シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (391ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163657509

作品紹介・あらすじ

鎮魂、そして救済。「シベリア・シリーズ」で知られる戦後最大の画家・香月泰男。著者10年の構想を経て、ついに完成した香月研究の決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 私は美術館で絵を鑑賞するとき解説を読みません。
    後ろで待っている人が気になるのと、予備知識を持たないまま、その時の気分で絵を鑑賞するのが好きだからです。

    何年か前に香月泰男のシベリア·シリーズ全作品を観ました。
    途中でしんどくなったのを覚えています。そして涙が出そうにもなって懸命に堪えていました。
    絵から受け取るものが多くて、でも、ほぼ真っ黒な世界の中にも生きているものは、とても優しく愛情たっぷりに描かれているのでした。
    その後、また、全作品を観ました。
    修復作業が終わったあとの作品でした。
    こんな言い方は失礼かと思いますが、絵の価値が半分になるのではないかと思えるくらいに『黒』の質感が全く変わっていました。残念です。

    来年は香月泰男没後50年になります。
    また、あちこちで展覧会があるのではないかと思っています。時間があれば、足を運んでみようと考えています。

    作品の文中から気になったところを。

    今私が”シベリヤ・シリーズ”を描きつづけているのは、よくいえば幸せ、悪くいえばぬるま湯の中にあるがごとき自分の生活に、精神までもそれにひたってしまうことへの危機意識からかもしれない。私のみではない。日本全体がぬるま湯にひたりきろうとしているのに警告を発したいのかもしれない。戦争もシベリヤも、現実としてあったのはついこの間のことである。シベリヤから昭和元禄への距離が短かったように、もしかしたら、昭和元禄から次なるシベリヤへの距離も短いかもしれないのである。

    戦後二十年間、黒い死体は語りつがれ、語りつくされてきた。ヒロシマはアウシュヴィッツとならぶ大戦の二つの象徴となった。それは戦争一般が持つ残虐性の象徴としての無辜の民の死だった。
    黒い死体によって、日本人は戦争の被害者意識を持つことができた。みんなが口をそろえて、ノーモア・ヒロシマを叫んだ。まるで原爆以外の戦争はなかったみたいだ、と私は思った。

  • ふむ

  • 語ったこと全てが確かとは言えません。が二十余年経った現在も、私から離れられないもの、私にシベリヤを描かせているもの、また描くことの不可能なものを、多少とも語ったに過ぎません。だから私のシベリア
    シベリヤなんか思い出したくは無い。絵にしようと思って絵にするのではない。絵は既にそこにある
    しかし、よし死ぬことがあろうとも最後には銃を握っては死なず、絵筆を握って死ぬつもりだった
    それまでは、いわば当然のことと前提としていた絵を描くことができると言う事は何物にも変えがたい特権であることを知った
    だがやはり私は芸術とは伝統の上に立つものであると言う考え方を捨ててない
    私の顔はどれも同じような顔である。シベリアシリーズに登場する顔には個性がない。わざと個性を捨象したのだ。兵隊は兵隊である限り個性を奪われていた

  • この本を読むまでは、香月泰男という人物については、寡聞にして知ることがなかった。
    「まえがき」から、著者である立花隆の、香月泰男とその作品への並並ならぬ思い入れが語られる。この「まえがき」で立花隆が繰り返し主張していることは、とにかく香月泰男の実際の作品を見てほしいということだ。
    たまたまネットで検索してみると、。今年(2018年)の10月28日までは、東京で香月泰男展が開かれていることを知った。とにかく見てみようと、展示されている東京新宿にある平和祈念展示資料館を訪れてみた。しかし、そこに提示されていたのは、シベリア・シリーズからは「朝陽」と「絵具箱」だけで、他の作品はリトグラフや、家族を描いた作品だけだった。
    ならばと、NHKで放送された番組(「立花隆戦争を語るー香月泰男のシベリア」)もネット検索してみたが、視聴は叶わないものであった。
    香月泰男のシベリア・シリーズが、どのような経緯で、どうやって描かれたかということだけは詳細に知ることができた。これは、何としても全57作品を見ずばなるまいという思いにさせられた。
    それにつけても、香月泰男がシベリア・シリーズの作品に込めた想いの深さを想像するにつけ、シベリア抑留について日本軍の司令官や参謀たちの責任はどう追及されたのか、併せて知りたくなった。
    来年(2019年)は、香月泰男の没後45周年とのことだ。きっと日本全国各地でシベリア・シリーズの展覧会が開かれるに違いない。ぜひ足を運んで、実際の作品をこの目に焼き付けたいと思う。

  • まずは、香月泰男のシベリアシリーズと言われる作品群の素晴らしさである。自己のシベリア抑留体験を絵を描くことにより、人生の後半を費やして昇華させていく。そうせざるを得なかった戦争体験と戦争というものの本質が伝わってくる。
    以上のようなことが、立花隆の的確な分析により、明確に理解できる一冊だった。

  •  香月泰男の絵はシベリアシリーズが有名だけど、シベリア以外の方の絵が個人的には好きだ。旅行で香月美術館に行ったことがあり、その素朴な暖かい絵に一目ぼれしてしまった。シベリアでの苦しい経験が、優しい絵の背景になったのかもしれない。
    久しぶりに香月泰男に触れたくなってこの本を手に取った。

     著者の立花隆氏が香月氏と直接語り合いまとめた内容や、展覧会での香月氏が書いた絵の図説を元にまとめた内容だった。立花氏が香月氏と語り合う中でお酒をお母さん(香月氏の奥様)に頼むシーンが面白った。シベリアシリーズは膨大な内容が含まれており、画集では表現できないことも多く含まれている。この点立花氏は本物を見るべきで、普通の絵にはない3次元的な意味合いがあるとされている。黒の中には驚くほど多様な諧調が秘められているとも書かれていた。(以上まえがきより)

    まえがきを読んでいて、これは先入観がない状態でシベリアシリーズを見たほうがいいなと感じた。今度山口県立美術館に行ってから読もうと思う。香月氏が語った内容に後ろ髪惹かれつつも、今はそっと本を閉じた。

  • 私のシベリヤ 香月泰男

    日本に帰ってきてから広島の原爆で真っ黒焦げになって転がっている屍体の写真を見た
    黒い屍体によって日本人は戦争の被害者意識を持つことができた
    みんなが口をそろえてノーモア・ヒロシマを叫んだ

    まるで原爆以外の戦争はなかったみたいだと私は思った
    私にはまだどうもよくわからない
    あの赤い屍体についてどう語ればよいのだろう
    赤い屍体の責任は誰がどうとればよいのか
    再び赤い屍体を生み出さないためにはどうすればよいのか

    だが少なくともこれだけのことはいえる

    戦争の本質への深い洞察も真の反戦運動も黒い屍体からではなく赤い屍体から生まれでなければならない。

  • 香月泰男〈かづき・やすお〉は死ぬまでシベリアを描き続けた。シベリアとは地名ではない。それは抑留という名の地獄を意味する。
    http://sessendo.blogspot.jp/2014/02/blog-post_15.html

  • これを読んだらもう実物を見に行かねば!という気分にさせられます。

  • 香月泰男の絵は立花隆の解説を得たことで、いっそう理解が容易になった。シベリアに連れて行かれたのは日本人だけではなかった。そこにはドイツ軍の捕虜になったソ連兵たちもいたのだ。

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著者プロフィール

評論家、ジャーナリスト、立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授

「2012年 『「こころ」とのつきあい方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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