- Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163901886
作品紹介・あらすじ
大店からの離縁を機に口入れ屋の女主人へ!名手が描く江戸の人情模様――。 もつれにもつれた夫との離縁話の原因は、そもそも二人に子供ができないことだった。大店の金物問屋「金長」に望まれて嫁いだおこうだが、夫・富之助はあろうことか浮気相手である別家の娘・おけいとの間に男児まで生す。別嬪だが滅法気の強いおけいは、赤ん坊を連れて家へまで乗り込み、挙句、おこうは婚家を離れる決心をした。しかし、水菓子問屋の実家に戻ってもおこうに安息は訪れない。兄は裏で年上女房が指図したのか商い拡張のため、亡き父がおこうのためにかつて用意した200両の持参金――離縁によって独り身のおこうの手元に戻った命金を貸せと迫る。貸したら最後、きっとその金は戻らない。揉め事にほとほと嫌気がさした時、思い出されるのは自分を可愛がってくれた元乳母のおとわのことだった。13歳で別れたおとわの行方を捜そうと父の代の店を支えた番頭を訪ねると、おとわは奉公人の周旋や仲介などをする口入れ屋「三春屋」を開いているという。同時におこうが先代の旦那、つまり自分の父との男女の仲だった過去を聞かされて戸惑うが、正月、おこうはおとわに会いにゆく。十余年ぶりに会うおとわは、病で寝込んでいた。聞くところによると年末にだいぶ血を吐いたのだという。そこでおこうは相談を持ちかけた。「ねえ、あたしを三春屋で雇ってくださいな。お願いします」 雇い人と奉公人の仲立ちをして話をまとめるのが口入れ屋の稼業、人様と人様の縁を結ぶものだといっても、時にはお妾の周旋をすることもあるこの仕事は、お嬢様育ちにはとても無理だとおとわは断るが、「小さいときから弱虫のくせせいて強情っぱり。言い出したら後へは退かない」のに根負けし、おこう三春屋に落ち着いた。 一年半後おとわは逝くが、おこうは三春屋の女あるじとして、己の美貌を武器にせず女中奉公を希望するお島(「夕すずめ」)、生き別れの息子と再会したおはま(「去年今年」)、妾奉公を希望するお雪(「夜長月の闇」)らの縁を結ぶうちに、自らにも思いがけない縁を受け入れることに……時に温かく、時に冷酷な江戸の人生模様を、名手・杉本章子が切り取った傑作時代小説!
感想・レビュー・書評
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起き姫とは起き上がり小法師のこと
子供が産めず、居場所のなかったおこうは、夫に、外で子供が出来たのを潮に、婚家を去った。
実家に戻ったが、兄夫婦が、おこうの持参金をあてにし、母親も、兄嫁の味方をする。
二百両の持参金の内、百九十両を、兄夫婦に譲り、おこうは、昔の乳母を頼りに、実家を出て、口入屋「三春屋」を始め、人と人の縁を繋ぎ、ようやく自分の居場所を見つける。
「三春屋」にやってくる女たちが、起き姫のように、転んでは起き上がり、自分の道を進んでいく。
そして、おこうにも、幸せがやってくる。
江戸の情緒が偲ばれる、なんとも後味の良い作品。
ワタシも、起き上がり小法師を買ってみようか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
子供ができない事で、大店から離縁され、現代の職業斡旋所、口入れ屋を営む話。
婚家でも実家でも、恵まれない境遇だったけど、一人で生きていくために口入れ屋を始め、とても良い縁に恵まれ、読んでいて嬉しくなる話でした。
中でも、大店の隠居婆さんずが、元気でとっても良い!
続編を是非読みたいと思ったら、作者の杉本章子さんは去年(2015年)の12月に亡くなられたと知って、大変残念でした。
余命宣告を受けた中で書かれた作品である事を知って、更に驚きました。 -
2011年6月から2014年9月まで、がんと闘いながら「オール讀物」に掲載された7章をまとめた杉本章子最後の単行本。
夫の幼なじみが夫の子を連れて乗り込んで来たため婚家を去ったおこうは、実家にも居られず、乳母が開いていた三春屋という口入れ屋(職業紹介業)に居つき、乳母を看取って三春屋を継いだ。
これだけでも波乱万丈なのだが、口入れ屋という人と人を繋ぐ稼業のため、おこうはいろいろな人間模様に遭遇する。弱虫のくせに意地っ張りというおこうの心理描写が、杉本章子の真骨頂でもあり、何度も鼻の奥がつんとなってしまう。
2015年12月に世を去ったこの人の美しい文章の作品がもう読めないと思うとなんとも寂しい。 -
江戸時代の町人の女性は強かった!出戻ったおこうは,口入れ屋として生きていく中で,新しい出会いと経験を重ねて,人々を幸せにしまた自分も幸せになっていく.たくましい生き様が小気味いい.
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人との結びつきを連作短編で書き表しており、女の底力みたいなものも感じさせる小説であった。
書き方が、優しく、読み易さと、内容の面白さに、のめり込んでしまった。
7話共、人のつながりで、幸せの糸口をつかむことも出来ると、、、。
主人公、口入屋になったおこうの人柄の良さが、著者の人柄のように思える。
おこうは、嫁いだ先の夫が、浮気お相手がおり、子供まで生してしまった。
舅や姑からは、石女と、言われて、嫁としての立場も居ずらく、奉公人からは、冷たくされており、縁を切ってもらったのだが、実家に戻っても、持参金の返却金を当てにした兄と兄嫁がおり、母親までが、それに加担するような身の置きどころが無い始末である。
幼き頃のおこうを可愛がってくれた奉公人のおとわの店の三春屋(口入屋)へ、おこうは、訪れて、自分の父親との関係も知ることになるのだけと、、、、なんと、綺麗に、物語っているのだろう。
違和感なく、おとわの優しい気持ちが伝わって来る。
おとわ亡き後、三春屋を受け継いだおこうの人との結びつきが、又良い。
亀屋の友二郎との恋に、又お久の関係が、心憎いほどに書かれている。
こんな姑に感慨深い友二郎が、居れば、おこうはこれから幸せになってくれることだろうと、安心して、本を閉じた。
最後のおこうの「義母さん、ただいま」の言葉が、頭の中に漂っていた。 -
言葉選びがきれいなんだよなあ、この方の文章。久々によんだ杉本作品。女の一生のなかで共感できる思いがあちこちぎゅぎゅっと詰まっていて、ところどころ、ほろりとさせられた。あったかいラストに心ぬくまった。
“口入れ屋”を舞台にしたものでは、ちょっと前に西條奈加さんの「九十九藤」を読んで、「お江戸」×「人情」にはうってつけの舞台だなあとおもっていたけれど、またこれ違うかたちの、いろいろあって口入れ屋の女あるじとなる物語。おこうは、この仕事を通して、じぶんの人生も、芯をぐいっと入れ直したかんじだよね。お島もいいなあ、すきだなあ、こういう芯の強い女性。ふたりのご隠居婆様たちがまたどちらも、いい味。そして、おけいが、ほんとにクズすぎてぎゃくに彩るよね。お雪、お関、お徳、それぞれに、自分とはタイプが違っても、ああ、ちょっとわかるかもしれない、、、、女ってさあ、、、なんかみんなで飲もうか!
って、心の奥で好きになってしまうような、へんな感情が芽生えつつ読んだ。
これは女性向け、できれば、アラサーアラフォーもしくはそれ以上の、うまくいかない人生の愚痴のあれこれを飲み込んで日々過ごしてるあらゆる女性に、読んでほしい。どこかで涙するとおもう。そしてちょっと、襟を正す気持ちももらえる。心ほぐされる良作でした。 -
素晴らしい作家さんと出会えた!と読後感に浸っていたらここのレビューで昨年2015年12月にお亡くなりになっていたと知り茫然としています。
しかもこの作品が最後の単行本とのこと。
おこうのしぶとく、転んでも起きあがる生き方が
好きです。心に残る作品になりました。 -
友人のオススメ本。
主人公のたくましさ、読み終わりはお幸せにーと言いたくなる爽快感。
文章は知らない言葉がチラホラとあり、意味がわからないこともありますが、温かみのあるやりとりが多く古き良き時代を感じさせてくれます。
主人公の生き方が凛としていて、自分がちっぽけに思えてたりもしますが、ヨシ!わたしも頑張ろう!となぜだか気合いを入れてもらえた気がします。
作者の他の作品も読みたくなりました。