伯林蝋人形館

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163252100

作品紹介・あらすじ

陸軍幼年学校から軍人の道を歩むはずが、ジゴロとなったアルトゥール。帝政ロシアからドイツに亡命し、シナリオライターを夢見るナターリャ。ミュンヘン市民のプロレタリアートでルンペン暮らしから這い上がり、ナチ党員となるフーゴー。裕福なドイツ系ユダヤ人の家に生まれ、義勇軍に参加した後、大富豪となるハインリヒ。薬を常用する蝋人形師マティアス・マイ。カバレット"蝋人形館"の看板歌手ツェツィリエ。彼らの人生は、様々な場所、時代で交錯し、激動の歴史に飲み込まれていく-。『死の泉』から九年、壮大な歴史ミステリー長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 複数の物語とそれぞれの作者略歴から、段々と全体像が浮かび上がってくるのが面白い。
    最後まで読んでから最初の物語をもう一度読み返したら、より輪郭がはっきりしてみえた。

    という感想を過去に書いていたのだけど、どんな話だったっけと久しぶりに再読したら、これじゃ内容を断片的にしか思い出せないはずだわと思ったのでもう少し書き足す。

    第一次世界大戦から相次ぐ内戦で疲弊するドイツを生きる男女6人の交錯する人生。彼らの物語は真実か創作か願望か。惑わされる。
    アルトゥールを取り巻いていながらも、なんとなくずっとヨハンが中心にいると感じていた。ヨハンの詩のせいかもしれない。

    読み進めて真実が見えた後は、虚構が愛しく思えてしまう。
    壊れて欲しくないけど壊れるのも見てみたいという、あやうい感覚を呼び起こされた。

  • 最初の世界大戦から次の世界大戦に向かう時代のドイツが舞台の群像劇。
    貴族出身の若き軍人アルトゥールを中心に彼に惹かれる人々の物語が絡み合って複雑な模様を描き出していました。

    最後の最後で入れ子構造の物語であったことが明かされますが、書き手であったツェツィリエの神になり損ねたような姿がとても寂しく思えました。

  • いつもながらわくわくする魅惑的なタイトル。「伯林」と「蝋人形館」を合わせるとか。でもいつもながら私の期待値が高すぎたのか、中身は想定内でそれほど濃くはなかったかな。
    とはいえ、やはり皆川ワールド、独特の耽美で妖しい世界を堪能した。畸形一歩手前の蠱惑的なイメージ満載。

  • 入れ子構造っていうのかな?一体誰の物語が真実なのか・・・、恩田陸先生の『夏の名残りの薔薇』『中庭の出来事』とかで鍛えられたミステリ的文法のおかげで展開はすんなり受け入れられましたが、やはり皆川先生はすごい・・・。
    報われないいくつもの恋・・・。
    物語の中で展開される、思い出の中の年上の友人ヨハンネスを思い続けるジゴロのアルトゥール・・・そんな彼に向かう過激な舞台歌手ツェツィリエの歪な恋・・・幼いナターリャのアルトゥールへの真っ直ぐな恋情・・・そんな彼女を想うハインリヒ・・・。
    これだけでもう魅惑が過ぎる・・・。
    いやもう過去の男に骨抜きになってる男に恋い焦がれ続ける少女と彼女に惚れ込んでる大人の男ってもうそれだけで性癖タコ殴りすぎて・・・。
    運命の相手の他の男にも恋してる女とか・・・。

  • 未読の方には一気に読むようおススメします。
    私は3週間位かけて少しずつしか読めなかったので、頭大混乱です。


    物語は6人の登場人物を軸に進みます。
    6人それぞれの「物語」と「作者略歴」からなっています。
    ここ、詳しく言えないけれどポイント(笑)
    重くて暗いのだけど、霞んでるのだけど、とっても綺麗な世界です。

    「全ての物語を書き終えたものには、自殺の特権を与えよう」
    舞台は第二次世界大戦前のベルリンやらです。ヒットラーも少しだけ出てきます。
    暴動多発、銃は普通に手に入り、管理のゆるい病院から薬持ち出し放題・・・
    題名の通り、「蝋人形」が、勿論出てくるのですが。 とっても効果的。
    なるべくしてなったという感じの作品です。

    笑える場面は1つもないけれど、色んな廻り合わせ、偶然とある人の意図からなる必然とが錯綜して、もうどきどきです。

    物語の中で繰り返される「熱帯植物園」の描写があるんだけど、それがまた良い。
    場所毎の世界観の違いがはっきりします。


    神は世界を壊すために世界を作った。

    それをまねた実験を行ったZ**。


    うん、面白かった。
    けれど、たぶん私はこの物語の40%位しか読めていないので、★4つで。

  • 猥雑で退廃的で耽美で甘美。第一次世界大戦から第二次世界大戦までのドイツを舞台にした、薬と蝋と熱帯植物の臭いが漂う本。

  • 6人の男女の人生が、時系列を前後しながら絡み合っていくさまは読み応えあり。薬の影響か、全編に、窒息してしまいそうな艶めかしさと妖しさを感じる。

  • 混乱を極めた1900年代前半のドイツで翻弄された6人の登場人物たちのそれぞれの小説と「作者略歴」という現実の描写で進んでいく物語。

    最初は本当に霧を見ているように曖昧で何もわからない状態だったけど視点が変わるたびに世界が開けてベルリンに引き込まれた。

    結局アルトゥールがいかに魅力的であるかという描写に尽きるんだけど、この複雑な物語のなかでアルトゥールへの潔い想いが輝いていた。

    あと、この時代のヨーロッパって最悪だけど好き。
    本当の最悪はこの物語が終わってから始まるんだけど。

  •  20世紀初頭のドイツを舞台とする、連作幻想小説。
     オムニバス風の構成そのものが全体の構想の肝となり、入れ子の作中劇が三重に含まれ、虚構と事実の混濁が読み手を幻惑させる。
     慣れていないと冒頭から暫くは少々読み難いが、掌編が折り重なるにつれ、登場人物の相関関係や場面展開がジグソーパズルを嵌めるように濃厚に浮かび上がって引き込まれてゆく。
     時代背景をがっちり押さえた描写が屋台骨となっているので、世界観が骨太に構築され、読み応えがある。
     掌編のピリオドを打つ『書き手』は、物語を綴ることで他人を愛し、愛するために綴った。
     それは、或る意味見事とも言える妄想の昇華であり、鋭敏に曝け出された告白でもある。
     そしてまた、某か創作を発信する者は、多かれ少なかれ、この『書き手』と近い心境に立っているのではないかと感じられた。

  • こういう世界が描ける作家はすごいと思う。出てくる単語が使い古されたものだとしても,鏤められた人物達の思いが最終的にまとまっていく構成はおもしろい。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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