おいで、一緒に行こう 福島原発20キロ圏内のペットレスキュー

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163753003

感想・レビュー・書評

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  • 福島原発の20キロ圏内では現在でも取りのこされているペット達がいる。
    そしてそのペット達を一匹でも多く救おうと活動を続けるボランティアの人達がいる。
    森絵都さんはその様子を取材し一冊の本にまとめた。

    ボランティアをする事が正しいのか正しくないのか、本を出版することが正しいのか正しくないのか。
    森さん自身も何度も戸惑い苦悩する様子が伝わってくる。

    離れ離れになってしまったペットとその飼い主。
    過酷な環境下にあっても餌を与え続ける地元住民や、ペットを救おうと警察の目をかいくぐって活動するボランティア。
    森さんは感情を入れずに淡々と記録しようと努力はしているが、取材対象は救おうとする側に限られる。
    そうなるとなぜ20キロ圏内がバリケードで封鎖されているのか、なぜ自治体によるペット救出が行われないのか、どうしても本質が隠れてしまうような印象を受けた。
    放射能レベルが高い地域でマスクを簡単に外してしまう記述や、キャンプを張ってまで動物たちを救出しようとする姿にどうしても違和感をぬぐいきれなかった。

    もちろん一匹の犬が飼い主の家族、とりわけおばあちゃんに再会する場面は涙なしには読めなかったし、飼いたくても飼えない状況下にある切なさには心が痛んだ。

    考えれば考えるほど分からなくなる。
    何が正しいのか何が間違っているのか。
    出来る限りフラットな状態で考える必要があるとは思う。
    でも最後の最後は己の信念に従うしかないのか。
    色々なことを考えされられる本だった。

    最後に、ブクログ仲間さんは猫好きが多いようなので・・・。
    猫は絶対に置いてきてはダメだそうです。
    猫は捕獲が非常に難しいみたいです。
    万が一(の事があっては困りますが)の時は、迷わず飼い猫連れて行くことをお勧めします。

  • 有川ひろエッセイより。

    今から約9年前に出版されたペットレスキューの本。
    当時立ち入り制限20㎞圏内に潜入して、取り残されたペット達を救出するボランティアの人達を取材したものだ。

    震災からもう少しで10年が経とうとしている。
    原発のニュースがテレビで放送されなくなり、広島原爆のように、○周年、とこの時期になると特番が組まれる程度。

    家が流されて、やっと建てたのに、また2021/2/13に震度6の地震…10年経っても余震が続く…
    日本はやはり災害大国であり、自然の猛威を畏れず住むことは難しい。

    そんな中で、有川ひろさんのエッセイを読んで、この本にたどり着く。
    当時自分は都心で無事にも関わらず、何もできず、故郷を失ったことにただ呆然としている中、
    全く現地に関わりがないのに、母性と義憤でペット達を助けようと奮闘した人達がいた。
    その事にまず衝撃を受ける。
    作品の中、猫シェルターの話があり、今どうしているかと調べたら、NPO法人SORAという名で、10年経ってもまだ存在していた。
    10年経っても被災ペットの保護が終わらない&運営が続いていた事に驚き、ささやかだが寄付を行った。

    警察や行政機関が悪のように記載されているが、
    彼らも仕事ではあるんだろう(実際にボランティアを装って避難所で事件を起こしたり、半壊した家から家財を持ち出す盗人は確かに横行した。ただ、立ち入り禁止区域に関しては遅すぎるという感想は確かにそうかもしれない)。
    でも、ペットを救いたいのに支援どころか、活動を認めてもらえず、救えるペットを救えない悔しい気持ちが、そのまま文中から伝わってくる。

    この本から森さん含め、現地の活動する彼らが、不足する資源や資金に悩んだり、立ち入り禁止区に踏み込んで、警察に捕まったり被爆する可能性も考えたり、保護したペットを引き取れない被災者達の状況を見て悩んだり、助けられなかった事を後悔したり、当事者にならなければ感じれないその時の感情が、森さんの視点からも感じられた。

    その母性と行動力の源はなんだろうか。
    かわいそう、何とかしなきゃ!という理由で動ける人達を少しでも見習って、自分の中でできることを少しだけ増やしてみようと思えた。

  • 東日本大震災で福島の被災地に取り残されたペット達。ペットを救うために立ち入り禁止地域に何度も何度も向かい、自らを省みず命を救い続けた人々のルポタージュです。止むを得ずペットを残して非難した人たち。ペットも家族なので胸が痛みます。何故残したのかという人たちもいるでしょうが、そりゃみんなつれて逃げたかったでしょう。でも、他の人たちに慮って避難所につれていくことが出来なかった人が沢山います。文中でも迷惑なんて省みずにつれていけばよかったと後悔している姿が描かれています。非難した時はまたすぐ戻れると思っていましたからそりゃそうです。
    ペットレスキューをしている人たちは完全なるボランティアな上に、立ち入り禁止地域に入っている為警察や自衛隊からも冷たくされ、あまつさえ保護した犬猫を戻してこいという始末。どこの口が言った??と読みながら憤懣やるかたなしです。行政は人を救うことに精いっぱいだとしたら善意の人々のサポート位はするべきではないかと強く思いました。

    警戒して近寄れない犬も沢山いるようですが、人間を見ると嬉しそうに寄ってくる犬たちが沢山いたようです。犬は人間の友達ですよね。置いて行かれても飼い主を待っていえから離れようとしない犬も切ない。

    森絵都さんの優しいひとがらが良く出たとても意義のある本です。でも出来れば行政や国への突っ込みや取材も欲しい所でした。実際に見て参加した人でしかも直木賞作家という肩書も有るのだから、もっと影響力出して行ってもよかったのではないかと思った次第です。

  • 森さんが同行したのは福島第一原発から20km圏内の、立ち入り禁止区域。人間に打ち捨てられた動物たちを、それこそ命をかけてレスキューする人々。

    森さんの動物ルポです。311のあと、置き去りにされた福島の動物たち、とりわけ立ち入り禁止になったために飼い主たちですらどうにもできなくなってしまった原発から20km圏内のペットのレスキューに挑む人たちの思いをたどります。
    311や熊本地震などで避難生活が始まるとかならず行き場のない動物たちが生まれてしまいます。そうした動物たちを行政が救うはずもなく、必死になってどうにかしようとするのはいつも民間のボランティアだったりします。かねてから関心のあった災害のペットレスキューについて少しでも知りたかったので手に取りましたが、置き去りにされて餓死したり、ガリガリに痩せてさまよったり、お尻に蛆がわいたりと、目を覆いたくなる惨状が待ち構えている20km圏内で、少しでも多くの命を救いたいと、法を冒してまで動く人たちの姿には胸が熱くなりました。レスキューした動物たちは新しい居場所や飼い主を探さなければならないケースもあります。そんな中で半年以上経ってから再会を果たした犬とおばあちゃんのエピソードでは、その顛末も含めて涙が止まりませんでした。
    家族だったり大切な存在だったりするのに、置いていかなければならない心情や置き去りにされる動物たちの悲しみというのは察して余りがあります。軽妙な文章ながらも、やり場のない怒りと悲しみのにじみ出るルポタージュだったと思いました。
    こうしたケースにかかわらず、少しでも行き場のない動物たちが減りますように。同じく行き場のない動物たちに視点を当てた森さんのルポ「君と一緒に生きよう」と一緒にお読みください。

  • 自宅に犬や猫、家畜たちを置いて避難した人々のことを思うと苦しくなる。ごはんと水を用意して出ていっても迎えにいけるのはいつなのか、人間がいない町で動物たちはどうやって暮らしていくんだろう……そう思いながら行政の管理するままに避難することに。
    ボランティアの方々が有刺鉄線やバリケードを越えて区域内に入るところは胸が熱くなった。私も同じようにしたいと思うし実際にするだろう。
    本の中には人間のひどい部分もあるし現実的に断念せざるを得ない事情もあったのかもしれない。今できることをする人、茫然とする人、未来に絶望する人…いろんな人がそれぞれこの震災を捉えたと思う。
    不満な点としては、行政は人間しか優遇しないところ。放射能のことがあるし責任や問題を抱えたくないのが目にみえた。人間は救って動物は見捨てるのか。動物たちの救助に率先できなくてもボランティアの方々に少しの援助や許可は出せるはずだ。たとえ一匹だけでもどんな状態でも飼い主は安心したり心の整理がつくと思うから。

  • 作家の森絵都さんの視点を通して語られる、福島原発20キロ圏内でのペットレスキューの現実。

    避難勧告に従い、ペットを置いていかざるを得なかった圏内の人達。
    置いていかれた、ペットや家畜たちを救出しようと潜入し続けているボランティアの人達。それを取り締まる警察や自衛隊。震災直後のニュースではその存在がとても頼もしく思えた警察や自衛隊が、なんだか恨めしく思えてしまった。
    もちろん、圏内へ無断で足を踏み入れるのは違法行為で、ボランティアの人達も自分たちの行いが正しいかは分からないと口にしている。
    それでも潜入し続けている、ペットを救出し続ける、その動機はなんなのだろうと森さんがボランティアの人達に訊ねると、皆が口を揃えたみたいに「母性」と答えていたのが印象的だった。そうか、母性か。なんて納得してしまうだけの説得力が「母性」って言葉にはあるんだなぁ。すごいな、母性。

    飼い主との再会の場面や、保護された犬から生まれた子犬を迎える家族、思わず顔が綻んでしまう写真が添えられている一方で、力尽きた猫の写真なども添えられている。
    森さんが、どこまでありのままに書いて良いのか思い悩んだ、その苦悩と共に、これらはすべて現実なのだと改めて痛感した。

  • 東北大震災の影響で取り残されたペット達のレスキューのお話。当時はボランティアの方々が身を挺してレスキューにあたっていて、その時の大変さや苦しさが著者がありのまま見た内容で語られている。これを読んで、動物保護活動の在り方について想像でしか状況を掴めていなかったと反省させられました。そして、今後深く携わっていきたいと思いました。

  • もう涙しかなく…当時何も出来なかった自分を思い出した。あの日南相馬市にいた私はこの手の本を見るまでに11年かかった。これが正しいとか間違ってるとかではなく、ただ命の前に素直に行動された方々へ尊敬の念しかない。保護された子たちの幸せを願わずにはいられない。

  • 東日本大震災の時に実際にあったペットレスキューの話。
    カイの話が特に感動した。
    飼いたくても飼えない。その現実がとても胸にささった。
    こういうことが実際にあったんだと多くの人に知ってもらいたいと思った。そして、これをしることで自分が実際に災害にあった時、大切なペットをどうするか。どうすれば守れるか。一緒にいられるかを考えるきっかけになって欲しい。

  • 森絵都さん「おいで、一緒に行こう」読了。福島ペットレスキューのボランティア活動の実態を写真も交え描かれた本。福井県在住の女性「中山さん」の福島原発20キロ圏内のレスキュー活動を森絵都さんが取材。現地に残された犬、猫を保護したり、飼い主や里親探しの様子が描かれています。ペットと離れ離れになった飼い主の悲しみや後悔、誰もいない我が家を必死で守る犬など、ズシリと心に残る内容で、自分の想像以上のものでした。特に甲斐犬に似ている「カイ」の話に号泣。この本で森さんは福島の現状を、真実を少しでも多くの人に知ってほしいと綴っています。ペット好きな方以外でも、是非、多くの方に読んでもらいたい。感動しました。

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著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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