第六ポンプ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房
3.88
  • (33)
  • (47)
  • (33)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 397
感想 : 59
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350021

作品紹介・あらすじ

化学物質の摂取過剰のため、出生率の低下と痴呆化が進行したニューヨーク。市の下水ポンプ施設の職員である主人公の視点から、あり得べき近未来社会を描いたローカス賞受賞の表題作。石油資源が枯渇し、穀物と筋肉がエネルギー源となっているアメリカを舞台に、『ねじまき少女』と同設定で描くスタージョン記念賞受賞作「カロリーマン」。身体を楽器のフルートのように改変された二人の少女を描く「フルーテッド・ガールズ」ほか、本邦初訳5篇を含む全10篇を収録。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/ローカス受賞の『ねじまき少女』で一躍SF界の寵児となった著者の第一短篇集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ずどんと落ち込んだ読後感。
    イヤだイヤだ、こんな未来。そんな10篇の短篇集だった。
    一歩距離をおいて作品の舞台を眺めると、崩壊しつつある世界の半端なさに「なんだこれ」って笑いがこみ上げてくるものなのかもしれない。だけど、わたしにとってこの世界は笑い飛ばせるものではなく、居心地の悪さに一刻も早くこの場を離れたくて仕方なかった。
    それでも最後まで読んでしまったのは、今わたしが立つ現実世界から地続きになっている一番近い世界は、ここなんじゃないの?と思ってしまったから。未知の恐怖に足がすくんで抜け出せなかった。また、そんなわたしの及び腰とは逆に、この世界で生きていくしかない人々の逞しさやしぶとさ、狡猾さに人間の生きることへの粘りを見ることができたから。その上、作品の圧倒的なディテール、次々と常識を覆される衝撃に目が離せなくなったというのも事実。

    ここは人類が衰退していく世界だ。
    足掻いて叫んで、なんとか這い上がろうとした時間はとうに過ぎ去った。刻一刻と針が進み続ける「衰退」という時間が、実は一番恐ろしいのかもしれない。
    化学物質の摂取過剰による出生率の低下。人間が生んだ呆けた顔の半猿半人トログ。トログ化していく学生。楽器として生体改造された姉妹。食料危機に砂を食べ生きる人類。不老不死の世界を維持するために出産と育児は禁止。生まれた子どもは殺処分される世界……
    いったいその先には何が待つというのだろう。

  • ディストピアSF小説の短編10作品を収録した一冊です。
    全作品が凄まじく濃い内容と世界観を持っていて、SF好きの私でも置いていかれるのではと不安になりました。
    総じて中心に据えられているのは人類の衰退であり、進みすぎたが故の廃退とは違った停滞後の緩やかな滅亡が様々な視点から描かれているように感じました。
    ダークなハードSFをお求めの方には強くお薦めします。

    • 地球っこさん
      探耽さん こんばんは。

      ああ、私この本読みました。
      めちゃくちゃ落ち込んで、こんな怖い世界はイヤだイヤだと思いました。なのに最後まで読んで...
      探耽さん こんばんは。

      ああ、私この本読みました。
      めちゃくちゃ落ち込んで、こんな怖い世界はイヤだイヤだと思いました。なのに最後まで読んでしまわないといられなくて。
      未だにSFビギナーを抜けきれない私なのに、当時なぜにこの本を選んだのか、今でも疑問なんですが、ちょっとトラウマ本です 笑
      2022/12/04
    • 探耽(たんたん)さん
      地球っこさん こんばんは。

      実は地球っこさんのレビューで知り手に取りました(⌒▽⌒)
      裏表紙の抄録も読んでみて面白そうと思い読み始めました...
      地球っこさん こんばんは。

      実は地球っこさんのレビューで知り手に取りました(⌒▽⌒)
      裏表紙の抄録も読んでみて面白そうと思い読み始めましたが、極めてハードな内容に驚きました。
      類を見ないほどに不気味な世界観なのでトラウマになっても仕方がないと思うのですが、活字のみでここまでのことができるということは凄いですね(⁠.⁠ ⁠❛⁠ ⁠ᴗ⁠ ⁠❛⁠.⁠)
      2022/12/04
    • 地球っこさん
      探耽さん☆

      なんと、私のレビューをきっかけにしてくださったとは、なんとなんと、ありがとうございます。

      そう、そうなんです。
      活字だけであ...
      探耽さん☆

      なんと、私のレビューをきっかけにしてくださったとは、なんとなんと、ありがとうございます。

      そう、そうなんです。
      活字だけであんな世界が作り上げられるなんて凄いですよね!
      だから描かれた世界や人物たちが勝手に頭にくっきりと浮かんでくるんですΣ(゚ロ゚ノ)ノ

      読むのがイヤなのに途中でやめることのできない、読まなきゃいられない、なんというか中毒性もあって。

      久しぶりにあのゾワゾワ感を思い出しました。それも作品の魅力のひとつですよね(*^.^*)♪
      2022/12/04
  • このディストピアはスタイリッシュな『退廃』などではなく、生活臭漂う『衰退』です。
    生存環境の悪化。
    何処にも行けず、何者にもなれない、閉塞感。
    底辺で生きることを宿命づけられた人々。
    最悪な状態にも関わらず絶望感はあまり感じません。
    それでも生き延びるのだという生命の力強さがあるからだと思います。
    遠い世界の物語なのに、生々しい、この身に迫る感覚は何なのでしょうね?
    現実世界の不安にリンクするものを何かしら感じるからかもしれません。

  • 「ねじまき少女」未読。先入観なしにバチガルピを初めて読んだ。荒廃した未来の人々の何気ない日常を切り取ったような短篇集。水の配給や穀物の特許化などはリアルで怖い。表題作以外では「砂と灰の人々」「パショ」あたりが印象に残った。どの話にも共通するのだが、この後どうなるの?ってところで終わるところがにくい。充実の全10編。

  • S Fにハマりつつあります。近未来に広がる世界観の構築に身を置き、ミステリ読みから解放されたそこには、推理とは無縁の浮遊感のような感覚に陥りました。

    今作はディストピアな未来像が揃う短編集で、ハードSFかと身構えていましたがそんなことはなかった。

    「ポケットの中の法」
    背が曲がった少年ワン・ジュンが拾った青いキューブを巡る物語。雨に濡れる都市で純真な主人公が切り開く未来の予感にときめく。用途のわからぬキューブが与える生きる希望。

    「フルーテッド・ガールズ」
    楽器に改造された姉妹。フルート化した個人が管理され投資する社会。官能的な演奏シーンや物悲しく儚い終幕に涙する。

    「砂と灰の人々」
    砂を栄養に変え毒を中和する。肉体的ダメージもない未来の3人組ははじめて、『犬』と出会う。適応し進化したとしても、人間の本質というものは変わらない…と思いきや。

    「パショ」
    伝統文化と学問の対立。過去から現代にまで続く悩ましい議題。このオチは警告か?はたまた進むべき道標か。

    「カロリーマン」 
    カロリーは人類のエネルギーとなり、カロリー企業が独占している。飢えの蔓延る世界の食物は汚染されていた。
    元カロリーマンを運ぶことで見えてきた小さな光の種。荒廃からひと粒の煌めきをつまみだす作家なのだとこの作品で確信した。

    「タマリスク・ハンター」
    水という資源の渇水。人々はやはり飢え、知恵を絞って今日を生きている。

    「ポップ隊」
    若返り。不老不死。子供を産むことは規制され、殺される。その処理をするのがポップ隊だ。主人公はこの短編集でもっとも人間らしさのそばに寄り添ったひとりだ。殺すことへの葛藤。なぜ母親は子供を産むのか。ディストピアの世界から、我らの夢見る理想への強烈なメッセージだ。

    「イエローカードマン」
    正直楽しめず。割愛。
    (またチャレンジしたい)

    「やわらかく」
    唯一、方向性の違う一編。妻を殺した男のふわふわして足のつかない状態の話。

    「第六ポンプ」
    標題作。作者の警告は確かに届いた。
    下水処理場で生計を立てるトラビスは、第六ポンプのエラーに気がつく。
    異常を調べるうちに、深刻なまでの人類の幼児化、退化を目の当たりにする。先送りにされた問題はすでに取り返しのつかないところまで来ていたのだ。環境汚染による少子化は今も現実で起こりつつあるような、身の毛もよだつ問題だ。

    社会問題をSFに形態して危険信号を送る作者に拍手を。長編も読まないといかんですよ。抜群に面白かった。SF短編ぜひ私にオススメして投げてたもう…

  • 読者は放り出される。
    理解などおかまいなし

    馴染みはある。
    押井守の世界

    未来なんて明るいわけがない!
    甘っちょろい考えは、叩きのめされる。

    徹底的に薄汚れた世界の中では、少しの灯りがとても大切なものに感じられる。
    逆も真なのだろう……。

  • 市立図書館にて。

    何か物語が始まりそうな状況を作り上げた次の段落で、短編が終わる。その世界ごと終わっていく。物語が始まる以前の段階でとっくに終わっていたのだろう。癖になる読後感だ。

  • ねじまき少女を先に読んでがっかりしていたので、こちらはあまり買う気がしなかったのだけど、SFマガジンに載っている短編が割と面白いのと、知人が推していたので購入。
    実際、収録作のどれも面白く読めた。がっかりしていたねじまき少女の元となった短編も、短編なら全然よかった。
    倫理がこの作家の根源らしく、それが短編の長さだと寓話という話としての様式にぴったしはまっているから、かなと。そこが長編になると倫理的な面のみで引っ張るのが難しくなるのかなーというか、繰り返しが説教くさくなりすぎるんだと思う。

  • 同著者の「ねじまき少女」がそれほどでもなかったので、ずっと手を出していませんでした。でも、この短編集はスゴイ!

    石油資源も枯渇し、遺伝子改造された穀物由来のエネルギーに頼る世界は、遺伝子改造された害虫(ニッポン・ジーンハック・ゾウムシ等)に悩まされる。食品には得たいの知れない大量の添加物が含まれ・・・現代の悩みや、対策をあと少し進めた先に現れてくるさらに悩ましい世界を描きます。
    舞台も、ハイテク汚濁化した中国やバンコク、二酸化炭素対策で植物を増やしジャングル化したアメリカなどで、悪化した環境の影響を受け、そこに暮らす人々も正常ではいられません。

    努力はしているのだけれど、それが引き金になって悪くなっていく世界・・・現代の恐ろしいデフォルメ。

    バチガルピやるなぁ。傑作です。

  • 動力がゼンマイの世界とかフルート少女とか世界観は面白いんだけど、話の進行が重苦しいというか、読んでて乗っていけない。

全59件中 1 - 10件を表示

パオロ・バチガルピの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×