ほんとうの花を見せにきた

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 143
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163901275

作品紹介・あらすじ

植物性吸血鬼バンブーとの許されぬ友情物語

竹から生まれた吸血種族バンブー。固い掟で自縛し、ひっそりと暮らすバンブーが、ある日、人間の孤児を拾った。禁じられた絆の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 危機一髪で命を救ってくれた吸血鬼・バンブー。
    人間とバンブーの奇妙な共同生活が始まった。

    「誰にだってさ、子供のころには仲良しのオバケの一匹や二匹、いるもんだ。人間なら。だけど、みんな忘れて大人になる」
    心優しきバンブーと共に暮らした楽しい記憶も、大人になるにつれ日々の忙しい日常に追いやられる。
    それは子供時代との別れをも意味し、なんだか寂しい。
    けれどそれが人間として生きること、成長すること。
    ひとたび微かな竹の青い香りが漂えば、遠い記憶もそっと甦る。
    幼い頃の幻を胸の奥にしまって、人間は今日も生きる。

    不死身と思っていたバンブーの最期はとても儚い。
    赤々と燃えたぎる炎を自ら消してしまうよりも、やはり最期は真っ白い綺麗な花を咲かせたい。
    人間の最期もそうであったなら、と羨ましかった。

    「いつか、こんなおかしな竹のオバケと暮らしていたことなんて、忙しくなって自然と忘れてしまってもちっともかまわない。なぜなら、それこそが、成長すること、生きて変化していくということなんだから」
    成長すること、生きていくことは喜ばしい反面、ちょっぴり切ない。

  • せつなさと美と温もりを感じた。

    吸血鬼バンブーと孤児の心の絆の物語。
    最高だった。
    何度心臓がキュッと掴まれた感覚に陥っただろう。

    ただ目の前にある命を、後先顧みずに慈しみ、守る姿。目の前の小さき“火”が自由に灯り、かつ消えないように、自分のチカラで灯り続けるように見守り想う姿にただひたすらせつなさと美しさを感じた時間だった。

    思わずこの三人の愛の絆を、永遠の絆を、スノードームに閉じ込めたくなる、大切な小箱にそっと入れて鍵をかけてしまいたくなる、そんな衝動に駆られた。
    読後、温もりも心にそっとひと匙。

    この季節に相応しい作品。

    • kazzu008さん
      くるたんさん。了解です!!
      くるたんさん。了解です!!
      2019/12/14
    • kazzu008さん
      くるたんさん。こんにちは。
      『本当の花を見せにきた』の文庫本を読ませていただきました!
      くるたんさんのレビューどおりで非常に感動しました...
      くるたんさん。こんにちは。
      『本当の花を見せにきた』の文庫本を読ませていただきました!
      くるたんさんのレビューどおりで非常に感動しました。
      バンブー達の美しい生き方には頭が下がりますね。
      本当に1篇の『詩』のような小説でした。
      くるたんさんのレビューを読んでいなければ絶対に本書は読んでいませんでした。
      改めて素晴らしい本の紹介とレビュー、ありがとうございました。
      2019/12/19
    • くるたんさん
      kazzu008さん♪
      こんにちは♪
      え、早い!ありがとうございます、読んでいただいて♪
      kazzu008さん♪
      こんにちは♪
      え、早い!ありがとうございます、読んでいただいて♪
      2019/12/19
  • 少年「梗」を死の淵から救ったのは、竹から生まれた吸血鬼バンブーだった。心優しきバンブーと、彼に憧れる梗との楽しくも奇妙な共同生活が始まる。だが、バンブーにとって、人間との交流は何よりの大罪であった。
    「BOOKデータベース」より

    儚く哀しい、でも少しだけ心が温かくなる物語.
    人間は、哀しい生き物である.人でない生き物もまた哀しい生き物である.
    命を「火」と表現し、憧れ慈しむ吸血鬼の方が「生きている」感じがした.人間は人間以外のものの存在を否定したり、踏みつけていいものだと思ったりしがち.でも、そうじゃない.いろんなものを受け入れることができれば、もっとみんなが豊かになるのに.そう思いながら隠れて共に生きなければならない境遇に哀しさを感じ、最後の時を受け入れて消滅する潔さに心打たれた.

  • バンブーという中国からやってきた吸血鬼・・・というよりは吸血する竹の妖怪たちと人間たちの係りを描いた連作。表題作よりむしろメインは長さ的にも「ちいさな焦げた顔」のほうで、あとの2作はそのスピンオフ程度の印象。

    内容も「ちいさな焦げた顔」が一番良かった。『ポーの一族』の一編に「リデル森の中」という小品があるのだけれど、それを彷彿とさせられた。リデルは幼い頃エドガーとアランに育てられ(この場合両親はエドガーとアランの餌食にされたのだろうけど)10歳で祖母のもとへと送り届けられた。「ちいさな焦げた顔」の主人公・梗ちゃんは、マフィアの抗争で家族を殺され一人で隠れていたところをバンブーのムスタァと洋治に助けられ、素性を隠すため女装して一緒に暮らすことになる。しかし高校生となった梗ちゃん=南子が、茉莉花というはぐれバンブーの少女と関わったことで、平和な日々は終わりを告げ・・・。吸血鬼に育てられた人間の子供、疑似家族、その喪失、人間として生きることを選んだ梗ちゃん、そして再会、と描き出される時間が長い分、不老のバンブーの悲しみなどが胸に迫りドラマチックだった。

    「ほんとうの花を見せにきた」は茉莉花のその後の物語。「あなたが未来の国に行く」は中国から日本へバンブーたちがやってくる前の王族の話。彼らは吸血鬼だけれど救いがあるとしたら、永遠に生きなくてはならないわけじゃなく、竹の妖怪らしく120年で花を咲かせて消えられること。吸血鬼というとヨーロッパ由来の話が多いので、中国由来の、しかも植物性吸血鬼という設定は面白いと思った。

  • 優しく孤独なバンブーたちに、しっかり生きろ!と言われたような気分です。

    『小さな焦げた顔』
    『ほんとうの花を見せにきた』
    『あなたが未来の国に行く』

    竹の吸血鬼バンブーをめぐる優しく悲しい物語。
    ムスタァも洋治も茉莉花もとても愛しいです。

    『小さな焦げた顔』
    悲しくて切なくて…涙がところどころで溢れてしまってもう…
    あんなに幸せな日々を送っていたのにどうしてこんな結末になってしまうの、と…
    ムスタァと洋治が梗ちゃんを慈しみ、愛し、一生懸命育てる姿がほほえましいです。2人が注ぐ梗ちゃんへの愛の深さといったら!
    人間の成長に感動し、「生きる」こと、「火」に憧れるバンブー。
    人間は死んでしまう、だからこその、人間の価値があるということに気付けなかった梗ちゃん。
    バンブーの純粋さと優しさ、人間のあさはかさ、愚かさ。
    『あなたが未来の国に行く』を読むと、洋次の最後の言葉が繋がります。さらに切なく、苦しい気持ちになりました。

    ムスタァと洋治の朝の日課がとても美しく描かれている一方で、その行為はバンブーという生き物の孤独さをなんとも象徴していて…吸血鬼ものってこんなに切ない要素が満載なのですね…。
    自分の相棒は洋治だけと言い、孤独の道を選んだムスタァの誠実さと優しさにも心打たれました。

  • バンブーが愛おしくてならない…。洋治…ムスタァ…茉莉花…。
    ぜんぶ良かったけど、やっぱり「ちいさな焦げた顔」が大好き。小さな男の子を育てる人外男性二人とかそんな…定番のパターンじゃないですか!ずるい!好き!しかも女装させて育てるんですか!もう!ばか!
    やがて人間として生きる日々の逞しさの前に消えてしまうものもあって、でも決して消えないものもある…現実離れして甘美な日々と、変わらない愛おしいものたち。

  • バンブー話3編。やはり「ちいさな焦げた顔」がとにかくそそられた。長い間二人暮らしだったバンブーのムスタァと洋治の、お互いの衣服や髪などを整える仕草。たまらない。それにひたすらムスタァを慕う人間の男の子が加わって、冷たかった生活に火が入る。人であれば当たり前の成長や変化に、ムスタァ達が一々感動するのが、可愛らしく切ない。この終盤もほんともう・・・。「ほんとうの~」は女の子達。茉莉花凶暴だけどピュアで、人には害ある者だけど、憎めなくて。最後の描写がまたきれい。
    「あなたが未来の国へ行く」はバンブー族と人との決定的な別離で前2編の過去。名前出てこないけどちらっと出てくる詩集持ってるの洋治ですな。この時点で「全てを受け入れよう」とすでに決意している、この冷め方。終盤の、姉が弟を未来へと押し出す、その命がけの叫び。
    3編通して、バンブーと人の関わり、バンブー同士の関わりが、とにかく良い。不老で人よりずっと強いのに、人の持つ生命の火に引き寄せられるムスタァと洋治。自分を守り、慕い、信頼してくれた親友を殺してからの、百年の孤独を生きた茉莉花の、最期のほんとうの花。生まれた意味を、役に立ちたいという心からの願いを、ちいさな弟に託した姉。この頼りない末っ子王子が、最初の「ちいさな~」でああなる、と・・・。 そういえばやたら姉と弟、というキーワードがあったな。

  • どのようにすればバンブーのように心がキレイになれるのだろう。

  • 竹から生まれた吸血妖怪と人間とを描いた連作集。
    展開に面白さもあったが、十代で読みたかったな。

  • 「ちいさな焦げた顔」
    「ほんとうの花を見せにきた」
    「あなたが未来の国を行く」
    の3篇が収録されている。
    世界観は繋がっているのだが、「ちいさな焦げた顔」のクオリティーが群を抜いている。

    吸血鬼と人間の子供との荒唐無稽なストーリーだが、何の説明もなく突然修羅場で始まる冒頭から一気に惹き込まれ、気が付くと読み切っていた。
    美しく哀しく、そして心温まる話。
    ムスタァ、洋治、梗、3人で暮らした愛にあふれた幸せな日々はもう戻らない。涙が溢れた。

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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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