進化が起こる単位は、少なくとも数十万年かかる長いものだ」という理論が似非科学であることを証明する科学解説書である。そして読者を導くテーゼが「糖質制限ダイエット」の元になった理論「原始時代の食生活こそが現代人の不健康を取り除ける」というパレオ式生活が、いかに間違っているかを科学的に反論するものである。
「パレオファンタジー」原始時代の生活こそが現代人にとっても最適で正しい生活だ、という幻想11
実は人間の進化は数千年単位以下の時間で起こっているようだ。進化により鳴かないコオロギが発生したのは20世代で、これを人間時間に直すと400年たから、このくらいで進化している可能性もある16
2010年に雑誌で紹介されたニューヨーカーたちは、健康や人間の本来性回帰のため、原始時代の生活を取り入れている(これを著者はパレオ式と表現)。穀物を避け(農耕だから)、主に肉を食べる(調理するかは議論になっている)、徒歩移動(狩猟の疾走)、献血(猟の負傷)、などを取り入れている24
ジャレット・ダイヤモンド(ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者)などの文明批判者たちは、農業を「人類の歴史の中で最悪の間違い」ととらえる。「農業によって人類はでんぷん質まみれの破滅の道を転げ落ち始めた」「私たちは農業によって生まれた檻(肥満と病気と社会的階層が付き物)に囚われている」「農業の出現とともに、社会的、性別による不平等、病気、専制政治など、私たちを苦しめるものも生まれた」「農業は諸悪の根源か?」52
トリニダード島のグッピーは四世代で進化した90
「狩猟によって引き起こされる進化」がある。オオツノヒツジはより大きな角を持つ雄の個体が狩猟の価値が高い。そのため小さな角の雄が進化の過程で有利になり、現在のオオツノヒツジの角は小さくなった96
第三章まとめ
生物は、われわの常識と違い、相当速く進化する。数十万年単位だと思われていた進化速度は、数十世代、あるいはもっと少ない世代で可能だと、最近の研究でわかってきた。
「牛のミルクは子牛のため」をスローガンに牛乳廃止を訴える反対派がいる。人間は原始時代の食生活か肉体に合っており、乳製品を止めると一週間で人体が健康になる、という間違った主張をしている104
ミルクを摂取出来る遺伝子は2200~2万年前に生まれた。つまり人間のゲノムは文化的習慣によって進化した証114
よく噛まないと下痢など腹壊す(唾液のアミラーゼが腸まで行くが、それが足りなくなる)138
日本人が海藻を消化出来るのは、海藻についていたバクテリアが日本人の腸に住み着いて、それが人間の遺伝子と結合し、さらにそれが遺伝したから145
人間はあらゆる哺乳類に比べ、持久走が得意な種である。160
他の動物に比べ、人間の子供は飛び抜けて自立が遅い。これは生活技術を覚える、あるいは集団生活の社会性を会得するためと近年まで言われてきた。しかし最近、「親のため説」が出てきた。親が新たな繁殖を行うため、ある程度成長した子供がコストの低い使用人を担うためだと(雑用、農作業、弟妹の子守り等)。216
ミーアキャットは「協同繁殖」する代表的な動物。人間も協同繁殖をすると考えられている222
人間に閉経が存在するのは祖母が「アロペアレント(父母以外で子育てに協力する存在)」になるため説がある231
1869年イギリスの医師ローソン・テイトは『種の起源』の衝撃を嘆いた。「今後世界は、医学の進歩によって夭折を免れた人々が繁殖して、『適者生存』を通らなかった『不完全な人間たち』がはびこってしまう」268
「糖質制限ダイエット」はなんと、パレオ式生活の流行から始まった299 -
本題が、我々は進化しているのか、ということだが、
―― 現代人のライフスタイルは、原始時代と大きく異なっており、それは我々の本来のあるべき生活様式ではない ――
とするパレオ式の生活スタイルへの反論がそこかしこに登場する。そして原題も 'Paleofantasy' 'What evolution really tells us about sex, diet, and how we live' (訳すれば、パレオ幻想:進化が性、食物、生活様式について我々に本当に教えてくれること、とでもなるだろうか)で、こちらのほうがより内容には忠実だ。
著者がパレオ式に強い反発を覚えていることはよくわかった(私もパレオへの反発は否定しない)が、我々をふくむ生物が進化し続けているのか、ということでいろいろな例が取り上げられている。本の説明にもある鳴かないコオロギへの変化はまさしくその一例であり、著者本人のフィールドワークの研究成果なのだが、1,2ページで述べられているだけにすぎない。むしろこの部分をもっと詳しく書いてほしかったと思う。
フィンチ、グッピーあたりの話は「フィンチの嘴」の方が詳しく、そのときの感動が伝わるように述べられているので、ヒト以外の動物での変化を知りたい人は是非「フィンチの嘴」を読んでみて欲しい。
さて、ヒトは進化しているのか?
ヒトのデンプン代謝の為のアミラーゼ遺伝子のコピー数増加や、ヒトにおける収斂進化といえるラクトース代謝のアフリカの一部の遺伝子変異とヨーロッパ、中東での遺伝子変異の違い、が紹介されており、とても興味深い。
生活様式や、雄と雌の集団内でのふるまいなどは、観察から得られる話で展開されており、あまり強く関心を抱かなかった。
一般向けを意識しているのか、抽象的な表現にとどまって説明しているのがかえって理解を妨げているように個人的には感じた。 -
人間に限らず、すべての動物は進化を続けており、完成形というのはない。進化の速度は様々だが、性選択や、住む場所の変化、病原菌由来の進化の速度はかなり早い。数千年以下の期間ではっきりした変化が生じることもある。
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各章で扱っているテーマが面白く、とくにヒトを中心にした類人猿の自然選択や進化の多様性について、幅広い研究成果を紹介している。
長い年月を過ごした旧石器時代の生活スタイルが、人間の食事や幸福に最も適合した理想だと考えるパレオ主義ってのが欧米で存在するそうだが、一過性のブームであろうし、個人の自由の範疇で興味も無い
進化し続けるのはヒトも含めて全生物のあるべき姿で、完全に環境に適合している状態や、最終到達点としての進化などないというのはまさにその通りなのだと思った -
【由来】
・紀伊国屋ウェブの「おすすめ」で
【期待したもの】
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※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。
【要約】
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【ノート】
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【目次】 -
原題は「PALEOFANTASY」(=石器時代への幻想)。日本でも最近流行っている「パレオダイエット」(旧石器時代式ダイエット)を、進化生物学者の著者が批判した書である。
私は「パレオダイエット」という言葉自体、本書で初めて知った。旧石器時代の食事法を再現したダイエット法なのだそうで、日本では「原始人食ダイエット」とも呼ばれる。
農耕文明が始まったのは約1万年前であり、進化の歴史から見たらつい昨日のようなもの。ゆえに、人間の体はまだ農耕文明以後の食生活に適応しておらず、石器時代仕様のままになっている。炭水化物中心の現代の食生活がさまざまな文明病を生んだのは、その齟齬のためである。
だから、炭水化物を避け、肉、魚介類、野菜、ナッツ、フルーツをおもに食べる石器時代式の食事にすれば、健康で美しくなれる。
……とまあ、そのような考え方に基づくダイエットであるようだ。「糖質制限ダイエット」の源流も、このパレオダイエットだという。
本書の随所に紹介されているパレオダイエット推進者側の考え方を見ると、もろに疑似科学である。しかも、進化論に基いているという装いの疑似科学なわけで、第一線の進化生物学者である著者としては捨て置けなかったのだろう。
私はパレオダイエットなるものにまったく興味がないが、それでもこの本は面白く読めた。というのも、パレオダイエットの誤りを論破することを通じて、著者はおのずと進化生物学の最前線を読者に紹介していくことになるからだ。つまり、最新版の「進化論入門」としても読めるのである。
しかも、著者の文章は上品なユーモアに満ちていて、けっこう笑える。
ジャレド・ダイアモンドの文明論的サイエンス・ノンフィクションをもっと軽妙にした感じで、なかなか読ませる本だ。 -
原題が「PALEO FANTASY」であることからもわかるよう
に、この本は欧米で流行している「パレオ式」─すなわち、
我々は何千万年に渡って原始生活に適応進化してきたので
ここ数千年間で急激に変化した文化的生活に順応できて
いない。そのため、食事や運動などを原始生活に近づける
ことにより、様々な病気や健康不安から遠ざかることが
出来る、とするライフスタイル─に徹底的に異議を唱える
ことに重点を置いている本である。その論点のひとつは、
原始時代の生活は未だによくわかっていないという点、
そしてもうひとつは、人間は進化の完成形ではなく、未だに
進化し変化し続けているという点だ。この点においては、
まったくと言っていいほど肯ける内容であり、興味深い本で
あった。
だからこそ、詐欺まがいのタイトルはどうもいただけない。
私も引っかかった口だ(苦笑)。日本ではパレオ式自体が
それほど流行っていないようなので、本を売るためには
致し方ないのだろうが、それでも読者に対しては誠実で
あって欲しいと私は思うのだが。