神様のいない日本シリーズ

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163276908

作品紹介・あらすじ

野球賭博絡みのトラブルがもとで失踪した父親から少年のもとに葉書が届く。「野球をやっているか」。父親の願いを適えるべきか、野球を嫌悪する母親に従うべきか。少年の心は揺れる。そんななか、少年は憧れの同級生とある劇を上演することになった…。いまもっとも注目を集める作家が描く親と子の迫真のドラマ。

感想・レビュー・書評

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  • 願う強さはいつの時代も神様か。
    奇跡に投影するのは願望か。
    あの男に対する、父さんの気持ち。願い。
    父さんに対する、寿万さんの葛藤。想い。
    母さんの対する、父さんの考え。熱量。
    香折に全てが集約される。
    走っていくメロスでもいいよ。
    ゴドーを待っていてもいいよ。
    どっちでもいいんだ、多分。
    日本シリーズの奇跡も、どっちでもいいんだよ、多分。
    その時の気持ちが1番大切なことなんだ。
    寿万さんが、最前列の真ん中にいる事が、全てを物語ってると、思った。

  • 日本シリーズが終わったばかりなので、積ん読の本の中から田中慎弥氏の『神様のいない日本シリーズ』を選び読了。
    ライオンズが西鉄の時の奇跡の三連敗からの連勝での日本シリーズ勝利に次いで、西武になってからの1986年の日本シリーズのドラマティックなゲームが行われていた時に高校生だった主人公の多感な時期ゆえの葛藤とドキドキの日々が主人公の息子への独白というかたちで語られる形で出来ている小説だ。物心ついた頃に出て行った父親の目の前にいないが軽くはない存在に対するえも言われぬ思いを抱えながらも、後に妻となる女性と出会い一緒に練習をして文化祭の舞台に立つまでの恋心をいだいた浮ついた心を持て余す若者の青臭い日々が軽やかに描き出されていて、読みながら久しぶりに昔々旭川にいた頃の日々を思いだしてしまった。

  • 気持ちのよい読後感ではないが、なぜかインパクトがある物語。

    豚・・・
    執拗な日本シリーズの描写・・・
    父親の父親の手紙の正体・・・
    ときどき通常の感覚では理解できない父親のテンションの高さ・・・

    そして、語りかける相手が最後まででてこない・・・

    これ、毎回思うけど、田中慎弥の物語は読みにくいが、文章は読みやすい。

  • 思わずだからなんじゃい!?と言ってしまった。

    精神的に乗り越えていこうとする所や、妻になった人に対しての少年の時の気持ちは良かったんだけどなぁ。

  • 1986年の日本シリーズは、広島東洋カープと西武ライオンズで争われ、初戦が引き分けとなったため、唯一第8戦まで行われました。引き分けの後、カープは3連勝して4連敗し日本一を逃します。そしてこの年、山本浩二が引退を表明するという流れは、カープファンにとっては基礎知識的なものですが、当時の僕は7歳でリアルなところでの記憶は全くありません。
    この本は、放課後学校に残って文化祭の準備を進める少し非日常的な興奮と、同時に進行する1986年の日本シリーズを中学生の視点から追い、その雰囲気はどこか懐かしい感じがしました。
    田中氏は、巧みなストーリーで読ませるというより圧倒的な文章力を誇示するように小説を書いているという感じがします。ペラペラな文章力で少しひねったストーリーの小説とは全く違うので、文字に慣れていない人は読みにくいかも知れません。

  • 少なくとも「共喰い」よりは良く出来ていると思うんだけど、こちらは芥川賞を取れなかった作品。
    まあ自分は野球に興味が無いので、選手の名前とか出されてもその辺には全くついていけなかったんだけど、やりたい事は分かるし、「共喰い」よりはチャレンジしている作品だと思う。
    作者は誰かに話しかけるっていう設定が好きだね。あと「切れた鎖」とかもそうだけど、家族の歴史とか、血の繋がりみたいなものを強く意識して書いてる作家って、最近はあんまりいない気がする。いや、いるかな…。

  • 1986年の西武のすごさしか印象に残らず

  • 父から子へ、すべて一人称で語られる、我が家の歴史がテーマになっている小説。


    いじめが原因で部屋に引きこもってしまった子供のために、父はドア越しに、祖父から続く血の歴史を語りかける。

    父の幼少期、失踪してしまった野球好きの祖父。
    祖父からくる手紙がくるたびに破り捨てる祖母。

    いびつな日常を過ごす父は、中学最後の夏に独りの女性に恋をする。

    淡々とした語り口で語られる、日常の営み。
    奇跡やドラマチックな展開を期待させない乾いた筆致が、日常に多大な期待をしない読者の共感を得るかもしれない。

    それゆえ日常の中に、新たな始まりを予感させるラストシーンは静かな感動をあたえてくれる。
    出会いと時間の不思議さを、淡い余韻で読み手を包んでくれる。

    人は自分の人生を振り返ったとき、その時間の積み重ねの中に奇跡のような時間が流れているのを発見するかもしれないという気持ちにさせてくれる作品であった。

  • 「(芥川賞)貰っといてやる」方の作品。
    単に、タイトルに惹かれただけです、はい。
    球史に残る大接戦を演じた西武VS広島の日本シリーズ。
    第八選までもつれ、引き分け、三連敗からまさかの、大逆転。西武優勝。
    古くは、西鉄VS巨人で三連敗からの逆転で西鉄優勝なんてもありました。
    そんな二つのエピソードを交えた父と子、はたまた、その父とその父と母親との物語。ってややこしいな。読めばそんなややこしくはないんですがね。
    ど~も私には文学は苦手というか、感性が鈍っているというか。
    馴染めない。独特の文体のせいにもできないしなぁ。
    ということで、いまひとつ楽しめませんでした。

  •  野球を巡るいじめで傷ついた子どもに語りかける男。彼は0勝3敗から4連勝した日本シリーズの年に起こった自分と父の中学3年の出来事を語り始める。

     最初から最後まで主人公が扉越しの息子に語りかけるモノローグで小説が進んでいく。そして劇中劇と二つの奇跡の日本シリーズ。様々な仕掛けが面白く読ませてくれる。
     この本もテーマとしては「共喰い」にかなり近いと感じた。思春期に意識する親から受け継がれてきた自分というもののぬぐえなさと性(恋)。しかしこちらの方がグロテスクさが薄くて間口が広い。
     親との葛藤を子どもに語るという形式がいい。ラストも非常にいい終わり方だと思う。

     モノローグ、劇中劇、親子のドラマと二つの日本シリーズ... 色んなものがカチッと噛み合った快作。
     田中慎弥をまず読んでみたいという人には「共喰い」よりこっちの方がお勧め。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田中慎弥の作品

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