言語都市 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房
3.67
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本棚登録 : 355
感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350083

作品紹介・あらすじ

遙かな未来、人類は辺境の惑星アリエカに居留地"エンバシータウン"を建設し、謎めいた先住種族と共存していた。アリエカ人は、口に相当する二つの器官から同時に発話するという特殊な言語構造を持っている。そのため人類は、彼らと意思疎通できる能力を備えた"大使"をクローン生成し外交を行っていた。だが、平穏だったアリエカ社会は、ある日を境に大きな変化に見舞われる。新任大使エズ/ラーが赴任、異端の力を持つエズ/ラーの言葉は、あたかも麻薬のようにアリエカ人の間に浸透し、この星を動乱の渦に巻き込んでいった…。現代SFの旗手が描く新世代の異星SF。ローカス賞SF長篇部門受賞。

感想・レビュー・書評

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  • なんだこれは!よくわからないけれど、何だか大変なものを読んだような気分。
    言語をテーマにしたSFだけれど、読んでいるこちらの脳がハックされた気分。地球由来の異なる思考による言語によって中毒を起こしてしまったアリエカ人そのもの。ミエヴィルおそるべし。考えさせられたとか、これからの人生に役に立つとか、そういうこととは次元が違う。何を読んだのかよくわからないけどすごい感じは初めてだ。

  • 今年読んだ言語学SFの中で最大の収穫。以前読んだ『都市と都市』が少し肩透かしだった記憶がありあまり期待していなかったので余計に。ガジェットや登場人物の説明がほとんどないので最初は何が何やら、という感じだけど我慢して読み進めれば分かってくる。最後の方はフィールド言語学。アリエカ人可哀想可愛い。

  •  言語学の教科書では、まず言語名称目録観の否定、なんてことが書いてある。言語は実際の事物の名前のカタログではないということである。言語と事物が一対一対応することはなく、言語は言語で独自のシステムを形成しており、言語と事物は恣意的に結びつけられている。〈林檎〉が「リンゴ」と呼ばれるのはまったく何の必然性もないということである。うんぬん。
     つまり言語は記号であり象徴であるということなのだが、事物と一対一対応しているような言語があったらどうする、とミエヴィルは考えたのではないだろうか。

     原題は『エンバシータウン』、強いて訳せば「大使町」。作品の舞台となる都市である。
     宇宙のあちこちに人類が植民している時代。空間には恒常空間、イマーと、通常空間、マンヒマルがある。これはドイツ語の「常に」と「時に」から来ているが、イマーはワープ航法を可能とする超空間のようなもので、イマーの中で意識を保っていられる特殊な素質を持ったイマーサーが航海士となって、超光速航法が可能となっている。ところが、通常空間における距離と、イマーを介した距離はまったく一致しないので、通常空間においては比較的近い惑星でも、イマーにおいては極めて遠い場所というのがあり、舞台となる惑星アリエカはそういう意味での辺境である。
     アリエカ人はエンバシータウンではホストと呼ばれているが、「昆虫と馬とサンゴと扇がごっちゃになったもの」といった姿をしており、2つの発声器官で同時に喋るという奇妙なゲンゴを持っている。ホストのゲンゴを解析し、コンピュータで真似てみてもホストはまったくそれを言葉と解さない。そこに語る主体が存在しない場合、ホストはそれを言語と認識できないのだ。そこで、エンバシータウンではクローンで作られた双子に訓練と薬物と技術的なリンクでもって、ひとつの精神を持った存在となるようにし、ゲンゴを習得させる。彼らが大使である。大使は何人もいて、ホストとの意志疎通を担う。ホストは大使だけを知的存在と見なし、ゲンゴを喋れない普通の人間の言葉を解することはない。
     ホストのゲンゴは上述のように、何かを象徴したり、代表象したりするのではなく、実際の事物そのものを示すだけなのだ。そんな言語が存在可能なのか極めて疑問だが、そういう設定なのである。だからホストたちは嘘をつけない。嘘をつけないので、大使たちが嘘をついてみせる嘘祭が毎年開かれる。ホストたちにとって嘘とはまったく驚異的なことなのだ。
     パースの記号論では、通常われわれが用いている言語は、われわれ、事物、記号という三者関係からなるシンボルである。「あれ」「これ」といった記号は記号と事物と二者関係にあるインデックスである。しかるに標識のように、その記号そのものが何かを示すような記号がアイコンである。ホストのゲンゴは恐らくアイコンの水準にある。

     「わたし」、アヴィス・ベナー・チョウはエンバシータウンでかつてホストの「直喩」にされたことのある女性で、イマーサーとなって「アウト」を経巡った末に、言語学者の夫と共にエンバシータウンに戻ってきた。そこに赴任する新しい大使、エズ/ラー。エズとラーと二人だからエズ/ラー。彼(ら)はエンバシータウンの宗主国である惑星ブレーメンから赴任してきた、異色の大使。クローン双生児ではない大使というあり得ない存在だったのだ。赴任のパーティーでエズ/ラーがホストに話しかけると、ホストは異様な反応を示す。エズ/ラーの言葉はホストたちに麻薬のような影響を与えてしまう。アリエカ中のホストがみな麻薬中毒者になってしまうのだ。われわれの言語が無意識を介してわれわれに影響を与えることはフロイトが示した通りであるが、ゲンゴは直接、ホストに影響を与えてしまうのだ。
     ホストは生態を機械のように調整するバイオリグという技術を持っており、彼らの町はバイオリグでできている、肉の町である。バイオリグもまた中毒になり、ホストの都市が崩壊していく。

     というような話である。
     ミエヴィルの作品のキーワードは「都市」と「二重性」ではないだろうか。『都市と都市』と『アンランダン』では都市自体が二重だった。エンバシータウンで二重なのはホストのゲンゴであり、大使という存在である。
     ゲンゴがなぜ二重に発声されなければならないのかは、はっきりとした説明はない。われわれは言語の世界に入ることで二重化する。ゲンゴは恐らく最初から二重化しているのだろう。
     また都市の崩壊というのも『『ペルディード・ストリート・ステーション』や『アンランダン』、あるいは短編の中でもよく出てくるイメージだ。辺境の閉塞した都市で、淡々と進む話は、崩壊する都市、崩壊する世界のイメージが侵食してくる。それをはねのけるかのように、ついにアヴィスが世界を救おうと戦う姿はペルディード・ストリート・ステーション』や『アンランダン』のように、心を熱くするものがある。
     しかし、本書は恐るべき言語SF。主役はゲンゴなのである。

  • 初ミエヴィル。まず、アリエカ人と彼らの棲む都市(バイオリグと呼ばれる生物から生成した家や道具でいっぱい!)の異形さに圧倒される。異世界に踏み込んだ感がすごい。アリエカ人には口が二つあり、その二つの口から同時に発声し会話をする。人間の通常の会話はノイズとしか受け取られず、そのため「大使」と呼ばれるペアの人間を育成しコミュニケーションを図るが・・・。読み手にとってはとても長い導入部、しかし最後には読んで良かったと思える展開が。ちくしょう上手く言えないけど面白かったよ!

  • SF

  •  人類はは辺境の星で、「アリエカ人」と呼ばれる異星人と共存していた。
     彼らの言語は特殊で意思疎通をするための「大使」と呼ばれるクローンを生成し、人類は平和に過ごしていたはずだった。
     ところが、新任の「大使」エズ/ラーが登場したことにより、そのバランスが崩れ始める。エズ/ラーの言葉はアリエカ人にとって、麻薬に等しく、エズ/ラーもまたその事を知っていた。
     そして徐々に、平和だった星が混乱に巻き込まれていく。

     ほぼ逐語しか理解できない「アリエカ人」が暗喩を含んだ言語を獲得していくのはとても感動します。
     ただ、理解しやすい話とは言えず、そこに至るまで読み通すのがわりと大変ですが・・・
     思考実験としての非常にSFらしいといえば、そうなんだろうか。

  • わーい、すごいすごい!
    想像力の幅と深さが桁外れ、著者はSF界の殿堂入りまちがいなしだな。

    あまりネタバレしてしまうのもよろしくないので具体的なことは書かずに。

    ゲンゴから言語へ。
    たかが日本語文化と他言語文化だけでも理解しあうのは困難なのに、全く違った大系・概念・表現のコミュニケーション手段をとる生命体同士が、どうやってわかりあうのか、それともわかりあえないのか。

    真実しか語らないゲンゴ、かぁ。すごいこと考えつくなー。
    後ろのほう、ややパワー切れを感じたけれど、難解でチャレンジしがいがある。
    読書好きならぜひ!

  • 『都市と都市』のチャイナ・ミエヴィルの長編SF。

  • (譛ャ縺ョ髮題ェ?01401)

  • 2013-7-17

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