- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163901251
作品紹介・あらすじ
2010年、エジプト考古局が衝撃的な発表をおこなった。最新のDNA鑑定の結果、ツタンカーメンの両親は近親相姦で、王は生来の虚弱体質、そして死因はマラリア、というのだ。しかし、この鑑定結果に世界中の科学者たちから疑問の声が上がった。3000年前のミイラからDNAが検出できるわけがないというのだ。この論争の渦中にエジプトで民主革命が勃発、エジプト考古学界は未曾有の混乱に巻き込まれる──。1922年に手つかずの状態で副葬品の「黄金のマスク」と共に発見されて以来、現在でもツタンカーメンの人気は衰えず、ドラマやドキュメンタリー番組が作られ、墓には何百万人もの観光客が訪れている。また、ツタンカーメンのミイラに関する調査結果はつねに話題を呼び、18歳という早すぎる死の原因解明に手がかりを提供してきた。これまでにさまざまな検視報告があり、そのたびに「大神官によって暗殺された」、「狩りの最中にカバに襲われた」など、多種多様な説が唱えられてきた。果たしてツタンカーメンをとりまく謎の真相は、一体どこまで解明されたのか? 著者のジョー・マーチャントは科学ジャーナリスト。著書に、2000年前の沈没船から引き上げられた奇妙な謎の機械をめぐるノンフィクション『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』がある。本書では、ツタンカーメンの歴史的発見からX線、CTスキャン、最新DNA鑑定に至る科学技術を駆使した調査結果を分析し、死因や血縁関係など「少年王」の実像に迫る。また、最初の発掘者であるカーターから謎の死を遂げたカーナヴォン卿、ツタンカーメンはイエスだと主張する宗教家、そして「ミイラ商法」で成り上がったエジプト考古局長ハワスに至るまで、ツタンカーメンに魅せられ、翻弄された人々の人間ドラマも描く。綿密な取材と膨大なデータから、少年王の死後の奇妙な成り行きを多角的な面から考察した科学ノンフィクション。
感想・レビュー・書評
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別にツタンカーメンの呪いの話ではなく、墓の発見から21世紀の現代の最新のDNA鑑定とその信憑性迄におけるツタンカーメン研究のノンフィクション。
ナショジオをはじめとするメディア、エジプト政情の影響にも言及。
著者はアンティキテラの歯車の人だそう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
人は、見たいものを見て判断する生き物なんだね。
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ツタンカーメンのことがよく分かったけれども分からないという不思議なかんじのする本です。
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ミイラ調査研究史。先の革命で失脚したザヒ・ハワスの手法の功罪が興味の中心となる。残念だが王の血縁関係や死因を解明する機会は失われたと考えた方がいいようだ。
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何故、こんなにも有名になってしまったのか。エジプト考古学者の利権、金、スポンサーなどの問題から、歴史的価値の損失まで、ツタンカーメンにまつわるすべての事実を洗い出した本。日本人はエジプトが好きだ。そのオモテとウラがわかる。
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「ツタンカーメン 死後の奇妙な物語」J.マーチャント◆ツタンカーメンのマスク発見から90年、研究者は数々の挑戦を続けてきた。人物そのものというより、彼の謎に人は惹きつけられるのでしょう。今後も新事実発覚はあるのかもしれませんが、黄金のマスクにはミステリアスな微笑みが似合います。
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ツタンカーメンが発見される経緯とその当時の詳細、ツタンカーメンの系図、エジプトの王朝の歴史などが概観できる。
ツタンカーメン発見から今日まで続くさまざまな物語が興味尽きない。
ツタンカーメンとその親族と推定されるミイラののDNA鑑定やX線やMRIなどによる撮影からの死因や他のミイラとの関係性の推定。
ツタンカーメンをめぐる巨大なお金の動き、エジプト政治体制へ与える影響など。
読んでいて、退屈しないどんどん惹きつけられるおもしろい内容でした。 -
おもしろかった。なぜこんなにも注目を浴びたのか、わかった。
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日本経済新聞社
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ツタンカーメン死後の奇妙な物語 ジョー・マーチャント著 変わり続ける王のイメージ
2014/10/19付日本経済新聞 朝刊
長い古代エジプト王朝の中でも、やはり、ツタンカーメンの知名度は群を抜いているだろう。
3000年以上もの時を経て、宝物の一部を除けばほとんど盗掘がなされないままに見つかったというその発見劇は、あまりにドラマチックだ。ただ、それは一瞬のことだと思っていたが、そうではなく、1922年11月に発見され、実際に王のミイラが取り出されるのはそれから3年前後もたってからだというのには、少し驚いた。
また子どもの頃、少年雑誌で読んだ不思議譚(ふしぎだん)のような話、発見に関わった人間たちが次々に死んでいく「王の呪い」という話は、さすがにここでは、ほとんど相手にされていない。
むしろ、より細かく検討されるのは、王がどんな健康の持ち主だったのか、どんな原因で死んだのかという問いを巡るものだ。というより、むしろ著者の主眼はどんな科学的検査を通して、それらの問いにあれこれの回答が与えられたのか、その変遷を辿(たど)ることにある。時代の科学的水準を反映して、王のミイラにX線撮影、CTスキャン、DNA検査が行われる。そしてその度に、王のイメージが変わっていく。身長や死亡年齢にはほとんどぶれはない。他方で、その健康状態や死因には、大きなぶれがある。
彼は健康で活発な王で、死んだのも巨大生物を狩猟する際の事故によるものだったという見方もあれば、脚に障害があり、近親婚で生まれた虚弱児だったという見方もある。その最期も、事故や病死ではなく暗殺だったという意見も、何度も出てくる。
だが、そのどれもが完全に確定的なものではなく、例えば一見最先端にみえるDNA調査も、専門家同士の間では大きく意見が割れているという事実がある。結局のところ、王はどんな人で、どんな人生を送ったのかは、確実にはいえないのだ。
本当はどうだったのだろうか。著者の言葉を読み進めると、各人が思うところに従えとでもいっているように聞こえる。
著者が本書を準備するための調査の果てに実際のミイラに対面した時、その「壊れそうな細い枝のような姿」と、それにまつわる多くの人間たちの多様な想像とのギャップに感銘を受けるという場面。それはわれわれをも、同様の感動に引き込む。
これは、死後の体を全世界に晒(さら)しながらも、永遠に不可視のままに留(とど)まる、遠い昔の偉大な王の、カメレオンのような肖像画なのだ。
原題=THE SHADOW KING
(木村博江訳、文芸春秋・1950円)
▼著者はロンドン在住の科学ジャーナリスト。専門は生物学。英誌「ネイチャー」などで記者、編集者をつとめた。
《評》東京大学教授
金森 修
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